福井大学医学部附属病院 救急総合診療部
小迫 拓矢 , 山田 直樹 , 小淵 岳恒 , 木村 哲也 , 林 寛之
表1
日本救急医学会中部地方会誌 Vol.16
考 察
重症熱傷患者は様々な合併症が起こりやすく , 特 に消化器系では著しい体液バランスの変化 , 心拍出 量の変化 , 臓器灌流の低下が腸管虚血や腸梗塞を起 こすことが示唆されている。ただし , 重症熱傷患者 での腸管気腫症 ( 以下 PI:Pneumatosis Intestinalis) の報告例は少なく , 重症熱傷患者の 1.3% に PI をみ とめたと報告があり3), 極めて稀である。
PI は腸管壁内に多数の含気性小嚢胞が集簇して 発生する病態と定義され ,1783 年に Du Vernoi の剖 検調査で初めて報告された。さらに 1876 年に Bang によって報告され ,1940 年代後半には Gazin らが X 線で初めて術前に診断し , 開腹手術の標本を顕微鏡 的に確認した。1952 年には Koss が特発性 (15%) と 二次性 (85%) に分類した3)。
画像検査で PI が見つかれば , 原因検索をすべきで ある。PIの発生機序は大きく3つに分かれ (表3) 1),3-5), 軽症例から重篤例まで原因は様々ではあるが , 腸管 虚血をはじめ , 中毒性巨大結腸症 , 膠原病性血管疾 患 , 骨髄移植後の移植片対宿主病など重篤なものか ら除外することが求められる4,5)。腹部造影 CT 所 見では , 腸管の造影不良 , 腹水 , 門脈ガス血症の存在 が重篤例を示唆する1,4)。多くは保存的加療で軽快 するが , 腸管虚血を認めた場合は死亡率が高く緊急 手術が必要と考えられる。PI を伴う重症熱傷患者 のうち , 93% に腸管虚血をみとめ死亡率は 73% だっ たと報告されている3)。治療や予後には腸管虚血の 有無が大きく関わっており , ①腹膜炎所見 ( 腹部緊 満 , 反跳痛 , 振動で腹痛増悪 ), ②代謝性アシドーシス 表2
図1
図2
黒矢印:門脈ガス , 白矢印:腸管気腫
図3
黒矢印:門脈ガス , 白矢印:腸管気腫
(pH<7.3,HCO3-<20mmol/L), ③ 乳 酸 値 >2.0mmol/
l(18mg/dL), ④門脈ガス血症のいずれかを認める場 合は腸管虚血を疑い試験的開腹術を行うことが推 奨される6)。
本症例では腹部造影 CT では腸管の造影効果が あり , 腸管血流は保たれていた。しかし , 腸管気腫 症や門脈ガス血症 , 採血上からは虚血が強く示唆 され非閉塞性腸管虚血 ( 以下 NOMI:Non-Occlusive Mesenteric Ischemia) が疑われた。NOMI とは腸間 膜血管に器質的な閉塞を認めないにも関わらずそ の支配領域の腸管に虚血性病変を発症する疾患と されている。ただし , 虚血の重症度は , 粘膜のみの 一過性の虚血状態のものから腸管全層壊死に至る ものや穿孔を合併するものまで様々7)であり ,NOMI を疑う場合は臨床所見と DSA( 血管造影 ) 検査が推 奨される (class Ⅱ a)8)。NOMI の原因には①循環補 助が必要な重症心不全 , ②心臓手術後 , ③腎代替療 法後 , 重症熱傷など循環血液量減少による腸管虚 血 , ④特に大量出血後の腹部コンパートメント症候 群 , ⑤大動脈解離による腸管低灌流 , ⑥腹部大動脈 瘤手術による腸管虚血 , ⑦重症敗血症などがある7)。 NOMI に対する腹部造影 CT の感度は 62% と低く , 腸管の造影効果があることで NOMI の除外はでき ない。また,腸管気腫症と門脈ガス血症の存在は各々 特異度 85%, 95% と高くこれらの存在は NOMI を強 く示唆する9)。本症例では DSA 検査は未施行では あるが , 臨床所見と画像所見からは NOMI が疑わ れ , 重症熱傷に伴う循環血液量減少と敗血症 (Burn Sepsis), さらに低 Alb 血症がそれらを助長したこと で発症したと推察される。本症例では血液培養から 非ガス産生菌である S.epidermidis(MRSE) が陽性 であり 「細菌説」 よりは 「機械説」 に基づき腸管気 腫症 , 門脈ガス血症を生じたと推察される。重症敗 血症による死亡も示唆されたが死亡前日まで循環 動態の破綻もなく , 熱傷受傷後 30 日以降は腸管虚 血の合併症が増加することからは , 敗血症の影響は 少ないと考えた。
結 語
重症熱傷患者の治療中に腸管気腫症 , 門脈ガス血 症を発症した症例を経験した。重症熱傷患者では 乳酸値上昇と腹痛が出現した場合 ,NOMI による腸 管気腫症 , 門脈ガス血症の可能性を考慮し , 腹部単 純 Xp だけでなく腹部造影 CT を施行して , 早期発 見早期治療につなげる必要がある。
参 考 文 献
1) Sujin Ko,Seong Sook Hong,Liyoung Hwang,
et al:Benign versus life-threatening causes of pneumatosis intestinalis:differentiating CT features.
REV ASSOC BRAS.2018;64:543-548.
2) 一般社団法人日本熱傷学会学術委員会:1. 熱傷の予後 因子および予後推定.一般社団法人日本熱傷学会学術 委員会編.熱傷診療ガイドライン改定第 2 版.株式会 社春恒社,東京,2015,p11-12.
3) Todd F.M.Huzar,John Oh,Evan M.Renz,et al:Pneumatosis Intestinalis in Patients With Severe Thermal Injury.J Burn Care Res.2011;32:e37–e44.
4) Lisa M.Ho,Erik K.Paulson,William M.
Thompson,et al:Pneumatosis Intestinalis in the Adult:Benign to Life-Threatening Causes.AJR.
2007;188:1604-1613.
5) Jeroen Balledux,Terry McCurry,Madeline Zieger,
et al:Pneumatosis Intestinalis in a Burn Patient:
Case Report and Literature Review.J Burn Care Res.2 006;27:399-403.
6) Stuart J.Knechtle,Andrew M.Davidoff,Reed P.Rice,et al:Pneumatosis Intestinalis Surgical Management and Clinical Outcome.Ann Surg.1990;
212:160-165.
7) 鈴木修司 , 近藤浩史 , 古川顕 , 他:非閉塞性腸管虚血 (non-occlusive mesenteric ischemia:NOMI) の 診 断と 治療 . 日本腹部救急医学会雑誌.2015;35:177-185.
8) M.Björcka,M.Koelemaya,S.Acosta,et al:
Management of the Diseases of Mesenteric Arteries and Veins.Eur J Vasc Endovasc Surg.2017;53:
e460-e510.
9) Simon Bourcier,Ammar Oudjit,Geoffrey Goudard,
et al:Diagnosis of non-occlusive acute mesenteric ischemia in the intensive care unit.Ann Intensive Care.2016;6:112.
表3
日本救急医学会中部地方会誌 Vol.16
緒 言
Clostridium (C) perfringens(ウエルシュ菌)は土 壌に広く分布する偏性嫌気性グラム陽性桿菌で,ヒ トや動物の大腸常在菌(悪玉菌)の代表でもある1)。 ヒトの感染症としては,食中毒の他に,ガス壊疽,
化膿性感染症,敗血症などがあるが,近年,免疫低 下患者における C. perfringens 感染で非外傷性ガス 壊疽,高度溶血を呈し,短時間で死に至る劇症例 の報告が増加している2,3)。今回我々は,腸管気腫 症,ガス産生性肝膿瘍および高度の血管内溶血を伴 う敗血症を呈し,血液培養から Escherichia (E) coli, Klebsiella (K) oxytoca, C. perfringens が検出された 症例を経験したので報告する。
症 例
患 者:72 歳,男性。
主 訴:発熱,咽頭痛,咳嗽,下痢。
発熱が出現し,翌日胆管炎で掛かりつけ の外科を受診した。理学的所見,胸腹部レントゲン,
採血検査結果で上気道炎症所見および WBC 6700/
μ L, CRP 6.36mg/dL 以外特記すべきことなく,ウイ ルス感染症の診断で総合感冒薬を処方され帰宅した。
翌々日に再度発熱し,昼頃から食思不振を訴えたが 自己判断で様子を見ていた。夜になっても改善しな いため,家族に促され,家族の運転する自家用車で 来院した。受け付け時は歩行可能であったが,その 約 10分後,全身倦怠感を訴え 1度嘔吐した。その後,
待合室で眼球上転して意識消失した。看護師接触時,
心肺停止状態であった。
胆管炎(1992年胆嚢摘出,胆管形成術施行,
その後胆管炎反復),心筋梗塞(2000年経皮的冠動脈 形成術施行),慢性腎不全(2002年診断),糖尿病(詳 細不明)。
ビソプロロール(5mg),ピオグリタゾン
(15mg),プラバスタチン(10mg),ファモチジン(10mg),
テルミサルタン(40mg),アスピリン(100mg),リナグ リプチン(5mg)を全て 1T1xで内服中。
アレルギー:なし。
家族歴:詳細不明。
外来経過:初期波形は心静止であった。輸液路確 保,気管挿管,アドレナリン投与を行い,7分後に一 度心拍再開した。その際の心電図では,wide QRS, AVRで ST上昇を認めた。再度心停止に移行したた め,percutaneous cardiopulmonary support(PCPS) を留置し,緊急冠動脈造影を施行した。造影所見 上,有意狭窄を認めなかった。その後の Computed Tomography(CT)では,びまん性肺水腫,腸管ガスの 大量貯留,腸管壁内ガス,肝臓内の門脈気腫,ガス産 生性肝膿瘍の所見を認めた(図 1)。血液検査は高度溶 血,高 K血症,多臓器障害の所見であった(表 1)。そ の後も自己心拍再開せず,患者は同日死亡した。病 理解剖は家族からの承諾が得られなかった。血液培 養では,E. coli, K. oxytoca, C. perfringensが陽性と なった。
症例報告