第 4 章 隠れたカイラル相転移による暗黒物質生成 27
5.3 隠れたカイラル一次相転移への応用
5.3 隠れたカイラル一次相転移への応用 51
図5.2: S= 0におけるZσ(S= 0, σ, T)のσ依存性: ただしT /ΛH= 0 (黒), 0.01 (赤), 0.02 (青) 0.03 (紫).
る解の探索手法を図5.3に示した. 2つの点φ= 0, φtrueに極小値を持つポテンシャルV(φ, T)を仮定すると, O(3)対称性を持つバウンス解は以下の運動方程式によって記述される,
d2φ dr2 +2
r dφ
dr =∂V(φ, T)
∂φ , (5.31)
また以下の境界条件を満たす,
φ′(0) =φ(∞) = 0, (5.32)
ただしV(0, T)> V(φtrue, T)とした. このときバウンス解は,ポテンシャル−V(φ, T)上の初期値φ(0) =φe に, 初速度φ′(0) = 0として置かれた場φが,ポテンシャル上を式(5.31)に従い運動し,原点φ(∞) = 0に近 づく解である. このとき初期値をφ(0) =φo> φeとした場合には, 原点を通り過ぎ(Overshooting),φ(0) = φu< φeとした場合には,原点まで到達できず振動する(Undershooting). 狙い撃ち法は, 0< φ < φtrueから 正しい初期値φeを試行錯誤によって求める手法である. したがって,φe̸=φtrueであることに注意. 一般に初 期値φeは,非常に微調整された値となり,φ′(Rc) =φ(Rc) = 0の振る舞いによって試行錯誤を終了する.
実スカラー場S を無視した場合, 平均場 σのバウンス解の存在を確かめる; この仮定はカイラル極限 (mi= 0)におけるNJL模型に対応する. このバウンス解は以下の運動方程式に従う:
d2σ dr2 +2
r dσ dr +1
2
∂lnZσ(σ, T)
∂σ
(dσ dr
)2
=Zσ(σ, T)∂VχPT(σ, T)
∂σ , (5.33)
境界条件は,式(5.30)と同様であり,VχPTは, NJL模型を用いて有限温度におけるカイラル相転移を解析した ポテンシャル(3.41)である. このとき標準模型セクターとの結合がないため, 隠れたQCDスケールΛHは決 定できない. 狙い撃ち法を用いて, 無次元温度T /ΛHを変化させたときのバウンス解を図5.4に示した: ただ し,T /ΛH= 0.055 (赤), 0.060 (橙), 0.065 (緑), 0.070 (青), 0.073 (紫), 0.074 (深紫). カイラル極限における 無次元化した臨界温度は,Tc/ΛQCD≃0.0742であった. 臨界温度Tcに近づくにつれ,バウンス解の臨界半径 Rcが大きくなる振る舞いは, 対称性が回復することにより, 泡の核形成率が消失することに対応する. ここで は場に依存したくりこみ定数Zσ(σ, T)が存在する場合も,狙い撃ち法によって1次元バウンス解σ(r)が導出
図5.3: 狙い撃ち法による解の探索手法の概略図.
0 100 200 300 400 500 600
0.00 0.05 0.10 0.15
rΛH σ(r)/ΛH
NJL(Chiral Limit)
T/ΛH=0.055 T/ΛH=0.060 T/ΛH=0.065 T/ΛH=0.070 T/ΛH=0.073 T/ΛH=0.074
図5.4: カイラル極限(mi= 0)におけるカイラル一次相転移によるバウンス解: ただし,T /ΛH = 0.055 (赤), 0.060 (橙), 0.065 (緑), 0.070 (青), 0.073 (紫), 0.074 (深紫).
できることを確認した. また狙い撃ち法による解の探索手法として図5.3のようにポテンシャル上を場を移動 する描像を示したが,この場合は場に依存したくりこみ定数Zσ(σ, T)の存在のために適応できないことに注意 したい. 以降,通常の方法と比較して理解するため, ポテンシャルVEFF(σ, S, T)上を場が運動する描像を示す.
5.3.2 経路変形法を応用した 2 次元バウンス解の導出
1次元バウンス解を求める数値的手法として, 狙い撃ち法を紹介した. この方法は, 微調整によって境界条 件を満たす初期値を探す手法であった. そのため多次元の場合には有効でない. ここでは経路変形法(Path deformation method)と呼ばれる手法[131]に着目し,実スカラー場を含む隠れたカイラル一次相転移に関す る2次元バウンス解の導出に応用する. この手法は,解くべき2次元バウンス解に対する連立微分方程式を, 1 つの拘束条件における1次元バウンス解に対する微分方程式へ再設定する手法である. 以下ではその詳細につ いて説明する.
バウンス解σ(r), S(r)は境界条件(5.30)を満たす微分方程式(5.28, 5.29)の解であり,座標rに対して一意
5.3 隠れたカイラル一次相転移への応用 53 的な関数である. 区間r∈[0,∞)においてσの逆関数σ−1が存在すると仮定する. このとき恒等関数σ−1◦σ
を用いて,r=σ−1(σ(r))と表せ,rの関数であるS(r)は,同様にσの関数として表せる: S(σ). このとき微分 方程式(5.28)と(5.29)は,それぞれσの関数として以下のように書き表わせる:
d2σ dr2 +2
r dσ dr +1
2
∂lnZσ(S(σ), σ, T)
∂σ
(dσ dr
)2
=Fσ(S(σ), σ), (5.34) d2S
dσ2 (dσ
dr )2
+ (dS
dσ
) (d2σ dr2 +2
r dσ dr
)
−1 2
∂Zσ−1(S(σ), σ, T)
∂S
(dσ dr
)2
=FS(S(σ), σ), (5.35) ここで式(5.28)と(5.29)の右辺をFσ(S(σ), σ)とFS(S(σ), σ)と表し,温度Tの依存性は省略した.
このときS(σ)を与えたとき, 式(5.34)は1次元の微分方程式であり,狙い撃ち法を用いて境界条件を満た す解σ(r)を求めることができた. また与えたS(σ)が正しい解であるとき, 式(5.34)によって得られたσ(r) は同様に式(5.35)を満たす;すなわち式(5.34)を式(5.35)に代入した関係式,
N(r) = 0 (5.36)
が満たされる. ここで以下をN(r)として定義した: N(r) =d2S
dσ2(r) (dσ
dr(r) )2
+dS
dσ(r)Fσ(S, σ)(r)−FS(S, σ)(r)
−1 2
(dσ dr(r)
)2(
∂Zσ−1(S, σ, T)
∂S (r) +dS
dσ(r)∂lnZσ(S, σ, T)
∂σ (r) )
. (5.37)
したがって微分方程式(5.28, 5.29)に対する2次元バウンス解σ(r), S(r)を求めることは, N(r) = 0を満た すトンネリング経路S(σ)を見つけることと等しい. 経路変形法は, σ–S 平面上のある経路S(σ)を仮定し, N(r) = 0となるように,経路変形を反復することで, 近似的にバウンス解を得る手法である. 狙い撃ち法(左) と経路変形法(右)における解の探索方法の違いを図5.5に示した. 2次元空間上での微調整された初期値の狙 い撃ち法による探索は非常に困難であることがわかる. 一方経路変形法は解への漸近性を持つ指標を定義する ことで,反復によって解に近づくことができる手法である. 本論では以下の手順に従い経路変形を行う:
初期経路S0(σ)として2つの真空を直線で結ぶ経路を用いる, S0(σ) = SB−SS
σB−σS
(σ−σS)
+SS, (5.38)
ここで (SB,S, σB,S) はそれぞれ真の真空と偽の真空の座標であり, 偽の真空は SS =σS = 0である. 経路 S(σ) =S0(σ)としてσに関する微分方程式(5.34)を狙い撃ち法を用いて解き,このとき得られた解をσ0(r) とする.*3
次に得られた解 σ0(r) とS0(σ0(r))を式(5.37) の右辺N(r)に代入し, これをN0(r) とする. 一般に S0(σ0(r))は正しい解ではないため,N0(r)̸= 0である. 次に仮定する経路S1(σ)への経路変形を定義する:
S1(σ) =S0(σ) + ∆S0(σ). (5.39)
ここで正しい解σ(r)と同じくσ0(r)も逆関数を持つとする. このときN0(r)もσの関数として表せる: Nˆ0(σ)≡N0(r=σ0−1(σ)). (5.40) Nˆ0(σ)に含まれるZσ(S, σ, T)やVEFF(S, σ, T)は,σとSの依存性のため偽の真空において0になるため,偽 の真空においてNˆ0(0) = 0が満たされる. またNˆ0(σ) = 0となる非零のσにおいては,経路変形∆S0(σ) = 0
*3ここで境界条件(5.30) を満たす解σ0(r)は, σ0(0) ̸= σB であり, 同じくS0(σ)の一方の端点は真の真空と一致しない: S0(σ0(0))̸=SB.
図5.5: 狙い撃ち法(左)と経路変形法(右)における解の探索方法の比較.
になると考えられる. したがって経路変形∆S0(σ)はNˆ0(σ)に比例すると仮定でき, (i+ 1)ステップにおける 経路Si+1(σ)を以下のように定義する:
Si+1(σ) =Si(σ) +kNˆi(σ), (5.41) kは次元を持つステップサイズ, ˆNi(σ) =Ni(r=σi−1(σ))である. この仮定のもとで経路Si+1(σ)は境界条件 limσ→0Si+1(σ) = 0を満たす. またσi+1(r)を得るために,σi+1(0)の初期値は境界条件 dσi+1(r)/dr|r=0= 0 とlimr→∞σi+1(r) = 0を満たすように狙い撃ち法によって決められる. 境界条件dσi+1(r)/dr|r=0= 0が満 たされるとき, 境界条件 dSi+1(σi+1(r))/dr|r=0= 0は自動的に満たされている. またσi+1(0)はσi(0)とは 異なる点であるため,Si+1(σ)の真の真空側の端点はSi+1(σi+1(0))に移動する.
数値的に得られる経路Si(σ)は, [59]に従い5次の多項式によってフィットする:
Si(σ) =
∑5 k=1
a(i)k σk . (5.42)
また全てのσに対して経路誤差が1%以下になるステップ数を反復の終了条件とする:
|∆Si(σ)|
Si(σ) = |kNˆi(σ)|
Si(σ) <10−2 , (5.43)
このときのユークリッド作用S3(T)/T のステップ間誤差は数%以下となる.