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本論文の要約

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第 8 章 結論

8.1 本論文の要約

本論文では、従来の雑音除去法では扱うことが困難であった時々刻々変化する非定常雑 音の除去を目標に、マイクロホン対による雑音除去アルゴリズムを構築した。雑音除去は 以下の手順で行なう。

1. 目的信号と最も優勢な雑音の 2 つの信号到来方向の推定

2. 目的信号を完全に抑圧し、雑音スペクトルの推定

3. スペクトル領域において、受音信号から雑音成分の除去

信号到来方向の推定および雑音スペクトルの推定を行なう際、2 つのマイクロホン(マイ クロホン対)の受音信号を利用し、特定方向から到来する信号を完全に抑圧するような減 算型ビームフォーマを解析的に設計することが本研究の特徴である。減算型ビームフォー マは、遅延和ビームフォーマと比較し、より少ないマイクロホン数でより高い雑音除去性 能が得られるため、マイクロホンアレーによる空間フィルタリング手法の主流となってい る。現在提案されている減算型ビームフォーマの多くが、適応フィルタによるビームフォー ミング手法を採用しているが、それらは時間的に変化の激しい非定常雑音や目的信号と相 関の高い雑音の除去は困難であり、これらの問題は本論文においても確認した。本手法は、

定常雑音、非定常雑音という枠を越え、また目的信号と雑音がともに音声であるような非 常に困難な状況においても雑音を除去できる。また、受音信号から雑音成分を除去する際 には、Boll によって提案され、現在でも ASRのフロントエンド などに用いられている周 波数領域でのフィルタリング手法である SS を利用する。従来の SS は、単点受音信号に 対して非音声区間で雑音の推定を行なうため、音声/非音声区間の判定が必要であり、定 常雑音にしか対応できなかった。SS改良法は数多く提案され、音声/非音声区間の判定機 構は不必要になったが、非定常雑音を除去することは困難であった。しかし、本雑音除去 法は、信号の到来方向という空間情報を利用した空間フィルタリングにより、時々刻々雑 音スペクトルを推定することが可能であり非定常雑音にも対応できる。

8.1: 各雑音除去法の雑音適応表

雑音除去アルゴリズム SS 適応 SS 2ch SS 遅延和アレー 適応アレー 提案法

(素子数) (1) (1) (2) (多数) (3) (3)

定常雑音 ◎ ◎ ○ ○ ◎ ◎

音源が移動する定常雑音 ○ ○ × ○ ◎ ◎

残響環境下の定常雑音 △ △ × ○ ○ ○

緩変化の非定常雑音 × ○ △ ○ ○ ◎

急激に変化する非定常雑音 × × × ○ × ◎

音声区間中で発生する雑音 × × × ○ △ ◎

音源が移動する非定常雑音 × △ × ○ ○ ◎

残響環境下の非定常雑音 × × × ○ ○ ○

最後に、提案法と従来法との雑音除去能力の差異を明確にするため、本論文で明らかに なった各雑音除去アルゴリズムの様々な雑音への適応性を表8.1 にまとめて示す。提案法 は、様々な実験を通し、従来の雑音除去法では対象外とされてきた非定常雑音を除去でき ることがわかった。定常雑音であれば如何なる雑音除去法も対応できるが、非定常的な雑 音、より現実的な雑音には対応できない手法が多いのが現状である。雑音の音響的性質が 急激に変化する場合や音声区間中で突発的に発生する雑音に対し、提案法の雑音除去能力 は他を大きく凌いでいる。このような雑音は、決して稀な存在ではなく、ド アの開閉音、

足音、あるいは話し声など一般的な生活環境にはたくさん存在する。提案法のような少数 素子のマイクロホンアレーを用いた雑音除去法では適応処理の利用が常識となっているが、

適応処理では信号の急激な変化に追従することが難しく、適応処理を採用した手法では雑 音の音響的特性が大きく変化する区間では雑音を除去できない。一方、我々の聴覚は、動 物的本能により、定常的な信号よりも時間・周波数方向に動きのある非定常な信号ほど敏 感に知覚する。よって、聴感上の印象に基づいた評価において、適応処理を利用した手法

は、我々の知覚に強い影響力を持つ非定常雑音を除去できないため、同素子数の古典的な 遅延和アレーよりも評価が低い。なお、遅延和アレーは、線形処理のため雑音除去音声は 高音質であるが、高精度の雑音除去を実現するためには莫大な素子数を必要とするため使 用環境が限定されてしまう。例えば、雑音除去アルゴリズムを可搬型 ASR や補聴器へ導 入する場合、大規模マイクロホンアレーを用いることは困難であり、遅延和アレーでは十 分な雑音除去精度を期待できない。そこで、少数素子の減算型アレーの導入が考えられる が、雑音除去が必要とされているより現実的な環境においては、表8.1 より現在の主流で ある適応型アレーよりも提案法が適していることがわかる。

提案法は、具体的な応用例として ASR のフロントエンド、補聴器などを想定した評価 において、雑音により生じた音声認識率の低下、あるいは音声の歪み感を良好に回復でき ることも確認した。音声認識の雑音耐性向上に関しては、提案法は遅延和アレーよりも圧 倒的に優れており、3 素子の提案法が 6素子の遅延和アレーと同等の性能を有することも わかった。以上より、本雑音除去アルゴリズムは、本論文で目的として掲げた非定常雑音 の除去を達成できており、ASRのフロントエンド、あるいは補聴器などの聴感上の歪み低 減を必要とする機器への利用が期待できる。

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