4-1はじめに
本研究は、図4-1のように準備段階1の「PMコンピテンシー評価シートの開発」、準 備段階2から準備段階4の「PMコンピテンシー評価シートを活用したPM教育」および「開 発から運用への引継ぎのワークショップ」の開発・実践と効果測定の流れで進めた。先行 研究が少ない「引継ぎ」のコンピテンシー評価シートとワークショップの開発に対して、
先行研究が多数あるプロジェクト・マネジャーの教育を参考にした。
「PMコンピテンシー評価シートの開発」では、先行研究に基づいて、情報システム開発 のプロジェクト・マネジャーに必要とされるコンピテンシーを定義したPMコンピテンシー 評価シートを開発した。「PMコンピテンシー評価シートを活用したPM教育」では、PMコ ンピテンシー評価シートをワークショップ、個人の自己評価、組織によるPMの人材育成に 活用した
これらの準備段階を踏まえ、「開発から運用への引継ぎのワークショップ」では、[第3 章 開発から運用への引継ぎの分析]と準備段階の成果に基づいて、コンピテンシーを可視 化しながらプロジェクト・マネジャーの引継ぎの能力を高めるワークショップの開発・実 践を行った。さらに、プロジェクト・マネジャーが、顧客のプログラムの一部であること と、顧客および運用担当に成果物だけでなく、開発に関わる知識を顧客と運用担当に引継 ぐことをワークショップによって内省することができるか測定した。
図 4-1 プロジェクト・マネジャー育成の分析と実践の流れ
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4-2PM コンピテンシー評価シートの開発
本研究では、プロジェクト・マネジャーに必要とされるコンピテンシーを定義したPMコ ンピテンシー評価シートを開発した(三宅,2014)。
PM コンピテンシー評価シートの構成 4-2-1
本研究では、PMCDF(PMI,2007)を参考にし、208項目のチェック項目からなる情報シ ステム開発のプロジェクト・マネジャーのコンピテンシーの評価を行うPMコンピテンシー 評価シートを開発した(図4-2)。本シートは、実践力に関するコンピテンシーのチェッ ク項目について118項目(表4-1(81頁))、人間力に関するコンピテンシーのチェック 項目について90 項目(表4-2(81頁))から構成されている。回答者は、項目ごとに 5 点から 0点までの得点を設定した 5つの選択肢から、自身の状況にもっとも合った選択肢 を表4-3(81頁)のように回答する。
(PMコンピテンシー評価シート(評価結果)は、付録Fを参照のこと)
図 4-2 PM コンピテンシー評価シートのチェック項目(抜粋)
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表 4-1 実践力に関するコンピテンシーのチェック項目(5/118 項目を抜粋)
No. チェック項目
1 プロジェクトが組織の目的と顧客のニーズに整合していることを理解している 2 プロジェクトのスポンサーとプロジェクトの整合性に関して合意している 3 主要なステークホルダーのプロジェクトに対するニーズと期待を明確にしている 4 製品またはサービスの特性を明確化している
5 プロジェクトの立上げ段階で前提条件と制約条件を明確化している
表 4-2 人間力に関するコンピテンシーのチェック項目(5/90 項目を抜粋)
No. チェック項目
1 ステークホルダーの話を積極的に傾聴している
2 ステークホルダーの期待、懸案事項、課題について確認し、合意している 3 合意したステークホルダーの期待、懸案事項、課題に対応している 4 ステークホルダーのニーズを理解した行動をしている
5 ステークホルダーに情報を積極的に発信している
表 4-3 PM コンピテンシー評価シートチェック項目の選択肢と得点
選択肢 得点
チェック項目を実践し、かつ指導できる 5 点
チェック項目を実践している 4 点
チェック項目を他者の指導のもとに実践している 3 点 チェック項目をイメージすることはできるが実践したことはない 2 点
チェック項目をイメージすることができない 0 点
PM コンピテンシー評価シートの作成方法 4-2-2
2012年に、産業技術大学院大学(以下、AIIT72)において、筆者はPMCDF(PMI,2007)
を参考にしてプロジェクトマネジメントの研究を進めているメンバーとの議論に基づいて、
PMコンピテンシー評価シートを開発した。本シートのチェック項目の以下の作成手順の具 体例を図4-3(82頁)に示す。
[STEP1]PMCDF(PMI,2007)のパフォーマンス基準と証拠の形態から、組織として必要な パフォーマンス基準を選択する
[STEP2]パフォーマンス基準を満たしているか確認するチェック項目を作成する [STEP3]チェック項目を満たすための具体的な行動例を作成する
[STEP4]チェック項目を、PMコンピテンシー評価シートのチェック項目の形式に変更する
72 AIITは、Advanced Institute of Industrial Technologyの略である。
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図 4-3 PM コンピテンシー評価シートのチェック項目の作成ステップ
PM コンピテンシー評価シートによる分析 4-2-3
PMコンピテンシー評価シートは、表4-4(83頁)のように回答者の208項目のチェッ ク項目の回答による得点を、実践力のコンピテンシーの大分類 5 項目と人間力のコンピテ ンシーの大分類6項目ごとに集計する。本シートは、大分類の得点を最大値(得点)73で割 った割合と小分類の得点を最大値(得点)で割った割合を評価結果として示している。
実践力のコンピテンシーの小分類は、PMBOK(PMI,2013a)の知識エリアを設定してい る。人間力のコンピテンシーは、PMCDF(PMI,2007)の「要素」を参考に設定している。
図4-4(83頁)に「PMコンピテンシー評価シートのレイアウト」を示す。
73 最大値(得点)は、チェック項目数×選択肢の最高得点(5点)の値である。
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表 4-4 PM コンピテンシー評価シートの分類項目 実践力に関するコンピテンシー
大分類名 小分類数 チェック項目数 最大値(得点)
立上げ 2 13 65
計画 9 49 245
実行 5 15 75
監視・コントロール 6 27 135
終結 2 14 70
人間力に関するコンピテンシー
大分類名 小分類数 チェック項目数 最大値(得点)
コミュニケーション 4 12 60
マネジメント 3 12 60
認識力 4 17 85
問題解決力 4 16 80
リーダーシップ 5 15 75
プロ意識 5 18 90
図 4-4 PM コンピテンシー評価シートのレイアウト
PMコンピテンシー評価シートは、プロジェクト・マネジャーとして必要とされるコンピ テンシーを評価することができる。しかし、208項目を回答するには1~2時間程度を要す る。そのため、テーマが決まっているワークショップなど、チェック項目を抜粋して評価 したい場合は、PMコンピテンシー・チェックシートを活用する。PMコンピテンシー・チ ェックシートは、PM コンピテンシー評価シートから必要な項目を選択して作成する。PM コンピテンシー・チェックシートについては、[4-3-3 組織によるPMコンピテンシー評 価シートの活用]で詳しく述べる。
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4-3PM コンピテンシー評価シートを活用した PM 教育
PMコンピテンシー評価シートを活用したワークショップ、個人によるPMコンピテンシ ー評価シートの活用(個人(自己評価)における活用と検証)、組織によるPMコンピテン シー評価シートの活用(組織の活用モデルの作成)について示す。
ワークショップにおける PM コンピテンシー評価シートの 4-3-1
活用
PMコンピテンシー評価シートをワークショップで活用するワークショップ・モデルを作 成した。「開発から運用への引継ぎのワークショップ」は、本ワークショップ・モデルに基 づいて開発する。
(1) ワークショップにおける PM コンピテンシー評価シートを活用する効果
ワークショップを開催する前に、参加者がPMコンピテンシー評価シートを回答すると、
その評価結果は、「ワークショップのグループ分け」、「ファシリテーターのワークショップ 進行」および「参加者が自己のPMコンピテンシーを把握する」に対して活用することがで きる。以下にその活用の効果について示す。
a. ワークショップのグループ分け
PMコンピテンシー評価シートの分析結果は、ワークショップのグループ分けに利用する ことができる。コンピテンシーの分析結果は、ワークショップのテーマによって、コンピ テンシーが同程度の参加者をグルーピングすることや、グループごとに参加者のコンピテ ンシーのバランスを取ることに利用できる。例えば、参加者の「コミュニケーション」や
「リーダーシップ」のコンピテンシーを考慮して参加者のグループ分けをすることができ る。
b. ファシリテーターのワークショップの進行
ファシリテーターは参加者と初対面の場合があるため、参加者とコミュニケーションを 取りやすいワークショップの環境を作ることが必要である。ファシリテーターは、参加者 のPMコンピテンシー評価結果を事前に知ることで、参加者のコンピテンシーに応じた対応 をすることができる。
c.
参加者が自己のPMコンピテンシーを把握するワークショップの参加者は、自己のPMコンピテンシー評価結果を把握し、自己の弱点を 認識してワークショップに参加することができる。ワークショップの中で、参加者は認識 した自己の弱点を強化するように発言することで、自身のPMコンピテンシーを強化する。
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(2) ワークショップ・モデル
プロジェクト・マネジャーのコンピテンシーを高めるためのワークショップ・モデルを 図4-5のように作成した。本モデルは、プロジェクト・マネジャーを対象としたワーク ショップに活用することができる。
図 4-5 ワークショップ・モデル
本モデルは、ワークショップを、以下の5ステップで進める。
[STEP1] ワークショップのテーマを定義する
[STEP2] 参加者のPMコンピテンシーを把握する
[STEP3] 知識コンピテンシーの向上のための説明をする [STEP4] 実践力のコンピテンシーの向上のための演習をする [STEP5] 人間力のコンピテンシーの向上のための議論をする
本ワークショップは、参加者のプロジェクト・マネジャーの経験を共有するために「議 論」を中心に行う。ワークショップは、参加者の実践力よりも経験による差が小さい「人 間力のコンピテンシーの向上のための議論」を中心に実施する。
以下に、ワークショップの流れを示す。
a. ワークショップのテーマを定義する
本モデルの最初のステップは、ワークショップのテーマを定義することである。「人間力 のコンピテンシー向上のための議論」に関するテーマを設定し、参加者を考慮した詳細な 内容を定義する。次に、ワークショップの目的や対象者、ワークショップに必要な環境を 決定し、参加者を募集する。