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第 2 章 いわゆる「統制番号」に関する検証

2. 統制番号を標示した根拠

2.1 統制番号標示の目的

第 1 章において、陶磁器の価格と流通への戦時統制について考察してきた。このように 生産・流通体制が日陶連を頂点とした管理下に置かれるなか、そこで生産される製品には統 制陶器として何らかの標識が必要とされ、ここに統制番号が登場、使用されたのである。こ れこそが統制番号標示の目的である。

統制番号が個々に標示された理由とは、結論から先に述べればその製品が公定価格品で あることを示すためである。これは先に目次を示した「日本陶磁器工業組合連合会定款」(以 下、「定款」。史料一)中に明記されている。(史料九)該当する部分を抜粋して以下に挙げ る。

第五章 事業及其ノ執行 第三節 検査及取締

35 第三款 公定価格品ノ格付及検査

第九十二条ノ十二 所属組合又ハ其ノ組合員ハ公定価格品毎個ニ本会ノ指定スル組合 記号及工場番号ヲ本焼ニ於テ捺印又ハ刻印スルコトヲ要ス但シ本会ノ承認ヲ得タル トキハ当該工場ノ商標又ハ裏印ヲ以テ之ニ代フルコトヲ得

第九十二条ノ十三 公定価格ニ付テハ第八十六条ノ規定ニ拘ラズ別記様式ニ定ムル検 査格付証票又ハ印章ヲ製品毎個ニ貼付若ハ押捺ス

第九十二条ノ十二では、これまで見てきた公定価格品の流通に際して、「本会ノ指定スル 組合記号及工場番号」を標示することを定めている。これがいわゆる統制番号標示の大本と なる根拠であると言えよう。また、九十二条ノ十三では、上記の条文で定めら他統制番号と は別に「検査格付証票又ハ印章」の貼付捺印を定めている。条文中あげられている八十六条 は、スープ皿、軽質陶器、肉皿、ライス丼、電気製品への統制のため、「検査済ノ製品又ハ 包装荷造ニ対シテハ別記様式ニ定ムル検査商票又ハ検査印章ヲ製品ハ包装荷造ノ外装ニ貼 付又ハ押捺ス」と定めている条文である。

2.2 日陶連統制の前例

統制番号を解明する立場からこの二つの条文を抽出したが、これまでみた日陶連の活動 からすれば、個々の製品に特定の標示を求めるという行為が特に戦時統制下に限られた特 異な行動とは言い難い。そもそも日陶連の設立段階における、「(ニ)生産分野を定めるもの」

に対しての保護政策としては、発明考案権に対する権利の付与ならびに商標裏印の使用登 録の保護策がとられている。

一例として昭和10年8月から実施されたスープ皿共販事業においては、「本会ハ統制ヲ 確保スル為」個々の製品に「統制証紙」の標示が求められていた(「定款」第四十六条)。こ の段階では統制の意味合いが戦時統制とは異なり、各業者のブランドを保護するという意 味合いの側面が強い。「定款」よりスープ皿共販事業に関連する条文を抜粋する。(史料一〇)

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「定款」のなかでは「証紙」とは称しているが、実質的には定められた数量の転写紙を日 陶連から所属組合を通じ組合員に交付し、施釉前の各製品に対し転写することを求めてい る(転写とは、陶磁器への絵付技法の種類で、この場合銅板により印刷した転写紙を用いる 転写印刷のことを指す)。

この目的について、三井はこう指摘している。2

素地側においては、割当なき業者の違反的進出を阻む手段として、素地品には必ず、

日陶連の統制マークを下絵で裏印に使用することを定めた。即ち、日陶連で銅版の統制 マークを下絵裏印に使用することを定めた。即ち、日陶連で銅版の統制マークを刷って、

素地業者の割当保有数に必要数だけ交付し、統制マークの焼付けていない製品は違反 者として出荷停止の措置をとった。それ故、素地メーカーも、交付を受けた統制マーク の数を超えて、違反生産ができないのは勿論、市場に出た製品で統制マークの裏印がな いものがあれば、違反品として、その出所を追求し取締ができる仕組みとした。

平時の陶磁器産地の一部業者による自主的統制と、戦時統制下における国家的統制の委 託を受けた事業とを全く同列に扱うことはできず、細部においても実際標示する証紙その ものを交付しているのと、各自で標示させる等、細部では相違を生じているが、仕組みの基 本形はスープ皿共販における統制様式と、公定価格品への「検査格付証票」「印章」の貼付、

捺印は、先の事例を準用したに過ぎないとも言えよう。また三井の指摘にある目的が、統制 番号標示においても同様のものであったと類推できる。

図 2-1・2-2:スープ皿統制証票の標示された製品(表面・裏面)

上絵付される前の素地。「定款」第四十六条にある「施釉前毎個ニ当該統制証紙ヲ転写シ」

のとおり、この段階で釉薬下へ銅板転写で標示されている。

2.3 統制番号導入による成果

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先の三井の指摘にあるように「市場に出た製品で統制マークの裏印がないものがあれば、

違反品として、その出所を追求し取締ができる仕組み」が統制番号入り製品に適用されると すれば、公定価格における取引の対象となるか否かが一目で判明するものであるといえる。

中小製造業者が多数を占める陶磁器製造業者が、製造原料の統制を契機として全国的な統 制化に置かれ、公定価格制度の導入をきっかけとしたこの製造責任を明確にするための方 法が、結果として全国の製品の生産地と製造業者が判別できる陶磁器史上類を見ない画期 的な仕組みを生み出したのである。

統制下に製造された陶磁器製品であっても、「定款」からは公定価格品の指定を受けてい ない製品であれば統制番号の標示義務はなかったとも読み取れるが、公定価格制度の整備 により昭和17年5月以降火鉢や雑品など多くの製品が指定されるようになって、標示対象 外製品は限られた存在になっていったと思われる。

筆者が引用したこの条文が掲載された「定款」は昭和15年段階の規定であり、この後の 変更を確認できなかった。しかし昭和16 年11月より全国製品を包含する公定価格へと改 正されてからも製品への標示が継続されていることから、この条文はその後も改正を加え られ機能していたと推察される。

また、「定款」の制定より時期が遡ると思われる史料にも、同様の条文が確認できる。昭 和15年7月に商工省物価局次長から知事に宛てた通達(史料六)中「六.製品ハ製造業者

(工業組合ヲ含ム)記号ヲ刻印シ又ハ本焼スルコト」とあり、公定価格設定前に製品への標 示が求められている。ただし、これが商工省の指示により統制番号標示の義務を課せられた かの根拠となりうるかといえば、先に見たようにこの通達中の等級に関する項目で日陶連 の「定ムル所ニ依ル」「打合セ相成」との表現を用いていることから、個々の公定価格設定 と同様に、商工省独自の発案によるものではなく日陶連の価格指定に対する原案を追認し、

それに依拠した形で通達を発したと筆者は判断するものである。

3. 各生産地における生産者への統制番号の付与

38 3.1 各組合での事例

1)瀬戸陶磁器工業組合における統制番号導入

前項で見た規定に基づき、組合から各生産者へどのように統制番号が付与され、示達され たかについて見てみたい。

日陶連が「定款」で定めた「公定価格品ノ格付及検査」に関する規定が、実際に製品を産 出する地方組合において受け止められた事例を紹介する。

愛知県の瀬戸陶磁器工業組合が昭和15年8月に定めた「価格等統制令ニヨル価格並料金 決定品種共同販売及共同受註事業規則」中に見られる。(史料一一)同規則第八条には「組 合員価格決定品種ヲ生産セントスルトキハ其ノ素地(施釉前)ニ本組合所定ノ原産地標示記 号及工場番号ヲ捺印又ハ刻印為シタル上焼成スベシ」(同文中「価格決定品種」とは第二条 で「公定価格並協定値段決定品」のことを称すとされた呼称である)とあり、日陶連「定款」

第九十二条ノ十二の規定を元に所属組合員に統制番号の標示を求めている。

このように、日陶連の規定が何らかの形で工業組合に示達され、それを元に規定が作成さ れたことから、当然ながら他組合においても同様の事例が存在していたはずである。

2)岐阜県陶磁器工業組合連合会における割り当て

岐阜県陶磁器工業組合連合会は、傘下の7組合を網羅した「生産者別標示記号」リストを 作成したが、登載者について桃井は「陶磁器工業組合の構成者は、製陶業・製土業・製型業・

匣鉢業の各業者によって構成されていたが、生産者別標示記号は製陶者のみに付している」

と指摘している。番号は7組合ごとに割り当てられ、「各組合名簿末尾の登録番号に氏名の ないものは空き番である」3から、あらかじめ傘下組合ごとにおおよその番号を割り当て、

実際には各組合により個々に付与されたことがうかがえる。番号付与について沼崎は「組合 内部において「西南部」では、製陶工場の所在する地域ごとに、「土岐津」・「妻木」・「瑞浪」

では、組員の「氏名」の五十音順に、「駄知」・「恵那」では同一姓にまとめて番号を付けて いる」との見解を示しており、各組合によって付与の方法が異なっている様子がうかがえる。

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