第 3 章 力学系およびその平衡点・不動点の安定性 19
3.4 非線形系の安定性
非線形系の平衡点・不動点の安定性については、線形化方程式を導いて判定する方法がある。そ の証明は参考文献に譲り(例えば[16])、ここでは結果のみを記す。
連続力学系(3.1) の右辺f(x)のx∗ におけるヤコビ行列 ∂f
∂x
x=x∗
を A∗ と置き、線形化方 程式
d
dty=A∗y (3.3)
を考える。このとき、
1. 線形系(3.3)の平衡点y∗=0 が漸近安定であれば、非線形系(3.1)の平衡点x∗も漸近安定 である。
2. 線形系(3.3) の平衡点y∗ が不安定であれば、非線形系(3.1)の平衡点x∗も不安定である。
線形系(3.3 )が安定であっても、行列A∗ の固有値λで Re(λ) = 0
となるものがある場合には、非線形系(3.1)のx∗の安定性については何も言えない。これを判定 するためには高次の解析が必要で、一般にはかなり難しい。行列A∗の固有値の実部が正または負 であって0 のものがないとき、対応する非線形系の平衡点x∗は双曲的であると言い、x∗を双曲 型平衡点と呼ぶ。また、双曲型のうち、固有値実部が正のものと負のものを共に持つ場合を、鞍点
(saddle)と呼ぶ。
非線形の離散系力学系についてもほぼ同様のことが言える。すなわち、線形化作用素による力 学系
yk+1=A∗yk (3.4)
を考える。このとき、
1. 線形系(3.4)の平衡点y∗=0 が漸近安定であれば、非線形系(3.2)の平衡点x∗も漸近安定 である。
2. 線形系(3.4 )の平衡点y∗が不安定であれば、非線形系(3.2)の平衡点x∗も不安定である。
線形系(3.4)が安定であっても、行列A∗ の固有値λで
|λ|= 1
となるものがある場合には、非線形系(3.2)のx∗の安定性については何も言えない。
行列A∗の固有値の絶対値が1 のものがないとき、対応する非線形系の不動点点x∗は双曲的で あると言い、x∗を双曲型不動点と呼ぶ。また、双曲型のうち、固有値絶対値が1 より大きいもの と小さいものを共に持つ場合を、鞍点(saddle)と呼ぶ。
平衡点・不動点の双曲性の仮定は、特にLyapunov関数の構成で重要となる。
以上に関連して、吸引域および不変集合について述べておく。
連続系:x∗ が漸近安定であるとき、x∗ を含む開領域Dがあって、任意のx∈Dに対して
tlim→∞∥φ(t,x)−x∗∥= 0
となる。これを満たすすべてのD の和集合をx∗ の吸引域と呼ぶ。
離散系:x∗ が漸近安定であるとき、x∗ を含む開領域Dがあって、任意のx0∈Dに対して
nlim→∞∥xn−x∗∥= 0
となる。これを満たすすべてのD の和集合をx∗ の吸引域と呼ぶ。
不変集合は、平衡点・不動点とは独立な概念である。
連続系: 集合M ⊂Rn の任意のxに対して
φ(t,x)∈M, ∀t >0 となるとき、M をこの連続力学系の正不変集合と呼び、さらに
φ(t,x)∈M, −∞< t <∞ となるとき、不変集合と呼ぶ。
離散系: 集合M ⊂Rn の任意のx0に対して
xn ∈M, ∀n >0
となるとき、M をこの離散力学系の正不変集合と呼び、さらに xn∈M, ∀n∈Z
となるとき、不変集合と呼ぶ。
第 II 部
周期解
第II部では、周期解の存在証明と存在範囲の検証、および周期解近傍での解の挙動の解析を精 度保証によって行う手法を述べる。
周期解とは自励系常微分方程式 du
dt =f(u), 0< t <∞, (4.1) u∈Rn, f ∈ {Cp}n
の解であって、任意の実数t に対しu(t+T) =u(t) となる実数 T が存在するものを言う。この とき実数T を周期という。
ここでは、limit cycleと呼ばれる孤立した周期解のみを対象とする。これは、その周期軌道の近 傍として他の周期軌道を含まないものが取れる場合を指す。周期軌道上の一点をu0と置き、周期 解を
u∗(t) =φ(t,u0), などと表す。また、その周期をT∗ と置く。
第 4 章 周期解の存在検証
まず、周期解の存在を精度保証で行う方法を記述する。既存の方法は、
1. Poincar´e写像を構成する方法 2. 二点境界値問題として扱う方法
の二つに大別される。この章ではこれらについて概観した上で、著者らの開発した手法[1] につ いて説明する。この手法は Poincar´e 写像を陽に用いないが、Poincar´e 断面に相当する超平面 を設定した上で、そこへの正射影を利用している。貝ヶ石・松尾らは、二点境界値問題に特定 の位相条件を付加することで、筆者らの手法が方法2.に属するものであることを示し、さらに Newton-Raphson-Mees 法[26]と密接な関連があることを述べている[43]。以下では貝ヶ石らに 倣って、筆者らの手法を「樋脇・山本の方法」と呼ぶことにする。
4.1 Poincar´ e 写像を構成する方法
この方法は[40]に示されているもので、周期軌道をある写像の不動点として捉え、その存在を検 証する。その結果として、この写像がPoincar´e 写像となることを示す。
n−1次元平面Γ⊂Rn に対し、集合W ⊂Γおよび閉区間[T] =[ T , T]
⊂R, T >0 として
∀w∈W, ∃Tw ∈[T], φ(Tw,w)∈Γ
を満たすものが存在すると仮定する。このとき、
T(w) = min{Tw ∈[T]|φ(Tw,w)∈Γ} と定め、写像P :W →Γ を
P(w) =φ(T(w),w), w∈W
によって与える。以下ではこれを P 写像と名付け、超平面 Γ を P の横断面、時刻 T(w) を w∈W のfirst return time と呼ぶことにする。
精度保証付き数値計算でP写像を扱う場合には、適切なΓ を設定し、ある集合W ⊂Γ および 閉区間[T]⊂R+ について、上記の仮定の成立を軌道積分に関する精度保証計算などを用いて確認 する。論理の妥当性の確認を数値計算と同時に行うことも、精度保証法の特徴の一つであることに 注意されたい。
周期解の存在を精度保証で検証するためには、
P(u0) =u0
となるu0∈W の存在検証を行えばよい。
実際の検証方法は、P(w)−w =0 に対し区間 Newton 法あるいは Krawczyk 法を適用する。
このとき、T(w) の w に関する微分が必要となるが、これは後述する横断条件のもとで陰関数定 理から導くことができる。一方で、T(w) の値を精度保証法で算定するためには、これを含む時間 区間 [T(w)] =[
Tw, Tw
] を決定する必要がある。これには後述の貫通条件を用いる。[40] ではさ らに二分法を適用して精度を上げる方法を取っている。本手法の詳細については [40]および吸引 域に関する5.1節を参照されたい。
P写像が W に不動点を持ち、かつ T(w) が W の内点の集合W˚ において微分可能であること が示されれば、P写像は W˚ 上の Poincar´e 写像となる。これについては第5章で詳細を述べる。
ここではPoincar´e 写像の定義を[32]に従って以下に示しておく。
定義 2 (Poincar´e写像)
一般に、u∗(t)を周期T の周期解とし、u0をその軌道上の一点とする。単位ベクトルnΓ∈Rn を nTΓf(u0)̸= 0
を満たすものに取り、nΓ を法線ベクトルとしu0 を通る超平面をΓ とする。さらに、以下を満た す開集合W˚ ⊂Γ の存在を仮定する。
• u0∈W˚.
• 任意の w∈W˚ に対し時刻T(w)>0 が存在して φ(T(w),w)∈Γ となる。特に、T(u0) =T である。
• T(w) は W˚ 上で微分可能である。
このとき、
P(w) =φ(T(w),w), w∈W˚
によって定まる写像P : ˚W →Γを Poincar´e 写像と言い、Γをその断面または横断面と言う。