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針江地区の「カバタ」の排水系統と耕作地の水利,

ドキュメント内 景観の関係性の研究 (ページ 112-139)

共同体との関係性

1 本 章 の 目 的 と 構 成

本章では,重要文化的景観「針江・霜降 の水辺景観」を構成する三領域のうち,伝 統的居住域における,③針江・霜降地区の

「カバタ」に焦点を当てる。(図4-1)

具体的にはまず,針江地区における「カ バタ」の排水経路を明らかにし,前章で明 らかになった針江地区の耕作地水利に関 する諸関係性と対照させ,それらの所有者 の属性との連関関係から,「カバタ」の排 水系統と耕作地の水利との関係性を明ら かにする。そして,居住域と耕作域の水利 の関係性を通して,集落内外における共同 体体制について考察する。

尚,針江地区の「カバタ」の種類別分布に関しては,先行研究である石川・濱崎論文(2008)に 記載の調査データを用いている。

重要文化的景観地区には,針江・霜降の二地区に跨がる領域の「カバタ」が含まれる。本研究で は,文脈論的アプローチを採用する上で,前章までの他景観要素(耕作地)との関係性を考察する 必要があるため,針江地区伝統的居住域の「カバタ」を対象とする。針江地区の「カバタ」は,保 存状況が良好であることでも知られている。霜降地区は,針江地区の「カバタ」の排水系統の上流 部に相当し,本章での重要な研究対象である。

本章の構成としては,まず第2節において,「カバタ」を概観する。具体的には,滋賀県の「カ バタ」の主要分布や,針江地区の「カバタ」の構造や種類,水路等の維持管理,住宅における配置 原則や,「カバタ」の役割を整理する。

第3節では,針江地区の「カバタ」の種類別分布について,所有者の属性の観点から,分析を行 う。まず,既往研究で明らかになった針江地区の「カバタ」の変成過程から,「カバタ」の種類間 の継承・淘汰に関わる関係性を考察する。そして,既往研究による針江地区の「カバタ」の種類別 分布を,その所有者の属性によって分類し,特徴を明らかにする。

4-1 第四章の研究対象地の範囲

第4節では,針江地区の「カバタ」の排水系統と,耕作地水利との関係性を明らかにする。最初 に,明治初期の絵図を用いて,地域的な水路の行程から,針江地区の伝統的居住域の排水系統を整 理する。その後,針江地区の「カバタ」の排水経路ネットワークにおける,隣組組織間の関係性を 明確化する。そして,耕作地水利との関係性と対照させる前提で,「カバタ」と耕作地の両方を所 有する対象者に限定し,「カバタ」と耕作地所有に関する,隣組組織ごとの特徴を明らかにする。

第5節では,針江地区の「カバタ」の排水系統と耕作地水利の関係性にみる,隣組組織・近隣集 落間の関係性を解明する。その際,「カバタ」の排水経路の川上・川下関係に着目し,中世の居館 と用水権の問題との連関関係を考察する。そして居住域と耕作地の水利システムから,集落内外の 共同体との関係性を考察する。

2 針 江 地 区 の 「 カ バ タ 」 の 概 要

2 −1. 滋 賀 県 に お け る 「 カ バ タ 」 の 概 要 カバタで用いられる湧水は地下 18~24mから自噴 する。水温は,年間を通して12度から13度で,水 路の水が混ざり合う所では,16 度位であるという。

比良山からの伏流水であるため,琵琶湖の水位変動 に関係なく,「カバタ」の水は枯れることがない1)。 針江・霜降地区には,各住宅の「カバタ」だけで なく,川や水路の中にも湧水点が存在する。「カバタ」

は必ずしも水路に面する必要はないが,その排水経 路は必ず,水路あるいは河川に接する。

滋賀県内には,かつての水路網を維持する集落が 数多く存在する。水路網に面する生活井は,地域に よって「ミズヤ」や「カバタ」と名称が異なるが,

基本的には半屋外,又は,屋外の小屋に設えられた,

炊事や下処理を目的とした生活井を指す。「カバタ」

は,一般的に,滋賀県湖西地方での呼び方とされる。

針江・霜降集落の南部,同じ新旭町に,太田という集落がある。安曇川伏流水を水源とし,水路 に放流され,琵琶湖へ至る点で,針江・霜降地区の「カバタ」と同様であるが,太田では「カワト」

と呼ばれ,その水は金気が強い。

「カワト」は,河川に石段の足場をつくって,洗い場にしたものを指すことが多い。滋賀県で「カ ワト」を有する集落は,他地域にも存在する。東近江市の「カワト」は,商家に付属して存在する。

県内の代表的な「カバタ」「カワト」分布を,図4-2に示す。

2 −2. 針 江 地 区 の 「 カ バ タ 」 の 構 造 と 種 類

針江地区の「カバタ」の構造とは,各家庭で地下に鉄管を打ち込み,湧水の湧き出た所を「元池

(もといけ)」,元池からくみ上げたところを「壷池(つぼいけ)」,壷池からあふれた水を溜めたと ころを「端池(はたいけ)」とし,最終的に水路へと放流するものである。各槽は用途が異なる。

元池は飲料水用,壷池は洗い物用で,生簀状に鯉等が放たれる端池では,残飯の処理が行われる。

「カバタ」は,必ずしも上記の順で構成されるものだけではない。元池の真上に壷池という形式 や,元池だけが屋外の離れた所にあり,壷池・端池と隣接しない形式など,異種の形式も存在する。

本論では,石川・濱崎2)の分類に沿って,「カバタ」を以下の4種類に分類する。それらの特徴 と構造は,表4-3のように整理される。

4-2 滋賀県の主な「カバタ」「カワト」分布

「内カバタ」は,主屋に取り込まれ,住宅の一部として存在する。「外カバタ」は,住宅の主屋 から切り離され,独立した付属屋として水路近くに設けられる。倉庫等,他の付属屋と併用される タイプや,主屋等の庇の下に設けられるタイプも,「外カバタ」に含める。そして,「内カバタ」,「外 カバタ」のいずれにも該当しないが,湧水を用いた生活井を「その他」とする。このような吹きさ らしの生活井を,「ろてん」と呼ぶ住民もいる3)。「その他」と「洗い場」は,共に屋根のない屋外 の洗い場を指すが,その差異は,「その他」は湧水を,「洗い場」は水路の水を利用する点にある。

4-3 針江地区の「カバタ」の種類と構造・特徴

2 −3. 針 江 地 区 の 「 カ バ タ 」 の 維 持 管 理 , 配 置 原 則 と 意 味 づ け

水道普及以前,集落の川は,炊事洗濯を始め,飲み水としても利用され,「使い川」や「里川」

と呼ばれた。川で洗い物をする際は,汚れ物は直接川では洗わず,汚れのひどいものは,予洗い後 のすすぎだけを行った。これは,「わきまえ」と呼ばれる集落での決まり事 4)であり,上流の者か ら下流の者への配慮であった。又,米のとぎ汁は家畜の飼料に混ぜ,風呂の排水は便所に持ち込ま れ,たい肥として利用されるなど,水は「養い水」として,生活のあらゆる場面で使い回された。

川の維持管理としては,年に4回行われる集落総出の川掃除がある。水路にはさまざまな藻類が 繁茂するが,川掃除では,生活水を浄化する役割を持つ梅花藻という水草を残して,他の藻類を刈 り取る。刈り取った藻は,たい肥として循環利用される。

針江地区の伝統的居住域に立地する住宅は,主屋を中心として,複数のはなれから構成される。

方位としては,大黒柱を中心に,表鬼門(北東)には「カバタ」や池,辰巳(東南)には便所,裏 鬼門(南西)には押し入れ,戌亥(北西)にはクラ(米倉)や,この地方に特徴的な高床の穀物用 倉庫,モノケ(物置)を配するのが良いとされた5)。最も低い北東に水場を,強風のある北西に堅 牢な構造物を配置するこの配置原則は,土地の高低差にかなった,合理的なものである(図4-4)。

針江地区の「カバタ」は,水の神として民間信仰の対象でもある。豊かで尽きることのない湧水 は,先祖と重ねられ,魂の再生の象徴とされる。「カバタ」のある多くの家では,正月に鏡餅,御 神酒,供花,御飯,お光り(ロウソク・灯明)を「カバタ」に供える。新年に初めて汲まれた若水 には,神の命が宿ると言われることから,元旦に「カバタ」の水(若水)を汲んで,「三宝荒神」

に捧げる風習がある6)

針 江 集 落 の 日 吉 神 社 は 水の神とされる。一方,秋 葉神社,小池集落の愛宕神 社は,火の神である。集落 では他にも,山の神や田の 神が崇拝され,それぞれ女 性の神,男性の神として擬 人化され,「オコナイ(神 事)」と呼ばれる,稲作文 化 に 根 付 い た 豊 穣 を 願 う 儀礼により祀られる。

4-4 針江地区のある「内カバタ」と主屋との平面的関係(小坂(2010))

3 針 江 地 区 の 「 カ バ タ 」 の 種 別 分 布 , 耕 作 地 所 有 と の 関 係 性

本節では,針江地区の伝統的居住域における「カバタ」の種別分布を,既往調査によるデータを 用い,その分布を隣組組織ごとに分類し,耕作地所有との関係性から整理する。

3 −1. 針 江 地 区 の 「 カ バ タ 」 の 変 成

針江地区の「カバタ」の起源は,明らかではない。針江地区の集落景観は,明治期(江戸末期)

の構造をとどめる土地(敷地・道・水路網など)と,戦前期の建物群によって構成され,住まい方

(屋敷利用・主屋の向き・湧水の利用)は,それよりも以前のものが継承されているという7)。 石川・濱崎2)は,平成20(2008)年に針江地区に存在するカバタの数は,個人所有の洗い場(「内 カバタ」24・「外カバタ」31・「その他」24)が79 箇所,共同の「洗い場」が12箇所,かつて存 在した「洗い場」が16箇所の,計107箇所であることを明らかにしている。

図4-5は,石川・濱崎2)による,変化や消失のあった針江地区の「カバタ」を,筆者がその変成 プロセスに着目し,模式化したものである。変化のあった「カバタ」の所有者の属性を表 4-6 に,

「消失カバタ」の消失以前の「カバタ」の属性を,表4-7にまとめた。

淘汰された「カバタ」には「内カバタ」が多い。主屋に付帯することで,主屋の更新に伴い,淘 汰されたと考えられ,更新後,独立棟の「外カバタ」となるものが多い。又,「外カバタ」は「そ の他」に変化するものが多い。はなれの「外カバタ」が,更新時,露天化したと考えられる。

石川・濱崎 2)は,「外カバタ」と「内カバタ」の新旧を結論づけることはできなかったとしなが らも,かつて,ほとんどの「カバタ」が「外カバ タ」だったという地元住民の情報を得たこと,霜 降地区において,国道161号線バイパス建設の際 に移住した人達が,移住先の主屋に「内カバタ」

を設けたという証言から,「外カバタ」が「内カ バタ」へ移行したという仮説を立てている8)

4-5 針江地区の変化した「カバタ」の変成過程

4-6 針江地区の変化のあった「カバタ」の所有者属性

4-7 針江地区の「消失カバタ」の消失以前の「カバタ」の種別と属性

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