4.1
はじめに
本章では、計算機シミュレーションにより、第 3 章で構築した雑音除去アルゴリズムの 基礎的能力を検証する。
本雑音除去アルゴリズムの特徴は、時々刻々変化する非定常雑音の除去を実現するために
雑音環境下での音声および雑音の到来方向推定機構
各周波数における最適マイクロホン対の選択機構
を備えていることである。従って、本章では、雑音環境下での音声および雑音の到来方向 推定精度、雑音スペクトルの推定精度(最適マイクロホン対選択機構の有効性) について検 証する。そして、典型的な非定常雑音として、目的信号と時間・周波数領域で局在する突 発性雑音の除去精度についても検証する。
雑音環境下における信号の到来方向推定は非常に困難な問題であり、これまではこの課 題が解決できなかった。これが、現在、適応フィルタによるビームフォーミングが減算型 アレーの主流となっている要因の一つである。本研究では、方向推定にも積極的に減算型 ビームフォーマを導入し、2つの信号到来方向を推定することを試みた。本方向推定アル ゴリズムが有効であれば、適応フィルタを用いる必要がなくなり、提案法では適応ビーム フォーマが苦手としていた音響的特徴が急激に変化するような雑音の除去も可能になる。
後者も本研究の独創的成果の一つであり、特に音声のような広帯域信号に対しては、本機 構が高精度の雑音除去の実現に必要不可欠であると予想される。
表 4.1: 雑音除去アルゴリズムのパラメータ設定値 パラメータ 設定値
フレーム長 5.3 msec フレーム周期 2.7 msec
窓関数 hamming 窓
閾値 "1 0.5 閾値 "2 0.2 サブトラクション係数 1
フロアリング係数 0.001
フレーム長とフレーム周期は、一般的な音声情報処理と比較すると非常に短いが、これ は時々刻々変化する非定常雑音にも対応できるように短く設定した。本雑音除去アルゴリ ズムでは、信号到来時間差の推定精度を向上させるため、到来時間差推定と雑音推定・除 去処理とでは異なる分析条件を採用する。4 フレーム分の信号を統合した信号に対して方 向推定を行ない、その各フレームにおいて雑音除去処理を行なう。具体的には、第(4n+1) フレーム(n=0;1;2;111)において、第(4n+4)フレームまでの4フレーム分の信号を一 旦統合して到来時間差推定を行なう。第(4n+2)、第(4n+3)、第(4n+4)フレームに関 しては、第(4n+1)フレームで推定した信号の到来時間差を利用し、雑音スペクトルの推 定・除去のみを短時間フレームごとに行なう。閾値"1、"2 は、広帯域のランダム雑音を用 いた雑音スペクトル推定実験の結果に基づき、経験的に定めた値である。
ここで、目的信号が正中面方向、雑音が右 35°から到来する場合の提案法の指向特性を 図4.1 に示す。提案法の指向特性と、同一マイクロホン配置の遅延和アレーの指向特性(図
2.5)とを比較すると、高周波数帯域では両者とも空間的エイリアジングのため、目的信号 の到来方向以外に受音感度の高いサイド ローブが生じている。一般に、音声のパワー分布
−90 −60 −30 0 30 60 90 0
0.5 1
G( θ )
125Hz
−90 −60 −30 0 30 60 90 0
0.5 1
G( θ )
250Hz
−90 −60 −30 0 30 60 90 0
0.5 1
G( θ )
500Hz
−90 −60 −30 0 30 60 90 0
0.5 1
G( θ )
1000Hz
−90 −60 −30 0 30 60 90 0
0.5 1
G( θ )
2000Hz
angle [degree]
−90 −60 −30 0 30 60 90 0
0.5 1
G( θ )
4000Hz
angle [degree]
図 4.1: 提案法の指向特性(左上から順に、125 Hz、250 Hz、500 Hz、1000 Hz、2000 Hz、
4000 Hz の指向特性)
を考慮すると、高周波数帯域よりも低周波数帯域の雑音除去能力が重要となる[60]。提案 法は、低周波数帯域において主ローブ幅が狭く、遅延和アレーよりも圧倒的に雑音除去能 力が高いことがわかる。