各種サービス利用時の顧客感動に関する調査的面接
6-1. はじめに
顧客感動に関する口コミデータの内容分析からは 、感動に関わる具体的な要素が接客、
店の環境、施設の環境、自然の環境、仕上がり、コストなどであり、これらの要素が楽し い、嬉しいなどといったポジティブ感情、および今までに経験したことのない意外な体験 であるという理解や判断を生じさせることが示唆された。したがってこれらを総合的に判 断すると、「ポジティブ感情」と「意外性の認知」によって顧客感動が喚起されるのではない かと判断された。しかし収集したのは顧客感動体験が含まれる可能性のある口コミデータ であったため、次に顧客感動に関わる直接体験を聞く目的で調査的面接を行い 、顧客感動 の喚起要因、顧客満足と顧客感動の相違の探索を行った。そのた めにサイトでのデータ収 集の業態に限定せず、各種サービスを利用した顧客を対象とし、35件の面接データを収録 した。
6-2. 調査的面接とその方法
6-2-1. 面接時期および面接協力者
本面接のデータは調査的面接法を用い、2013年 5月末から8月末までの3ヶ月と2013 年 10月から12月までの2ヶ月の間に収集された。面接協力者は各種サービスを利用した 時に感動を体験した顧客であり、面接データの入手可能性および面接協力者への精神的負 担から、親近の中国人と日本人の 35名であった。第6-1表は面接協力者の性・年代・国籍 の要約したものである。
6-2-2. 手続き
研究趣旨と面接概略を十分説明した上で、面接協力者に協力の依頼をした。大学の研究
81 室を面接場所に設定し、1 対 1で半構造化面接を実施した。各種サービスを利用した時 、 どのようなことに感動したかに関する内容を中心として 、顧客感動が喚起される要因、お よび感動が生み出したその後の変化などを語ってもらった。また面接に関しては 、面接協 力者の同意を得て会話を録音した。一人あたりの面接時間は平均 30分であった。
6-2-3. 分析方法
分析視点の整理のための予備的面接において 、まず3名の録音記録から忠実な逐語録を 作成した。そして感動した内容を一文ごとに分析し 、さまざまな感動のカテゴリーを作成 し、さらに各カテゴリーを統合するような新しいカテゴリーを模索した。ここで得られた 下位・上位カテゴリーを仮の枠組みとして、さらに 20名の新規データを追加し、同様のや り方で分析した。
6-3. 面接結果と考察
感動に関する発言内容を分析した結果、最終的には第6-2 表に示すような下位カテゴリ ー(安心、楽しさ、予想外、驚き、など)を抽出した。そしてそれらの下位カテゴリーから 、 インターネット上での 口コミデータの内容分析と同様の上位カテゴリー 、すなわち「ポジ ティブ感情」と「意外性の認知」を抽出した。顧客感動に関するこれらのカテゴリーと具体 的な発言例を第 6-2表に示す。
6-3-1. 顧客感動の規定要因
(1) 「ポジティブ感情」について
第1の上位カテゴリーは、「ポジティブ感情」と命名された。各種サービスを利用した時 に体験された「ポジティブ感情」は、「安心」「楽しさ」「嬉しさ」などといった下位カテゴリー で構成された(出現頻度率は「安心」で 24%、「楽しさ」で 14%、「嬉しさ」で 12%、それ以外
は 9%以下)。本面接における「ポジティブ感情」のこれらの下位カテゴリーは 、フレデリク
ソン(2009)による 10 種類のポジティブ感情を参考にして命名された。また本面接データ の分析からポジティブ感情の強弱によって感動体験が異なると考えられ 、その強弱を判断 する基準は以下のものであった。
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① 「程度を表す副詞」+「形容詞・形容動詞・動詞」
「とても」「非常に」「大変」あるいは「かなり」などの程度を表す副詞とポジティブ感情を 表す形容詞・形容動詞・動詞が出現する場合、ポジティブ感情が強いと判断する。例えば、
「とても安心だ」「大変嬉しい」などはポジティブ感情が強いと判断され 、それに対して「ち ょっと」「少し」「少々」などの程度を表す副詞とポジティブ感情を表す形容詞・形容動詞・動 詞が出現する場合、例えば、「ちょっと納得した」「少し安心だ」などはポジティブ感情が弱 いと判断する。
② 「副詞なし」+「形容詞・形容動詞・動詞」
副詞がない場合で、ポジティブ感情を表す形容詞・形容動詞・動詞が出現する場合 、ポ ジティブ感情は弱いと判断する。例えば、「希望だ」「感謝した」などである。
③ 「形容詞・形容動詞・動詞」+「強調語」
ポジティブ感情を表す形容詞・形容動詞・動詞があり、さらにその後に強調語が出現す る場合、例えば「嬉しくなるじゃないですか」など、自分が嬉しいと感じ、さらに聞く相手 に自分の嬉しいという感情に共感を求めるような場合、ポジティブ感情が強いと判断する。
(2) 「意外性の認知」について
第2の上位カテゴリーは、「意外性の認知」と命名された。「意外性の認知」は、「予想外」
「驚き」「幸運」などの下位カテゴリーで構成された(出現頻度率は「予想外」で 33%、「驚き」
で 30%、「幸運」で 11%、それ以外は 10%以下)。また「意外性の認知」の大小によって感動
体験が異なると考えられ、その大小を判断する基準は以下のものであった。
① 「程度を表す副詞または副詞なし」+「形容詞・形容動詞・動詞」
「と て も」「非 常に 」「大 変 」あ る い は「か な り」な ど の 程度 を 表 す 副詞 と 意 外 性の 認 知 を表 す形容詞・形容動詞・動詞が出現する場合、例えば、「とても予想外だ」などは意外性の認 知が大きいと判断する。また「意外性の認知」に関しては、副詞がなくても、意外性の認知 が大きいと判断する。その理由は、言葉そのものに意外性の高さが含蓄されていると考え られたからである。例えば、「驚いた」「不思議だ」などである。それに対して「ちょっと」「少 し」「少々」などの程度を表す副詞と意外性の認知を表す形容詞・形容動詞・動詞が出現する 場合、例えば、「ちょっと驚いた」などは意外性の認知が小さいと判断する。
② 「感嘆詞」+「前後文脈の意味」
83 感嘆詞が出現する場合、意外性の認知ありと判断し、その大小は前後文脈の意味で判断 する。例えば、「えっ~ここまでしてくれるの」は意外性の認知が大きいと判断する。
③ 「形容詞・形容動詞・動詞」+「強調語」
聞く相手に共感を求めるような場合、意外性の認知が大きいと判断する。例えば、「びっ くりするじゃないですか」などである。
④ 「文脈の意味」
発言内容における文脈の意味から、意外性の認知の大小を判断する。例えば、主要目的 に付随して思いがけなく体験した事柄の記述などについては 、意外性の認知は小さいと判 断する。反対に 「そのようなこと友達でもできないのに、その店員さんはやってくれまし た」というように、発言の前半には否定動詞がありながら発言の後半にはそれを打ち消す ような肯定動詞がある場合、意外性の認知は大きいと判断する。
6-3-2. 顧客感動の類型
顧客感動はポジティブ感情であり、顧客満足を超えた高いレベルの顧客満足であるとす る先行研究がある。しかし本研究の結果から、顧客感動は「ポジティブ感情」と「意外性の認 知」によって定義されることが示唆された。またこれらの 2 軸とそれぞれの強弱や大小に よって顧客感動に相違がもたらされることも推察でき、結果として、次のように命名した 異なるタイプの顧客感動が分類できた(第 6-3 表)。これら 4 タイプの顧客感動に関して、
以 下 に 紹 介 す る 発 言 事 例 で は 、 ポ ジ テ ィ ブ 感 情 が 弱 い と 判 断 さ れ る 箇 所 に は 一 重 下 線
( )、ポジティブ感情が強いと判断される箇所には二重下線( )を引く。また意外性の
認知が小さいと判断される箇所には普通傍点(000000......
)、意外性の認知が大きいと判断され る箇所には強調傍点(000000、、、、、、
)を付けて表す。
(1)「顧客感動 A型」
ポジティブ感情が弱く、意外性の認知も小さい場合、体験される感動を「顧客感動A型」
(すなわち“ささやかな感動”)と命名する。例えば、面接における以下のような発言がそれで あった。
「係員は「黒崎..
(日本のアニメ主人公.........
)」の写真を見せてくれ.........
、その写真を見せなが.........
84 ら.
、どのような雰囲気で演じればうまく................
「黒崎..
」に変身できるのかを教えてくれた...............
。 これにはちょっとびっくりした..............
。そして最初から最後まで、笑いながら接してく れたので、気持ちよかった。私が知らない人とうまく会話できないことに気付き.......................
、 余計な話をしないようにしてくれたので、安心して利用できた。」(Tさん/男性/20 代/中国/会社員)
これはコスプレを利用した時の感動体験である。T さんが衣装を試着した時、係員の対 応によって、気持ちよく、安心感を得ている。またコスプレのコツも教えてくれたことに 対してある程度意外だと感じている。
インターネット上の書き込みにも、このような顧客感動事例が多くあった。例えば 、次 のような記述である。
「初めて痩身エステサロンに行ったので、緊張したが、店員さんが丁寧に説明し てくれたので、私は安心して施術を受けられた。またおまけに....
、ダイエット情報.......
もいろいろ聞けて勉強になり.............
、嬉しい。」(Kさん/女性/20代/日本/会社員)
「住宅地のど真ん中で近くにはホテル街という微妙に不思議......
な立地だと思っ た。高台なので眺望は素晴らしい。周りの家並みも元は米軍住宅だったりするの....................
か異国情緒が漂っていて...........
、歩いてみると楽しい。」(Rさん/男性/20代/日本/会社 員)
「部屋に入ると、まずは抹茶を立ててくれるサービスに、庶民の私はびっくり....
した..
。宴会があったが、あまりお酒を飲めない私が、「そろそろご飯がほしいな...........
ぁ.
」と思ったタイミングで..........
、すっと仲居さんが........
、さりげなくほかほかご飯とあつ..............
あつおつゆを運んできてくれたことに.................
、驚いて...
感激した。100...
名を超える宴席で........
さえもこのサービス.........
・・・さ. すが..
」(Qさん/男性/40代/日本/会社員)
(2)「顧客感動 B型」
ポジティブ感情が強く、意外性の認知が小さい場合、体験される感動を「顧客感動 B 型」(すなわち“喜びの感動”)と命名する。例えば、面接における以下のような発言がそれ