3-1はじめに
本研究では、予備調査として、IT技術者に対して引継ぎに関する実態のアンケート調査・
分析を行った。その結果に基づいて、インタビュー質問項目を作成し、主にitSMF Japanの 分科会の座長・副座長を経験している運用マネジャーに対するインタビュー調査・分析を 行い、運用が求める引継ぎモデルを作成した。次に運用マネジャーのインタビュー分析・
結果に基づいて、インタビュー質問項目を作成し、プロジェクトマネジメント有資格者の プロジェクト・マネジャーに対するインタビュー調査・分析を行い、引継ぎモデルおよび プロジェクトマネジャーの引継ぎの能力モデルを完成させた。
以下に本章で提示する引継ぎの調査・分析の流れについて示す(図3-1)。
図 3-1 引継ぎの調査・分析の流れ
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3-2IT 人材に対する引継ぎのアンケート分析
アンケート調査の概要 3-2-1
本研究では、ITサービスマネジメントの有資格者(IT技術者)に対して、主に成果物(プ ログラムや各種ドキュメント)の引き渡しについて、表3-1のようなアンケート調査を 行った(三宅・内平,2016)。本調査は、運用マネジャーに対するインタビュー調査の予備 調査である。
アンケート項目は、ITILサービストランジション(AXELOS,2011b)の運用段階で上流 から得るべきインプット例(表2-5(28頁))を参考にして作成した。アンケート調査は、
2015年3月~2015年7月の間に、ITサービスマネジメントの有資格者96名に対して実施 し、回答者がもっともよく対応している引継ぎの実態について回答を得た。回収したアン ケートの中で、「引継ぎの経験なし」と回答したものと、回答に不備があるアンケートを集 計対象から外し、68件(名)の回答に対して、集計・分析を行った。
(アンケート用紙は、付録Aを参照のこと)
表 3-1 アンケート調査の概要
項 目 内 容
アンケート期間 2015 年 3 月から 2015 年 7 月 アンケート対象者 ITIL ファンデーション資格取得者49
アンケート収集方法 アンケート用紙に記入してもらい回収する(無記名)
アンケート件数 96 件(有効回答数:68 件)
アンケート項目 1.経験がある段階
2.価値ある IT サービスのために重要だと思う段階 3.開発から運用へ引継ぐ成果物
顧客の IT サービスに対するビジョンとミッション、顧客の IT サービ スに対する戦略、戦略計画、方針、顧客の運用に関する予算、IT サー ビスの構成情報、各種設計書(運用設計書含む)、運用計画書 IT サービスのトラブル時の復旧手順、SLA、IT サービスの既知のエラ ーに対する対応方法、運用時のサービス要求(教育、クレーム、要望 などインシデント以外のユーザの対応)に関する対応方法、顧客の情 報セキュリティ方針、運用開始後に確定している変更(リリース)ス ケジュール、顧客のシステムに対する需要(利用頻度)
4. 開発時に蓄積した知識と情報の引継ぎ
49 ITILファンデーションは、ITILの基礎的なスキルを得たことを試験によって認定した者に与えられる 資格である。
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アンケートの分析 3-2-2
「アンケートの回答者が経験したことがある段階」、「アンケート回答者が価値あるITサ ービスのために重要だと思う段階」および「開発から運用へ引継ぐ成果物」についてアン ケートの結果を示す。
(1) アンケートの回答者が経験したことがある段階
アンケートの回答者が経験したことがある段階(図3-2)として、情報システム戦略 策定段階は10%(7名/68名)、情報システム設計・開発段階は68%(46名/68名)、構築
(移行)段階は84%(57名/68名)、運用段階は97%(66名/68名)であった。アンケー トの回答者は、構築や運用など下流工程の経験者が高い割合であった。
図 3-2 アンケート回答者が経験したことがある段階
(2) アンケート回答者が価値ある IT サービスのために重要だと思う段階
アンケートの回答者は構築や運用などの下流工程の経験者が高い割合であったが、「価値 あるITサービスのために重要だと思う段階」は、戦略や設計(開発)など上流工程だと74%
が回答した(図3-3)。
図 3-3 アンケート回答者が価値ある IT サービスのために重要だと思う段階
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(3) 開発から運用へ引継ぐ成果物
アンケート調査結果を、「開発が活用した成果物」、「運用が活用する成果物」、「サービス に関わる成果物」および「IT戦略策定段階で作成する成果物」に分類した(図3-4)。分 類ごとに「成果物を作成し、説明後に提出する」と「成果物を作成し、引継いでいる」を 選択した回答の平均値を示した。
図 3-4 開発から運用が引継いでいる成果物の順位
(4) 開発時に蓄積した知識と情報の引継ぎ
本アンケート調査は、成果物の引継ぎだけではなく、開発者の知識(ナレッジ)と情報 に関する引継ぎ(成果物以外に運用側にITサービスや顧客に関することを伝える)につい て調査した。その結果、回答者の79%が「特に引継いでいない」と回答した(図3-5)。
図 3-5 開発時に蓄積した知識と情報の引継ぎ
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アンケートの考察 3-2-3
図3-4(44頁)は、「開発が活用した成果物」、「運用が活用する成果物」、「サービスに 関わる成果物」、「IT戦略策定段階で作成する成果物」の順で、開発から運用に成果物が引 継がれていることを示している。アンケート調査対象の成果物を開発プロジェクトが作成 をしていない件数についても、引継いでいない件数に含まれるが、開発プロジェクトから 運用担当に引継いでいる成果物の順位は変わらない。
本順位は、図3-3(43頁)で43%が価値あるITサービスのために重要な段階だと回答 した戦略段階に関わる「IT戦略策定段階で作成する成果物」や運用段階における価値創出 のために必要と考えられる「サービスに関わる成果物」が下位になっているため、運用担 当が求める成果物の順位と本順位が同位であるとは考え難い。そのため、運用マネジャー に対して、引継ぎに対するインタビュー調査を行い、引継がれている成果物の実態につい て調査・分析を行う。
インタビュー調査では、成果物のような形式知だけではなく、開発者から運用担当者へ 人から引継ぐ知識の実態も明らかにする。アンケートでは、「その他」に分類している「開 発時に蓄積した知識と情報」が人の知識に関する引継ぎの質問である。アンケートの結果、
「開発時に蓄積した知識と情報」は、79%が引継いでいないという回答であった。本件に関 してもインタビュー調査を行い、開発から運用への引継ぎにおける形式知に関わる成果物 だけではなく、暗黙知に関わる人の知識移転について分析する。
梅本(2012)は、知的能力(Power)、知的過程(Process)、知的成果(Product)の3 つの
「知」の理解から、ナレッジマネジメントの新たな理解を導き出すことができるとしてい る。アンケーと調査・分析では、情報システム開発の引継ぎにおける暗黙知に関わる人の 知識(People)、形式知である成果物(Product)そして引継ぎの実践(Process)について、
具体的に示すことはできなかった。そのため、People・Process・Productについて、運用マ ネジャーのインタビュー調査を行い、更に具体的に分析をする。
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3-3運用マネジャーに対する引継ぎの調査
運用マネジャーに対する引継ぎの調査の概要 3-3-1
開発から運用段階への引継ぎは、「時間」(表1-3(3頁))、「方法」(表1-4(4頁))
および「資料」(表1-5(4頁))のように標準や基準が決まっていない組織が多くある。
さらに、受注型のプロジェクトから引継ぐ運用担当には、運用タイプ別の引継ぎの流れ
(図1-1(2頁))のような3つの運用タイプがあるため、引継ぎの一般的な手順を定め ることは難しい。
本研究では、プログラムやドキュメントなどの形式知である成果物(Product)、暗黙知に 関わる人の知識(People)、そして引継ぎの実践(Process)について、インタビュー調査を 行った(三宅・内平,2016)。インタビューは、アンケート調査の回答者の97%が経験して いると回答した運用段階のマネジメントを行う運用マネジャーを対象者とした。運用マネ ジャーのインタビューの目的、対象者と時間、インタビューの質問項目について以下に示 す。
(1) 運用マネジャーに対する引継ぎの調査の目的
本インタビューの目的は、アンケートの調査結果を更に具体化することである。引継ぎ に対する形式知であるProduct(プログラム、ドキュメントなど)、暗黙知に関わるPeople
(顧客、開発プロジェクト、運用担当)、引継ぎの実践としてのProcessの調査を実施し、
運用マネジャーから見た引継ぎの実態を調査・分析する。
(2) インタビュー項目
インタビュー項目は、3つの運用タイプの経験の有無の確認と、Peopleに関する質問とし て3問、Productに関する質問として6問、Processに関する質問として2問の計11問を作 成した(表3-2(47頁))。(インタビュー用紙は、付録Bを参照のこと)
Peopleに対するインタビュー項目は、開発時に蓄積した知識と情報の引継ぎ(図3-5(44
頁))に対して、回答者の79%が「特に引継いでいない」と回答した実態を確認するために 設定した。A1は、会話によって引継ぐ知識や情報の有無を確認する。A2は、人による知識 を移転する環境について確認する。A3は、知識を移転するタイミングについて確認する。
Productに対するインタビュー項目は、開発から運用が引継いでいる成果物の順位(図3
-4(44頁))の実態を確認するために設定した。B1は、引継いでいる成果物を確認する ために設定した。B2とB3は、顧客および運用担当者にとって価値がある成果物を確認す るために、引継いでいる成果物の運用段階における活用状況について確認するために設定 した。B4は、開発段階で開発者が作成するよりも運用段階で運用担当者が作成した方が望 ましい成果物の有無を確認するために設定した。B5は、運用段階で顧客と運用担当が価値