III. 研究成果の詳細報告
4. 台風に関する全球モデル-雲解像モデル比較検証実験
a. 要約
台風などの熱帯低気圧は、大気科学における興味深い現象であるだけでなく、東アジア 諸国に大きな災害をもたらすともに、一方で水資源としても重要である。このため温暖化 に伴う台風の将来変化は、人間社会に大きなインパクトを与えるものである。特に最も強 い台風の強度がどのくらい強いものになるのかは、防災計画やリスクマネージメントにお いて基準を与えるという点で重要である。
解像度の高くなった全球モデルでは、台風そのものがシミュレーションされるようにな ってきたが、それに伴う降水や風速の強度を定量的に評価するためには雲解像モデルを用 いたシミュレーションが不可欠である。この研究課題では、全球モデルのシミュレーショ ンする台風の降水や風速について、それらの強度を、雲解像モデルを用いて検証すること が目的である。そのためにまずはじめに、雲解像モデルCReSSがどの程度実際の台風を精 度よくシミュレーションできるのかを、観測データを用いて検証した。日本付近に接近し た台風について、高解像度でシミュレーションを行い、台風の構造の再現性、台風の急発 達の再現性、台風に伴う降水と強風の再現性に着目して、観測データと比較した。特に、
沖縄県南西諸島で実施された台風の特別観測で観測された台風0712号と0715号について ドップラーレーダーの結果と比較した。
2年度目には2004年の台風16・18号を主な対象として、これらの台風のシミュレーシ ョン実験を行った。14日間という長期に渡る積分でも、CReSSの予報する台風の位置はベ ストトラックとよく対応した。台風 18 号の中心気圧については、初期の低下は遅れたが、
その後は急速に中心気圧が低下し、ベストトラックの中心気圧とほぼ同じに達した。この 実験から水平解像度4kmで、台風 18号の発生から発達、転向点を超えて上陸し、日本海 に入って衰弱していく台風の全生涯にわたるシミュレーションを量的に観測とよく対応す る結果を得ることができた。
地球温暖化に伴い台風の強度がどの程度増加するのかを定量的に推定することは、台風 の社会的インパクトの大きさから重要な問題となっている。台風の強度の推定は、理論的 にも数値実験的にもさまざまな方法で行われている。その一つの方法として、雲解像モデ ルを用いた温暖化気候の台風のシミュレーションは、台風の強度の量的推定において有力 な方法と考えられる。これまで当チームでは、気象研究所の実施した全球モデル実験のう ち、20km解像度の前期実験で得られた台風について、雲解像モデルを用いたシミュレーシ ョンを行い、温暖化に伴いスーパー台風(地上風速が風速 67m/s 以上の台風:AMS)のよう な強い台風が増加することを示した。さらにその後実施された気象研究所の後期実験の台 風について、雲解像モデルCReSSを用いたシミュレーションを実施した。
前期実験の台風についての雲解像モデルを用いたシミュレーションでは、現在気候の 1979年~1993年の15年間、将来気候の2074年~2087年の14年間を対象とした。それ
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ぞれの期間の台風の個数は、平均17.7個と12.6個であった。後期実験では、現在気候(1979 年~2003年)、近未来気候(2015年~2039年)、将来気候(2075年~2099年)のそれぞ れ25年間の台風を対象とし、それぞれの期間の平均の台風の数は23.7、21.6、18.8個であ った。本研究では最も強い台風がどのくらい強いものになるのか、またそれらが雲解像モ デルと全球モデルでどの程度異なるのかが課題であるので、それぞれの期間における全球 モデルの最も強い台風からシミュレーションを行った。
温暖化気候の実験では現在気候ではみられないような極端に発達する台風が発生する。
そのなかでもMRI_GSMにおいても、CReSSを用いた実験においてもともに極端に発達し た例としてSF001_T2716について、最低中心気圧と最大地上風速の時間変化をMRI_GSM とCReSSの1km、2kmおよび4kmの結果について比較した。その結果、4km解像度で は2km解像度の結果より台風の強度は小さく、2km解像度と1km解像度ではほぼ同じ結 果が得られた。台風の強度(中心気圧と最大地上風速)の予測には解像度が2kmでおおむ ね十分といえる。
前期実験の全球モデルの温暖化気候で現れた台風についての雲解像モデルの実験では、
この台風を含めて12事例のスーパー台風がみられた。一方、現在気候の実験では、3つだ けであった。これらのことから温暖化気候ではスーパー台風の数が多くなること、またそ の台風の強度は現在気候ではみられないほど強いものになることがわかる。最大地上風速 とそのときの地上中心気圧の散布図では、回帰直線の方向きと切片が温暖化気候と現在気 候では近い値であり、台風の分布はよく似た回帰直線に近いところにある。すなわち温暖 化気候で現れるスーパー台風は、現在気候の台風と同じ最低中心気圧-最大地上風速の関 係を持っているといえる。MRI_GSM20kmの台風と雲解像モデル2kmの台風について、
最低中心気圧と最大地上風速を比較すると、スーパー台風を除くと、おおむね同値線を中 心に散布している。ばらつきは大きいが、スーパー台風以外の台風については、静力学モ デルであるMRI_GSMと雲解像モデルはおおむね対応関係があるといえる。一方で、スー パー台風については、同値線から大きく外れており、雲解像モデルの結果の方が顕著に中 心気圧が低くなっている。このことはスーパー台風のように極端に発達する台風の強度を 量的にシミュレーションするためには、静力学モデルでは不十分で、高解像度の雲解像モ デルを用いる必要があることを示している。
シミュレーションされた台風は、現在気候より温暖化気候の方が、より強いものが発生 することが示された。現在気候の台風に比べて温暖化気候の台風の方が明らかに海面水温 の高いところを通過していることがわかる。海面水温に対する感度実験の結果を考慮する と、スーパー台風のような強い台風の発生には、温暖化に伴う海面水温の上昇が重要な要 因であることが示唆される。
後期実験の全球モデルに発生した台風のうち、900hPa未満の中心気圧に達した台風の数 は、現在気候43、近未来気候38、将来気候49個であった。また、スーパー台風は、それ ぞれ79、76、および将来気候 86 個でほぼ同じ数であった。これらのうちそれぞれの期間
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について 5 事例ずつ選んで雲解像モデルを用いたシミュレーションを行った。ここでは現 在気候4事例、近未来気候3事例、将来気候5事例についてまとめた。事例数が少ないが、
前期実験の台風の場合と同様に、現在気候の台風に比べて明らかに将来気候の台風のほう が強くなっていることが分かる。また、近未来気候は 3 事例であるが、おおむねその中間 にある。将来気候の台風は1事例をのぞいて、現実に観測された最低中心気圧(1979年の台
風20号の870hPa)より低い中心気圧に達している。将来気候だけでなく近未来気候の台風
でも、最大風速が70m/sを越える強いものがある。
本課題ではまた、台風の初期の発生・発達過程を領域非静力モデルを使って調べた。全 球静力モデルを用いたシミュレーションでは、熱帯海洋上の大気下層に現れた直径約 500km の低気圧性の循環を持つ初期渦が、弱い熱帯低気圧性擾乱(Tropical Depression, TD)から台風(Tropical storm, TS)として発達していく様子がとらえられた。全球静力モデ ルでTDとして成長した下層の初期渦を、積雲対流を直接表現する非静力雲解像モデルを用 いて高い解像度シミュレーションすることにより、観測では時間・空間的に詳細をとらえ ることが困難な初期段階からのTDの時間変化の様子を調べた。
b. 研究目的
全球モデルの結果を雲解像モデルと比較検証し、雲に関わる不確定性の問題点を明確化 する。特に、温暖化に伴う変化が顕著に社会に影響を与える台風を中心に、現在気候と将 来気候における全球モデルの出力を雲解像モデルと比較検証を行う(比較検証実験)。さら に近未来気候、将来気候において台風の強度がどのようになるのかを、雲解像モデルを用 いて、量的に検討を行う。
c. 研究計画・方法・スケジュール
極端現象予測のチーム(気象研究所を中心とするチーム)から提供をいただいていた、
気象研究所全球静力学モデル(MRI-GSM)20km解像度実験の前期実験データにみられる台風 について、雲解像モデルを用いたシミュレーション実験を行い、強度についての再検討を 行う。
同様に MRI-GSM20km 解像度実験の後期実験データのうち、現在気候、近未来気候、将来
気候のデータを提供いただき、各気候にみられる台風の特徴を調べる。さらに雲解像モデ ルを用いて、各気候にみられる台風のうちの特に強いものについて、水平解像度 2km でシ ミュレーション実験を行い、全球静力学モデルの結果と比較する。また、雲解像モデルで の台風の強度について検討する。
d. 年次計画 平成19年度
この研究項目では主に台風について、現在気候と温暖化気候の全球モデル実験にみられ