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はじめに

これまで国際社会は様々なアプローチによって開発途上国の開発を試み、その主な方法として用い られてきたのは援助であった。国際社会の膨大な努力によって、貧困問題をはじめとした開発問題は、

確かに解決の方向へ改善されてきた。しかし、その援助によるアプローチでは、経済的アプローチに しても、社会開発アプローチにしても、開発途上国が受け身のままでは、持続的で自立した成長に繋 がることがなかったことは国際社会の経験上明らかである。加えて開発途上国の状況は国によって異 なり、全ての開発途上国に適用可能な開発アプローチを構築することは難しい。これらの経験を踏ま えて、国際社会はより持続的で多面的なアプローチの重要性を認識している。そして、それを実現し ようとする一つの手段がビジネスによるアプローチである。

開発途上国の状況を見ると、都市部の開発が優先され、農村部は経済発展から取り残されてきた。

しかし、開発途上国においては大多数の人々は農村部に居住し、開発途上国の課題はその根源を農村 部の課題の中に見いだすことができる。そのため、開発途上国の成長は農村部の成長なくしては達成 されないのである。しかし、その農村部において、中心的な事業の形態は小規模な農業や零細事業に すぎない。その農村部における零細事業を成長させる手段として、農村部の零細事業のビジネス化が 必要なのである。

本章では、これまで行われてきた経済開発アプロ−チと社会開発アプローチ、そして多面的な開発ア プローチの手段としてのビジネスについて述べていく。そして、その対象とすべき地域として、開発 途上国の農村部と、その中心的な生産手段となる零細事業について述べる。

2-1 経済社会開発アプローチ

第2次世界大戦後多くのアジアやアフリカの国々が独立し始め、多くの旧植民地諸国の開発問題が、

国内問題から国際問題として取り上げられるようになった。そのきっかけとなったのは、1959年、英 国ロイド銀行会長オリバー・フランクスが、「先進工業諸国と低開発地域との関係は、南北問題として 東西対立とともに現代の世界が直面する二大問題の一つである」と述べたことからであった。

国家開発の重要な要素として、経済発展が必要であることに対して異論を唱える者はほとんどいな いだろう。戦後から1960年代まで、北の豊かな国々は、南の貧しい国々を発展させるために、工業 化による経済発展を促すことが重要であると考えられた。そして、「途上国は、順次自立経済成長へ離 陸するために、発展の一連のルールに従えばよいだけである」とされた(トダロ、2004)。一方、ヌ ルクセ(1955)によると、途上国が貧しいのは、資金と技術が不足しているためであり、その理由は、

「貧しい」故に貯蓄が不足し、投資が不足していること、また、途上国では人びとの財やサービスの 購買力が低く、市場が発達していないためであるとされた。開発途上国を発展させるために、開発に 必要な資金と技術を、先進国が供給することによって、実現しようとするものであった。そして、経

済規模が拡大し、その利益が国全体にトリクル・ダウンし、貧困層にも成長の恩恵を行き渡らせるこ とができると考えたのである。

1960年代には、米国ケネディ大統領の提唱による「国連開発の10年」が決議され、開発途上国に 対する開発目標を定め、開発途上国への援助が行われた 。第1次国連開発の10年の具体的目標とし て、途上国全体のGNP成長率を5%以上とするという経済指標による目標が掲げられた。本目標に ついては、成長率6%を達成し、引き続き第2次目標(1970年代)では成長6%、第3次(1980年代)

では 7%という目標を掲げていたことからも、当時の開発問題は経済開発を念頭に置いた問題意識が 強調されていたことが明らかであった。しかし、第4次(1990年代)以降の開発目標は、持続可能 な開発や人間中心の開発を重視する貧困緩和や地球環境保全といった、従前の目標とは明らかに異な った意識が強調されてきた。

次に、1980年代になると、世界銀行や国際通貨基金(International Monetary Fund: IMF)を中 心に、途上国の債務危機の原因は、途上国政府の経済政策の失敗と制度欠陥であり、過剰な政府介入 の排除と規制撤廃、国営企業の民営化と市場経済メカニズムにまかせた経済活動によって効率的な経 済構造に変化するべきとの主張がなされた。ここでも、経済開発を強く意識した開発アプローチが採 用されており、しかも従前の開発アプローチでは、先進国から開発途上国に対する援助という手法が 用いられていたが、加えて開発途上国自身の自助的アプローチに言及されるようになったといえるだ ろう。しかし、これに対しては、社会的弱者への影響が大きく、生活必需品の価格高騰や、国営企業 の効率化に伴う失業者増加、緊縮政策による経済停滞など、弱者への影響が大きいとの批判が起きた。

また、途上国では市場が十分発達していないため、市場原理や価格機能が適切に機能するかどうかに ついても疑問が提起された。1990年代後半には、援助の条件として開発途上国に対して、貧困削減戦 略文書の作成とその実施を付し、当事国の自助努力を促すと言ったアプローチも採用された。

開発途上国には、経済発展が重要であるとの考えから、工業化や市場メカニズムによるアプローチ が採用されてきた。しかし、現在に至っても、低い生活水準のなかで生活している人びとは多く存在 しており、貧困撲滅は達成できていない。これまでの経済発展による開発だけでは不十分であり、人 的資本やインフラへの持続的な投資、制度能力の改善といった多面的な視点からの開発アプローチも 必要であると考えられるようになった。

工業化による貧困削減政策が試みられる一方で、経済成長の影響が貧しい人びとに届いていないと いう批判も誕生した。ここから誕生したのが、1970年代のベーシック・ヒューマン・ニーズのアプロ ーチ(Basic Human Needs: 以下BHN)である。BHNアプローチは、人間として最低限必要な食料や 栄養、基本的な社会サービスを貧困層に効果的に届くような方法で供与しようとする。こうして初め て、開発援助に社会的な視点が取り入れられた。

先進国による援助疲れが表面化したのも、この時期である。60年代の独立から続く支援や1970年 代の2度にわたる石油危機によって先進国の歳出がかさみ、人々の間で援助に対する不信感が続出し た。環境問題への着目は、1980年代の大きなトレンドといえるであろう。工業化による所得向上を目

指していた途上国で、森林伐採や水質汚染などの問題が提起され、各地で反対運動などが起きた。

1990年に始まったUNDPによる人間開発報告書(Human Development Report: HDR)は、「人間 開発」という新たな概念を生み出した。人間開発では、開発の中心に人間的な発展を据え、そのため に教育や健康などの充足が欠かせないと考える。それを測定するために考えられた人間開発指標は、

国民所得、識字率と就学率、平均余命を基に算出された。しかし時間が経つにつれ、この3つだけで は不足であるとの批判も生じている。そのためUNDPは2010年からMPIを用いるようになった。

人間開発指標が取り扱う項目についても拡大され、格差問題、ジェンダー問題、資源の分配問題、環 境問題、人間の安全保障問題、雇用問題など幅広い項目が網羅されている35

こうした流れを踏まえて登場したのが、2000 年の「ミレニアム開発目標36」(Millennium Development Goals: 以下MDGs)である。MDGsでは貧困撲滅を念頭に、包括的な目標を定め、そ れぞれに子細な指標を設定した。2015 年に登場したのは、17 の目標を掲げた持続可能な開発目標

(SDGs)である37。SDGsはこれまでのミレニアム開発目標をさらに包括的かつ細分化している。

経済的アプローチも、社会開発によって多面的なアプローチがされるようになっても、開発途上国 が受け身となったままでは、開発途上国の自立的な成長へはつながらず、根本的な開発にはならなか った。そのため開発途上国が、自立的な成長をしていくためには開発途上国が自ら参加して持続的な 発展を遂げるようなアプローチが必要であり、その手段としてビジネスによるアプローチが重要視さ れるようになった。

2-2 開発とビジネス

2-2-1 開発アプローチとビジネス

これまで国際援助は、主に国家間、または、国際機関といった公的機関による援助が議論の中心で あった。しかし、90年代以降東西冷戦の終結とともに米国やヨーロッパ等の先進諸国による途上国援 助は縮小の方向へと向かった。たしかに、国際援助は開発途上国の開発に貢献してきた。しかし、従 来の開発援助はその特質上、援助側の都合によって左右される。イースタリー(2009)は、援助は貧し い人々が必要とするものを供給できるし、新しい機会を与えることができるとしながらも、援助が途 上国の最も貧しい人々へのニーズには目を向けられず、届いてこなかったことが問題であるとする。

これまでの援助側の都合による援助は、その成果が重視されてこなかったという指摘である。また、

援助が受入国の自立を阻み、市場の成長機会を奪うものであるとも主張する。イースタリーによれば、

35 UNDP(2014).

36「目標1:極度の貧困及び飢餓の撲滅、目標2:初等教育の完全普及、目標3:男女平等及び女性の地位強化の推進、目標4:乳幼児死亡率の 削減、目標5:妊産婦の健康の改善、目標6:HIV/エイズ、マラリアなどの疾病の蔓延防止、目標7:持続可能な環境作り、目標8:グローバル な開発パートナーシップの構築を指す。

37 目標1:貧困をなくそう、目標2:飢餓をゼロに、目標3:全ての人に健康と福祉を、目標4:質の高い教育をみんなに、目標5:ジェンダー 平等を実現しよう、目標6:安全な水とトイレをみんなに、目標7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに、目標8:働きがいも経済成長も、

目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう、目標10:人や国の不平等をなくそう、目標11:住み続けられるまちづくりを、目標12:つくる責

任つかう責任、目標13:気候変動に具体的な対策を、目標14:海の豊かさを守ろう、目標15:陸の豊かさも守ろう、目標16:平和と公正をす べての人に、目標17:パートナーシップで目標を達成しよう

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