• 検索結果がありません。

はじめに

農村におけるビジネス化はあらゆる地域で行われている。本章では、零細事業のビジネス化が農村 の開発につながる可能性について、先行事例を用いて確認を行う。これらは全て、農村において既存 の零細事業のビジネス化を行い、雇用を生むことでコミュニティの収益の向上や人々の所得の向上に 成功した例である。ここで行う事例研究をもとに第5章で成功要因の検証を行い、カンボジアの零細 事業にあてはめて検証するため、条件が比較的近いと考えられる東南アジア諸国の例で、フィリピン、

ベトナム、カンボジアの事例を選出した。まず、3-1 では、農村のビジネス化について定義づけを試 みる。次に、3-2 ではフィリピンで廃棄されるココナッツの皮から土木工事などに使われるジオテキ スタイルを主に生産するココテクノロジー社を取り扱う。続く3-3では政府と企業、組合が協力し生 産者の所得向上に成功したベトナムのラタン産業における事業化について述べる。最後の3-4では、

農村の手工芸品生産者を雇用し、高品質なシルクや彫刻などを生産し、観光客向けに販売しているカ ンボジアのアーティザン•アンコールの事例を検証する。

3-1 農村部零細事業のビジネス化

外部者の働きかけによって、農村の市場に不足しているモノを満たすための手段として、零細事業 のビジネス化が有用であると考えられる。ビジネス化とは、商品価値として高い潜在性をもった物を 見出し、それに付加価値をつけ、効率的な生産•供給を目的に生産者を組織化し、持続的な利益の獲 得を目指すことである。この中で最も優先順位が高いのは組織化である。組織とは、広義においては

『おのおの独立した諸部分が、それぞれ特定の機能•行動•部署をもち、かつ全体の有機的な関係を保 持しながら、当該部分を整備ないし、構成した状態もしくは様態』(安部、1963)であるとされてい る。それを産業に適用すると「組織は企業の各成員が遂行されると期待される役割を規定し、そして これらの成員たちの相互関係を規定し、彼らの共同的な努力が、企業の目的に最も効果的であるよう にすることである。」(安部、1963)つまり、生産者の組織化とは、個々を一つにとりまとめることで、

製品の市場への供給量や価格を調整し、品質管理を改善させ、仲介人との交渉を可能にし、事業活動 を継続性のあるものにすることである。そうすることによって個人が最も効果的に役割を果たし、組 織を後ろ盾とした高い信頼性をもって、資金調達や価格交渉の面で有利な状態に立つことができるの である。組織化は、農村部の零細事業に不足している要素を補い、その産業に従事する人々の能力が 有効に活用される有効な手段であると言えよう。

ビジネスを成立させるためには、その事業を持続的に収益性のあるものにしなければならない。収 益確保の大前提として不可欠であるのが顧客で、その顧客の創造と、市場の開拓及び拡大のためには 商品開発や市場の調査、広告宣伝活動を行っていく必要がある。本論文においては、農村の零細事業 を組織化し、マーケティングの要素を補填することによって収益のあがる事業化を行うことをビジネ

ス化であるとする。

貧困人口の大多数は農村部に居住している。彼らは貧しい地域が貧しいままである理由と共通する ように、社会的チャンス−資源を使いこなす為の能力、知識や技術、それらを得るための教育の機会、

健康、健康に過ごす機会(セン、2002)の不足によって貧しいままなのである。農村のビジネス化に よって、それに関わる農村の人々は新たな知識、より高い技術、資金、もしくはより高い所得、そし てインフラの整備や、保健衛生の知識、管理、そして彼らの子供への教育に影響を受けるだろう。農 村のビジネス化とは、農村における貧困を根本的な原因から脱却させる可能性がある、多面的なアプ ローチができる手段として重要なのである。

3-2 フィリピンにおけるココナッツ産業の事例

フィリピンのビコール地方を中心に事業を行うココテクノロジー社(Coco Technology

Corporation: 以下CTC)は1994年に、ビコール大学の農学部長であったジャスティノ•アルボレダ

によって創設されたジュボーケン社(Juboken Enterprise)を前身とする会社である。CTCは廃棄 されるココナッツの皮を使って、ジオテキスタイル49という排水シートを中心に生産、販売している。

CTCの設立のきっかけとなったのは、1990年代はじめにアルボレダがビコール地域で開始したコ コナッツ農家に関する調査であった。カブレド(2009)によれば、その背景は、フィリピンの農地の67% をココナッツ農園が占めるほどココナッツ生産が盛んでありながらも、従事者の多くが貧しい状況に あったこと、そして同じくココナッツ生産の盛んなビコール地域50がアルボレダの出身地であったこ とによる。

ビコール地方はルソン島南部のビコール半島とその周辺の島々で構成されており、人口は約580万 人(2015年)の地域である51。ビコール地方は国内10の地域のうちで3番目に貧しい地域であり、2000 年には、全世帯中46%、人口の53.1%が貧困層であるとされた(カブレド、2009)。また、特に農村部 での貧困率が高く、79.6%の世帯、全人口の79.9%が貧困層とされる。中でもとくに貧しいのがココ ナッツ農家であった(カブレド、2009) カブレド(2009)によると、フィリピンのココナッツ農家約 350万軒が国内の貧困層の約2割を占める。

49ジオテキスタイルは、道路や土地の埋め立ての際に使用する物である。主に、ジオグリッド、ジオネット、織布、不織布などの免状補 強材であり、土壁や盛り土の補強に用いられる。それを用いた工法をジオテキスタイル工と呼び、それには補強土壁工法、補強盛土工法 などがある。急勾配の土地で土嚢等とともに補強材として敷き詰められたり、一般道路では、盛り土の中に敷き詰められ、盛り土全体を 強化したりするために用いられる。(国土交通省、2017)。

50ビコール地方のココナッツ生産量は国内10地域中4番目に生産量が多く、フィリピンココナッツ局(Philippine Coconuts Authority)に よると2009年のココナッツ生産従事者数は29万人であった。

51 Philippine Statics Authority(2017).

図2-2-1 フィリピン、ビコール地域の地図

出所:旅のもとZen Tech、2017、フィリピン白地図。

http://www2m.biglobe.ne.jp/ZenTech/world/map/philippine/Philippines_Outline_Map.htm (201785日)

アルボレダの調査の結果、ココナッツ生産農家の貧困の一因として、ココナッツ生産に関する政府 の支援や研究が行われてこなかったことがある。政府による投資は主に米やトウモロコシに対しての もので、ココナッツ農家は乏しい農業技術やノウハウしか得ることができず、台風による地滑りや洪 水被害などで深刻な被害を受けることも多かった。また、目先の収入を確保するためにココナッツの 木を木材として売り、その後の収入源を確保できずに慢性的な貧困に陥る場合もあった。

そこでCTC が目をつけたのはココナッツの皮である。果肉やオイルと違い、従来ココナッツの皮 はそのまま廃棄されるか、焼却処分されていた。その量は年間約60億キロにも上り(カブレド、2009)、 国内の産業廃棄物の中で、最も大きな割合を占めていたのである。また、焼却の過程で排出される二 酸化炭素も、環境汚染の一因であった。

アルボレダは貧困率の高いココナッツ農家で、環境問題も引き起こすココナッツの皮を生産的に使 うための調査研究を行うために、政府の主要な調査、開発機関である国際調査開発センター

(International Development and Research Center:IDRC)52に提案し、承認された。

その結果明らかになったのは、ココナッツの皮の35%が繊維、残りの65%がピート53であることで ある。この繊維は、フィリピンで伝統的に行われてきた編み物の技術を利用して、より糸やロープに することができ、また、それを網状に加工することができる。加えてココナッツ繊維は微生物によっ て完全に自然に分解され、植物が土壌に堅く根付く速度を促進する性質がある。その上、水分吸収に 優れ、水分保持の許容量も大きく、それが浸食の原因となる急激な水の侵行を防ぐこと、自然に発根 するホルモンを持っていることも明らかになった。すなわち、ココナッツの皮は侵食を防ぐジオテキ スタイルの生産の原材料に極めて適した素材だったのである。また、ココナッツの皮を原料としたジ オテキスタイルは、輸入されている既存のジオテキスタイルよりも安い。公共事業や工事では一般に 合成物で作られた物を用いてきたが、環境面においてもココナッツの皮を原料としたジオテキスタイ ルの方が優れていることが確認された。

ココナッツ繊維の用途の研究によって、ココナッツの皮が収入向上に寄与する可能性が見出され、

CTCは農家グループや農業協同組合に対して、本事業への参加を呼びかけた。しかし、未だ収入向上 に寄与するという実証のなかった事業に賛同する農家や農業協同組合はほとんどなく、アルボレダは 自己資金や友人の協力からおよそ7000ドルを調達し、会社を設立した。

アルボレダはビコール地域の10の生産者世帯を迎えてスタートしたが54、同時に全ての工程におい て、コミュニティ全体を巻き込む事業をデザインした。(Ganchero and Manapol、2007)によると、

その仕組みは次のようにまとめられる。

1. ココナッツ農家から1つの皮につき、0.03ドルで買い取りをする。

2. 皮むき機を使って繊維とピートに分ける。

52カブレド(2009)による。現在、同名の機関は確認できない。

53ピートとはココナッツの皮を粉砕する過程で、ココナッツ繊維と分離され粉末状の繊維であり、園芸資材に用いられることが多い。(国 際緑化推進センタ−、2016)

54拠点をビコール地域に絞ったため、後に地元の銀行から2000ドルの融資を受けている。

関連したドキュメント