第四章では、団塊世代の職業生活の軌跡の調査研究により、看護職者は職業を継続する 中で、キャリアを形成し、看護活動を多様化し、専門職性を主体的に高めていくという動 的プロセスを明らかにした。
現在、日本において健康的に生活できる年齢(健康寿命)は、2013 年の厚生労働省の 調査結果では、男性で 71.19 歳(平均寿命 80.21 歳)、女性で 74.21 歳(平均寿命 86.61 歳)といわれる(厚生労働省,2015)。したがって 60 歳以上でも健康と意欲があれば、看 護職者としての活動が可能だと考える。
平成 18 年度の看護白書では、50 歳以上の看護師の就業割合は 15.5%である(日本看護 協会編,2007a)。団塊世代の定年退職により 60 歳以上の人口は益々増加する。職業を継 続してきた看護職者の専門職としての意識が、定年退職後の生活に反映される時、社会 への貢献が可能となると考えられる。しかし、中高年の看護師を対象とした研究は少な い(山崎ほか,2012)。本章では、60 歳以上の定年退職者への聞き取り調査と、中高年看 護職者(本論文では 50 歳以上の看護職者とする)への質問紙調査を通して、看護職世界 の多様化と看護職の専門職性形成の動的プロセスを明らかにする。
なお、本章は著者の既発表の論文(関口,2005,2006)における調査データの再分析であ る。既発表論文では人材活用や在宅支援活動の視点から調査データを分析したが、本章 では、本論文の主旨に沿い、看護職世界の多様化と専門職性形成の視点から再分析した。
第 1 節 中高年看護職者の社会的活動の実態と意識に関する調査方法
1.定年退職者への聞き取り調査
≪調査目的≫
長年看護職を経験してきた者が、定年退職後も看護をどのように考え、社会的活動(再 就職等を含むあらゆる活動)を行っているのか把握する。また後述する質問紙調査の資 料とする。
≪調査対象者、調査期間≫
研究対象者は 60 歳以上(63~73 歳)で、定年退職時まで 30 年以上継続して看護職と して勤務経験のある 11 名である。
全員女性で、既婚者 3 名(死別 1 名含む)、未婚者 8 名である。定年時の年齢は、65 歳歳が 1 名、他の 10 名は 60 歳である。職務経験は看護教育の経験者 2 名以外は病院の 看護師であり、定年退職時の職位は、管理職(病院看護部長、教育機関責任者)と中間 管理職(病院病棟看護師長)であった。健康状態は軽度の膝関節痛のある者 1 名を除き
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他の 10 名は健康である。現在の居住地は東京が 9 名、長野県、千葉県が各 1 名であった。
調査は 2003 年 10 月 30 日~12 月 29 日に実施した。
≪面接方法、分析方法≫
対象者に対して、半構造的な面接を行った。看護職としての思いや経験が、退職後の 生活にどのように影響しているのか、できるだけ自然な会話の中で、引きだすようにし た。インタビューに際してはインタビューガイド(表 5-1)を作成し、インタビュー時間 は、一人につき 1~1 時間 30 分時間程度とした。なお、参加協力は自由意志であること、
プライバシーの保護を遵守すること、発表することを説明し、同意を得た。
インタビュー内容は文章化し、本人の確認を得た。記述データは意味の類似性よりカ テゴリー化し分析した。
(表 5-1)定年退職後の看護職者へのインタビューガイド 項 目 内 容
①基礎的事項
②看護師への志望理由
③看護師として勤務中の社会的活動の 有無とその状況
④看護師としての勤務中の思い出
⑤退職後の社会的活動への希望の有無 とその内容、時期等
⑥退職時の思い、退職後の状況
⑦退職後の社会参加に対する考え
年齢、性別、住所、住宅状況、家族背景、健康状 態、経済状態、退職時の勤務場所・職位など
公的活動(看護協会、学会等)、地域等の私的活 動
満足する活動、思い残すこと等
楽しかったこと、苦しかったこと等
生活、活動、社会的活動、社会参加の有無と内容 社会参加の条件・要因、職務経験活用の希望の有
無と条件・要因
2.中高年看護職者への質問紙調査
≪調査目的≫
今後定年を迎える看護職者の社会的活動の意識を把握する。
≪調査対象者、調査期間≫
調査対象者は、定年退職後の看護職者の社会的活動に対する実態と意識だけでなく、
今後定年を迎える看護職者の社会的活動の意識も把握するために、50 歳以上の勤務を継 続している看護職者とした。送付者 390 名に対して回答者は 385 名(回収率 98%)であ り、北海道から九州までの全国より回答があった。男性は 6 名で 379 名が女性であった。
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定年退職の経験のある者が 128 名、経験していない者が 257 名である。平均年齢は 58.6 歳で最高年齢は 80 歳である。調査は 2004 年 4 月 17 日~5 月 21 日に実施した。
≪調査方法、調査票、集計方法≫
調査方法は、質問紙によるアンケート調査とし、質問紙は全国の看護職の知人 135 名 に調査協力および紹介を依頼し、協力の承諾が得られた 390 名に配布した。
質問票は、先に実施した定年退職後の看護師(11 名)への聞き取り調査結果に基づい てワーディングを行い、以下の項目について質問した。さらに予備調査を実施し、調査 票の正確性、妥当性を確保した。
[基本属性]
性別、年齢、居住地域、所持している資格(看護師・准看護師、保健師、助産師など)
と取得年、勤務経験年数、経験領域、定年退職の経験、現在または退職時の勤務場所、
現在または退職時の職位、同居者について。
[定年退職後の社会的活動(再就業を含めたあらゆる活動)に対する考え]
・定年退職後の社会的活動の希望について(希望の有無とその理由)
・希望する社会的活動の内容(職務経験を活かした活動、他分野の活動)
・社会的活動を行う場合の活動形態や時間(常勤・非常勤・自分に合った時間・有償 ボランティア・無償ボランティアなど)
・有償で社会的活動を行う場合に希望する時給
・看護職者の社会的貢献についての思い(社会から認められていると思うか)
・定年退職後に行っている社会的活動(再就職など)の内容、その他自由記載。
集計方法は、単純集計、クロス集計を行った。なお、記述データ(定年退職後に行っ ている社会的活動)の内容については、意味の類似性よりカテゴリー化し、分析した。
第2節 調査結果
1.定年退職者への聞き取り調査結果
1)再就職等社会的活動を行っている者(7 名)
≪社会とのつながりをもっていたい≫
① 65 歳で私立看護短大を定年退職後、3 ヶ月で落ちつかなくなった。社会とのつながり で自己の存在を確かめたいと、退職1年後に知人の勧めで、地方の新設看護学部の教
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授として勤務した。学会発表や本の執筆などの機会の少ない教員に、業績ができるよ うに支援した(67 歳既婚)。
② 60 歳で地方公立病院(300 床)の看護部長を定年退職した。いくつかの病院から就職 の誘いがあったが、病院以外の場で働きたいと思い、専門職能団体の専従役員をし
ている。定年退職後 5 年間程度は社会とのつながりをもっていたい(65 歳、未婚)。
≪不完全燃焼の思い≫
③ 病院で長年勤務し、看護師長として 60 歳で定年退職するが、報われない思い、評価さ れなかった思いをもった。定年退職時に勤務していた病院より紹介された病院に再就 業するが、2 年で退職し、現在までの 5 年間で 3 回、就業先を変えた。今までの自分 の経験が活用されないことや人間関係の困難さを感じ、挫折しながらも「健康で働け る間は働きたい、患者に関わる楽しさを感じていたい」と、現在は職業安定所で紹介 を受けた特別養護老人ホームで、看護師として勤務している(65 歳、未婚)。
≪元気な間は訪問看護、ヘルパー教育を続けたい≫
④ 長年、私立看護専門学校の教務主任として勤務後、開業医の夫の診療所を手伝った。
夫の死後、夫の知人(開業医)よりターミナル患者の訪問看護を依頼され、実施して いる。同時にヘルパー教育機関で非常勤講師(週 5 日)をしている。ヘルパー教育は 重要であり、少しでも役に立ちたい(63 歳、既婚)。
≪少しでも役に立ちたい≫
⑤ 東京の病院(500 床)の看護師長として 60 歳で定年を迎えた。退職後夫と共に郷里 の田舎に戻り、その 3 年後より地域の子育て支援事業にボランティアとして、協力 した(8 年間)。現在は老人介護のボランティア団体立ち上げに関っている。看護者 として専門教育を受け、長年看護を実践してきた者の務めだと思う(73 歳、既婚)。
≪自分にできることは社会に貢献したい≫
⑥ 60 歳で病院(400 床)の看護師長で定年退職し、退職直後から同系列の老人ホームに 5年間勤務(常勤)した。その老人ホームを退職した 6 ヵ月後から、ホスピスケアの ボランティア活動(週 2 日)を行っている。(68 歳、未婚)
≪老人介護施設での看護職の必要性を実感≫
⑦ 病院(400 床)の看護部長を経て、病院を統括する組織の看護責任者で 60 歳の定年退 職を迎えた。退職して半年後に先輩看護職の依頼があり、特別養護老人ホームの看護 責任者として勤務している。高齢者は合併症も多く、特に夜間の患者の状況判断には、