・ 生命の維持
・ 口腔器官の発達、スピーチの前段階→発声に必要な器官の発達を促す
・ 感覚受容(口唇や口腔内感覚、視覚、嗅覚、触覚、脳など)
・ 精神的な安定(欲求の充足)→お腹がすくといらいらする
・ 社会性を養う(対人関係、文化の共有など)
→食事の場を通してのコミュニケーション
2.食べるプロセス
・ ポジショニング(食べやすい姿勢)
・ 口に入るまで
見る→形態の把握 しっかり子どもに食べる物をみせること 形態に応じて口を開く
食べ物を迎えに行く(やや前傾姿勢)(舌は後ろにある)(上唇で取り込む)
・ 口に入ってから噛み切るまで
口唇は、食べ物がこぼれないように閉じる 舌は、食べ物が入ってきたら動く
下顎も同様に動く
・ 噛み切った後
こぼれないように口唇は閉じる
舌と頬で食べ物を歯の上に置いた状態をつくる
・ 口の中での移動
口唇は、こぼれないように閉じている
舌は、食塊をつくるように動く。舌先でいろいろなところに動かす 下顎は、上下・左右に動く
・ 嚥下(飲み込み)
ある程度の食塊があって初めて嚥下(飲み込み)反応が起こる 食べ物を口の中で咀嚼して唾液と混ぜて飲み込みやすい固まりにする 嚥下は、反射運動(誤嚥の問題)
3.食事援助のポイント
まず、子どもの障がい像を理解した上で適切な介助を行うこと
*安全に(誤嚥、けが等させないように)
*豊かな食事経験(味、香り、見た目、雰囲気など)
*食形態…口腔運動機能をより発達させるための食事内容
(1) 食事前の配慮点
・
十分に排痰をしておく…吸入、吸引、うつぶせ姿勢など・ 健康把握、生活リズムを整える
(2) 食事時の配慮点
① 姿勢(誤嚥させないように)
・肩、腹部、膝などを曲げた屈曲姿勢で緊張を緩める。
・頭部は体幹に対してまっすぐかやや前傾。
・日常的に、背臥位姿勢の子どもの場合も、体幹を床面から 45°くらいまで起こすと 自分の力で嚥下をするようになる。急激に 45°まで起こすのではなく、10°~15°
くらいから徐々に慣らしていって 45°くらいまでになるように介助する。
正しい介助 不適切な介助
(身体が反り、顎があがっている)
②顔色や飲み込み方、SPO2 値の変化をみる。
③口唇周囲への介助(オーラルコントロール)
オーラルコントロール
口の筋肉の調整がうまくできないために、うまく食物や液体を取り込めないときに、介助者が 補助的に口のまわりや顎をコントロールして食事動作を改善すること。
側方からの介助の場合 前からの介助の場合
④食べさせ方
・スプーンで口の中に入れるときは舌の先端部分に食べ物をおくのが基本。
・一口の量は入れすぎない。
子どもの飲み込みを確認する。口の中に食物がなくても喉でたまっていることがある。
・食事時間 だいたい1時間以内。
・声かけ、楽しい雰囲気、コミュニケーションの場。
(3) 食形態 (固さ・大きさ・とろみ)
摂食・嚥下機能の発達を促すためにはその子どもの機能にあった食形態が大切。
①初期食…粒のないペースト状。プレーンヨーグルトくらい。口を閉じて飲み 込む練習段階の形態。
②中期食…舌で押しつぶせる固さ。絹ごし豆腐ぐらい。食べ物を口の中で飲み 込みやすくまとめる練習段階の形態。
③後期食…歯茎でつぶせる固さ。缶詰の白桃ぐらい。噛む練習段階の形態。
※ 水分はさらさらですぐに喉に到達するため誤嚥しやすい。むせやすい時は、とろみをつけて 飲み込みやすくする。
(4) 環境設定
①自助具…食べやすくするための工夫(上肢の章参照)
②テーブルセッティング
③楽しい雰囲気
(5) 誤嚥したとき
誤嚥しやすい子どもについては、緊急時の対応を考えておく。
・まず、人を呼ぶ
・ 気道内異物除去・・・・カッピング法、 ハイムリッヒ法
カッピング法
背
前
カッピング法
手のひらをカップのようにして、
ポイントを定めて、胸をゆっくり叩く。
(ポンと音が出るような叩き方)
胸
ハイムリッヒ法
大きな食塊で窒息したときに行う。
対象者の背後にまわり、手で握りこぶし を作り、その上に他方の手をのせるよう にして抱える。腹部を押し上げて、気道 をふさいでいる異物を取り除く。
資料
本校の新転任対象の摂食指導やコミュニケーション指導の研修会で取り組んでいるもの。実際に子 どもの食べ方を疑似体験したり、コミュニケーションでのやりとりを意識して行う経験を通して、摂 食指導やコミュニケーション指導の大切さやポイントを学ぶことを行っている。
いろいろな食べ方を経験しましょう
<1>天井を見て食べる
顎が上がった状態で食べると食べにくいことに気づく。(ポジショニング)
<2>口唇を閉じずに咀嚼して、飲み込む ①舌を使わずに咀嚼する。
②舌の前後の動きだけで咀嚼する。
食物が口に入ってから飲み込む過程で、口唇を閉じることや、舌の動きが必要なことに 気づく。(オーラルコントロール)
※普段どおりに食べてみましょう。
<3>お茶を飲む
① 口唇を閉じずに飲む。
② 呼吸を止めずに飲む。
③ とろみのあるヨーグルトを飲む。
水分は食道を通るスピードが速いこと、とろみをつけるとゆっくり飲み込めることに気 づく。
<4>ペアになって一人は目隠しをして食べさせる
① 食べさせる人は、黙って食べさせる。
② 言葉かけをしながら食べさせる。
食べさせるとき、相手に伝えることにより、相手も食べる準備をすることに気づく。
コミュニケーションを経験してみましょう
[1]二人一組になって コミュニケーションをしてみましょう 質問をする人、答える人を決め、交代してやってみましょう。
質問する人に、お題を見せますので、2分間、聞いてみましょう。
そして答えを発表してください。
(1)答える人は、目を閉じて、手足も口も頭も動かさずに答えてください 質問の例
a: 朝、何を食べてきたの?
b: 昨日、何をしたの?
(2)答える人は、目を開けて、口も頭もても(指先は可)動かさずに答えてください 質問の例
a: 好きな食べ物は?
b: 好きな飲み物は?
(3)答える人は、「あー」と声を出して答えてください 質問の例
a: 好きな歌手の名前は?
b: 好きなTV番組は?
(4)筆談をして下さい
(5)普通に会話をして下さい
[2]答えがわかるためには・・・
質問する人、答える人の感想を言ってもらいましょう。
[3]コミュニケーションに際して
・ ことばを聞いてイメージできるか?
・ 表現手段は?
<参考図書>
・池添 素 『笑顔で向き合う子育て』
・竹田契一 里見恵子 『インリアルアプローチ』
・宮崎美和子、高橋利弘著『今日から VOCA でコミュニケーション2007』 こころ工房
・坂口しおり 『障害の重い子どものコミュニケーション評価と目標設定』 ジアース教育新社
・中邑 賢龍編
『コミュニケーションへの小さなヒント~シンボルと VOCA のコミュニケーション~』 こころリ ーソスブック出版会 1997 年
・Pacific Supply 総合カタログ 2005 夏
・梶浦 一郎、鈴木恒彦 訳『脳性まひ児の家庭療育』医歯薬出版
・中島知夏子著 『摂食コミュニケーション』 sakuta 2004 年
・向井美恵編『食べる機能をうながす食事』 医歯薬出版
・金子芳洋編『食べる機能の障害~その考え方とリハビリテーション~』 医歯薬出版 1987 年
・高橋長雄監修・解説『からだの地図帳』 講談社 19891 年
・日本小児神経学会社会活動委員会 『医療的ケア 研修テキスト』
クリエイツかもがわ 2006 年
・日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会『義肢装具のチェックポイント』医学書院 1993 年
Ⅵ.二次障がいを防ぐために
1.はじめに
年齢が高くなるについて身体が動きにくくなる。できていたことができなくなる。関節などに痛みを 訴えるなど、子ども達の身体に変化が生じてくる。これらの身体の変化は主な原因として、筋肉の緊張 亢進・骨格や関節の変形・拘縮・湾曲・脱臼・老化、体重の増加などがあげられる。二次性徴とも密接 な関係がある。全国肢体不自由児研究協議会では幼尐年期の日常生活に大きく起因しているとみている。
後退した現象は全て、二次障がいとして捉えてはどうか、という意見もある。いずれにせよ上記で述べ た現象全てが脳性まひという、基本的な運動障がいに関連していることはいうまでもない。しかし、こ れらの現象は脳性まひにとっては宿命的な事項で、避けて通ることのできない問題なのだろうか。以上 の原因がどうして起こるのか。また、防ぐ手だてはないかなどを考えてみたいと思う。
2.あらためて脳性まひとは
本題に入る前に二次障がいをより理解するために、脳性まひの特徴を尐し述べてみたい。一般的な脳 性まひの定義では「脳の損傷による運動障がいをいう」となっている。この定義が脳性まひを語るには不 十分であることは周知のことであるが、ここで押さえておきたいのは運動障がいがあるという点である。
もっと厳密にいえば正しい運動を獲得しにくい状態にあるということである。つまり、身体に不必要な 異常姿勢反射がいつまでも残っていたり、その反面、正しい姿勢反射がなかなか現れなかったり、伸展 筋や屈曲筋のバランスが悪かったりする。この一次障がいが本題の二次障がいと大きい関係があるわけ である。また、日常生活(環境)にも十分注目してほしいところである。
3.二次障がいとは
二次障がいとは、先に述べたように、筋の緊張亢進や骨格及び関節の変形や拘縮などを指す。脳性ま ひの基本的な障がいである、運動障がい、一次障がいを放置しておけば、脳の損傷自体は進行しなくと も、身体に現れ、動かし方や姿勢などが更に変化を生じる。これが障がいの進行であり、二次障がいと いうものである。もっと端的に言えば、同じような運動障がい、まひがあっても、小学部の児童と高等 部の生徒では、高等部の生徒に変形や拘縮がより多くみられる。このことは二次障がいの原因が基本的 には、脳性まひという運動障がいに起因しているということは事実だとしても、成長過程において発生 してくることが理解できるであろう。障がいの進行、変化をそこから実感できるが、一様に進行してい るわけではなく、そこには差異が見られる。これは基本的疾患の度合いによるものであることは確かで あるが、それだけでは解釈しにくく、今までにあげた各種要因があり、それらを尐しでも改善すること 等により新しい機能・能力を獲得すると共に、二次障がいを尐しでも防げるのではないだろうか。日常 の「訓練」や日常生活の仕方により二次障がいの進行変化は、軽減できる部分もあると思われる。