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66 発 達 心 理 学 研 究 第 1 巻 第 1 号
Table、6移行対象の有無による母親の母性意識・養育意識の比較
移行対象有群
(N=356)
移行対象無群
(N=587)
第 1 因 子 母性行動一子どものあやし方
7.22 SD=2.83
7.37 SD=2.72
第Ⅱ因子 育児に伴う感情
12.23 SD=4.00
12.48 SD=3.72
子Iを「母性意識一子どものあやし方」,因子Ⅱを「育児 に伴う感情」,因子Ⅲを「育児に伴う心理的葛藤(自分の 関心を優先させるか育児を優先させるか)」,因子Ⅳを「子 どもの汚物処理に伴う感情」と命名した。各因子に負荷 の高い項目の合計得点を算出し,それぞれの個人得点を 割り出した。得点が高いほど,因子Iでは子どものあや し方が豊かでないことを,因子Ⅱでは育児に対して否定 的感情が強いことを,因子Ⅲでは育児に伴う心理的葛藤 が強いことを,因子Ⅳでは汚物処理により嫌悪を示しや すいことを意味する。
各因子について,移行対象有群と無群ごとに平均得点 を求め,比較を行ったところ,因子Ⅲにおいて,移行対 象有群の方が有意に育児に対し心理的葛藤を覚えやすい という結果が得られた(t=2.004,P<、05,Table、6)。
育児に葛藤を覚えやすく,時に自分の関心を育児以上に 優先させやすい母親の子に対する関わりが,子にとって の何らかのストレス状況と連関し,結果的に移行対象の 発現を促している部分があるのかも知れない。藤井(1985)
は低年齢時においては,母子の心理的密着の度合いの低 さに起因して移行対象が現れやすくなるという可能性を
示唆しているが,今回得た結果はある程度その知見と整
合するものだと言えよう。ただ,本研究が今回用意した 質問項目は子どもの乳児期に的を絞ったものであるため,その回顧的な性質が大きな問題となり,データの信頼性,
妥当性ということに関してはかなり割り引いて考えなく
てはならない。
⑤家族構成との関連核家族群と拡大家族群の間に移 行対象発現率の差はほとんどなかった(順に38.1%,
37.8%,x2=0.011,N.S、)。しかし,この分析からす ぐに,家族成員の多少が全く移行対象の発現に関与して いないと結論することは尚早であろう。たとえば,拡大
家族群における授乳様式の比率構成を見ると核家族群に
比して人工乳哨育がかなり多く,母乳哨育がかなり少な くなっている。核家族においては,母乳主=38.5%,半々=17.1%,人工乳主=44.4%であるのに対し,拡大家族にお いては順に,20.1%,23.8%,56.1%である(X2=38.33,
P<,001)。このことは,結果的に同じような発現率を示
しているからと言って,各々における移行対象の発現メ カニズムまで同じであると即断することはできないとい うことを示唆する。拡大家族群においては,人工乳哨育
第 Ⅲ 因 子 育児に伴う心理的葛藤
7.85 SD=3.12
7.43 SD=2.94
第 Ⅳ 因 子 子どもの汚物処理に伴う感情
3.7O SD=1.95
3.52 SD=1.72
が多いという移行対象の発現を促す要因の介在が明らか に認められる一方で何かそれを抑止する要因が働いてい るのかも知れない。そして,結果的に核家族群と拡大家 族群の移行対象発現率が同じようなものになっているの かも知れない。
安易に結論することはできないが,拡大家族における 祖父母等の母親に代わる養育者の存在が,子を取り巻く アタッチメントの構造を豊かにし,結果的に潜在する子 にとってのストレス因,移行対象発現の促進要因を,減 殺しているという可能性も否定できない。今後,家族構 成という要因が他の諸要因とどのような交絡を経て,移 行対象の発現に関与しているかを精練に検討していく必 要があるだろう。
統合的議論
本研究は,授乳様式や就眠様式といった母親のより具 体的な養育行動に関わる諸要因が移行対象の発現に積極 的に関与していることを見出した。これは,Gaddini&
Gaddini(1970),Hong&Townes(1976),Litt(1981)
等の比較文化的研究が提示している見解を,同一文化内 の移行対象経験群と未経験群の直接比較の方法をもって 支持し得たものと考えられる。Parker(1979)は,移行対 象への愛着を示さない子の方が,母親からより注意深い 養育行動を施されている傾向が大きいことを示唆してい るが,本研究の結果は,ある程度それと整合するもので ある。しかしながら,一方で,同一文化内の直接比較の 方法を採り,身体的接触,養育形態,社会的要因等の介 在を否定したBrody&Axelrad(1978),Boniface&
Graham(1979),VanderVeer&VanlJzendoon (1981),Mahalskietal.(1985)の研究結果とは著しい対 照を見せている。おそらく,こうした撞着する諸結果の 背後には,個々の養育形態に強く影響を及ぼす文化的状 況,育児習慣等が関与しているのかも知れない。Litt(1981)
は,黒人集団と白人集団の比較をもとに,とくに就眠様 式の移行対象発現への関与を示唆したが,授乳様式にお いては,移行対象発現率の高い白人集団の方に母乳哨育 がより一般的であることを報告しており,その点で本研 究の結果と方向性を異にしている。母子の身体的相互性 一般が移行対象の発現に何らかの形で関与しているとい う結論づけはできるにせよ,文化を超えて具体的にいか
移行対象の発生因的解明 67
なる要因が最も強く働くかまで同定し理論の中に包摂す ることは難しいのかも知れない。むしろ,母子の身体的 相互性の中に生じてくる相対的にストレスフルな状況が 移行対象の発現に関与するが,具体的に何が優勢にスト レス状況の形成に関わるかは,社会文化さらには個々の 養育環境に規定されるという方が正鵠を射ているのでは ないだろうか。Littが調査対象とした,米国社会におい ては,就眠様式,一人寝の状況の方がより優勢に子にとっ てのストレス状況を形成しているために(Littは,移行対 象発現率の高い白人集団の別室寝の割合を83%,同床寝 の割合を0%と報告している。),結果的に授乳様式が移 行対象の有無を分ける要因としてあまり影響力を持たな
かったのだとも考えられる。
この就眠様式の差異は,文化による養育形態の違いと してとくに着目すべきかも知れない。同一文化内の直接 比較をもって移行対象有群と無群に養育行動,身体接触 等の差異はほとんど認められないとしているすべての研 究が,基本的に母子別室寝を主とする養育文化(主に欧米 圏)を背景にしていることは度外視できない。日本が親子 同室寝の文化であるのに対し,欧米が親子別室寝の文化 であることを具体的な調査から明示した研究が複数存在 する(Caudill&Plath,1966;Davitzeta1.,1982)。
おそらく,Winnicott他が指摘するように入眠が子にとっ
て不安に満ちた葛藤的なものであるならば,親子別室寝 という状況が子にとってよりストレスフルで,子の移行 対象への愛着を促している部分は実際には多分にあると 考えられるのだが,一つの文化の中で別室寝があまりに も一般的なものになっているために,かえって,逆にそ うした要因が取り出せなかった,過小視されてしまった
ということも考えられるのである。おそらく,移行対象は,Mahalskietal.(1985)が指 摘しているように,前提条件として母親との十全な関係 を享受し得た後で,母子の身体接触状況あるいは母子関 係の何らかの変質に付随して,生じてくると考えるのが 妥当であろう。ただ,子の発達に伴う母子関係の変化は 半ば必然的な過程だとしても,その関係の変質の度合い やそれが生じる時期には,社会文化的状況さらに個々の 状況による広範な差異が存在すると考えられる。移行対 象は,母性的関わりを中心とする様々な要因が交絡して 規定する,その子にとってのストレスの相対的多少を反
映して,必要の有無が決まると見て良いだろう。Bergman(1978)は,移行対象が分離一個体化過程(Mahler,1963)
できわめて重要な機能を果たすとしているが,移行対象
はその分離一個体化過程に生じてくる何らかのストレス に,子ども自らが対処しようとする,適応(Hong,1978)の現れと見て良いだろう。おそらく,移行対象を使用し,
自らを慰め,母子間の距離を自ら調節しようとする子ど
もの傾性はそれ自体,子どもの発達の弾力性(resiliency)を反映したものなのかも知れない。そうした方向からの 理論的再吟味も移行対象理論の普遍性を目指す立場から
言えば有効なのではないだろうか。本研究は,日本における移行対象発現率をより正確に 把握しようとする意図もあり,移行対象の発現可能性が ほぼなくなると考えられる年齢時での,母親に対する質 問紙調査という方法を採った。むろん,その回想的な性 質ゆえ,信頼性や妥当性に関しては差し引いて考えなけ ればならない個所も少なくはないが,比較的大きなサン プルをとり,しかも複数の地域で調査を行ったというこ とには,日本における移行対象使用の全般的状況を傭撤 する上で,それなりの意義があったと考えられる。今後,
縦断的な観察研究等の方法を採り入れながら,本研究の 得た知見が個々の具体的な状況にどの程度適用可能なの
かといった問題を検討して行く必要があるだろう。文 献
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object・PSyc加α"αy"cS"dyQ/伽C〃脇29,215‑229.