第 3 章 安定性を考慮した多変数制御器設計法 15
4.1 非最小位相システムに対する NCbT
第 4 章 非最小位相システムに対する制 御器設計法
本章では,2.3.4項で述べたNCbTの評価関数に対して,参照モデルの零点をフリー パラメータとすることで,参照モデルに制御対象の不安定零点が反映され,NCbTが 非最小位相システムに適用可能なモデルフリー制御器設計法へ拡張されることを示す。
さらに,提案手法を非最小位相システムのシュミレーションモデルに適用し,文献[11]
の手法と比較することで有効性を検証する。
第 4章 非最小位相システムに対する制御器設計法 nηはηのパラメータ数を表す。
2.3.4項で述べたε(ρ, t)は,M¯(η)を用いて次のように表せる。
ε0(t,η,ρ) = ¯M(η)r(t)−C(ρ)(1−M¯(η))y(t) (4.3)
ここで,∥W ε(ρ, t)∥22の最小化問題は,JMR(ρ)の最小化問題すなわち,モデル参照制
御問題の凸近似問題であることに注意されたい。制御対象が非最小位相システムの場
合,∥W ε(ρ, t)∥22の最小化では,参照モデルの零点が固定されているため,不安定な極
零相殺が生じるように制御器パラメータρを調整しようとする。一方,∥W ε0(t,η,ρ)∥22 の最小化では,M¯(η)の零点に自由度を持つため,M¯(η)が制御対象の不安定零点を持 つように調整されることで,不安定な極零相殺を回避できる。よって,∥W ε0(t,η,ρ)∥22 を最小化することで,制御対象の入出力データから直接,制御対象の不安定零点を持 つような参照モデルの調整が可能となる。
しかしながら,観測雑音が重畳した入出力データを用いる場合,ε0(t,η,ρ)は観測雑 音v(t)の影響を受ける。よって,∥W ε0(t,η,ρ)∥22の最小解にはv(t)によるバイアスが 生じる。そこで,NCbTと同様に,ε0(t,η,ρ)とr(t)の相互相関関数を考え,その二乗 和を評価関数とすることで,v(t)の影響を低減する。このとき,評価関数JC0(η,ρ)は 以下のように表せる。
JC0(η,ρ) = ˆfT0(η,ρ) ˆf0(η,ρ) (4.4) ただし,fˆ0(η,ρ)は(4.5)式のように表されるε0(t,η,ρ)とr(t)の相互相関関数f0(η,ρ) の推定値である。
fˆ0(η,ρ) = 1 N
∑N t=1
ζwr(t)ε0(t,η,ρ) (4.5)
4.1.2 評価関数の準最適化
M¯(η)とC(ρ)は,それぞれη,ρに対して線形であるため,ε0(t,η,ρ)はη,ρに対 して双線形である。よって,ρをρˆ(i−1)に固定することで,ε0(t,η,ρ)はηに対して線 形に表現できる。
ε0(t,η,ρˆ(i−1)) = ¯M(η)r(t)−C(ˆρ(i−1))(1−M¯(η))y(t)
=FTw(t,ρˆ(i−1))η−C(ˆρ(i−1))y(t) (4.6)
第 4章 非最小位相システムに対する制御器設計法
ここで,w(t,ρˆ(i−1)) = r(t) +C(ˆρ(i−1))y(t)であり,w(t)は入出力データr(t),y(t)の みを用いて生成されることに注意されたい。したがって,JC0(η,ρˆ(i−1))の最小解は最 小二乗法によって,(4.7)式のように求められる。
ˆ
η(i) = arg min
η JC0(η,ρˆ(i−1))) = (VTV)−1VTU (4.7) ただし,V,U は以下のように定義される。
V = 1 N
∑N t=1
ζwr(t)FTw(t,ρˆ(i−1)) , U = 1 N
∑N t=1
ζwr(t)C(ˆρ(i−1))y(t)
同様に,ηをηˆ(i)に固定することで,JC0(ˆη(i),ρ)の最小解も最小二乗法によって求め られる。
以上より,以下の最小化を繰り返し行うことでJC0(η,ρ)の準最適解が得られる。
ˆ
η(i) = arg min
η JC0(η,ρˆ(i−1)) (4.8) ˆ
ρ(i) = arg min
ρ JC0(ˆη(i),ρ) (4.9)
この反復法では,制御器パラメータの初期値ρˆ(0)を必要とする。しかし,閉ループ実験 によりデータ取得を行う場合は,そのとき用いた制御器のパラメータをρˆ(0)とすればよ い。また,開ループ実験によりデータを取得する際でも,安定制約を付加したNCbT[6]
を適用し,導出された閉ループシステムを安定化する制御器パラメータをρˆ(0)とすれ ばよい。提案手法は,準最適解を得るときに反復作業が必要なものの,データ取得に 必要な実験はただ1回でよい。さらに,評価関数は相関法に基づいているため,観測 雑音による影響の低減も期待できる。よって,NCbTの特長をほぼ維持している。
4.1.3 非最小位相システムに対する設計アルゴリズム
非最小位相システムである可能性が高い制御対象に対して,NCbTを適用するため の手順を以下に示す。
Step 1. 開ループ実験または,閉ループ実験により制御対象の1組の入出力データを 取得する。このとき,開ループ実験であれば,安定制約を付加したNCbT[6]を適 用し,導出された制御器パラメータをρˆ(0)とする。閉ループ実験であれば,その とき用いた制御器のパラメータをρˆ(0)とする。
第 4章 非最小位相システムに対する制御器設計法
Step 2. ηとρに関する最適化問題(4.8)-(4.9)式を繰り返し計算し,M¯ (η)に制御対象 の不安定零点を反映させる。制御対象が不安定零点を含む場合,M¯ (η)の零点は その不安定零点に収束する。制御対象に不安定零点を含まない場合には,M¯ (η) の零点は安定零点に収束する。
Step 3. M¯(η)に不安定零点が反映された場合,望みの参照モデルMがその不安定零 点を持つように修正する。M¯(η)の零点が安定零点だけの場合には,Mは修正し ない。
Step 4. 修正されたMに対して安定制約を付加したNCbT[6]を適用し,ˆρを求める。