第2段落までの文脈に 第3段落からの文脈に よる文章理解 よる文章理解
図2−1 文脈の違いと課題テキストの理解
また、第2−3段落間のっながりのとらえ方に加えて、第2段落までの 理解においても差異が生ずる可能性もあった。第1段落はコインの形状 が視点によって円形にも長方形にも見えるということが具体的な事例と
して述べられている。しかし、同一段落内にその一般化の明確な記述が ないため、学習者は推論によって一般化を試みるだろうと考えられた。
そうしてとらえた命題がその後の文章理解に与える影響も予想された。
例えば、第1段落のコインに関する記述を「視点が変われば認識も変 わる」ことの事例ととらえるか、テキストの記述にあるとおり「視点と 認識の一面性」の.事例ととらえるかによって、続く第2段落の理解も影
饗を受けるだろうということである。
このように、選定した課題テキストは複数の内容理解が成立する可能 性を持つ。このテキストを用いて読みを交流させると、学習者に自分の 読みを自覚させることができる。また、読みの交流によって読み方が変 化することでも、学習者の読解ルールをとらえる材料を得られる。
2.1.2.授業の計画
複数の内容理解が可能なテキストを使って、学習者の読解ル」ルを探 るための授業を計画した。ねらいは以下のとおりである。
A 一人で読む場合にはどのような読み取りをするのか → 読解過程把握
B 生徒が文章理解に役立てている方略は何か
→ 方略等の把握
C 個人的に読みを検討する中で文章理解はどのように変容するか → 変容過程把握
D 協同的に読みを交流する中で文章理解はどのように変容するか → 変容過程把握
交流の実態把握 相互作用の効果把握 授業展開とねらいの関係については表2−1に示す。
表2−1 授業展開とデータ収集のねらい
次 内 容 回収データ ねbい
〔1時〕読みの過程の記録 読みの過程のメモ 読解過程把握
1 テーマ選択課題 ワークシート 方略等の把握
〔2時〕段落内容のまとめ (2種類) 変容過程把握 段落間の関係の読み取り
同じテーマ選択者同士での 話し合いのメモ 交流の実態把握 2 意見交換(テーマ選択の理 まとめプリント 相互作用の効果把握
由を吟味) 録音データ 方略等の把握
異なるテ」マ選択者との討 録画データ
3 議(テーマの選択と根拠の
吟味)
4 自分の読みの変化の過程や 振り返りシート 変容過程把握
他者との交流の振り返り 方略等の把握
(※ ワークシートの詳細は資料3−1〜3−3を参照)
このねらいを達成するために、ワークシート、録音データ、録画デー タ等を回収することとし、授業展開を練った。なお、ワークシートは、
先述のような読み方の違いをとらえられるように配慮した。具体的には、
学習者に課題テキストを読んでもらい、テキストのテーマをとらえるこ と、意味段落毎の内容をとらえること、段落間のつながりについて考え ることを課題としたワークシートを作成した。
授業の第1次は個人での文章理解の段階である。命題や文脈をどのよ うにとらえたか、そのためにどのような方略を用いたかについてのデー タを収集するために計画した。第2次、第3次は他者との協同的な文章 理解の段階である。読みの交流によって自分の読みを客観的に捉え直す
ことをうながし、その際のやりとりを記録することによって文章理解の 過程でどのような判断がおこなわれたのかを把握するために計画した。
第1次1時で行ったテ]マ選択課題は、課題テキストを一読したあと で、ア「コインの形状」、イ「認識と視点」、ウ「レトリックの意義」、
工「その他」の4つの選択肢から最も自分の考えに近いテーマを選んで、
選択の根拠を記述してもらうかたちで実施した。
先述のとおり、この課題テキストは少なくとも2種類の読みが成立す るはずであり、テーマ選択はイr認識と視点」、ウrレトリックの意義」
に集中するだろうと予測した。言い換えれば、どの選択肢を選んだかと いうことが読解ルールや文章理解のプロセスを把握するための手がかり のひとつになりえると考えたのである。
もちろん、テーマ選択だけで読解ルールや文章理解のプロセスを把握 することはできない。意味段落の内容をどのように命題化しているか、
段落間の関係をどのように位置づけているかということと合わせて分析 していく必要がある。そのために、主に第1次2時の段落内容のまとめ のワークシートも合わせて分析に用いた。
2.2.データ分析と考察 一学習者の読みの傾向一
本節では、回収したデータの分析に基づいて、学習者の文章理解の傾 向や特徴を明らかにする。
授業の第1次1時で回収したテーマ選択課題のワ』クシートを集計し た結果、テ」マ選択別の人数は表2−2のとおりとなった。計画段階での 予測通りイ「認識と視点」(20人)とウ「レトリックの意義」(17人)
に選択が集中した。
表2−2 テーマ選択別人数
テーマ選択 人数
ア「コインの形状」 ○人
イ「認識と視点」 20人
ウ「レトリックの意義」 17人
工「その他」(レトリック感覚の必要性) 1人
授業の計画段階では、このようにテーマ選択が分かれるのは、第2−3 段落間の文脈をどのように捉えるかによって、第2段落、第3段落の内 容理解が異なるためと想定した。文脈把握の違いによって内容理解に違 いが生じるということである。
まずはこの予測が妥当であるかどうかを検討するため、テーマ選択課 題のワークシートに記されたテーマ選択の根拠を分析した。
2.2.1.テーマ選択と根拠のカテゴリー間の関連の分析
ここでは、特に第1次1時で回収したテーマ選択と選択の根拠につい て記述したワークシートの分析結果を示す。ただし、分析にあたっては 補足的に第1次2時のデータも参照した。
課題テキストの文章理解の流れは第2段落までの理解に基づいてなさ れるものと、第3段落の理解に基づいてなされるものとが想定されてい た。文章理解に関する先行研究では、ボトムアップ的な文章理解の方向 とトップダウン的な文章理解の方向との相互補完的な処理によって文章 理解がなされることが分かっている。分析にあたっては文章理解の方向 がボトムアップの方向によるものかトップダウンの方向によるものかと いう観点もふまえることとした。
第1次1時のワークシートに文章で記述された「テーマ選択の根拠」
をコーディングによってカテゴリーに分類し、統計処理によってテーマ 選択との関連を調べた。
コーディングはクラウンデッド・セオリー・アプローチ2の方法を参考
2グレイザー(G1aser,B.G.)とストラウス(Strauss,D.A.)によって開発された質白勺データ の分析方法。データの比較分析を繰り返しながらコーディングによって意味的カテゴリーを 生成し、カテゴリーの関係づけによって理論を生み出そうとする手法である。現在ではクレ イザーとストラウスは考え方の違いからそれぞれ異なったクラウンデッド・セオリー・アフ ローチを提唱している。また、日本では木下による修正版クラウンデッド・セオリー・アフ ロー・チと呼ばれるものもある。
にした。「テーマ選択の根拠」に設定したカテゴリーは「客観的・量的根 拠」「解釈的根拠」「説明文スキーマ的根拠」「印象的・感覚的根拠」の4 つ(表2−3参照)である。これらのカテゴリーは共通する要素(ディメ
ンション)を持つものをグルーピング・して名前を付けたものである。
表2−3 テーマ選択の根拠のカテゴリー
カテゴリー プロパティ 処理の方向
客観的・量的
ェ拠
記述の量、キーワードの数
■
解釈的根拠 内容説明、アイウの関係判断、具体
痰フ意味付け ボトムアップ重視
説明文スキ』マ的根拠 結論・まとめ、r必要(性)」重視、
o典・著書 トップダウン重視
印象的・感覚
I根拠
印象・感覚
u
それぞれのカテゴリーは、以下のようなものである。
1. 「客観的・量的根拠」は同じような内容がどの程度の量書かれて いるか、キ」ワードの出現数がどのくらいかなど、量を根拠とし たものである。
2. r解釈的根拠」は、テキストに明記されていないことを根拠とし たものである。この根拠となっているのは解釈的に理解した内容 である。
3. 「説明文スキーマ的根拠」は、説明的文章について学習者が持っ ている知識を根拠としたものである。特に文章構造に関する知識、
結論部分に関する知識などが該当する。
4. 「印象的・感覚的根拠」は、文章の内容ではなく、学習者の感想 に基づいた根拠や、不明瞭な根拠を分類した。
設定した各カテゴリーは、さらに文章理解の処理の方向がボトムアッ プ的なものとトップダウン的なものに分けることができた。これによっ て実際の文章理一解の方向がボトムアップ処理を重視したものだったか、
トップダウン処理を重視したものだったかを、きわめて大雑把ではある
参考図書=グレイザー&ストラウス野データ対話型理論の発見 調査からいかに理論をうみ だすか』、新曜杜、1996
支木クレイクヒル滋子『クラウンデッド・セオリー・アフロ]チ 理論を生みだすまで』、
新曜杜、2006
木下康仁『クラウンデッド・セオリー・アプローチの実践 質的研究への誘い』、弘文堂、
2003