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複雑深在性肝損傷に併発した頚部異物の一例

ドキュメント内 日本救急医学会中部地方会誌 (ページ 62-68)

岐阜大学医学部附属病院 腫瘍外科1),高山赤十字病院 救命救急センター2) 桐山 俊弥1) ,白子 隆志2) ,加藤 雅康2)

Table.1

Fig.1 初診時造影 CT 所見(肝臓)

肝外側区に複雑深在性肝損傷を指摘した。

明らかな造影剤の血管外漏出像は指摘できなかった。

Fig.2 初診時造影 CT 所見(頚部)

左頚部に皮下気腫を広範囲に認めた。主要血管の損傷 は指摘できなかった。

日本救急医学会中部地方会誌 Vol.16

 入院後経過:複雑深在性肝外傷,頚部打撲,杙創 の診断で当院救命センターに入院とした。肝損傷に 対しては,搬送時よりバイタルは一貫して安定して おり,画像上も明らかな造影剤の血管外漏出像を指 摘しなかったので,床上安静で保存的に加療を行っ た。受傷から約 6 時間後に CT を施行したが,明ら かな血腫増大等なく経過観察を継続した。頚部の杙 創に対しては,創部を生理食塩水でよく洗浄し,可 及的な異物の除去を行った。創部の汚染は強く,抗 菌薬としてセフメタゾール(CMZ)2 g/ 日の投与を 開始した。受傷翌日に耳鼻咽喉科にコンサルトとし,

喉頭ファイバー咽喉頭に所見がないことを確認した。

また創部の発赤・腫脹が強く見られたため,創部を 開放とし皮下ドレーンを留置した。以後,創部洗浄 を継続するも,38℃から 40℃の発熱が持続し,受 傷 4 日目の採血では CRP が 18.97 mg/dl と高値で あった。以降は採血では炎症反応は改善傾向となる も,依然として 38℃を超える発熱が持続したため,

受傷 6 日目より抗菌薬をアンピシリン・スルバクタム

(ABPC/SBT)9 g/ 日へ変更した。受傷 7 日目に再 度造影 CT を施行したところ肝外傷部に関しては,

明らかな仮性動脈瘤の出現や血腫の増大は見られな かった(Fig. 3)。頚部の皮下気腫は残存し,一部異 物の残存を疑う索状の低吸収域を指摘した(Fig. 4)。 そのため,頚部 MRI 検査を追加して評価を行うと,

同部位は T1・T2 強調像でともに低信号を呈する索 状の領域としてみられ,木片の異物残存と判断した

(Fig. 5)。当院での異物除去は困難であったため,

受傷 8 日目に転院とし,同日全身麻酔下に異物摘出 術を施行し,頚部より木片を除去した(Fig. 6)。術 後は創部状態に問題なく,肝損傷に関して当科外来 経過観察中である。

 外傷性肝損傷の代表的な分類として,日本外傷 学会臓器損傷分類 2008 や2),CT 所見に準じた分類 法である中島分類3)などがある。当院では肝外傷 の治療方針に関して,肝外傷に対する IVR のガイ ドライン 2016 4)を参考に治療方針を決定している。

Responder や Non-Responder については手術を基本 的な治療方針とする一方で,バイタルサインの安定 化が見込まれるものに関しては,血管内治療や保存 的加療を選択している。自験例では初診時から一貫 してバイタルサインは安定しており,受傷から 6 時 間後の CT でもバイタルサインの変化がみられなかっ たため,保存的加療を選択とした。

 一方で,頚部外傷の中でも広頚筋を貫く穿通性損 傷は穿通性頚部損傷と呼ばれている5)。穿通性頚部 損傷は,損傷部位によるアプローチの違いから 3 つ のゾーン分類が提唱されている。すなわち,鎖骨と 輪状軟骨の間までを Zone I,輪状軟骨と下顎角と の間を Zone II,下顎角から頭蓋底の間までを Zone III と分類している(Fig. 7)6)。特に Zone II の損 傷では,気管や食道損傷の可能性を考慮する必要が あり,hard sign(活動性出血,拡大するまたは拍動 性の血腫,皮下気腫または創部からのバブル,thrill の触知)を認める場合には緊急で neck exploration を行わなければいけないとされる7)。自験例では初 診時に左頚部に約 2 cm 程度の杙創を認めた。頚部 から前胸部に広範囲な皮下気腫を触知するも,初診 Fig.3 受傷 7 日後造影 CT 所見(肝臓)

肝損傷部は仮性動脈瘤の形成や血腫の増大はみられな かった。

Fig.4 受傷 7 日後造影 CT 所見(頚部)

Fig.5 頚部 MRI 所見(左:T1 強調像、右:T2 強調像)

左頚部に T1・T2 強調像で共に低信号となる領域を 指摘し、異物残存が示唆された。

Fig. 6 術中写真、摘出異物

全身麻酔下に異物除去を施行した。約 5 cm 大の木片 異物を除去した。

時の創部評価では刺入部および皮下には明らかな異 物残存を認めず,十分な洗浄を行うのみとした。頚 部の広範な皮下気腫は hard sign と判断すべき所見 であり,neck exploration を考慮してもよかったか もしれない。しかしながら,初療室では一貫してバ イタルが安定していたことや呼吸苦症状の訴えがな かったことからも,積極的に気道食道損傷や血管 損傷を疑う状況ではなかった。以上の観点からも,

neck exploration を省略し造影 CT 検査を優先する ことは妥当であったと考える。不要な侵襲を防ぐた めにも,初診時のバイタルサインや身体所見を詳細 かつ頻回に評価し,その適応を見極めることは重要 である。

 また,木片による頚部異物に関しては,多数の症 例報告がある。那須らの報告によるとその多くは歩 行が不安定な幼少期や労作中の中高年者であり1), 自験例でも労働作業中の事故によるものであった。

一般に木片の X 線検出率は低いとされ,手の中に混 入した異物の X 線透過性を調べた報告では,木片 異物の検出率はおよそ 15% であった8)。組織内に停 留することで水分含有量が変化し,木片異物の CT 値は経時的に変化するため9),CT が必ずしも木片 異物の検出に役立つとは限らない。一般的な縦隔条 件では両者ともに低吸収域として表示される。自身 でウインドウ幅を広げることで,空気と木片とのコ ントラストがつき,診断がつきやすくなると考えら れる。また,超音波検査はベッドサイドで施行でき る簡便な検査であるが,眼窩内など異物が深部に位 置する場合はその検出は困難になると考えられる。

四肢軟部組織における木片異物の画像的診断を検討 した報告によると,超音波による異物の検出は利便 性に優れ,所見上は異物の種類によらず高エコー像 となることが多く,大きさによっては後方音響陰影 を認める場合もあるとしている10)。その検出能力や 利便性からは診断に有用である可能性が高いであろ う。一方 MRI では,木片は T1/T2 強調像でいずれ も低信号となり11),自験例でも MRI が診断の一助 となった。しかしながら,緊急で MRI が施行でき ない場合もあるため,受傷機転や創部状態,身体所 見から常に異物残存の可能性を考慮しておく必要が あると考えられた。

 医学中央雑誌で「異物」,「木片」をキーワードに 1964 年から 2020 年までの期間で検索した(会議録 を除く)。那須らは 2004 年までの本邦における木片 刺入異物報告例をまとめており1),歩行が不安定な 幼少期や労作中の中高年者に多いと考察している。

そこで,今回 2005 年から 2020 年まで過去 16 年間 の報告例を(Table. 2)にまとめた12)-40)。全体とし て頭頚部領域の中でも眼窩内にとどまるものが多 く,頚部異物の報告は 5 例であった。診断の根拠と なったモダリティとしては圧倒的に CT が多く,摘 出までに 1 週間以上要した症例は 21 例であった。

他の外傷との合併例は少なく,わずか 7 例のみで あった。自験例では,初診時の CT で IIIb 型肝外傷 を指摘し,頚部は広範な皮下気腫を反映して異物を 初診時に指摘することが困難であった。結果として 異物除去まで 8 日間を要したが,木片異物の特性を 理解することで,より早期に除去することも可能で あったと考えられる。

Fig. 7 自験例での Zone 分類

日本救急医学会中部地方会誌 Vol.16

Table.2

 複雑深在性肝損傷に,木片による頚部異物を併発 した症例を経験した。穿通性頚部損傷の特徴や木片 異物の特徴を理解することで,異物残存の早期発見 につながると思われた。重症外傷では常に他の損傷 部位の検索が必要であるということを再認識し,示 唆に富む症例と考え報告した。

参 考 文 献

1) 那須 隆,小池 修治,鈴木 豊,他:ヘリカル CT が有 用であった頸部木片異物例.耳鼻咽喉科臨床.2004;

97:819-24.

2) 日本外傷学会臓器損傷分類委員会:肝損傷分類 2008

(日本外傷学会).日外傷会誌.2008;22:262 3) 中島康雄:文部科学省科学研究補助金;萌芽研究(研

究課題番号:17659376);研究成果報告書(平成 19 年度).2008.

4) 日本 IVR 学会.日本外傷学会編.肝外傷に対する IVR のガイドライン 2016,2016,p17-18.

5) Herrera FA,Mareno JA,Easter RJ:Management Of Penetrating Neck Injuries:ZONE II.2007;64:

75-78

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2016,p153-156.

7) 一般社団法人日本外傷学会:外傷治療戦略と戦術.日 本外傷学会外傷専門ガイドライン改訂第 2 版編集委員 会.外傷専門診療ガイドライン JETEC 戦略と戦術,

そしてチームマネジメント.(改訂第 2 版).へるす出版,

東京,2018,p109-118

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ドキュメント内 日本救急医学会中部地方会誌 (ページ 62-68)