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ドキュメント内 イネの遺伝子発現と系統分化 (ページ 76-86)

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図1. 3つの独立な遺伝子座(A/a,B/bおよびC/C)について多型的な仮想 集団内の遺伝変異(N‑32)0 3遺伝子座は,丸か四角か(A/α),黒か白 か(B/b)およびフチが太いか細いか(C/C)をコードしていると仮定 する。各遺伝子座における対立遺伝子の頻度はどれも0.5とする。また 3座の遺伝子はランダムに組み合わさり,集団が平衡状態にあることを 仮定している。すると集団内には,組み合せ可能な8通りの遺伝子型の すべてがみられ,かつその観察頻度は各遺伝子座の遺伝子頻度の積から 求められる期待頻度(0.125)に一致している。こういう集団内には少数 の特定の遺伝子型が優占し他が減少する,分集団の分化は認められな

い。

の2つの遺伝子型について,それらの組み換え型に当たる遺伝子型の品種 が期待頻度どおり観察ざれるからである。つまりこの集団には特定の分集 団の分化は認められない。

それに対して,観察頻度が期待頻度と大きく異なる場合(これは不平衡‑

disequilibriumの状態と呼ばれる)にはどうであろうか。′平衡状態を仮定し た(図1)と同じ3つの遺伝子座で多型的な集団を仮定し、よう(図2)。た だし今度は集団は不平衡の状態にあるから, 8遺伝子型の観察頻度は期待 頻度から大きくはずれている。この場合には集団内の個体は視覚的に

AAbbCC(丸く,白く, 7'チ太)とaaBBcc(四角く,黒く,フチ細)とい う2つの分集団に分けられることがわかる。つまりこの集団では,不平衡 な遺伝子組み合せのため特定組み合せの遺伝子型頻度は高く,それ以外の 遺伝子型の頻度が低いということが起こっている。そのために少数の特定 遺伝子型個体が優占し,分集団の分化が認められる。このように集団内に 分集団を生じるというのは,集団が不平衡の状態にあり少数の特定の遺伝 子型が優占するというのと同義である。

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図2.図1と同じ条件にある仮想集団で, 3遺伝子座の遺伝子がノンランダム に組合わさった状態を示す。この場合,集団は不平衡の状態にあって, A 遺伝子をもつものは高頻度であやC遺伝子をもつ。逆にα遺伝子をも つものはBやC遺伝子をもつから,この集団内にはAAbbCCとaaBB一 ccという2つの分集団が分化しているように見える。

3.栽培イネの品種集軌こみられる遺伝子組み合わせ

ではイネの場合にはどうであろうか。多数の栽培イネの品種を1つの集 団とみなして集団内の平衡状態を調べてみよう。まず最初は, indicaと japonicaをいったん脇に置いて,品種集団の多数の遺伝子の組み合せを調 べてみよう。

図3に,アジア各地から集めた200の在来品種における, 12の遺伝子や 量的形質の組合せの状態を示す。この12の遺伝子や形質は,もともと各地 のイネ品種間で多型性を示すという理由からとられたもので,特別の基準 によって選ばれたものではない。 2つの遺伝子間または形質間の平衡状態 (ランダムに組み合わさっているかどうか)は,両方の形質(遺伝子)が不 連続分布をする場合にはX2値で,また一方が連続変異を示し他方が不連 続分布を示す場合にはt値で,また双方が連続変異する場合には相関係数 で検定した。また実線は有意水準が1%未満,破線は5%未満であること を示している。

図に示されたように,可能な66の組み合せ(12×11/2)の79%に声た る52の組み合わせはノンランダムで,イネ品種集団内における不平衡の状 態が多くの遺伝子,形質間で認められることがわかる。つまりイネの品種

Multi‑locus associationとしてのイネの進化 73

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図3.栽培イネ200品種における12遺伝子座・形質の組み合せ。線で結ばれた 2遺伝子・形質はノンランダムに結びついていることを示す。用いた遺 伝子・形質は12あるから,可能な組み合せは全部で66ある。このうち 実際にノンランダムに組み合わさったのは52通りであった。実線と破 線のちがいについては本文参照。

間では,多くの遺伝子や形質が他とノンランダムに組み合わさっている。

しかしここで選んだ遺伝子や形質は広範な地域の品種に多型的であると いう以外意図的に選んだものではないので,中iこは他と強い組み合せを示 さないものもあった。 12の形質や遺伝子のうち,他と特に強い組み合せを 示したのはCat‑1, Pox‑2, Ac9‑1およびFgi12の4遺伝子座とKCIO3感 受性の計5遺伝子座・形質であった。 KCIO3感受性は2頂分布を示すので, イネの品種はこれらの遺伝子・表現型の組み合せによって32通りに分類さ れる。その結果を図4に示そう。

図に明らかなようにそ推ぞれの遺伝子型に属する品種数は一定ではな

い。もっとも多くの品種が属したのはCatJ2 Pox‑2nul Ac9‑1'9 Pgi‑21 [R]の遺伝子型で,全体の39.5%にあたる79品種がそうであった。なお [R]の記号はKCIO。に対して抵抗性の意味である([S]は同じく感受性を 示す)。さらにおもしろいことに,上の遺伝子型と互いに他を排反とする遺

伝子型であるCat‑ll Pox‑24c A(珍ll‑4 Pgi‑22 [S]にもかなり多くの品 種が分布する.また, CatJI Pox‑2nul Ac9‑1 4 Pgi‑22 [S]などにも同

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図4. 5つの遺伝子・形質の組み合せによる品種の分類。口J能な組み合せ32の うち,実際の品種がみられたのは太い実線のついた11組み合せであっ た。実線の長さは該当品種のパーセンテージを示す。

じく多くの品種が属している。それに対して,ある遺伝子型では,所属す る品種はごく少ないか全くみられない。とくに属する品種が1つもない遺 伝子型は32通りのうち21,通りもあった。

どの遺伝子型に多くの品種が分布するか,または分布しないかについて, 何か法則性はあるだろうか。それを調べるために,互いに他を排反とする

タイプであった2遺伝子型が上下端に来るように,図4の遺伝子座の配列 の順序を変えてみよう。図5にはその結果を示す。一目瞭然のように,供 試品種が2つに分かれしかも他を排反とするタイプに代表される2つのグ ループが存在することが認められる。種々の検討の結果,これらはindica (インド型)とjaponica (日本型)によく対応していることがわかった

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図5.図4の分類を所属品種の数が最も多かった2遺伝子型が両端となるよ う遺伝子座・形質の順序を変えて再度行ってみた。ごく少数の例外を除 き,供試品種が2つの分集団に大別できることがよくわかる。

Multi‑locus associationとしてのイネの進化 75

(Oka 1958 ; Glaszmann1987)。つまり, indicaとjaPonicaは多数の遺伝

子座(または形質)のノンランダムな組み合せでできる2つの排反的な遺 伝子型だということがわかる。すでに述べたが,本項で用いた遺伝子や形 質は,他と強く組み合わされる。というだけの基準で選ばれたものである。

このような遺伝子・形質の組み合せに基づく分類は一種の自然分類の方法 であるが,それは基準の客観性,という点では他よりもすぐれていると考 えられる。 indicaとjaPonicaは,どの形質によって分類するのがよいかが しばしば議論の対象となるが,進化研究を目的にする場合にはここで示し た方法で分類しておき,必要に応じて遺伝子や形質を入れ換えるのがよい であろう。

4. indicaXjapoTu'caの雑種集団における平衡状態

集団中の分集団は互いの間の遺伝的距離に応じて亜種,種など種々の分 類単位に分類される。分集団間の遺伝的距離は,もとの集団が完全自殖の 場合を除けば,おおざっぱには両者の雑種を調査することで明らかになる。

2つの分集団の雑種の中に組み換え型遺伝子型が高頻度で現れ,雑種集団 の中が平衡状態に達するような場合には,それらの分集団はなにか機械的 な要因によって隔離されたことでできたと考えられる。つまり2つの分集 団は異なる生態的地位を持っていたり地理的分布を示す。地方種あるいは 生態種(型)と認識されるであろう。そしてそういう場合には2つの分集 団は同所的な状態に置かれると組み換えによって消失し,集団自体が平衡 状態にもどることが予想される(図6のA)。

分集団間の遺伝的距離が,両者の雑種が形成されないか.雑種の適応度が 下がるほどに大きい場合に1ま,それらは種や亜種,場合によっては属と見 なされるであろう。逆に言えば2つの分集団間の距離は,雑種集団におけ る平衡状態で表すことによって表すことができるであろう。なぜなら,そ の集団内にたとえ低くとも他殖が認められるなら,分集団間の雑種は高い 頻度で親(分集団)の遺伝子型に復帰し,組み換え遺伝子型の頻度がしだ

いに下がって行くと考えられるからである(図6のB)0

では, indicaxjaPonicaの雑種にみられる平衡状態をみてみよう。実験に

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diseriminant score

図6. 2つの分集団の雑種における平衡状態とその集団自身の将来における平 衡状態を示す模式図。集団の変異を模式的に示しやすいように,ここで

は判別関数(discriminant function)によって2つの分集団を1次元の 数量として表した場合について考えた。図中, 0はもとの集団, Hは2 つの分集団(X,Y)の雑種における平衡状態を,またFは集団0の将来 の平衡状態を示している。 A)は雑種集団が平衡にもどる場合である。こ の場合には,それぞれの分集団内での交雑からは親と同じ遺伝子型が生 まれるが,分集団間の雑種からは組み換え形(判別値でいうと中間型)の 子孫も多く生まれる。したがって集団はどんどん平衡状態に近づいてい

くであろう。 B)は雑種集団が再び不平衡になる場合で,この場合には 中間型の子孫はごく少数しか分離しないので,集団自体の不平衡が緩和 されないと考えられる。

Multトlocus associationとしてのイネの進化 77

図7. indl'caxjaL'onica雑種のF2およびF5における遺伝子・形質組み合せo

詳細は本文および図3の説明を参照。

使った材料の両親は,インド南部の在来indica品種(Ac・419)と台湾で育 成されたjaPonica品種「台中65号」 (T65,両親は共に日本の在来品種)で ある。なお,方法や結果の詳細は, Sato gJ α/. (1990)をみていただきた い。

F2は約200個体を栽培した。 F3とF。は,それぞれ前の世代の個体から 1粒の種子をとってそれを混ぜて育成した。こういう育成法を単粒育成法 (SSD‑Single Seed Descent)といい,個体レベルでの適応度の違いによ る遺伝子型頻度の歪みを最小限におさえる方法としてよく知られている。

F5集団は, F。個体から2粒ずつをとりそれを混ぜて育成した。

F2およびF5における不平衡の状態を図7に示そう。まずF2では,品種 間における組み合せの図(図4)と異なり,不平衡の状態にある組み合せは いっきょに9組み合せにまで減少した。これは品種間でみられた組み合せ (52)の17%にすぎない。 FZで不平衡の状態が認められるのは連鎖による かまたは機会的浮動によるものである。なお9遺伝子組み合せのうち7組 み合せまでは2つの遺伝子の連鎖関係が実際証明されている。

F5では, 14組み合せ(品種間でみられた52組み合せのうち27%)の遺 伝子間に不平衡が認められた。それらはF2から引続き認められたものも あったが,中にはF2では平衡状態にあったものがF5になって新たに不平 衡になった組み合せも5つみられた。

F5でみられた14組み合せは世代がこれ以上進んでも多分平衡の状態に

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