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韓国の政府調達にかかる問題点と不服申し立て制度

ドキュメント内 2005年1月12日・午後2時 (ページ 98-169)

ジェトロ  国際経済研究課  牧野  直史

現在 WTO 政府調達協定加入国は 38 国にすぎないが、韓国は数少ない加入国の一つである。

1997年の加入以来、基本的に韓国の政府調達制度はWTO政府調達協定に整合するよう整備され、

また運用されているといえるが、以下にみるように問題がないわけではない。電子入札・登録制 度など、韓国はユーザーに親和的な制度の導入にいち早く着工しているが、それを評価しつつも、

WTO政府調達協定上問題のあると考えられる点については主張していく必要がある。本章では、

2005年3月に実施した現地ヒアリング調査をもとに、韓国の政府調達市場、政府調達制度の概要、

韓国の政府調達とWTO政府調達協定との整合性、及び不服申し立て制度について検討した。

1.政府調達に関する法制度

  韓国の政府調達に関する基本法としては、国家を当事者とする契約に関する法律が 1995 年に 制定された1。同法は韓国がウルグアイ・ラウンドでの政府調達協定加入に備え、予算会計法に規 定していた契約に関する諸規定を分離・独立させたものである2。さらに、同法の実施規則として 国家を当事者とする契約に関する法律施行令3が制定された。国家を当事者とする契約に関する法

律第4条では、WTO政府調達協定に基づき外資企業にも公開される国際入札について規定したが、

同条は一般規定に過ぎないため、WTO政府調達協定の対象となる国際入札について、どのような 規則が適用されるのか明らかにする必要があった。そこで、韓国は政府調達協定加入に当たって 2年の猶予を与えられたため(同協定24 条3(a))、1997年1月1日に、この規程を見直す形で WTO政府調達協定の適用対象である国際入札に関する細則を定めた「特定調達のための国家を当 事者とする契約に関する法律施行令特例規程」を制定・公布した4

なお、地方自治体については、国家を当事者とする契約に関する法律の制定と同時に、地方財 政法も改正され、地方自治体を当事者とする契約についても国家を当事者とする契約に関する法 律、同法施行令及び上記特例規程を準用することと定められた。政府出資機関に適用される政府 投資機関管理基本法も改正され、これらの規定を準用することとされた。

  この他に、韓国は中小企業製品購買促進法に基づく調達、糧穀管理法、農水産物流通及び価格 安定に関する法律ならびに畜産法に基づく農水畜産物の購買については WTO 政府調達協定の適 用除外とすることとしている(資料の韓国付表注を参照)。

2.韓国政府調達市場の概要(政府調達の実施状況)

韓国は一定の額を超える政府調達については、調達庁が一元的に管理する方式を採用している。

政府機関、地方自治体の実施する調達のうち、調達庁が調達を行うことが義務づけられている調

1 199515日、法律第4868号。

2 申三澈『WTO時代の政府調達  新調達協定と主要国の動き』ジェトロ(1997)、p.119.

3 199576日、大統領令第14710号。

4 199711日、大統領令第15187号。

達については、図1の通り。地方自治の流れ、また分散調達制度の方が地方企業にとって有利で あるなどの理由により、調達庁を通じた集中調達の義務範囲は近年縮小される傾向にある5。また、

政府あるいは地方自治体が出資した企業については、調達を調達庁に委ねるかどうかは当該機関 が決定する。2003年は、調達庁は中央政府機関から約9.3兆ウォン、地方自治体約8.7兆ウォン など総額約 24.3兆ウォンの調達を行っている(表2参照)。関係者によれば、韓国の政府調達全

体の約30%が調達庁によって行われているというから、全体では韓国の政府調達市場はおおよそ

80兆ウォン規模にのぼることになる6

  韓国のWTO政府調達協定の適用基準額は表3の通り。なお、韓国−チリFTAでは、中央政府 機関による物品・サービスの調達についてのみ、基準額を5万SDRに引き下げている。この点、

韓国は政府調達協定で加入国に対して最恵国待遇を付与する義務を負い、政府調達協定は自由貿 易協定に基づく例外規定を設けていないため、規定上少なくとも WTO 政府調達協定加入国に対 しては、チリと同等の待遇を与えなければならないと考えられる。

韓国がWTOに通報した2002年の統計によれば、WTO政府調達協定の適用対象機関による、同 協定適用対象調達の金額は、中央政府機関によるもの約 12.6 兆ウォン、地方自治体によるもの 2.7兆ウォン、政府出資機関によるもの4.0兆ウォンの計19.2兆ウォンとなっている(表4参照)

7。表5は物品調達のみに関する原産国の内訳であるが、韓国産が94%を占め、米国をはじめ、諸 外国による調達はいまだそれほどの実績を上げていない。ただし、これは 2002 年の統計である ため、韓国は 2002年以来徐々に電子調達(http://www.g2b.go.kr/)を本格的に導入しつつあり、

それ以降に若干の改善が見られる可能性はある。しかし、ヒアリング調査によれば、電子調達制 度導入後国内企業の登録は飛躍的に増大したが、外国企業の登録はほとんど延びておらず、また 受注も伸びていないという。物品については、コピー機、カムコーダなどの電気製品、IT製品な どを中心に外資企業による参入が見られるものの、建設サービスに至っては、これまでに外国企 業が受注した例はない。

韓国の政府調達の実行に関しては、3に見るようにWTO政府調達協定上の問題がある他に、外 国企業の参入を困難にしているさまざまな要因が考えられる。例えば、建設サービスについては 下請けなど関係企業との協力関係が必要となってくるものの、下請けとの協力関係を築く上では 外国企業よりも韓国企業の方が有利である。価格競争力についても、韓国企業は継続的な受注に より下請けとの良好な関係を築いているため、下請けとの価格交渉に際しても融通を利かせるこ とができ、結果的に入札時の競争力は韓国国内では外国企業よりも高くなる。また、韓国の法制 度は他の国に比べて複雑であるといわれ、韓国独自の法制度を外国企業が理解することは困難で

5 李相昊・ハンミパーソンズ(周藤利一訳)『当面する課題と未来への挑戦  韓国建設産業大解剖』建設経済研究 所(2005, p.177.

6 なお、20049月に実施されたWTOの貿易政策検討制度のもとでの韓国の報告書によれば、韓国の政府調達額 GDPの約12%を占めるという(2003年の名目GDP総額は約721兆ウォン)Trade Policy Review, Republic of Korea, Report by the Secretariat, WT/TPR/S/137, 18 August 2004, p.63.

7 現地調査では、WTO政府調達協定に関わる最新の統計は入手できなかった。財政経済部によれば現在通報文書 を作成中とのこと。

あることも参入を難しくしている要因であるといわれる8。また、外国企業にとって言語面での困 難も存在すると考えられるが、2004年9月に開催されたWTO貿易政策検討制度の韓国に関する 会合で、ニュージーランドが韓国に対して外国による受注の少ない理由、及びこれを改善するた めの計画について質問をしたところ、韓国は外国企業に対して差別的な慣行は行っておらず、ま た現在政府調達資料の英語版の作成、韓国電子調達システム(GePS)の英語版を充実させている ところである、と回答しており9、この点については今後のさらなる充実が期待される。

8 20053月ジェトロ実施、ヒアリング調査による。この他に、建設サービスに限っては、免許登録の際に、企

業は資本金の0.2%の債券を購入する義務を負うが、外国企業についても本社で換算されるため、負担が大きいと の声がある。さらに、購入資金が営業資金とみなされるのか、債券投資とみなされるのか不明であり、営業資金 とみなされた場合は、償還後も本国への再送金は認められないため、外資企業にとって投資を躊躇させる要因と なっている。この点に関連して、営業資金の送金規制に関して、取引先の支払いについて後払いなどが増えてき た場合に本社から一時的に資金援助を受ける必要があるが、これを先方からの支払い後再送金できないとなると 韓国内投資に回さざるを得ず、この点も外資企業にとって負担となっているとの指摘がある。また、入札資格に 関して技術開発費が考慮されるが、技術開発費と認められるためには韓国会計士の認定が必要となり、会計士を 本社に行かせるか、膨大な書類を提出しなければならず、負担となっている。

9 WTO, Trade Policy Rebiew, Republic of Korea, Minutes of Meeting, Addendum, WT/TPR/M/137/Add.1, p.72.

ドキュメント内 2005年1月12日・午後2時 (ページ 98-169)

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