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骨髄前駆細胞の発生と分化 a) 造血因子改変マウス

腹 腔

2) 骨髄前駆細胞の発生と分化 a) 造血因子改変マウス

表 18 は造血因子遺伝子改変マウスの骨髄前駆細胞や成熟骨髄細胞の異常を整理したも

のである。これら遺伝子改変マウスのうち、マクロファージの発生が障害されるPU.1欠損 マウス 522527)や単球系マクロファージの分化障害のある先天性貧血マウス(sl/sld) 13621366)、 マクロファージの分化異常を起すviable motheaten mice (mev/mev) 1361)などがあり、以下 これらのマウスについでマクロファージの発生、分化異常について解説し、マクロファー ジの発生、分化、成熟過程を検討する。

(1) 先天性貧血マウス(sl/sld マウス)

幹細胞因子(stem cell factor, SCF)はM-CSFやFlt-3リガンドに分子構造が類似し、選択 的スプライシングによって可溶型と膜結合型とが産生され、造血細胞、生殖細胞、色素細 胞の増殖と分化に重要な機能を有するレセプター型チロジンキナーゼ、c-kit (CD117)のリ ガンドである。マウス 10 番染色体の steel(Sl )遺伝子の突然変異マウス(sl/slマウス)1363) はSCFを欠損し、c-kitをコードするW遺伝子の変異マウス(W/Wvマウス)1362)とほぼ同様 に先天的に貧血を発症し、生殖細胞と色素細胞をも欠如し、Haungら(1990)がSl遺伝子、

W遺伝子、c-kitの関係を明確にした1365)。Sl/sldマウスは可溶型SCFを産生するが、膜結 合型SCFを欠如し、同様の病態を発症し、大赤血球性貧血を示し、これらの細胞の分化に は膜結合型SCFが必須である。Shibata & Volkman (1985)はsl/slマウスにおけるマクロ ファージの発生、分化に関して検討を行った1364)。彼らは大赤血球性貧血の発症に加えて、

末梢血中には単球が正常マウスの 10%以下に減少し、Corynebacterium parvum (C.

parvum)の投与によっても骨髄や脾臓では M-CFC の増加は欠如することを明らかにした

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1364)。このように sl/slマウスでは単球の極度の減少と骨髄や脾臓での単球系細胞を含む

M-CFCの欠如が見られるが、無刺激時の腹腔マクロファージの数は正常コンジェニック同

腹対照マウスとほぼ同じで、その発達は正常であった1364)。C. parvum静脈内注射後7日

目にsl/slマウスを検索すると、正常コンジェニック同腹対照マウスとは異なり、腹腔マク

ロファージは有意な増加を示さなかった。しかし、sl/slマウスは正常コンジェニック同腹 対照マウスと同様に多核性白血球の末梢血からの腹腔内への動員が惹起され、腹腔内へ白 血球が浸潤する。さらに、Shibata & Volkman (1985)はsl/slマウスならびに正常コンジェ

ニック同腹対照マウスの脾臓でのプロスタグランジE (prostaglandin E: PGE)産生抑制マ クロファージ(suppressor macrophages)を検索し、sl/slマウスでは脾抑制マクロファージ

はC. parvumによる刺激で正常コンジェニック同腹対照マウスとほぼ同程度誘導されるこ

とを実証した1364)。以上の諸事実からsl/slマウスは膜結合型SCFの産生を障害し、単球 系細胞ならびに単球由来のマクロファージの発生、分化を障害し、極度の単球減少を惹起 し、単球系マクロファージの発生が著しく障害するにも拘わらず、腹腔マクロファージや 脾マクロファージなどの発達は正常であることが判明した(図76参照)。

Shibata & Volkman (1985)によると、脾抑制マクロファージはFc受容体を保有し、旺盛 な貪食能を発揮し、PGE産生能を具備し、コンカナバリンA誘発Tリンパ球増殖を抑制し、

C. parvumの投与によって増加し、このマクロファージは放射線感受性を示す骨髄前駆細

胞に由来することが明らかにされた1364)。彼らは膜型SCF産生欠損を示す sl/slマウスと

89Sr投与マウスとの持続性極度単球減少症を比較、検討すると、sl/slマウスの単球減少状 図 76 先天性貧血sl/sldマウスにおける末梢血単球の極度減少状態と組織

マクロファージの発達に関する模式図

腹腔Mφ*

脾髄Mφ**

(自己再生) 正常に発達

sl/sldマウス 可溶性SCF欠損 先天性貧血、生殖細胞の欠損、

色素細胞の欠如

骨髄 単球産生障害 組織

末梢血 単球減少

(正常マウスの10%以下)

89S 投与

(追加) 末梢血 単球欠如

Mφ: マクロファージ、** 抑制Mφ(suppressor macrophages)

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態は終生持続し、89Sr 投与惹起極度単球減少症マウスよりも長期間の追求が可能で、放射 はM-CFCの低下を起すのに対して、89Sr投与惹起極度単球減少症マウスの脾臓では10~

20倍のM-CFCの増加が惹起される。しかしながら、89Sr投与惹起極度単球減少症マウス

ではsl/slマウスと同様に腹腔マクロファージの発達は正常で、この事実は腹腔マクロファ

ージの自己再生は単球とは無関係であることを示している。さらに、Shibata & Volkman (1985)は「極度単球球減少症惹起マウス」の項(p. 89)で述べた如く、SCF 産生不全を示す sl/slマウスに89Srを投与し、放射線障害で骨髄を破壊し、89S投与sl/slマウスを作製し、

検討した。しかしながら、89S 投与sl/slマウスの末梢血中には単球の完全欠損にも拘わら ず、腹腔マクロファージはコンジェニック同腹マウスとほぼ同程度に発達し、C. parvum の投与によってマクロファージの増加は惹起されなかった1366)。しかし、脾臓でのM-CFC は低値を示し、コンジェニック同腹マウスと同様に脾臓では抑制マクロファージが急激に

減少した1366)。これらの成績から、脾臓では少なくともPGE産生抑制マクロファージ、単

球由来の滲出マクロファージ、マクロファージ前駆細胞(M-CFC)が存在し、骨髄前駆細胞 からマクロファージの分化には多様な経路が推定された1366)

以上述べた如く、sl/sldマウスならびに89Sr投与sl/sldマウスでも単球/マクロファージ系 の示すMPSの分化過程とは異なった単球系細胞の分化段階を経由しない径路での組織マク ロファージの発達が実証されている。

(2) PU. 1欠損マウス

PU. 1は造血幹細胞の骨髄系細胞とB細胞への分化を規定する転写因子で392)、正常の造 血における種々の造血細胞の系列に特異的な多数の遺伝子発現を調節する潜在的能力によ って先天的ないし適応免疫の発達に必要な多面的な能力を発揮する造血細胞に特異的な ETSファミリーの一つである1367)。この因子はM-CSFR(CD115)、GM-CSFRα(CD116)、

CD11b(Mac-1)などを含む多くの骨髄系細胞遺伝子のプロモーターに結合し、とりわけリン パ骨髄造血前駆細胞の増殖や分化を自律的に統制する機能を発揮する 1368)。B 細胞では、

PU. 1は免疫グロブリンλ 2-4とκ 3’エンハンサーとJ鎖プロモーターを調節する。このよ うな造血細胞の系列の発達の他に、この因子は骨髄への造血前駆細胞の帰郷や長期移住を 促す他に末梢血中への動員を起す1369)。PU.1の発現はCD34陽性原始造血細胞、マクロフ ァージ、B細胞、好中球、マスト細胞、早期赤芽球などの造血細胞に限られ、T細胞には起 らない。

Scottら(1994)は標的遺伝子導入によってPU.1遺伝子に突然変異を保有するマウスを作 製したが、その殆どは胎生18 日までに子宮内で死亡する 522)。このPU.1 欠損マウスでは 骨髄巨核球や赤芽球前駆細胞の発達は正常であるが、変異胎仔によっては赤芽球の分化に 障害を惹起する。しかし、この変異胎仔では、B細胞、T細胞、単球や顆粒球などの種々の 造血細胞の産生が欠陥し、この事実からScottら(1994)はPU.1がリンパ系ならびに骨髄系 細胞の発生と分化上多潜能性前駆細胞のレベルで作用する共通の遺伝的機能を有すること

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を説いた522526)。 McKercherら (1996)はPU.1RNA結合ドメインを破壊してPU.1欠損 マウスを作製した523)。このマウスはScottらの作製したPU.1欠損マウスとは異なり、胎 仔によっては生きて生まれるが、そのすべては生後 2 日以内に重篤な敗血症を起して死亡 する。このPU.1欠損マウス新生仔では、成熟したマクロファージ、好中球、B細胞、T細 胞、樹状細胞は欠如しているが、赤血球や骨髄巨核球は発生する。生後直ちに抗生剤の投 与を開始すると、PU.1欠損マウス新生仔は2週間程度生存する。生下時PU.1欠損マウス 新生仔の肝臓、脾臓、胸腺には F4/80 陽性マクロファージは見られず、マクロファージは 欠損する。胎生10日の卵黄嚢や胎生15日の胎仔肝ではF4/80陽性マクロファージは欠如 し、胎生早期の卵黄嚢や肝原基での原始/胎生マクロファージの発生も欠如する。しかしな がら、抗生物質を投与して生命の延長させたPU.1欠損マウスでは、生後8~14日には肝臓、

脾臓、胸腺に少数のF4/80陽性マクロファージが出現した。しかし、骨髄や肝臓のフロー・

サイトメトリーでの検索では、F4/80陽性細胞の出現率は1%以下であった523)。このPU.1 欠損マクロファージは正常成熟マクロファージよりも大型で、肝臓では通常の Kupffer 細 胞とは異なった分布を示した 523)。しかし、PU.1 欠損マウス胎仔や新生仔の肝臓や脾臓の 細胞懸濁液をM-CSFやGM-CSFの存在下で培養してもマクロファージは発生しなかった。

PU.1欠損マウス新生仔では、生下時成熟した好中球は末梢血、骨髄、肝臓、脾臓では検出 されないが、生後 3 日頃から少数ながら成熟好中球が出現し始める。しかし、免疫表現型 上は好中球と骨髄前駆細胞との分化は必ずしも明瞭ではなく、未熟でである。成熟 T 細胞 は生後3~5日頃から出現するが、成熟B細胞は生後2週頃まで検出されない522)。以上の 諸事実から、McKercherら(1996)はPU.1がマクロファージとB細胞の正常な分化に必須 であるが、骨髄系とリンパ系細胞系列との係わり合いには本質的ではなく、生後PU.1欠損 マウスに出現する PU.1 陰性マクロファージは骨髄系細胞からマクロファージへの分化経 路以前に発生すると推定した。

Scottら(1994)やMcKercherら(1996)によって個別に作製されたPU.1欠損マウスでは、

前者が殆ど胎生18日までに子宮内死亡を示し、骨大理石病の発症やマクロファージの発生 の記載はない522526。しかし、McKercherらの作製したPU.1欠損マウスの胎仔は生まれ、

生後直ちに抗生物質を連日投与すると、2週間生存し、骨大理石病の発症527)や胎生期や新 生仔期でのPU.1陰性マクロファージの発生が報告されている523, 554)。このように、Scott らとMcKercherらとが作製したPU.1欠損マウスの間には差異が見られるが、造血細胞に 関する主要な異常は基本的にほぼ同じである。Anderson ら(1998)が McKercher ら(1996) の行った種々の造血増殖因子を加えての造血細胞の培養によるコロニー形成実験をさらに 押し進めた524)。その結果、PU.1 欠損造血細胞は G-CSF、GM-CSF、M-CSFにはまった く反応せず、増殖は起らず、コロニー形成は惹起されない。しかし、IL-3 に対しては反応 してコロニーを形成したが、そのコロニー形成の程度は対照群の正常同腹マウスの造血細 胞に比較して低下した524)。PU.1欠損造血細胞では、対照正常造血細胞に比べて、極めて

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僅かながらG-CSFRとGM-CSFRが発現するが、M-CSFRの発現は欠如する。対照正常細 胞に比べて、 IL-3、IL-6、SCFの存在下で形成されたPU.1欠損マウスの骨髄前駆細胞の コロニーの大きさは小型であった。以上の成績からAndersonら(1998)はPU.1欠損造血前 駆細胞は好中球を産生するが、単球/マクロファージへの分化は明確ではないと結論した524)。 しかし、McKercherら (1996)はPU.1欠損マウスに抗生剤を投与して、延命させると、少

HSC MPC GM-CSF M-CSF 単芽球 前単球 単球 滲出活性化

図 77 マクロファージの分化経路と転写に係わる遺伝子発現

未熟組織活性化

GATA-1, -2 PLZF HOXB3,-B4 SCL c-myc c-myb NF-M C/EBPβ AML1 Jun/Fos PU.1 HOXB7 EGR-1 DIF

IRF-1(ICSBP) NF-Y

STAT3

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