(1)目的
2008年末のピーク時以降、ブラジル人の在留数は13万人を超える減少となったが、日本に残った ブラジル人には定住傾向が強く認められ、家族滞在者の中には子どもが日本の高校や大学に進学す ることを望む家庭も増えてきている。しかし実際に大学にまで進学したブラジル人の若者たちの声 を直接聞く機会はほとんどない。また、ブラジル人保護者はブラジルで教育を受けた人が多いため、
日本の教育制度、とくに高校進学や大学進学について十分な情報や知識を持ち合わせていない。
絵本プロジェクトでは、単にバイリンガル絵本をブラジル人家庭に配布することを最終的な目的 にせず、その絵本を媒介として、本学のブラジル人学生が2人一組になって家庭を訪問し、質問紙 を用いたポルトガル語でのヒアリング調査を行い、子どもの教育に関する保護者の支援ニーズを探 ることを研究上の目的とした。
しかしこの家庭訪問ヒアリングには、さらに3点、付随的ながら重要な実践上の目的が存在した。
第一の目的は、本学のブラジル人学生が家庭を訪問することで、ブラジル人保護者は日本の学校に 通ったブラジル人の子どもたちが実際にどのように教育達成できるかを直接理解できるという点で ある。第二の目的は、児童にとっても、自分の将来を思い描く上でのロールモデルとなる大学生と の直接的な出会いが、学びの動機を高めることにつながる点である。そして第三の目的は、ブラジ ル人学生たちにとっても、自分の持つバックグランドが社会的に活用できることを実感する機会と なり、エンパワーメントの契機となる点である。
(2)方法
前述の通り、市内でブラジル人児童が多く在籍している小学校19校では、担任を通してブラジル 人家庭に絵本を配布したが、その際ブラジル人保護者向けにヒアリング調査の趣旨を説明した調査 協力依頼状を同封して、ブラジル人学生による家庭訪問ヒアリング受け入れの可否について尋ねた。
受け入れの意向を持った保護者は自分の連絡先を返信用紙に記入して学校に届けた。学校側はそれ らの返信用紙をとりまとめて大学に送付した。また、2013年10月には翌年度に小学校に上がる子ど もたちを対象とした入学ガイダンスで、出席した保護者16名にバイリンガル絵本と調査協力依頼状 を配布し、その場で5名から協力を得た。その結果、全部で43世帯のブラジル人家庭から協力でき るとの意向を確認することができた。
しかし、実際に電話でアポイントメントを取る際に「仕事が忙しい」という理由で調査協力を断わっ た家庭やなかなか電話がつながらない家庭もあった。また、2013年11月中旬から12月中旬の1ヶ 月間という限られた期間で日程調整を図った結果、訪問する学生と訪問先のスケジュール調整が困 難だった場合もあり、実際に学生たちが訪問できたのは協力者の約半数の22世帯だった。その中に は両親が揃って質問に回答してくれた場合もあるため、回答者数は33名となっている。
グ対象の世帯においては子どもの日本語力よりポルトガル語力の方に保護者は大きな問題を感じて いることがうかがえる。しかしながら、子どもと話す言語については、ポルトガル語のみが69%で 多数を占め、日本語のみは19%、主にポルトガル語と両言語が4%だった。ペルー人家庭ではスペ イン語で話すとの回答であった。ここから、子どもと保護者の間で言語の習熟度に差があり、親子 間のコミュニケーションが十分に機能していないか、今後機能しにくい状況が生じる可能性が指摘 される。
子どもと接する時間については、「平日の夜と週末」が59%で多く、「平日の朝と夜と週末」が
23%、「主に週末」が14%となっていた。平日も時間を作って子どもと接するよう心がけている様子
がうかがえる。
また、学校行事への参加についても「全て欠かさずに行く」との回答が55%、「ほとんど行く」が
37%、「配偶者と交替で行く」が4%で、ほとんど全ての家庭が学校行事への参加を重視しているこ
とがわかった。ブラジル人大学生の家庭訪問を受け入れた家庭は、学校に対して積極的な関わりを 持とうとしている様子が伝わってくる。
さらに直接的な子どもとの関わりについて尋ねてみた。絵本の読み聞かせをするか(したか)ど うかについては、はいが68%、いいえが32%となっている。子どもの宿題を見てあげるかどうかに ついては、「可能な範囲で見てあげる」が32%でもっとも多く、「全部見てあげる」と「算数や理科 は教えられない」がそれぞれ18%で、これらを合わせると、68%が何らかの形で宿題を見てあげて いることがわかる。
(6)バイリンガル絵本に対する評価(回答総数22、複数回答)
今回の家庭訪問ヒアリング実現の媒介となったバイリンガル絵本については良い点として、「内容 が良い」が73%、「入学時に役立つ」が46%、「デザインがかわいい」が23%だった。一方、改善す べき点としては、「親への情報が不足」が38%、「教科書の説明」が18%だった。バイリンガル絵本 は初めて小学校に入る子どもとその保護者を主たる対象としているため、「学年ごとの違いを説明し てほしい」、「文化の違いを説明してほしい」といった声もあった。
(7)子どもの進学への期待と課題(回答総数22、複数回答)
子どもの進学への期待としてもっとも多かったのは「国を問わず大学に進学」で46%を占めた。「日 本の大学に進学」は28%だが、「ブラジルの大学に進学」は4%となっており、ブラジルの大学に限 定して進学を期待している保護者は少ないことがわかる。また、「子どもがやりたいこと」という回
答が14%あり、必ずしも大学進学だけを最重要視しているとは限らないことがうかがえる。
進学に関わる課題としては、「経済面」が55%で抜きんでて多く、「子どもの学力」が23%とそれ に続く。さらに「情報がない」、「親が日本語がわからない」、「日本の教育制度がわからない」がそ
れぞれ18%となっていた。これら3点はいずれも教育情報の不足を意味している。また、「帰国時期
が未定」との回答も14%あった。自分が将来生きてゆく国が日本なのか母国なのか定まらず心が揺 れる子どもの姿が浮かぶ。
日本の学校に関する不明点については、学校生活・ルールとPTA活動がそれぞれ27%で多かった。
次いでいじめの問題が18%だった。
(8)主なポイント
今回のヒアリング調査結果から見えてきたこととして、進学に関する主なポイントをまとめたい。
つきあいがなかった」が12%、「よくつきあったいた」が9%となっている。今回の回答者には、教 育熱心な日系人社会とは距離のある人が多かった。
(3)日本での通算滞在年数と就業状況
日本での通算滞在年数は20年以上が21%、16年間から19年間が40%、12年間から15年間が
33%となっており、12年以上の滞在者が94%を占める。日本で家族と共に長い期間にわたって生活
してきたことがわかる。しかし、初来日年は1991年と1996年がそれぞれ15%、1998年が13%で3 つの山があった。また、帰国経験については、「ずっと日本にいる」が15%でけっして多数派ではな い。帰国経験を持つ者は一度が27%、二度が31%、三度が12%、四度以上が12%で、一度ないし 二度の帰国経験を持つ者がほぼ6割に達している。帰国時期までは確認しなかったので、子どもの 学齢期にかかる国境移動かどうかは不明だが、子どもの教育に何らかの影響があった可能性が高い。
日本でしてきた仕事(必ずしも来日時の初職とは限定していない)としては、工場労働が97%で 圧倒多数を占めるが、今回の回答者の中には学校の支援員や行政機関の仕事と回答した者がそれぞ
れ6%あった。また、内職、アルバイトとの回答もそれぞれ6%だった。飲食店、清掃業務、送迎業務、
現場作業、派遣会社がそれぞれ3%ずつあった。
現在の職業も工場労働が圧倒的に多く73%だが、学校勤務、市役所勤務、総領事館勤務などホワ イトカラーの職種で働く者がそれぞれ3%ずつ含まれている点に注目したい。仕事の時間帯では、昼 間の勤務が64%でもっとも多く、二交代制が15%、夜勤、パート、決まっていないとの回答はそれ
ぞれ6%だった。
(4)日本人との接点
仕事以外の日本人の知り合いの有無について尋ねたところ、ありが55%で、なしが45%だった。
滞在期間が長期化しているにもかかわらず、仕事以外の場面で日本人から情報を得るような機会は 必ずしも多くないことがうかがえる。
日本の社会に関する情報源としては、自治会の回覧板が64%、ブラジル人の知人が59%、市の広
報が46%、フェイスブックが38%、日本のテレビが32%となっており、以下は子どもの学校、日本
人の知人、インターネットが27%で続く。自治会の回覧板から日々の生活に関する情報を得ている 人が少なくないことがわかる。その一方、ブラジル人の知人やフェイスブックなどのように主とし てポルトガル語で交わされる情報に頼ることも多い。教育に関する情報などは正確さを欠く形で流 通している可能性も否定できないだろう。
(5)子どもとの関係(回答総数22)
家族構成については、22世帯中で「父、母、子ども2名」が37%、「父、母、子ども3名」が
23%、「父、母、子ども1名」が14%、「父、母、子ども4名」が5%となっており、両親と子ども
という構成の家族が79%を占める。一方、母ないし父の一人親と子どもという構成の家族が合計で
17%あり、さらに肉親ではない保護者と子どもという家族が4%あった。
次に子どもの日本語力とポルトガル語力について尋ねた。日本語力は「問題ない」が74%と多く、
「会話は問題ない」が18%、「読み書きに問題ある」と「少しだけ理解できる」がそれぞれ4%だった。
あくまでも保護者の主観的評価だが、日本語力に問題ないと思われる子どもが全体の4分の3を占 めていた。一方、ポルトガル語力については「問題ない」が14%、「日本語の方が得意」が32%、「読 み書きに問題がある」と「少しだけ理解できる」がそれぞれ27%だった。つまり、今回のヒアリン