\ \ 一
5 金属 製人形 につ いて
東一方大路西側溝か らは、多種多様 な祭祀用具が出上 した。 そのなかで、金属製人形 につい て は、天皇 。中宮 。東宮 の使 用 した祭料 と推定 され てい る遺物1)である。今 回の調査 で は橋
SX6420付
近 に集中 して分布 し、祭祀 に用い られた後、これ らが橋 の付近か ら溝へ投棄 された と 推測 され る。 この ような強い集中は、土馬 な ど他 の祭祀遺物 には見 られず、金属製人形 の特異 性 を示 してい る。 ところで、金属製人形 は従来、主 に平城宮 とその周辺 に分布の中心があった が、今 回 は宮か ら離れた地域で、銅製・ 鉄製合わせて17点と多量 に出土 した。 また、金属製人 形 は藤原京で も出土例が増加 してお り、 これ らも含 め、あ らためて金属製人形の性格 を検討す る必要が出て きている。 ここでは、別表11に まとめた平城京・ 藤原京な ど21地点か ら出上 した 計76点を対象 に、金属製人形 を考察す る。 なお、金属製人形 の素材 としては、金銅製、銅製、鉄製が知 られてい るが、金銅 は銅 に鍍金 した もので あるか ら、以下 の考察では、銅製 に含 めて 検討す る。
A 分 類
金属製人形 のなかで、銅製 については分類 があるりが、銅製 。鉄製 とも、形態・製作技術 に共 通点が多 く、あ らためて両者 を含 めて分類・ 整理す る必要が ある。
ここで は金属製人形 の分類基準 として、腕 の表現 を とりあげる。腕以外 に頸部や脚部 な ど外 形分類 の基準 にな りうる要素があるが、金属製人形 の外形 は、短冊状 の素材か ら、工具 を変 え ることな く一連 の工程で製作 してお り、実際 は腕 の表現方法 によってそれぞれの要素 も規定 さ れて くる。
腕 の表現 は次の
3種
に分類で きる。切 刻 腕 式
両側縁 の斜 めの切 り込 みで腕 を表現す る切込腕式。
無
腕
式
側縁 と下端 の小 さな三角形の切 り欠 きで腰 を表現 し、明瞭な腕 の表現が無い無腕式。
刻
腕
式
たがね による刻みで腕 を表現す る刻腕式。
切込腕式 は、頸部 は両側縁の三角形 の切 り欠 きで表現 し、脚 は下端 を長三角形 に切 り欠 くか、
縦 に切 り開いて作 る。無腕式 は、脚や頸部 も腰 と同様小 さな三角形 の切 り欠 きで表現す る。切 込腕 式 と無腕 式 には、工 具 にはさみ を用 い る場合 が
多 いが 、 素材 が厚 い場 合 にはたが ね を用 い る。刻腕 式 は、頸 部 の切 り欠 きが無 く、脚 は縦 の刻 みか切 り 開 くこ とに よって表 現 す る。工具 はたが ね を用 い る。
別 表 ■ に ま とめた よ うに、素材別 で は銅製人 形 は 切 込腕 式 と無腕式 、鉄製人形 は刻腕 式が多 い。 これ は、銅 は鉄 よ りも容易 に薄 く延 ばす こ とが で きる と い う素材 の特徴 を反映 した もの と考 え られ る。 つ ま り、薄 けれ ば、 はさみ を用 いて切 り欠 きをいれ る こ とが で き るが、厚 くな る と、はさみが使 えないた め、
196
刻 腕 式 無腕式
切 込腕 式
Fig 52 金属製人形 の形式
Fig.54 銅製人形 の実例
1.切
込腕式・ 飛鳥池2
無腕 式・ 平城 宮東南 隅3
刻腕 式 。藤原京右京七 条一坊たが ね で刻 み をいれ る ことにな る。 ちなみ にたがね を用 いて腕・
脚 を表現 した銅 製人形 も、素材 が厚 くな る傾 向が うかが える。
なお、顔 の表現 は銅 。鉄 ともに通常 たがね を用 い るが、銅製人 形 に は針 書 した もの もあ る。銅切込腕 式 は、 ほ とん どに顔 の表現 が あ るが、銅無腕 式 には無 い ものが多 い。鉄製人形 は頭部 の残 る ものすべ て に顔 の表現 が あ り、顔 を表現 す る ことが原則 だ ったの で あ ろ う。
B 年代・ 出土遺構
各金属製人形の年代 は別表11のように考 えられ る。沖の島例 に ついて も、藤原京期 を含む
7世
紀代後半 としてよいであろう。銅 製人形で は、切込腕式がその頃に盛行 した ことは明 らかである。また、平城宮東大溝出上の切込腕式
2点
は、出土層位か ら奈良時 代初頭〜前半の時期 におさまり、そ こでは無腕式 も共伴 している。一方、無腕式が
3点
出上 した二条大路上濠状遺構SD5100は、平城 宮土器 Ⅲの古段階(天平年間前半)に時期 を限定で きる資料で ある。以上 より、銅製人形 は、当初、切込腕式が主流であったが、天平 年間前半 には無腕式 に変化 していた と考 えられ るであろう。なお、
刻腕式 は、藤原京で1点出上 しているのみで、銅製人形 の主要形 式ではなかった ようである。
一方、鉄製人形 は銅製人形以上 に類例 に乏 しく、推移 を確実 に とらえるのが困難である。切 込腕式 は山梨県釈迦堂遺跡 に見 られ る。 ここで は美濃須衛古窯 の老洞
1号
窯や高蔵2号
窯の製 品 に近 い特徴 を持つ須恵器が共伴 し、年代 は8世
紀第1四半期 に位置づ けられ る3)。 また、無腕 式 は1例のみであるが、鋼製人形 と形態が まった く同 じである。類例 は少ないが、鉄製人形 の 切込腕式・ 無腕式 については、一応、銅製人形 と同様 な年代観 を想定 しうるであろう。刻腕式 の古い例 になる沖の島の鉄製人形 は、手の表現が残 っていないが、足 をたがねで切 り開いてお り、腰 の切れ込み も浅いので、この形式 と考 えた。したがって、鉄製人形の刻腕式 について も、銅製人形同様、
7世
紀後半か ら存在 した と考 えて間違いなかろう。刻腕式 には確実な奈良時代 前半の例がないが、出土点数や上述 した ような素材の特徴か ら、奈良時代 になると鉄製人形の 主流 は刻腕式 となった と考 えられ よう。金属製人形 の出土地 は、現在 の ところ藤原京 。平城京以外では、沖 の島 と釈迦堂 に限 られ る。
ただ し、 これ らの年代 は、ほぼ藤原京期〜奈良時代初頭頃 と考 えられ、その後 は平城京のみの 出土 となっている。 また、藤原京で は藤原宮の発掘面積が平城宮 ほどの割合 に達 していない こ ともあって、宮内の出土例が まだないため もあるが、京か らの出上が顕著である。 さらに藤原 京期で は、祭祀遺構・ 井戸・ 土坑 な どの溝以外の遺構か らの出土例が平城京 よ りも顕著 な傾向 がある。一方、平城京で は、宮外か らの出土 も増 えているが、宮内お よびその周辺が分布 の中 心である点 は変わ らない。出土遺構 はほ とん どが溝である。 また、銅製人形 は宮内外で出上 し ているが、鉄製人形 は、現在の ところ、宮内では出上 していない。
C
次 に法量 の特徴 に関 して検討す る。別表12は銅製人形の完形 もし くはそれに近 い ものの計測 値 をまとめた ものである。切込腕式 は、類例が少ないので一般的な傾 向 といえるか疑問 もある が、奈良時代 にはいると大型化す る傾向があるようである。切込腕式 と無腕式の比較で も、お おむね無腕式の方が、幅 は狭 いが全長 は長 い傾向がある。刻腕式の
1例
について も考慮す ると、藤原京期 までは全長が10 cm以下で、奈良時代 に全長が伸びる といえよう。
しか し、切込腕式 と無腕式 との違いは、単純 な全長・幅の差だ けではない。両者 の各計演1値 のば らつ きの程度 を見 るために、 それぞれの平均・標準偏差・変動係数(標準偏差
/平
均)をまと めたのがTab.27で
ある。変動係数 によ り、異 なる母集団のばらつ きの程度 を相対的 に比較す る ことがで き、変動係数が小 さいほ どば らつ きの程度が小 さい といえる。特 に全長 に注 目す ると、無腕式 は平均長が切込腕式 より長いにも関わ らず標準偏差 は小 さ く、変動係数 は切込腕式の3 分の
1程
度 になってい る。幅 にも同様 な傾向があ り、全体 として無腕式 は切込腕式 に比べ計測旦里 法
の 性 式 腕 格 征小 銅 規
値のば らつ きが小 さ く、 より規格化 されている といえよ う。全長 については、ほ とん どの製品が11.7〜
15.Ocmの
範囲にはい り、おそらく4〜 5寸
の規格 で作 られた と考えられる。 なお、宮東南隅の例 を見 ると、法量や顔 の表 現がほぼ一致す るものが
3枚
あ り、木製人形 について指 摘 された2枚 1組
の最低単位 の原則0は
、銅無腕式 には 認 め られそうである。 また、厚 さについて平均値で比較 す ると、無腕式が切込腕式 より薄い傾 向がある。これは、はさみによる力日工 をより容易 にす るため と考 えられ る。
一方、鉄製人形 は銅 より銹化・ 破損 しやす く、全長 を 推定で きる製品が少ない。 また、全長が推定で きる製品 は小型品が多 くなるので、統計的な処理がで きない。 こ こで は、破損品か らの予測 を述べてお く。
Tab.28は
、完 形 に近 い ものを参考 に、残存部 の法量か ら大 まかに破損Tab.27
銅製人形形式別計測値比較切込腕 無 腕
(長さ:cm)
平 均
標準偏差
変動係数 36.1% 12.3%
(幅 icm)
平
均 標準偏差
変動係 数 28.0% 13.5%
(厚さ
:mm)
平
均 標準偏差
変動係数 37.6% 25。
1%
(重量 :g) 平
均
標準偏差 1.2
変動係数 104.2% 46.0%
Tab 29
時期別計測値比較 藤原 奈
良 (長さicm)
平 均
標準偏差
変動係数 30,4% 18.5%
(幅
:mm)
平
均 標準偏差
変動係 数 25.0% 30.2%
(厚さ
:mm)
平
均 標 準偏差
変動係 数
469%
28.1%Tab.28
鉄製人形形式別・ 時期別全長分布 (推定値含 む)<10 cm <15 cm 約20 cm 約30 cm (切込腕 式)
釈迦堂 2
(無腕式)
平城京左京七条一坊 1
(刻腕式)
沖 の島5号祭祀遺構 2
平城宮東南 隅 2 1
東堀河 1
平城京左京七条一坊 3
(時期別)
藤原〜奈 良初頭 2 2
奈 良 3 4 1