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非営利・協同セクターによる支援Ⅱ 協同組合間協同による支援

筆者は、学生時代に岩手県大船渡市三陸町の漁村で水圏生態学を学んだ。下宿先は漁 協のワカメ部会長の家であった。バイトはワカメの塩蔵加工やホタテ、牡蠣の殻剥きな ど、漁業を生業とする地域社会を生活の中から経験し、地域の水産業の重要性を肌で感 じた。

震災後は、東北の水産業を支援するために特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・

ジャパンの職員として、宮城県南三陸町や気仙沼の漁協への復興支援に従事した。その 中で、さまざまな民間団体の水産業復興支援の実態が明らかになった。宮城県漁協志津 川支所に携わっていた際に、みやぎ生協を受け皿とするコープしが、京都生協、大阪府 生協連、大阪いずみ市民生協、生協しまねの役職員・組合員らによる「ボランティアバ ス南三陸町支援隊」の人々が養殖業の支援を震災初年度から行なっていたことを知っ た。当時は、数あるボランティア志願の企業の1つとしてしか、生協が漁協を支援する ことを認識していなかった。

2013年より原子力被災地である福島県浪江町へコンサルタントとして派遣され、町職員 や旧JF請戸の復興支援に携わった際に、JA福島中央会と農林中金の出資、日本生協連の 協力のもと、地産地消ふくしまネット(正式名称:地産地消運動促進ふくしま協同組合協 議会)の主催による全国の生協組合員・役職員171名を招いた『福島支援交流会2014〜福 島の食と農・くらしの再生に向けて〜』に登壇し浪江町の水産業復興の現状について語る 機会を得た。そして、それ以後、コープふくしまとJF相馬双葉による「浜の母ちゃん料理 教室」や、試験操業の合意形成の場である福島県地域漁業復興協議会に福島県生協連が消 費者代表の委員として参加していることなどを知るなか、単なる企業が復興支援をしてい るのと協同組合が漁協を支援することは枠組みの違う「協同組合間協同」というものであ ったことを学んだ。そして、自らも地産地消ふくしまネットが主催する「土壌スクリーニ ング・プロジェクト」の一環である、全国の生協による旧 JA 新ふくしまへの視察ツアー に参加し、圃場を視察するなかで、災害下における協同組合間協同の重要性を実感し、よ り漁協においても効果を発揮させられないかと関心を抱いた。

本章では、東日本大震災における協同組合間協同による漁業支援について研究したもの である。平時の場合との比較、漁協以外の協同組合間協同との比較も含みつつ、今後の漁 協における協同組合間協同がどうあるべきかを考察する。

1.協同組合間協同の変遷と特徴

(1)協同組合間協同の変遷

1966年、ICA(国際協同組合同盟)は第23回ウィーン大会において先進国における巨 大企業集団や多国籍企業の成立を背景に、各種の協同組合が協同組合間協同によって対 抗していくことを規定し、斬新な原則を追加した。それが「協同組合間協同の原則」で ある。第6の原則の成文には「すべての協同組合組織は、その組合員ならびにコミュニ ティの利益に最善の奉仕をするため、地域的、全国的、国際的レべルで、現実的な方法 によって積極的に協同すべきである」と明記されている。また、第6原則の重要性につ いて、当時のICA調査委員会報告書61は次のように述べている。「共に活動するというこ とは、単に既存の種類の協同組合の中央会や連合会の内部での誠実な協力だけではな く、実行可能なあらゆる段階における各種の協同組合の間のより緊密で有効な関係を意 味する。協同組合運動の異種部門の間の統一と結集が欠けているというだけのために、

経済界における協同組合セクターという構想が、それに相応する物的現実性を伴わない 知的観念にとどまっている場合があまりにも多すぎる」

協同組合原則の成立史を研究した伊東勇夫氏は、「国際的規模の多国籍企業の出現、

寡占企業の成立、巨大流通資本の出現、インテグレーションの発展、寡占価格の市場支 配などに対し消費者・小生産者の生活と生産を防衛するため地域のレベル、全国レベ ル、国際レベルの各種協同組合間の協同が不可欠だという認識に基づいたもので,20世 紀後半を象徴する原則である」62と期待を寄せている。

同氏は、協同組合間協同を①同種協同組合間の協同、②異種協同組合間の協同、③同 種系統組織間の協同、④国際的協同組合間の協同の4つに分類している63。①同種協同組 合間の協同とは、「職種を同じくする協同組合や連合会が,横の連携をとり,業務の協 定,事業の共同推進,施設の共同設置や共同利用,人事の交流などをおこない相互扶助 の効果をあげようとするものである。たとえば,大型コンピューターの共同利用,大型 機械施設の共同利用,農業管理センターの共同設置などである。このような物的施設の 共同利用を通じて具体的に協同組合間協同をおし進め,高い理念を実現して行こうとす るタイプ」と定めている。これは、現在の農協や漁協の広域合併と酷似した考え方で、

組織の協同というよりは、物的な共同利用によって合理化をはかることで事業を安定さ せる効果を期待したものであろう。

②異種協同組合間の協同は、「職種の異なる協同組合が,地域内あるいは地域外で,

職種が相違する特質を活かし,事業の補完補合をし,相互扶助していくタイプ(中略)

農産物を媒介とする農協と生協の協同,林産物(シイタケ,筍,木炭など)を媒介とする生 協と森林組合の協同, 海産物を媒介とする生協と漁業協同組合の協同,金融を媒介とす る農協と生協の協同,土地を媒介とする住宅協同組合と農協の協同組合間協同など,多 くの組み合せが存在している。」としたうえで、しかしながら「職種や地域を異にする 協同組合は,組合を構成する組合員の性格が異なるため,協同組合としては同根であっ ても, かなりの性格の差違があり,またその成立の歴史的事情も異なるため,一般に提 携しあうことが容易でない」と、その達成の困難さも明らかにしている。

③同種系統組織間の協同については「単位協同組合はその事業を補完するため2次組 織(府県段階), 3次組織(全国段階)の連合会組織をつくっている。従来,単位協同組合と

連合会組織との協同は,その趣旨からして補完補合の関係にあったが,だんだんとその 事業や権力が連合会組織に集中し,協同組合の民主的運営に問題がでており,対等な協 同組合間協同とはいえない従属組織的な面も現われている。」と指摘している。

30年以上も前のこの指摘が予見していた未来が、JA中央会の性格変更や1県1農・漁 協のような超広域合併として、ある意味では訪れてしまったのかもしれない。そして、

今後もますます系統組織間協同ではなく、2次組織の解体や3次組織の株式会社化と悪 化の一途をたどる可能性は非常に高い。だからこそ、単協―県段階―全国段階という日 本の協同組合の3段階が相互に補完し合い、それぞれの階層に正統な役割があることを 明示しなければならない時であろう。

④国際的協同組合間の協同について、同氏は「協同組合は個人の生活や生産を補完し 擁護する経済組織であるため,職能や地域の特定をうけることはいうまでもないが,し かしその目的を達成するためには国際的連帯を強めることが不可欠である。外国の協同 組合との協同組合間貿易,情報の相互交換,経験の交流,発展途上国協同組合への援 助,姉妹協同組合の締結など各種の協同組合間協同がおこなわれている。また,国際協 同組合同盟 (I.C.A.)をつくり, 協同組合原則の制定,協同組合思想の普及などをおこな って,国際的協同組合間協同を推進して」きた。

①③の同種/系統内の協同組合間協同については、この半世紀の間に合併や経済連の 組織再編などによって、達成された面もある。異業種の協同に比べ、隣接した単協であ れば暴風雨を共に経験することもあるだろうし、系統内であれば同じ綱領を唱和する身 内であり、政治的思想の乖離も少ないだろう。国際的にも「協同組合間協同」は系統内 の結集を意味する国も多い。

対して、日本は第6原則が追加される以前から、②異種協同組合間の協同が事業提携 を契機に以後の発展を遂げた経緯がある。沖縄で長きにわたり農協職員の研修に尽力さ れている安里精善氏は「異種協同組合間協同は日本を除き国際的にICA段階での人的交 流・情報交換を超える成果は見当たらない。日本における『協同組合間の協同』は、第 二次大戦後、組織法が種類別に分断されたにもかかわらず、戦前において、上からの厳 しい制約のもとにあったとはいえ、「産業組合」に集約されていたことによる“同根の人 脈と同志意識”がそれぞれの協同組合に引き継がれたこともあって、異種協同組合間協同 は、早くから取り組まれていた。」と述べている64。敗戦後の1945年には「生産消費直 結委員会」が、1956年には後述の「日本協同組合連絡会(JJC)」が、そして1966年に ICAの第6原則として「協同組合間協同」が追加され、1970年の「日生協と全農の提携 に関する覚書」が交わされるなど、国内における異種の協同組合間交流が展開する。

1992年に開催された第30回ICA東京大会において「協同組合間の協同」が改めて強調 され、1995 年の第2回ICA全体会議では「協同組合は、地域、全国、諸国間の、 さら には国際的な仕組みを通じて協同することにより、自分の組合員に最も効果的に奉仕 し、また、協同組合間協同を強化」することが採択されている。また、都道府県段階に おいても連携組織が自発的に結成され、JCA調べによれば、最古のものが1971年に設立

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