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母 親 後 2 年
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全体的考察
親になるまでのおよそ10カ月間と親になってからの 数年間は,それまでの夫婦2人だけの生活から親子3人 への生活への移行期であり,生活構造に変化があらわ れる時期である。またこの移行期はEriksonが提起した
「世話・生殖性」という成人期の課題を経験する時期で あり,親になる男性・女性にとって様々な心理的変化が あらわれる時期と考えられる。本研究ではこの時期の心 理的変化を自己概念の変化という視点に焦点をあて検討 した。この自己概念は「活動性」「怒り・イライラ」「情 緒不安定」「養護性」「神経質」「未成熟」の6尺度およ び可能自己,自尊感情という側面から検討がなされた。
さらに親になることによって加わった親役割が社会にか かわる役割と夫/妻としての役割にどのような変化をも たらしているかも検討がなされた。
まず,自己概念6尺度の'性差を検討した結果,自己 概念は「親になる」「ならない」にかかわらず女'性の方 が男性よりも情緒的に不安定であるという傾向がみられ た。すなわち女性は男性に比べてさびしいと感じ,辛い
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188 発 達 心 理 学 研 究 第 1 4 巻 第 2 号
あって機能していると考えられるからである(尺度間に は有意な相関関係を示しているものも多かった)。その 結果,女 性の自己概念全体のズレは,妊娠中の体の変化 や心の変化に戸惑いを感じていたことに関連しているこ とが明らかになった。妊娠期の体調は人により様々であ る。例えばつわりがひどかったり,切迫流産の危険を経 験する女性もいる。また家族の問題に悩んだり経済的に 苦しく心理的に不安定な状況で妊娠期をすごす女性もい る。こうした妊娠にともなう身体的,心理的変化に戸惑 いを感じていた女'性ほど自己概念全体にズレが生じやす いと考えられるのである。しかし男性の場合,学歴の低 さ,否定的可能自己をイメージできていないことが自己 概念全体のズレに影響していることが明らかになった。
育児の大変さをイメージできないまま父親になると,そ の現実をなかなか受け入れられずその気持ちが自己概念 全体のズレの大きさにあらわれていると推測される。こ の結果は,妊娠期のケアーに携わる助産師らが妊婦の心 身の戸惑いを軽減させ,男性の育児に対する意識を高め るなどの心理的サポート活動を推進させていくことの大 切さを示している。
また本研究では自己概念の中核をなすと考えられる自 尊感情の変化に注目した。本研究では,自尊感情は女性 の場合,親後2年において低くなる傾向が認められたが 男性にはその傾向がみられなかった。これはBrandburn
&Caplovits(1965),Gurin,Veroff,&、。(1960),Rossi (1968)らの研究結果と一致するものであった。母親に なるまで仕事などをつうじて社会とのかかわりがあった 女性が,子育てを機に仕事をやめ社会とのかかわりが「少 なくなる」あるいは「なくなる」場合がでてくる。そう した役割変化にともなう意識が女性の自尊感情を低下さ せているのかもしれない。
さらに本研究ではMarkus&Nurius(1986)が指摘し ていた可能自己という考え方を親になる男女にあてはめ 検討した。可能自己には将来こんな自分になるだろうと いう予想,こんな自分になりたいという希望,こんな自 分にはなりたくないという不安・心配が含まれ自己の肯 定的側面だけではなく否定的側面も含まれる概念であっ た。この概念をふまえて,まもなく親になる男女に育児 に関する可能自己について尋ねた。その結果,「育児を 楽しんでいる自分を想像する」と「子どもと遊ぶ自分を 想像する」という肯定的可能自己は男女ともに同程度も ちあわせていたが,「子育てに悪戦苦闘している自分を 想像する」「毎日の生活に疲れはてイライラする自分を 想像する」という否定的可能自己を男'性は女'性に比べて あまり意識していなかった。次に可能自己で尋ねた項目 が親になって3年後にはどのように変化しているかを検 討した。すると男女共に親になる前に育児に疲れはてイ ライラするだろうと想像していた以上に実際の育児が大
変であると感じていることが明らかになった。しかしそ の一方で男 性は父親になったら子どもと遊ぶだろうと自 分をイメージしていたが,実際にはそれほど子どもと遊 んだり子育てに悪戦苦闘することはなかった。やはり女 性に比べ男性は親になることによる生活の変化に現実感
をもてないまま親になっていくのかもしれない。
さて親になるということはこれまでになかった親とい う役割が新たに加わることである。この新しい役割は親 前そして親後2年,3年にどのように変化していくかに ついて検討した。その結果,男女では3つの自分の変化 の様子が著しく異なっていた。男性の場合,親になると
「社会にかかわる自分」が大きくなるが,「父親としての 自分」は大きくなっていかない。Cowan&Cowan(1988)
はアメリカ人の男性の場合,「社会にかかわる自分」は 親になっても一定した大きさであまり変化がみられない ことを明らかにしていた。父親になると「社会にかかわ る自分」が大きくなるという本研究の結果は,父親の役 割は一家を支え仕事に専念することだと考える傾向が強 い日本社会の伝統的な'性役割意識が反映された結果であ るといえるのではないだろうか。
だが,女性は母親になると「社会にかかわる自分」が 顕著に小さくなり「母親としての自分」がその分大きく なっていた。蘭(1991)は母親になることは自分の中に Co‑セルフ(子どもとともにあるということ)が築かれ ることであると述べている。母親の自分が大きくなると いうことは,このCo‑セルフが築かれたためとも考えら れる。
本研究の成果の1つは女性が母親になる過程ばかり ではなく,これまで心理学の分野で見過ごされてきた男 性が父親になる過程にも焦点をあて検討を行った点にあ る。小野寺・青木・小山(1998)は男性の親になる実感 は女 性ほど強くはないものの,生まれてくる我が子が健 康で生まれてくるようにという気持ちを女性と劣らぬ強 さでもっていることを明らかにしている。この点に加え て親になる過程における男女の自己概念が5側面ではか なり安定し,変化の仕方も男女で似ていたという本研究 の結果は,男 性が父親になる心理的過程を今後みていく 場合の一助になると考えられる。
最後に,本研究の問題点および今後の検討課題につい てのくる。まず第1に本研究の自己概念のとらえ方の問 題があげられる。Neugarten(1964)は他者認知すなわ ち対人関係的な側面は成人期においても変化することを 提起していたが,本研究で検討した6尺度は人格の内面 的側面を中心としたものであった。したがって今後,他 者認知のような側面を考慮にいれた調査を行い別の角度 から自己概念の変化をとらえる必要がある。第2の問題 は自己概念に変化をもたらすことが予想される要因につ いての問題がある。夫婦関係,友人や隣人,親戚からの
親になることによる自己概念の変化 189
社会的援助といったものは親になってからの適応に影響 を与えるとAntonucci&Mirkus(1988)は指摘している。
しかし本研究では夫婦関係の要因やソーシヤノレ・サポー ト要因を検討していない。したがってこの点を考慮した 分析を行う必要が今後あると考えられる。第3に被験者 の門題があげられる。その1つは第1回調査の被験者は,
すでに妊娠7−8カ月の女'性とその夫たちであり厳密 に考えれば「親になる前」の意識ではなかった。また親 になって2年・3年が経過するにつれ被験者の中には引 越したり,第2子が誕生し多忙になり調査に協力できな かったものがいたと推測される。したがって妊娠期から 親になって3年間にわたり研究に協力してくれたのは,
調査に理解のある68組の夫婦であったと考えられ,彼 らの結果をもって今の日本の若い親の意識をすべて語る ことはできない。また親になってからの調査の中で第2 子が誕生しているかどうか(妊娠中であるかどうか)を 尋ねていない。もしこれら68組の夫婦に第2子がいた とすれば,親になってからの自己概念はそうした影響を 受けていたかもしれない。今後は上述した問題点を検討 するために新たな研究を行っていきたいと考える。
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