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重症熱傷患者の治療中に腸管気腫症・門脈ガス血症を合併した一例

ドキュメント内 日本救急医学会中部地方会誌 (ページ 56-59)

福井大学医学部附属病院 救急総合診療部

小迫 拓矢 , 山田 直樹 , 小淵 岳恒 , 木村 哲也 , 林  寛之

表1

日本救急医学会中部地方会誌 Vol.16

 重症熱傷患者は様々な合併症が起こりやすく , 特 に消化器系では著しい体液バランスの変化 , 心拍出 量の変化 , 臓器灌流の低下が腸管虚血や腸梗塞を起 こすことが示唆されている。ただし , 重症熱傷患者 での腸管気腫症 ( 以下 PI:Pneumatosis Intestinalis) の報告例は少なく , 重症熱傷患者の 1.3% に PI をみ とめたと報告があり3), 極めて稀である。

 PI は腸管壁内に多数の含気性小嚢胞が集簇して 発生する病態と定義され ,1783 年に Du Vernoi の剖 検調査で初めて報告された。さらに 1876 年に Bang によって報告され ,1940 年代後半には Gazin らが X 線で初めて術前に診断し , 開腹手術の標本を顕微鏡 的に確認した。1952 年には Koss が特発性 (15%) と 二次性 (85%) に分類した3)

 画像検査で PI が見つかれば , 原因検索をすべきで ある。PIの発生機序は大きく3つに分かれ (表3) 1),3-5), 軽症例から重篤例まで原因は様々ではあるが , 腸管 虚血をはじめ , 中毒性巨大結腸症 , 膠原病性血管疾 患 , 骨髄移植後の移植片対宿主病など重篤なものか ら除外することが求められる4,5)。腹部造影 CT 所 見では , 腸管の造影不良 , 腹水 , 門脈ガス血症の存在 が重篤例を示唆する1,4)。多くは保存的加療で軽快 するが , 腸管虚血を認めた場合は死亡率が高く緊急 手術が必要と考えられる。PI を伴う重症熱傷患者 のうち , 93% に腸管虚血をみとめ死亡率は 73% だっ たと報告されている3)。治療や予後には腸管虚血の 有無が大きく関わっており , ①腹膜炎所見 ( 腹部緊 満 , 反跳痛 , 振動で腹痛増悪 ), ②代謝性アシドーシス 表2

図1

図2

黒矢印:門脈ガス , 白矢印:腸管気腫

図3

黒矢印:門脈ガス , 白矢印:腸管気腫

(pH<7.3,HCO3-<20mmol/L), ③ 乳 酸 値 >2.0mmol/

l(18mg/dL), ④門脈ガス血症のいずれかを認める場 合は腸管虚血を疑い試験的開腹術を行うことが推 奨される6)

 本症例では腹部造影 CT では腸管の造影効果が あり , 腸管血流は保たれていた。しかし , 腸管気腫 症や門脈ガス血症 , 採血上からは虚血が強く示唆 され非閉塞性腸管虚血 ( 以下 NOMI:Non-Occlusive Mesenteric Ischemia) が疑われた。NOMI とは腸間 膜血管に器質的な閉塞を認めないにも関わらずそ の支配領域の腸管に虚血性病変を発症する疾患と されている。ただし , 虚血の重症度は , 粘膜のみの 一過性の虚血状態のものから腸管全層壊死に至る ものや穿孔を合併するものまで様々7)であり ,NOMI を疑う場合は臨床所見と DSA( 血管造影 ) 検査が推 奨される (class Ⅱ a)8)。NOMI の原因には①循環補 助が必要な重症心不全 , ②心臓手術後 , ③腎代替療 法後 , 重症熱傷など循環血液量減少による腸管虚 血 , ④特に大量出血後の腹部コンパートメント症候 群 , ⑤大動脈解離による腸管低灌流 , ⑥腹部大動脈 瘤手術による腸管虚血 , ⑦重症敗血症などがある7)。 NOMI に対する腹部造影 CT の感度は 62% と低く , 腸管の造影効果があることで NOMI の除外はでき ない。また,腸管気腫症と門脈ガス血症の存在は各々 特異度 85%, 95% と高くこれらの存在は NOMI を強 く示唆する9)。本症例では DSA 検査は未施行では あるが , 臨床所見と画像所見からは NOMI が疑わ れ , 重症熱傷に伴う循環血液量減少と敗血症 (Burn Sepsis), さらに低 Alb 血症がそれらを助長したこと で発症したと推察される。本症例では血液培養から 非ガス産生菌である S.epidermidis(MRSE) が陽性 であり 「細菌説」 よりは 「機械説」 に基づき腸管気 腫症 , 門脈ガス血症を生じたと推察される。重症敗 血症による死亡も示唆されたが死亡前日まで循環 動態の破綻もなく , 熱傷受傷後 30 日以降は腸管虚 血の合併症が増加することからは , 敗血症の影響は 少ないと考えた。

 重症熱傷患者の治療中に腸管気腫症 , 門脈ガス血 症を発症した症例を経験した。重症熱傷患者では 乳酸値上昇と腹痛が出現した場合 ,NOMI による腸 管気腫症 , 門脈ガス血症の可能性を考慮し , 腹部単 純 Xp だけでなく腹部造影 CT を施行して , 早期発 見早期治療につなげる必要がある。

参 考 文 献

1) Sujin Ko,Seong Sook Hong,Liyoung Hwang,

et al:Benign versus life-threatening causes of pneumatosis intestinalis:differentiating CT features.

REV ASSOC BRAS.2018;64:543-548.

2) 一般社団法人日本熱傷学会学術委員会:1. 熱傷の予後 因子および予後推定.一般社団法人日本熱傷学会学術 委員会編.熱傷診療ガイドライン改定第 2 版.株式会 社春恒社,東京,2015,p11-12.

3) Todd F.M.Huzar,John Oh,Evan M.Renz,et al:Pneumatosis Intestinalis in Patients With Severe Thermal Injury.J Burn Care Res.2011;32:e37–e44.

4) Lisa M.Ho,Erik K.Paulson,William M.

Thompson,et al:Pneumatosis Intestinalis in the Adult:Benign to Life-Threatening Causes.AJR.

2007;188:1604-1613.

5) Jeroen Balledux,Terry McCurry,Madeline Zieger,

et al:Pneumatosis Intestinalis in a Burn Patient:

Case Report and Literature Review.J Burn Care Res.2 006;27:399-403.

6) Stuart J.Knechtle,Andrew M.Davidoff,Reed P.Rice,et al:Pneumatosis Intestinalis Surgical Management and Clinical Outcome.Ann Surg.1990;

212:160-165.

7) 鈴木修司 , 近藤浩史 , 古川顕 , 他:非閉塞性腸管虚血 (non-occlusive mesenteric ischemia:NOMI) の 診 断と 治療 . 日本腹部救急医学会雑誌.2015;35:177-185.

8) M.Björcka,M.Koelemaya,S.Acosta,et al:

Management of the Diseases of Mesenteric Arteries and Veins.Eur J Vasc Endovasc Surg.2017;53:

e460-e510.

9) Simon Bourcier,Ammar Oudjit,Geoffrey Goudard,

et al:Diagnosis of non-occlusive acute mesenteric ischemia in the intensive care unit.Ann Intensive Care.2016;6:112.

表3

日本救急医学会中部地方会誌 Vol.16

 Clostridium (C) perfringens(ウエルシュ菌)は土 壌に広く分布する偏性嫌気性グラム陽性桿菌で,ヒ トや動物の大腸常在菌(悪玉菌)の代表でもある1)。 ヒトの感染症としては,食中毒の他に,ガス壊疽,

化膿性感染症,敗血症などがあるが,近年,免疫低 下患者における C. perfringens 感染で非外傷性ガス 壊疽,高度溶血を呈し,短時間で死に至る劇症例 の報告が増加している2,3)。今回我々は,腸管気腫 症,ガス産生性肝膿瘍および高度の血管内溶血を伴 う敗血症を呈し,血液培養から Escherichia (E) coli, Klebsiella (K) oxytoca, C. perfringens が検出された 症例を経験したので報告する。

 患 者:72 歳,男性。

 主 訴:発熱,咽頭痛,咳嗽,下痢。

     発熱が出現し,翌日胆管炎で掛かりつけ の外科を受診した。理学的所見,胸腹部レントゲン,

採血検査結果で上気道炎症所見および WBC 6700/

μ L, CRP 6.36mg/dL 以外特記すべきことなく,ウイ ルス感染症の診断で総合感冒薬を処方され帰宅した。

翌々日に再度発熱し,昼頃から食思不振を訴えたが 自己判断で様子を見ていた。夜になっても改善しな いため,家族に促され,家族の運転する自家用車で 来院した。受け付け時は歩行可能であったが,その 約 10分後,全身倦怠感を訴え 1度嘔吐した。その後,

待合室で眼球上転して意識消失した。看護師接触時,

心肺停止状態であった。

     胆管炎(1992年胆嚢摘出,胆管形成術施行,

その後胆管炎反復),心筋梗塞(2000年経皮的冠動脈 形成術施行),慢性腎不全(2002年診断),糖尿病(詳 細不明)。

     ビソプロロール(5mg),ピオグリタゾン

(15mg),プラバスタチン(10mg),ファモチジン(10mg),

テルミサルタン(40mg),アスピリン(100mg),リナグ リプチン(5mg)を全て 1T1xで内服中。

 アレルギー:なし。

 家族歴:詳細不明。

 外来経過:初期波形は心静止であった。輸液路確 保,気管挿管,アドレナリン投与を行い,7分後に一 度心拍再開した。その際の心電図では,wide QRS, AVRで ST上昇を認めた。再度心停止に移行したた め,percutaneous cardiopulmonary support(PCPS) を留置し,緊急冠動脈造影を施行した。造影所見 上,有意狭窄を認めなかった。その後の Computed Tomography(CT)では,びまん性肺水腫,腸管ガスの 大量貯留,腸管壁内ガス,肝臓内の門脈気腫,ガス産 生性肝膿瘍の所見を認めた(図 1)。血液検査は高度溶 血,高 K血症,多臓器障害の所見であった(表 1)。そ の後も自己心拍再開せず,患者は同日死亡した。病 理解剖は家族からの承諾が得られなかった。血液培 養では,E. coli, K. oxytoca, C. perfringensが陽性と なった。

症例報告 

ドキュメント内 日本救急医学会中部地方会誌 (ページ 56-59)