65
600 施設に研究協力検討用の研究協力依頼文と質問紙1部,承諾用の返信用はがきを郵 送し,研究協力を依頼した.その結果,研究協力の承諾を得られた73施設(介護老人福祉 施設 45施設,介護老人保健施設28施設)のうち,介護老人福祉施設1施設が開設3年未 満だったため除外し,72施設(介護老人福祉施設 44施設,介護老人保健施設 28 施設)
を対象とした.施設代表者に,実務経験3年以上の介護職員を各施設5名の選出を依頼し た.なお,調査票の配布数の指定があった2施設(介護老人福祉施設1施設 3名,介護老 人保健施設1施設 4名)があり,357名の介護職員を調査協力者とした.調査協力者の選 出過程の地域ごとの施設数はTable4.1のとおりである.
2)データの収集方法
文献検討に基づいて,本研究のために作成した無記名による自記式質問紙を用いてデー タを収集した.調査内容は,以下のとおりである.
(1)ワーク・エンゲイジメント
ワーク・エンゲイジメントの測定には,日本語版ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメン ト尺度短縮版(UWES-J 短縮版)を用いた(Table4.2).各項目について,「0=全くない」
から「6=いつも感じる」の7件法で回答を求めた.この尺度では,得点が高い人ほど,仕 事にエンゲイジし,熱心に,エネルギッシュに働いている(Schaufeli & Dijkstra=2012:32)
ことを意味する.ワーク・エンゲイジメントは3下位尺度(活力,熱意,没頭)ごとに下 位尺度得点を算出することが可能であるが,下位尺度間の内部相関が高く,島津らは9項 目の合計得点を用いることを推奨している(Shimazu et al. 2008)ため,本研究においても 9項目の合計得点をワーク・エンゲイジメント得点とした.Schaufeli らは,ワーク・エン ゲイジメントの各項目得点の合計値を算出し,基準として27点以下は低いレベル,28~35 点は平均的なレベル,36 点以上が仕事にエンゲイジしている状態であるとされている
(Schaufeli & Dijkstra=2012:32).国内外の先行研究において,各項目得点の合計値を算出 している報告と合計値を項目数(9)で除した値を算出している報告があり,本研究では項 目数(9)を除した算出方法を用い,0点~6点の範囲で傾向を表した.Schaufeliらの基準 に従い,合計値を項目数(9)で除し,3点以下は低群,3.1~3.9点は平均群,4点以上が 高群とした.本研究のCronbach’s α係数は.93であった.
Table4.1 調査協力者抽出施設の概要
介護老人福祉施設 介護老人保健施設 介護老人福祉施設 介護老人保健施設
東京都 471 190 14 8
埼玉県 347 163 12 15
神奈川県 386 190 18※ 5
合計 1204 543 44※ 28
※1施設が開設3年未満だったため,除外
地域 施設数 協力承諾施設数
66
(2)パーソナリティ傾向
パーソナリティ(Personality)とは,人間の行動や思考を生み出す,人間の内部に備わっ た要因である(小塩2014:6).パーソナリティは認知,感情,行動と関連を持つと考えら れる(小塩2014:6).
個人の資源として,パーソナリティ傾向を測定するために,小塩ら(2012)の「日本語 版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)」を用いた(Table4.3.1).この尺度は,Goslingら
(2003)が作成したTen Item Personality Inventory(TIPI)の日本語版である(小塩ら2012).
パーソナリティの構造として現在広くコンセンサスを得ているのは,5因子モデル(Five Factor Model)や Big-Five で「外向性(Extraversion)」「協調性(Agreeableness)」「勤勉性
(Conscientiousness)」「神経症傾向(Neuroticism)」「開放性(Openness)」という 5 つの次 元でパーソナリティ全体像を捉えるモデルである.
Big-Fiveのパーソナリティ特性を測定するためには,少なくとも数10項目,多いもので
200項目以上の質問に回答する必要がある(小塩2014:66).回答への動機づけが低下しな いように,TIPI-Jは超短縮版の尺度(小塩2014:66)で,Big Fiveの5下位尺度の10項目 から構成される.「全く違うと思う(1点)」から「強くそう思う(7点)」までの7件法で 回答を求めた.小塩ら(2012)によって,信頼性と妥当性が確認されている.
Table4.2 日本語版ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度短縮版(UWES-J短縮版)
1.仕事をしていると,活力がみなぎるように感じる.(活力)
2.職場では,元気が出て精力的になるように感じる. (活力)
3.仕事に熱心である.(熱意)
4.仕事は,私に活力を与えてくれる. (熱意)
5.朝に目がさめると,さあ仕事へ行こう,という気持ちになる.(活力)
6.仕事に没頭しているとき,幸せだと感じる. (没頭)
7.自分の仕事に誇りを感じる. (熱意)
8.私は仕事にのめり込んでいる. (没頭)
9.仕事をしていると,つい夢中になってしまう.(没頭)
出典:Schaufeli & Dijkstra=2012:31を抜粋
私は自分自身のことを
1.活発で,外向的だと思う(外向性)
2.他人に不満をもち,もめごとを起こしやすいと思う(協調性)
3.しっかりしていて,自分に厳しいと思う(勤勉性)
4.心配性で,うろたえやすいと思う(神経症傾向)
5.新しいことが好きで,変わった考えをもつと思う(開放性)
6.ひかえめで,おとなしいと思う(外向性)
7.人に気をつかう,やさしい人間だと思う(協調性)
8.だらしなく,うっかりしていると思う(勤勉性)
9.冷静で,気分が安定していると思う(神経症傾向)
10.発想力に欠けた,平凡な人間だと思う(開放性)
Table4.3.1 日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)
出典:小塩ら(2012)を抜粋
67
TIPI-Jは,各2項目によって構成されるため,1項目逆転項目処理し,Cronbach’s α係数
を算出した.結果,外向性(α= .68),協調性(α= .49),勤勉性(α= .58),神経症傾向(α= .49),
開放性(α= .68)の値だった.小塩ら(2012)を踏襲し,TIPI-Jの5因子それぞれの対応項 目となる2項目間で相関係数を算出した.小塩ら(2012)は,r= .22~ .59と報告されてお り,本調査の項目間相関はr= .33~ .68であり,いずれの因子の対応項目間においても相 関係数が有意であった(p< .01).小塩ら(2012)は,協調性と神経症傾向については内的 整合性が十分とはいえないが,今後検討を重ねる必要があるとしながらも,各因子の広が りを測定するという目的のためには,信頼性と妥当性の程度を考慮に入れ,極めて簡便な 尺度であり,応用可能であるとされている.そのため,対応項目間の得点平均値を下位尺 度得点とし,以降の分析に用いることとした.
外向性の高い者は,積極的で刺激を求め,人と付き合うのが好きという特徴をもつ(小
塩 2014:73).協調性の高い者は,他者との協調を好み,利他的行動傾向が強い.勤勉性
の高い者は,計画的で熱心,自己統制感が強く,自己鍛錬を好む特徴をもつ(小塩2014:
86).小塩は,勤勉性の高さは,完全主義や応用力のなさに陥る可能性もあり,高ければ高 いほど望ましいとはいえないと述べている(小塩 2014:86).神経症傾向が高い者は,情 緒不安定でストレスに対して脆弱である特徴をもつ(小塩2014:76,77).開放性が高い者 は,既存の価値観に縛られず,創造力が豊かで,知的好奇心の高い特性をもつ(小塩2014:
78,79).
ワーク・エンゲイジメントとの関連として,勤勉性と外向性は,ワーク・エンゲイジメ ントと正の関連がみられること,神経症傾向はワーク・エンゲイジメントと負の関連がみ られることが報告されている(Bakker et al.2009, Halbesleben et al.2009).Kimら(2009)は,
Big Fiveとワーク・エンゲイジメントの関連には,職種の特徴が大きく反映されている可
能性を指摘している.
(3)勤務継続意向
平井ら(2003)が作成した「看護師の定着可能度分析尺度」参考に,「病院」を「施設」
に置き換えて用いた(Table4.4).平井らは北尾(1971)の定着可能度分析を参考に,1)組 織満足度,2)組織帰属度,3)過去の定着度,4)今後の継続意思の4項目への「満足度」
「依存度」との関係から説明し,個人の組織への定着可能度を分析する尺度を構成した.4 項目に対し,肯定的な回答を「+」,中間的回答を「0」,否定的回答を「-」の3件法で
外向性:項目1+(8-項目6)
協調性:(8−項目2)+項目7 勤勉性:項目3+(8−項目8)
神経症傾向:項目4+(8−項目9)
開放性:項目5+(8−項目10)
※各合計を2で割って,項目平均値を算出しても良いとされている.
Table4.3.2 TIPI-Jの算定方法
68
回答を求めた.平井ら(2003)の調査において,Cronbach's α係数が.83と報告されている.
本研究においては,「+」を「3」,「0」を「2」,「-」を「1」に置き換えて使用した.本 研究において,3)過去の定着度は,辞めたいと思ったことを尋ねているため,逆転項目と して処理し,Cronbach's α係数が.68であった.
(4)調査協力者の属性
性別,年齢,現在の施設での勤務年数,介護職員としての経験年数,介護福祉士資格取 得の有無,介護福祉士資格取得ルート,介護職として転職回数,雇用形態,職位,夜勤回 数を尋ねた.
3)質問紙の配布と回収方法
施設代表者に,調査協力者の人数分の調査目的と倫理的配慮を明示した文書を添付した 無記名の調査票,調査票を記入後に厳封できる封筒を郵送した.介護職員の選出は,施設 代表者に一任し,配布を依頼した.留置法により実施し,回収は,施設代表者に返送を依 頼した.
4)データ収集期間
データ収集は,2017年3月から4月に実施した.
5)データ分析
統計処理には,IBM SPSS Statistics ver. 23 for Windows ならびにIBM SPSS Amos ver. 23 を使用した.統計学的検定の有意水準は5%以下を有意とした.
使用する尺度は,尺度の適切性を検証するためには,信頼性(安定して測ることができ ているか)と妥当性(測りたいものを測ることができているか)を評価することが必要で ある(小塩ら2007:7,柳井ら2012:14).ワーク・エンゲイジメント尺度と勤務継続意向 については,尺度の信頼性(reliability)を測る方法として,尺度の一貫性を示すCronbach's α係数(柳井ら2012:16)を算出した.村瀬らによれば,Cronbach's α係数は.8以上ある ことが望ましい(村瀬ら編2013:232)とされ,尺度内の内的一貫性があると判断できる.
柳井ら(2012:17)は,α 係数が少なくとも.7 より大きければ信頼性(内的整合性)が検 証されたことになると述べている.その基準に基づいて,使用する尺度に内的一貫性があ ると判断した.
1.あなたは全体としてこの施設をみた場合,勤め先として良い施設だと思いますか(組織満足度)
2.あなたのこの施設の一員であるという気持ちはどの程度ですか(組織帰属意識)
3.あなたは今までにこの施設を辞めたいと思ったことがありますか(過去の定着度)
4.あなたがこの施設に引き続き勤めたい気持ちは次のどの程度ですか(今後の継続意識)
Table4.4 看護師の定着可能度分析尺度
出典:平井ら(2003)を抜粋し,「病院」を「施設」に置換