「パッケージ型インフラの海外展開」は現在日本が最も力を入れようとしている分野だ。
しかしパッケージ型とは具体的に一体何を意味するのだろうか。考えてみれば、パッケージ と言うからにはその前提として分割されているものが既に存在するはずだ。分割されてい るもののいくつかを、抱き合わせにすることをパッケージと言うのである。したがって一言 でパッケージ型と言っても、パッケージの仕方は唯一ではなくて複数の組み合わせ方の可 能性が存在する。そしてその背景には、どのように分割されているのかという分割の仕方が、
そもそも前提として存在しているのである。それはとりもなおさず、システムのアーキテク チャを考えるということに他ならない。
本章では高速鉄道システムを例に取って、このことを具体的に考えてみる。まずパッケ ージの前提としてのアーキテクチャという観点から、パッケージ型鉄道インフラの概念整 理を行う。そのうえで、日本が高速鉄道輸出に成功した2つの例として台湾と英国の事例を 紹介し、対象国の事情に応じて適切なパッケージングの仕方は異なるということを例示す る。そして、パッケージ型インフラの海外展開を考えるために、カスタマイズド・パッケー ジという考え方を提起する。
1 アーキテクチャという視点
1.1 システムをどう分けてどうつなぐのか
パソコンと
NC(Numerical control)
工作機械は、顧客も産業分類も全く異なる2つの商 品である。パソコンはまさに個人用途のパーソナルなコンピュータであり、それは家庭や職 場で使用される。他方NC
工作機械は生産財であり、それは多くの場合工場で使用され、自 動車のボディを加工したりするのに使用される。どう考えても、これら2つの商品に共通要 因を見出すことは難しい。しかし、アーキテクチャという視点からこれらの2つの商品をみると、PCはオープン 型であるのに対してNC工作機械はクローズド型であるという違いはあるが、両方とも同 じモジュール・アーキテクチャとして類型化される。つまりこれら2つの商品は、アーキテ クチャという視点にたつと共有要因を多く持つ。アーキテクチャとはシステムの設計に際 して、どのようなサブシステムに分割し、それらをどのような仕組みで連結するのかという サブシステム間の関係性に関する考え方を言う。アーキテクチャという視点を導入するこ とで、製品やサービスの表面的多様性や個別技術の違いにとらわれずに、根本的な次元から 共通した枠組みを使って議論できるのである。
システムとは、複数の部分が有機的に連携されている独自の体系であり、それは独自の 境界をもち境界によって外の世界から区別される。われわれを取り囲むほとんど全ての製
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品やサービスはシステムである。同様に組織やビジネスモデルもまた、複数のプロセスが有 機的に連携される独自の体系であることから、システムとして理解できる。このようなシス テムを特徴づける1つの要因は、システムを構成する部分間の関係性である。
例えば、部分間が複雑で緊密な相互依存関係を形成しているシステムと、ルール化され た単純な相互依存関係で形成されるシステムでは、両者の性質は大きく異なるだろう。前者 の場合、部分の変更は相互依存の連鎖によって、システム全体に想定外の影響を及ぼすため に予見可能性に乏しい。他方後者の場合、たとえ部分を変更しても、依存関係がルール化さ れているために、システム全体への影響はある程度予見可能であり制御可能である。このよ うにシステム全体の性質は、システムを構成するサブシステムがどのような関係で連結さ れているのか、ということから大きな影響を受けるのである。
アーキテクチャ分析では、製品やサービス、さらにはビジネスモデルなどをシステムと してとらえ、それがどのようなサブシステムから構成され、それらサブシステムがどのよう な関係でつながっているのかに着目する。
例えば、携帯電話のビジネスモデルを、アーキテクチャという視点からみてみよう。携 帯電話のビジネスモデルは、ドコモやソフトバンクなど通信キャリアと、ソニーやパナソニ ックなど携帯電話端末メーカーの協働によって実現される。このビジネスモデルをアーキ テクチャという視点をとおしてみると、日本と欧米の違いが見えてくる。日本の携帯電話サ ービスは、通信キャリアと端末メーカーの緊密なすりあわせによって提供されており、端末 機器は特定の通信キャリア向けにカスタマイズされている。他方、欧米のサービスはそうで はなく標準化が進展しており、端末機器はどの通信キャリアに対しても適用可能なように 開発されている。このように日本と欧米では、端末機器メーカーと通信キャリア間の境界特 性が異なっており、ビジネスモデルのアーキテクチャが違うのである。
1.2 モジュール型とインテグラル型
製品システムのアーキテクチャを分析するための最も基本的な枠組みは、モジュー ル型とインテグラル型という類型化である。前者の典型はパソコンであり、後者の典型 は乗用車である。
パソコンは、MPU、モニター、キーボード、HDD(Hard disk drive)などから構成さ れているが、それらの部品間のインタフェースはルール化され標準化されている。その 結果、市場からこれらの部品を購入し、適当に組み合わせることでパソコンを作ること が可能であり、更に、
A
社のモニターとB
社のキーボードを組み合わせるといったパソ コンのマルチベンダー化も可能になる。さらに、ある機能は特定の決まった部品によっ て実現されており、機能と部品との関係が1対1
の関係になっている。画質を向上させ ようとすればモニターを変更すれば良いのである。これがモジュール・アーキテクチャ である。75
他方、乗用車の場合はそうはいかない。トヨタのエンジン、ホンダのボディ、日産 のトランスミッションを持ち寄っても、組み合わせるだけで良い乗用車はできない。そ れら部品間のインタフェースが標準化されているわけではなく、部品間に複雑な相互 依存関係が形成されているために、それらを微妙に調整し、全体のバランスを考慮しな がら組み合わせてゆくことが必要になる。さらに、機能とそれを実現する部品との関係 が複雑であり、乗りごこちという機能の実現は、サスペンション以外にエンジンやボデ ィとも関係があるのである。これが、インテグラル・アーキテクチャである。モジュラ ー型とインテグラル型を概念的に図示すると図表6-1に示すようになる。
以上のことがらをまとめると、サブシステム間の依存関係がルール化されていて、
それらの独立性が高いのがモジュール型であり、その逆に、サブシステム同士が複雑な 依存関係を形成しルール化されていないのがインテグラル型である、という整理の仕 方ができるだろう。しかし、モジュール型かインテグラル型かは程度問題であり、理念 上の完全モジュール型や完全インテグラル型の製品は現実には存在しない。実際の製 品は、それらの理念型を両端にした線分上のどこかに位置しているのであり、モジュラ ー性が強く出るのか、インテグラル性が強く出るのかという点が重要になる。
2 アーキテクチャからみた高速鉄道システム 2.1 高速鉄道システム
高速鉄道は複数の部分から成るシステムであるから、アーキテクチャという視点から高 速鉄道システムを捉えることができる。高速鉄道システムをアーキテクチャという視点か
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CPU ハードディスク 演算処理
記憶
入力 キーボード、マウス
(例)パソコン
Modular Architecture
モジュラー(組み合わせ)型Integral Architecture
インテグラル)(すり合わせ)型
サスペンション ボディ
エンジン 走行安定性
乗り心地 燃費
(例)乗用車
表示 モニタ
図表6-1 モジュラー型とインテグラル型
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らみると、図表6-2示すように、機能軸とプロセス軸という2次元のマトリクスで考える ことが有効だろう。
まず機能軸から高速鉄道システムをみてみよう。顧客に対して提供される高速鉄道シス テムというひとまとまりの機能は、実は3つの機能階層の連携で実現される。まずインフラ に相当する線路(レール)が一番下にある。この軌道の上を車両が走るのであるから、軌道 としての線路がしっかりと安定していなければならないことは言うまでもない。
次にその上を走る車両が存在する。線路と車両とのインタフェースは鉄のレールと鉄の 車 輪 で あ る 。 そ れ ぞ れ に 規 格 が あ り 、 日 本 で は
JIS
規 格 、 欧 州 で はUIC
規 格(UIC;International Union of Railways 国際鉄道連合)で規定されている。つまり日本と 欧州では線路の規格が異なる。いずれにしても、車両は乗客をシートに乗せて鉄でできた線 路の上を高速で安全に運搬するという機能を果たす。車体の素材を鉄からアルミに変える ことで大幅な軽量化を実現したり、パワーエレクトロニクス技術を導入して制御機能や環 境性能を高めたり、あるいは空気力学の進歩を取り込んだ先進的な先頭形状を作るという ような革新はこの車両機能に対して行われる。
注意する必要があるのは、車両自身もまた複数のサブシステムから構成されているため に、車両自身にもアーキテクチャの考え方が適用できるということだ。欧州メーカーの車両 は、モジュール化の考え方を採用したうえで、幾つかの標準品をシリーズ展開している。他 方日本メーカーの場合、JR等の鉄道事業者毎に最適化した車両を特注品として提供して いる。車両のアーキテクチャはインテグラル型と言って良い。
そして最上位には、安全性を維持しながらできるだけ車両の運行密度を高め、しかもダ イヤどうりに確実に鉄道の運行を実現する運行管理機能がある。たとえば東海道新幹線で
図表6-2 高速鉄道パッケージの分析枠組み
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運行管理システム
車両システム
線路(レール)システム
ファイナンス 開発・製造 保守
機能軸
プロセス軸