法学部の拡充改組の経緯
1993(平成5)年秋に入ると、法学部は大学改革の一環としての拡充改組に向けて本 格的な取り組みを始めることになる。委員会としては、既存の将来構想等検討委員会がこ れに当たり、法政策学科の増設構想から始まって、政策情報学科の構想などが議論された。
1994年度に入ると、教養部の改組転換に関する全学の学部教育等検討委員会の動きに合 わせ、また他大学(特に新潟大学や岡山大学の法学部)の動向を見ながら、教授会は、深 谷学部長を委員長とする将来構想検討委員会を中心に集中的に拡充改組の概算要求案の策 定を進めた。そして国際環境大講座と政策情報大講座から成る国際政策学科の増設を 1995年度概算要求として提出することを決定する。
学部長が全学の改革推進のために多忙であることも考慮して、概算要求案策定の原案作 りや各種文書作成実務に当たる組織として、同委員会に小委員会を置くことが教授会にお いて了承され、学部長、両評議員、学部教育等検討委員、カリキュラム実務委員その他に より構成する小委員会を頻繁に開いて密度の高い作業を進め、将来構想等検討委員会も月 1回ほどのペースで審議を続けた。
同年5月教養部教官定員の各学部への具体的配分案がまとまり、法学部の概算要求案に ついての説明書の作成、そして文部省への説明が行われた。しかし大学全体の1995年度 概算要求は次年度に先送りになり、しかも教育学部の縮小改組問題を同時並行で進めるこ とになったため、法学部は更に意欲的な拡充案を構想することとなる。深谷学部長は全学 の改組改革との関係で文部省と折衝する機会が多かったので、それらの接触から新学科名 を変更すること、国際法務専門の講座を新設することを決め、1996年度概算要求は、公 共システム学科(公共政策、国際政治大講座)の新設と法学科に渉外法務大講座を増設す
ること(これに伴い法学科は4大講座)を柱とする要求となった。そしてほぼこれに沿っ て改組が実現することになったのである。
法学部改組計画の基本構想
法学部改組計画の基本構想については、文部省に提出した『法学部の改組計画について の補足説明(Q&A)』(1995年7月17日)の次の一文が最も簡略に説明している。これは 文部省に前後数回書き直しつつ提出した「法学部の改組計画」(説明書)に詳述されている ことや、教授会における学部長(将来構想等検討委員会委員長)の説明を要約したもので ある。
国際化、高度情報化及び価値観の多様化が進行する今日、法学部教育に対して社会が求め ることはおおよそ次の二つと考えられる。第1は、契約社会化・訴訟社会化の進行に対応し て、実務に結び付く法律知識と法的判断能力を身につけた人材を社会に送り出すこと、第2 は、法律・政治・行政・国際関係等によって構築されている今日の多面的社会システムにつ き、国際政治的視点から分析するとともに、行政から企業活動に及ぶ幅広い政策企画に参画 できる基礎的能力を備えた人材を養成することである。そこで、金沢大学法学部は、第1の 要請に応えるために、公法・民事法及び基礎法各大講座に渉外法務大講座を加えて法学科を 編成し、これを充実させて、国際化時代の要請に応え得る実務的法知識と法論理的思考力の 教育を高める。第2に社会的要請に応えるために、公共政策大講座と国際政治大講座から成 る公共システム学科を新設して、日本の国際政治的環境を適確に把握し、かつ情報処理能 力・調査分析能力を備え、政策学的識見をもって企画調整に参画できる基礎的能力の育成を 図る。法学部の改組計画の要点はこの2点に集約できる。
次に公共システム学科については、「主としてナショナル・システムにおける公共政策を、
諸側面にわたり実証的に教育・研究する『公共政策大講座』と、主としてグローバル・シ ステムにおける政治的側面を日本との関係及び比較を考慮しつつ教育・研究する『国際政 治大講座』とを置く。」(『法学部の改組計画』)と説明されている。
改組の概要
改組の全容を図示すると、図2−1(学生定員の移行及び定員増の図)及び図2−2
(教官定員の移行及び関連授業科目の図)のとおりである。
法学科は法学だけの専門性の高い学科になっている。渉外法務大講座は、教育科目から 明らかなように、企業の国際取引に関する法制度と実務を対象とする教育研究組織であっ て、伝統的な公法大講座と民事法大講座とではカバーできない領域を扱うことができるよ うになっている。既存の講座も充実され、基礎法大講座は全国的にも充実した講座である が、国際化に対応した新規増もあって、一段と拡充された。公法、民事法各大講座も集中
法学部 215人
(内、臨時増募 20人)
教 育 学 部
新 規
法学部 215人
・三年次編入 10人(新規)
法学科 160人 法学科195人
図2−1 学生定員の移行及び定員増
公共システム学科 55人 160人
35人
10人 10人
現 行 改 組 後
1)法学科 学生定員▲55人
(内訳) 公共システム学科へ振替 35人、臨時増募の停止 20人
2)公共システム学科 学生定員 55人
(内訳) 法学科から振替 35人、教育学部から振替 10人、新規 10人
3)三年次編入 10名(新規、平成8年度から受け入れ)
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨
⑩ ⑪
⑫
⑥
(5)
②
(1)
(2)
(3)
①
③
④
⑧
⑦
(7)
(6)
(4)
⑫
⑪
⑨
(8)
(9)
(10)
⑤
⑩
図2−2 教官定員の移行及び関連授業科目
法学科(改組前)
大講座 教育研究分野 教授 助教授 助手 移行定員 公 法 憲法
行政法
国際法 8 2 教授
刑法 刑事訴訟法 刑事学 民 事 法 民法
商法
経済法 教授
民事訴訟法 11 5 助教授
国際私法 教授
労働法 助教授
社会保障法
医療関係法 1
基 礎 法 法理学
法制史 3 2
外国法
政 治 政治学 教授
国際関係 政治思想史 助教授
国際関係論 3 2 教授
国際政治史 教授
政治社会学 助教授
教官定員 計 37 25 11 1
講 座 外 1 1
教養部(関係分)
区分 学科目 教授 助教授 助手 移行定員
言 語 系 英語 1 2 教授
助教授 助教授
ドイツ語 2 教授
教授
人文社会系 法学 1 教授
政治学 1 教授
文学 1 教授
心理学※ 2 教授
教授
社会学※ 1 助教授
教官定員 計 11 8 3
学科目外 1 1
※は実験学科目
教育学部(関係分)
講 座 教授 助教授 助手 移行定員
運 動 学 1 教授
新規増
講 座 教授 助教授 助手 移行定員 入 学 定 員 (10名) 1 1 三年次編入学 (10名) 1 1
法学科(改組後)
授業科目(関係分) 大講座 教授 助教授 助手 憲 法 (教養部から振替)
助教授 (振替により講座の整備) 公 法 8 3
法と言語 (教養部から振替) 民事法 9 4
国際税制 (法学科から振替)
国際経済法(法学科から振替) 渉 外 国際私法 (法学科から振替)
国際取引 (新規増、助教授) 4 3 ビジネス・ランゲージ(教養部から振替)
リーガル・ドラフティング(教養部から振替) 法 務 EU論 (教養部から振替)
法思想史 (教養部から振替)
基礎法 5 2 比較法文化(新規増、教授)
教官定員 26 12 1
(法学科から振替) 講 座 外 1
(教養部から振替) 学科目外 1
公共システム学科(新設)
授業科目(関係分) 大講座 教授 助教授 助手 行政学 (教養部から振替)
政策過程論(法学科から振替)
政治社会学(法学科から振替) 公 共 福祉政策 (法学科から振替)
共生社会論(新規増、助教授) 政 策 6 3 余暇生活設計(教育学部から振替)
情報処理 (新規増、教授) (実 験)
社会調査 (教養部から振替)
社会心理学(教養部から振替)
国際関係論(法学科から振替)
国際政治史(法学科から振替) 国 際
比較政治学(法学科から振替) 4 1 異文化理解(教養部から振替) 情 報
コミュニケーション論(教養部から振替)
教官定員 10 4
(法学科から振替) 講 座 外 1
(教養部から振替) 学科目外 1 下線は新規増による新設教育研究分野
的に専門性を高めることができた。公共システム学科は、公共政策、国際政治各大講座い ずれも、現代社会の要請にこたえ得る先端的科目を備える実験講座となった。
このような構想を立てるに当たって、教員定員については、教養部及び教育学部から移 行する定員をポスト名と分属希望教官の専攻領域を念頭に置いて各講座の新設・拡充計画 が成り立つような教育科目を設定して各講座に配置した。学生定員については、教育学部 は学生定員を削減する縮小改組をしたので、その学生定員10名の移行を受け、それととも に教授定員1名の移行を受けた。また新規定員増10名の要求が認められ、3年次編入定員 10名の実現もあり、これらに伴う教員定員増があった。しかし臨時増募定員10名減とな り、残りの10名は後に削減された。なお、これらは1996年度概算要求として当初教授会 が承認したものと一部異なる点もあるが、それは7月に最終的な概算要求書を提出するま でに文部省との折衝において生じた部分的変更であり、いずれも教授会に説明の上了承さ れたものである。さらに公共システム学科の実験講座化をめぐっては、当初公共政策大講 座のみと考えられたが、最終段階で国際政治大講座を含めて2講座とも実験講座となった。
かくして法学部は、国立大学の法学部としては数少ない2学科構成となった。しかも公 共システム学科は、旧来の政治学科スタイルを超克して現代社会の要請にこたえるもので、
国立大学にはじめて設置されたものである。また法学科の渉外法務大講座も国立大学とし ては、はじめてのものであり、法学部は全体として極めて充実した講座編成を有すること になったのである。
カリキュラムの改革 −「新々カリ」の導入−
この拡充改組に伴って、カリキュラムの改正が行われた。いわゆる「新々カリ」である。
教育体制等検討委員会(委員長;評議員・鴨野幸雄教授)における集中的な検討と教授会 での審議を重ねて、公共システム学科のカリキュラムを整えるとともに、法学科について は、従来のコース I 、コース II のコース制の趣旨が必ずしも明確でなかったので、新たに 教育目標及び卒業後の進路を自覚してコア・カリキュラム制による「法律実務コース」「国 際法務コース」及び「総合現代法コース」の3コースを設けた。
演習については、従来の「演習 I 」(必修・3年後期〜4年前期)、「演習 II 」(4年後期)
に替わって「演習」を3・4年通年で開講し4単位必修、8単位まで履修可能とした。そ れに伴い従来の「基礎演習」は2年後期のみの開講となった。
外国書講読については、「外国書講読 I 」(2年後期〜3・4年前期、4単位・ただし分 割履修可)と「外国書講読 II 」(3・4年前期〜3・4年後期、4単位・ただし分割履修可)
の二つを開設し、外国語能力の養成を重視した。ただし、外国書講読は従来すべての学生 について必修であったが、国際法務コース及び公共システム学科のみ必修となった。
また総合現代法コースについては論文指導(8単位)が、公共システム学科については 卒業論文(6単位)が新たに必修となった。