第 3 章 高齢者の歩行と新しい歩行支援モデル
3.2 高齢者における歩行の重要性
図3.1に示すように,人間の歩行は足の運動をはじめ,全身の動きに伴う重心移動による 3次元空間での移動モデルと想定できる[41]-[43].特に,高齢者の歩行には,若年者とは異 なる歩行特徴を有しており,それを考慮した効果的な歩行支援を提供する必要がある.
本研究の対象者となる歩行能力の低下した高齢者は,次のような老人型歩行の特徴がみ られる[13][43].
○歩行動作に伴う体の重心移動に起因した,ストライド長の減少
○ストライド長減少による歩行速度の低下
○バランス感覚の低下による歩隔の増大
○歩行率の減少傾向
○上記4項目の要因から両脚支持期の増大
○上半身の前後揺動の増加
○関節角度範囲の減少
○前傾度の上昇
高齢者において歩行の意義は大きく,中でも歩行速度の低下は,将来における生活機能 の低下,転倒の発生,生死に関する予知因子になっていることが,高齢者を対象とした研
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究から明らかとなっている[10].これは,歩行そのものに心肺機能や臓器といった循環器系,
筋骨格系など,身体のあらゆる部分のサポートが必要とされるためである.すなわち,歩 行速度の低下は,身体機能の低下を反映していることになる.したがって,介護予防の考 えに基づいて健康維持に努め,歩行速度を維持することが,健康に関するひとつの指標と して重要になる.歩行速度を維持する手法としては様々なものがある.昨今では,自身の 健康維持の手段の一つとして,スポーツ活動や筋肉トレーニングを行う高齢者も増加して いる.無論,こうした努力をできることが望ましいが,普段から積極的によく歩くことを 心掛けていれば,自ずと歩行能力は維持されるはずである.
一般的に,高齢者は若年者に対して歩行速度が遅い.ここで,歩行速度を意図して上げ た場合,若年者はストライド長を増加して対応する傾向があるのに対し,高齢者はストラ イド長をあまり変えず,歩行率を増加させることで対応する傾向がある(図3.2[44]).また,
ストライド長や歩行率などより歩行動作を分析したところ[45][46],被験者が最も歩きやす い歩行速度で歩行している場合,身長など身体的特徴に関係なく,一歩あたりに必要なエ ネルギーは等しいとされる.これらにより,ある一定距離を進む場合,高齢者は歩行率に 依存した歩き方に起因して疲労しやすくなるため,若年者に比べて負担の大きい歩行を行 っていることになる.したがって,高齢者の歩行率を増加させるのではなく,ストライド 長の増加による歩行速度の維持が,効率的な歩行補助の一つの方法として提案することが できるのではないかと考えた.
図3.1 歩行と重心揺動
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図3.2 高齢者と若年者の歩行速度[44]
(a)歩行速度と歩行率の関係,(b)歩行速度とステップ距離の関係
図3.3 ストライド長,ステップ長,歩隔