調査の結果、教科書の楽曲を覚えていない、あるいは 学習していない学生が多くいることが分かる。それとと もに教科書の使い方やその価値について改めて見直す必 要が出てくる。教材で差が現れることは、低学年は歌唱 を主体とした授業が多く、高学年では歌唱以外の活動が 重要視される傾向があると思われる。鑑賞教材の値が低 いことは、鑑賞活動が不足していると考えられるととも に、音楽科での鑑賞の授業時数の少なさも影響している であろう。共通教材として扱われてきた楽曲の認知度が 低いことは、そのまま教科書の使用がなされていないこ とに直結する。ましてや新しく教科書に導入された民族 音楽に対する指導はできていないと予測でき、教科書の 使用が改めて重要視される結果となった。
(1)平成 27 年度版音楽教科書における東アジアの民 族音楽の扱い方
今現在小学校で使用されている教科書には、教育芸術 社、東京書籍、教育出版から出版されているものがあり、
さらに近年(平成 27 年発行)改訂された教科書は、教 育芸術社、教育出版の 2 社である。最新の教科書の東ア ジア民族音楽の掲載楽曲(日本楽曲を含まず)を抽出す ると(表 1)のようになる。曲数の比較を行うと、教育 芸術社が 9 曲、教育出版が 10 曲になり、東アジアの音 楽のみで比較すると曲数はほぼ変わらない結果となって いる。(表 1)では東アジア音楽のみを計上したが、教 育芸術社での民族音楽は朝鮮半島や中国、インドネシア ほかアジア音楽が多い一方、教育出版はアジア音楽も多 いが、タンザニアやセネガルなどのアフリカ音楽やチェ コ・スロバキアやトルコなどの中央アジアからヨーロッ パにかけての楽曲も掲載している。また、平成 23 年度 版教科書との共通する民族音楽楽曲として、「ホーミー」
(モンゴル)「ケチャ」(インドネシア)「ゴスペル」(ア メリカ)「フォロクローレ」(ペルー・ボリビア)「アル フー」(中国)「バグパイプ」(スコットランド)「ガムラ ン」(インドネシア)「ヨーデル」(スイス・オーストリ ア)「メヘテルハーネ」(トルコ)の全 9 曲が挙げられる。
また、教育出版発行の教科書では、アジア民族音楽の楽 曲数が多く、日本楽曲を含め単元構成されている楽曲は 33 曲にも上る。教育出版での曲数の多さの理由として 民族音楽の単元が早い学年の段階(2 年生)から始まる からことが挙げられる。また、3 年生の民族音楽分野
「世界の歌めぐり」では、「半月(バンダル)」などの遊 び歌が、4 年生での民族音楽分野「日本のリズム・世界
のリズム」から「サンバの音楽」(p40-43)ではブラジル・
サンバの音楽が、5 年生での民族音楽分野「日本の音楽・
世界の音楽」から「いろいろな声や楽器の表現を楽しも う」(p34-35)では「ヨーデル」や「ホーミー」などが 掲載されるが、この三つの単元で掲載される楽曲は 20 曲であり、全体の約 7 割を占める。教育芸術社の場合で は、5 年生と 6 年生での単元でのみ民族音楽が掲載され、
5 年生では民族の声の学習(声による世界の国々の音楽
p46)、6 年生では民族楽器の学習(楽器による世界の国々 の音楽 p42)が始まるが、具体的に題名と共に曲として 掲載されているものが少ない。「小さな黄淡色の馬」(モ ンゴル)や「まつり花」(中国)などは曲として成立し ているものを掲載しているが、その他の「ゴスペル」や「バ グパイプ」などジャンルとして成立している音楽に関し ては曲として掲載しておらず、譜面も掲載していない。
アジア音楽のみの共通楽曲は「ホーミー」や「アルフー」、
「ケチャ」「ガムラン」のみである。それぞれ教科書ごと につけさせたい学力があり、それによって掲載楽曲が大 幅に異なり、共通している楽曲も、どの単元に掲載され るかによって扱いが異なる。『音楽のおくりもの』では、
アジア音楽は主に世界の民族音楽として鑑賞領域上掲載 されるが、『小学生の音楽』ではアジア音楽でも、日本 の民謡と共に掲載されたり鑑賞資料として扱われたりす る。アジア音楽でも中国の京劇など扱われない音楽もあ
(表 1)平成 27 年度発行 2 社における東アジア音楽
『小学生の音楽 1 ~ 6』教育芸術社
曲名 / 楽器名 国名 / 作曲者 ジェッディンデデン トルコ(メヘテルハーネ)
ティニックリング フィリピン民謡 十五夜さんのもちつき 日本
半月(バンダル) 朝鮮半島 / ユンクギョン
サムルノリ 韓国
ウード イラク
ホーミー・モリンホール モンゴル
ガムラン インドネシア
アルフー 中国
ケチャ インドネシア・バリ島
『音楽のおくりもの 1 ~ 6』教育出版
曲名 / 楽器名 国名 / 作曲者
トラジ打令 朝鮮半島民謡
小さな淡黄色の馬 モンゴル民謡
ケチャ インドネシア
ホーミー モンゴル
アリラン 朝鮮半島民謡
まつり花 中国民謡
メヘテルハーネ(ズルナ) トルコ
り、教科書で使用されるアジア音楽は楽器が特徴的なも のや、韓国、朝鮮半島からは、「カヤグム」などの音楽 よりも民謡や歌がメインの楽曲を選択している感があ る。「アリラン」や「まつり花」、「半月(バンダル)」で は日本語詞と原詩ともに楽譜付きで掲載しており、手軽 に歌えるよう配慮されている。こうした傾向からも、朝 鮮半島やモンゴルの民謡を教科書では重視していること が分かる。2 社の傾向では、遊び歌から民族音楽の導入 を始め、徐々にその豊かさを増す教育出版と日本の伝統 音楽を学習した後に日本楽曲と対比させる形で民族音楽 を掲載する教育芸術社とでは音楽理解の仕方の違いが見 られる。
平成 23 年度教育芸術社の教科書では、4 年生の段階 から、「ソーラン節」(北海道)などの日本の民謡ととも に「トラジ打令」(朝鮮半島)や「小さな黄淡色の馬」(モ ンゴル)などの曲が掲載されていた(『小学生の音楽 4』
p45)。この傾向は平成 27 年度版の教育芸術社の教科書 にも見られ、日本民謡の学習と隣国の音楽への学習も同 じように扱われている。その楽曲割合は、平成 23 年度 版教育芸術社では、6 曲、平成 27 年度版の教科書では、
8 曲掲載されている。日本の民謡や祭りの囃子は掲載曲 数が多いが、その次に多い曲数になるのが、東アジアの 楽曲ということになる。平成 23 年度版教育芸術社での 日本伝統音楽と民族音楽の数は全部で 81 曲にもなり、
そのうち祭りの音楽は 21 曲、日本の民謡は 36 曲、合わ せて 57 曲が鑑賞資料として掲載されている。単元とし てのそのほかの日本の音楽と民族音楽は 24 曲であり、
その中の 6 曲という割合は非常に多く見える。割合とし ては単元の 4 分の 1 が東アジア音楽でできているといえ る。また、平成 27 年度版の教科書にも同様のことがいえ、
全体の総数は 75 曲、鑑賞資料としての祭りの音楽は 16 曲、民謡は 36 曲、単元としての楽曲は 23 曲である。そ の中の 8 曲が東アジアの音楽である。割合としては単元 として教材の 3 割弱の教材が東アジアの楽曲が占めてい ることになる。本論で主に取り扱う音楽は東アジアの音 楽とすることを述べたが、その理由が教科書にも表され ている。(民族音楽と日本の伝統楽曲の鑑賞資料を含め)、 日本の伝統音楽が最も多く、その次に東アジアの音楽が 多くなるということは、民族音楽を理解する手立てとし て「まず、アジアから」という想定が教科書の中でもさ れているということになる。これは指導要領の内容を反 映する教科書では当たり前のことであるが、今後使用さ れうる 2 社の教科書内容の違いを知ることは、その教科 書にあった指導法を考えるうえで有効である。
5、6 年生での民族音楽楽曲は掲載される楽曲の地域 性や「古臭さ」を指摘されるが、それはあくまでも、全 体を俯瞰した際に抱く印象であり、いま必要なのは日本 から見た東アジア楽曲であることを捉えなおすことであ る。両教科書ともアジアの楽曲が多いが、教育芸術社は、
「ホーミー」、「ガムラン」など幅広い音楽性を持つ。一方、
教育出版では、中国、朝鮮半島を中心とした民謡楽曲が 多い。日本の民謡を学習することになっている現在の音 楽科では、他国の民謡を扱うことで他国の音楽文化理解 を容易にしようとする考えが伺える。教科書内でのアジ ア音楽の重視は、民族音楽学習の手段と方向性を指し示 しめしている。
(2)教科書教材の工夫と活用の提言
教科書における東アジア音楽の掲載曲とその数的な量 関係を見てきたが、東アジア民族音楽分野ではどのよう な学習の中で音楽を捉え、教えようとしているのか。そ の工夫点とも言えるポイントを明らかにし、実際にはど のように使用していけばよいのか考察していく。
以下からは、改訂された両教科書における楽曲の指導 内容とその工夫点、指導点を見ていくこととする。
2-1.教育芸術社発行『小学生の音楽』の活用例 教育芸術社では 4 年生の段階で民謡を学ぶことは既に 述べた。4 年生での東アジア音楽学習に活用できる題材 は単元 6「日本の音楽に親しもう」における「音楽のと くちょうを感じ取りながら日本の民謡をききましょう。」
(p44-45)である。
この題材では、民謡における有拍リズムと無拍リズム を聴き取ることが主な活動である。
客観的な音楽の特徴として「ソーラン節」は、多人数 で行われ、数人の尺八や三味線、太鼓といった伴奏者の 元に歌われる音楽である。一方、南部牛追い歌は独唱で、
尺八が伴奏につくことである。この題材では楽器に関し ての説明はほとんどなく、楽器に焦点を当てて日本民謡 を学ぶことは難しい。右下部に表記「リズムや声の感じ に気をつけながら、ほかの国の民謡をききましょう。」 に見られるように、歌いまわしや声色に着目して学習す ることが前提としてある。考えられる学習としてはあく まで教科書の題材意図に則り「ソーラン節」と「南部牛 図1『小学生の音楽 4』平成 27 年度教育芸術社 p44-45