第 1 章 研究の背景
1.4 学習者の動機づけに影響を与える教師要因
1.4.4 高校生の英語学習意欲に関わる教師要因
日本の高校生を対象に英語学習意欲に関わる教師要因に焦点を当てた研究(渡辺, 2012,
第2・3・4章)は、英語教師の生徒に対する姿勢が学習意欲にどのように影響を及ぼすか、
学習者側の 3 要因(英語授業に対する姿勢・英語学習に対する姿勢・英語学習努力)と、
教師要因の関係について検証した。この研究では、英語教師の姿勢および指導を尋ねる尺 度31項目(資料5)、学習者の英語に対する姿勢を尋ねる尺度 12項目(資料6)を新たに 作成した。教師要因尺度の作成に当たっては、Richmond, Gorham, and McCroskey(1987)の
「教師の非言語による親近的な行動」、Gorham(1988)の「教師の言語による親近的な行動」、
Richmond(1990)の「教師の生徒に対する圧力的な姿勢」、および「教師が生徒の行動を圧 力によって変えるテクニック」「教師が生徒に対して親近感をつくろうとする行動」、Noels,
Clément, and Pelletier (1999)の教師と生徒間における「統制的」「建設的な情報」の関係を
調べた研究からそれぞれの尺度を参考としている。また、生徒要因尺度作成については、
日本人学生を参加者に起用したRyan(2009)の研究から「英語学習に対する姿勢(attitude to learning English)」と「英語学習努力(intended learning effort)」を参考とし、評定尺度が作
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「英語学習に対する姿勢」項目を作成するに当たり、英語学習そのものに対する姿勢と、
英語授業に対する姿勢の両方の意味合いを含んでいる可能性があるため、この項目を「学 習と授業」の2つに分けた。このように、生徒要因を3項目に分けた背景には、「授業は好 きでも、英語自体は好きではない」、逆に「英語自体は好きだけど、授業は好きではない」
や、「英語が好きであるからと言って英語学習をしているわけではない」が考えられ、それ ら生徒に対する3要因が別の教師要因によって影響を受けていると想定されるためである。
以上を踏まえて学習者側の変数として 3 種類、(1)英語授業に対する姿勢、(2)英語学習 に対する姿勢、(3)英語学習努力を設定し調査した。
アンケート調査後、回収した質問紙の教師要因項目の結果を因子分析にかけ、因子を抽 出した。その結果、学習者が認識する教師の姿勢と指導に関する項目は、「きめ細かな指導」
「強圧的な姿勢」「過度の干渉」「優しい態度」の4因子で構成されていた(資料5)。次に、
教師要因 4 因子と学習者の「英語授業に対する姿勢」「英語学習に対する姿勢」「英語学 習努力」との関係を相関分析、および重回帰分析により解析した。その結果、「英語授業 に対する姿勢」と「英語学習に対する姿勢」には「きめ細かな指導」因子がプラスに関与 し、「強圧的な姿勢」因子がマイナス関与を示した。一方、「英語学習努力」には「過度 の干渉」因子がプラス関与し、「優しい態度」因子がマイナス関与であった。したがって、
「英語授業に対する姿勢」と「英語学習に対する姿勢」には同じ要因が関与し、「英語学 習努力」にはそれとは別の要因が関わっている結果が示された。つまり、「きめ細かな指 導」は英語授業や英語学習に対する姿勢を高める可能性はあるが「英語学習努力」には結 びつかない。また、「優しい態度」が学習努力にマイナス関与を示したのは、それが教師 側の無関心と捉えられる可能性を示唆する結果であった。
研究2(渡辺, 2012, 第3章)では、英語教師の指導姿勢要因が高校生に及ぼす影響を英
語能力の高低グループ間で比較し、検討
した。研究 1 で使用されたデータを用い、教師に関わる各因子と学習者の「英語授業に 対する姿勢」「英語学習に対する姿勢」「英語学習努力」との関係を英語力の高低グループ それぞれに相関分析、および重回帰分析により解析した後、高低グループ間比較を行った。
結論として高グループの自律性、低グループの依存性や非自律性が伺える結果が示され た。高グループ学習者には「きめ細かな指導」を重点的に行い「強圧的な姿勢」は極力避 ける必要が示された。つまり、このグループの学習者に対して「詳しく、かつ分かりやす く教授する」一方で、教師特有の「強圧的な態度」を感じさせない工夫が求められる。そ れに対して低グループ学習者には「きめ細かな指導」と「過度の干渉」が重要である結果 が明らかになった。つまり、英語学習が苦手な学習者には過度と思えるほど干渉し、十二 分に手間をかけた学習指導が重要である。
学習者要因である「英語授業への姿勢」「英語学習への姿勢」「英語学習努力」の違い を比較すると、高グループ学習者には英語授業への姿勢を向上させるために、きめ細かな
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指導を行い、英語学習への姿勢を向上させるには強圧的に接しない必要がある結果が示さ れた。そして、英語学習努力には「構わない」ことが重要であるとわかった。したがって、
高英語能力学習者にはそれぞれの学習者要因に異なる教師要因が関わると理解できる。ま た、低グループ学習者は、英語授業への姿勢・英語学習への姿勢には、きめ細かな指導が 重要であるが、英語学習努力には、過剰と思われるほどの干渉が必要である結果が示され た。したがって、低英語能力学習者には、2種類の学習者要因(授業・学習への姿勢)には 同じ教師要因(きめ細かな指導)が関連するが、残りの学習者要因(学習努力)には、異 なる教師要因(過度の干渉)が関連する。いずれの結果から判断しても「姿勢と努力間で 違いがある」結果が明らかになった。
研究3(渡辺, 2012, 第4章)は、研究1(渡辺, 2012, 第2・3章)の分析を基本とし、教
師の指導姿勢要因が及ぼす影響を、高校生男子・女子グループ間で比較検討した。その結 果、男女グループともに、英語授業と英語学習には、「きめ細かな指導」が重要であること が明らかになった。また、「優しい態度」は、特に男子グループにマイナス影響を与え、無 関心と捉えられる教師の「優しい態度」も極力避ける必要がある結果であった。併せて、
男子グループには教師の「強圧的な姿勢」もマイナス影響を及ぼす結果が明らかになった。
一方、女子グループには「きめ細かな指導」と「過度の干渉」が重要である結果が示され た。研究 3 の結論として、男女グループ共に英語授業および、英語学習への姿勢要因と、
英語学習努力要因の間で相違が生じている点である。この相違は、英語授業および、英語 学習への姿勢要因と、英語学習努力要因が「姿勢」と「行動」を指し示す要因であり、そ の間に隔たりが生じていると考えられる。つまり、「英語授業に対する姿勢」と、「英語学 習に対する姿勢」は、学習者の英語授業と学習に対する「姿勢」を意味し、「英語学習努力」
は、英語学習における学習者の「行動」を意味するためである。したがって、学習者が英 語授業と学習に良い「姿勢」を持っていても、それがすぐに英語学習努力に「行動」とし て反映されるとは限らないと指摘している。
以上、上記の研究結果(渡辺, 2012, 第2・3・4章)をまとめると、調査結果全てから「英 語授業に対する姿勢」は「きめ細かな指導」因子がプラス影響を与える結果であった。し たがって、調査対象とした高校生の英語授業に関しては「きめ細かな指導」が教師要因と して最重要である結果が示された。高校生英語能力高低グループおよび、男女グループ比 較では、男子グループに関して、それぞれの部分で高・低グループ比較と共通する結果が 示されている。具体的には、男子グループの「英語学習に対する姿勢」に「強圧的な姿勢」
がマイナス影響を与えている点は、高グループパターンと共通するものがあり、「英語学習 努力」に「優しい態度」がマイナス影響を与えている点は、低グループパターンと共通す る結果であった。また、女子グループの結果は「英語学習努力」に関して高グループパタ ーンと共通点が伺える結果であり、女子グループ・高グループ共に、どのような教師要因 からも影響を受けにくい点が明らかになった。併せて、女子グループの英語学習に対して、
「きめ細かな指導」や、「過度の干渉」要因の必要性が示され、教師との関わりに重点を置
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いた依存的な関係性が示された結果である。その点は、女子生徒特有の社会性の一面が伺 える結果と言える。つまり、女子生徒は、英語学習努力を自分で行うことができるという 自律的な面があるにも拘らず、目の前に他人(教師)の存在が介入した場合、その介入に 対して依存的な態度を取る可能性があると説明している。