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重複障害児に見られる視機能の特性

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第2章  視覚を通した環境の把握とコミュニケーションに 関するアセスメントの提案

第1節  重複障害児の視覚を通した環境の把握に関するアセスメント

1.  重複障害児に見られる視機能の特性

中澤恵江(国立特別支援教育総合研究所)

 本研究においては、重複障害児の中の「見えているかどうか分かりにくい」子どもたちのアセスメントに 焦点をあてている。しかし、視覚障害、特に中枢性視覚障害を有する子どもたちが示す視機能の特性と発達 的変化の全体像を鳥瞰しておくことは、肢体不自由特別支援学校に在籍するより高い段階の視機能を示すこ どもたちの理解に役立つ。同時に、中枢性視覚障害は、視覚の発達を示すことがあるため(Roman-Lantzy, 2007)全体像を把握しておくことは、子どもたちに生じる変化を捉えやすくし、係わりの配慮と環境の整備 に方向性を与えてくれる。

 そのため、ここではまず、中枢性視覚障害について、原因、新しい視覚系モデルの紹介、視機能の特性、

教育的観点から整理された視機能の発達的変化、必要とされる係わりの基本について述べる。なお、非中枢 性の視覚障害については、すでに多くの書物が著されているため(例えば大川原等(1999))、ここでは触れ ない。しかし、中枢性視覚障害を有する子どもが非中枢性視覚障害を併せ有する場合が決して少なくないた め、両方の理解をもつことは重要であることを、ここに記しておく。

 中枢性視覚障害をもたらす原因としては、今野(2005)は多くの自験例から以下を挙げている:仮死・周 産期低酸素―虚血性脳症・脳室周囲白質軟化症・脳奇形・頭部外傷・水頭症・髄膜炎・細菌性脳炎・トキソ プラズマ症・サイトメガロウィルス症・タイザック病・ガラクトース血症・虐待による頭部外傷・インフル エンザ脳症後遺症等。この他にも、事故による頭部外傷、溺水による低酸素脳症、脳腫瘍なども原因となる。

これらの原因疾患は同時にてんかん・運動障害・知的障害等の神経学的障害を多くもたらすものであり、肢 体不自由特別支援学校に在籍する生徒の障害原因と重なるものである。では、これらの疾患がもたらす脳へ の損傷は、どのような影響をもたらすのか。

 脳の様々な部位への損傷は、多様な視覚障害をもたらす。Dutton(2003) はその複雑な全体像を大づかみ にするための視覚系モデルを前述のCVIサミット (2006) で提起した。平易なことばで書かれたその提起 は、医学関係者以外にも分かりやすく、複雑な様相を呈する中枢性視覚障害を脳の構造から理解するための 枠組みを提供してくれるものである。内容は以下のような構成となっている:

はじめに

視覚系とその働き <眼、視神経と神経伝導路、原始的視覚脳、後頭葉、背側ストリームと腹側ストリーム、

意識的および意識下の視覚>

眼鏡―何のためにそしていつ必要なのか

ビジョンの閾値 <視覚の明瞭さ、色とコントラスト、視野(片側視野欠損、四分円視野欠損、随伴する認 知的視覚障害、下側視野欠損、視野狭窄、中心視野欠損)視野障害の組み合わせ、運動視、三次元世界の中 の移動、クラウディングと複雑度、眼球運動障害がもたらす制限、視覚的疲労>

認識 <人の認識、形と形態の認識>

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-方向定位 <屋外での方向定位、屋内での方向定位、物がどこにあるか知っていること>

視覚的記憶 結語

 同様の原稿が別の出版物にも掲載されており、本報告では、その中から「はじめに」「視覚系とその働き」「結 語」を著者の許可を得て翻訳した。本文内に含めるには長すぎるため、巻末の資料1として掲載した。中枢 性視覚障害を医学的なモデルから全体を把握しておくことは、以下の視覚的特性を理解する助けとなるため、

資料1読後に以下に進められたい。

 中枢性視覚障害には様々な特徴があるが、主要なものとして、以下のような視覚的特徴がある。以下は、

Jan(1993)と今野(2005)から抜粋し、整理した: 

1) 完全に視覚がないことは稀であること。

2) 羞明(まぶしさ)がある場合が少なくないこと。(Jan, 1993 によると3分の1)

3) 色知覚が比較的良いこと。

4) 動くものへの反応が比較的良いこと。

5) 周辺視野の反応が比較的良いこと。

6) クラウディング現象があること(多くの視覚情報を同時に処理しにくいこと)。 7) パターン抽出が困難なこと。

8) 空間認知が困難なこと。

9) 視覚的な反応に時間がかかること。

10) 視覚的疲労が大きいこと

 1000 にのぼる豊富な実践例から、Roman-Lanzy(2007) は、中枢性視覚障害の特徴についてより具体的に、

教育支援に関係づけられやすいように整理している。

1) 優位な色があること ー 特に赤または黄色。

2) 視覚的注意を喚起あるいは維持するために視標もしくは見ている子ども自身の動きが必要であること。

3) 視覚的潜時 ― 物を見る時に反応の遅れがあること

4) 優位な視野があること ー 独特の視野および視野欠損があること(中枢性視覚障害を有する子ども の場合、周辺視野が優位の場合が多く、物の詳細を見ることが困難だが、動く視標を知覚したり、移 動中の空間のなかで物にぶつからず移動すことができたりする場合がある)

5) 視覚的複雑さへの困難があること ― 提示する物自体に複雑な表示がある場合、提示された物の背 景に複雑な表示がある場合、視覚刺激を提示しているときに他の感覚入力を同時に行い子どもの注意 が競合する場合

6) 光凝視あるいは無目的な凝視があること 7) 遠くを見ることの困難さがあること

8) 非標準的な視覚反射あるいは標準的視覚反射の欠如 ― 接近する物体への瞬目反射の障害があること 9) 視覚的新奇性への困難があること

10) 視覚に導かれたリーチングの欠如 ― 物を見て同時に触ることが見られず、これら二つの活動は それぞれ別々に行われること

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- 中枢性視覚障害が重度であるほど、より多くこれらの特徴が表れる。しかし、これらの特徴は変化したり 改善することがある。ただしこれらの特徴を理解した体系的な介入を受けた子どもにくらべると、そうでな い子どもの変化はより限られたものとなっているとしている(Roman-Lanzty,2007)。体系的介入を促進する ために、Roman-Lanzty はこれらの特徴が発達していく様相を段階的に整理し、個別教育計画に応用しやす い表を作成している。

 この表は、Roman-Lantzy が約 1000 の事例から整理した、中枢性視覚障害の発達的様相であり、これまで の中枢性視覚障害についての著書や論文のなかでは、特に全体像が見渡せるものである。また、この表その ものが、必要とする係わりと環境の整備の方向性を示しているところが優れて実践的である。

中枢性視覚障害改善チャート

ニーズのある領域の内容を展開し、IEPの目標と下位目標を建てるために、以下のチャートを用いてください

第1段階 視行動の構築 環境的配慮 レベル1

第2段階 見ることと機能の統合 環境的配慮 レベル2

第3段階 CVIの特徴の解消 環境的配慮 レベル3

CVI特徴 1-2(0) 3-4(.25) 5-6(.50) 7-8(.75) 9-10(1)

見る物はだいたい一 色の物

「お気に入り」の色が ある

見る物は好みの2-3 色からなる

より多くの色、なじみのパ タンを見る

色もパタンも特に 優位なものはない

動き

見るのは一般的に動 きがある物か、光を 反射する物

より一貫した定位、動 きや反射する素材へ の短い固視

引き続き、動きは視覚 的注意を始動する重 要な要因

近い場合は、注意を引く ための動きは不要になる

動く視標への標準的な 反応がある

視覚的潜時 長い視覚的潜時

一貫した見る行動の 後には、潜時が微か に短くなる

疲れ、ストレス、過剰 刺激がある場合の み、潜時がある

潜時が稀にある 潜時の解消

視野の選好 特定の視野に依存 視野の選好がある

なじみの刺激入力の 場合は、視野の選好 が減る

右または左の視野を

交互に使う 視野の制限なくなる

視覚的複雑性 への困難

完全に整備された環 境でのみ反応する、

顔への注意は一般的 にない

環境が整備されてい る場合は固視をする

なじみの背景騒音は 低レベルなら許容、

声が競合しなければ なじみの顔に注意

何かを見ている間競合す る聴覚刺激を許容;音楽 の出る玩具に視覚的注 意を維持することができ

極めて複雑な視覚環 境でのみ影響される 本やその他の二次元 の資料を見る

光凝視と 非目的的凝視

短い定位はあるが物 や顔への持続した固 視なし、光あるいは天 井の扇風機に過剰に 注意が向く

光に引き付けられるこ とが減る;他の対象に 注意を向け直すことが できる

光が気を散らす要因

にならなくなる

遠くを見る 近い空間のみ視覚的 注意を向ける

なじみがあり動いてい る又は大きな視標を、

2-3ft.から時々みる

近い空間を越えて、視 覚的注意が4-6ft.ま で伸びる

動く視標ならば、視覚的 注意は10ft.までのびる

視覚注意20ft.越え る。視覚的出来事を記 憶できる。

視覚的 反射反応

触覚的および/あるい は視覚的脅威に瞬目 なし

タッチに瞬目するが、

反応に潜時がある場 合あり

タッチに一貫して瞬目 視覚的脅威には間欠 的に反応する

視覚的脅威への一貫 した反応(共に90%近い 解消)

視覚的反射は常にあ り、解消

視覚的新規性

視覚的注意を呼び起 こすのはお気に入り、

またはよく知る物のみ

なじみの物の特性をも っていれば、新奇の物 も許容する

一連の見ることを始動 するために、「知って いる」物を使う

見せる物の選択制限が 減る、「ウォーミングアッ プ」が1,2セッション必要

見せる物を選ぶことの 制限がなくなる

視覚に導かれ た運動の欠如

見ると触るが別々の 機能として生じる、見 ると触るは大きな及 び/あるいは動くもの で生じる

なじみか・光るか・反 射するものならば見る と触るが、より小さな 物で生じる、見ると触 るはまだ別々

なじみの物または「お 気に入り」の色に対し て視覚に導かれリー チが生じる

見ると触るは素早い 連続で起きるが、いつも 同時とは限らない

見ると触るが一貫して 同時に起きる

表 中枢性視覚障害改善チャート (C. Roman-Lantzy, 2007 より翻訳)

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