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重ね合わせの原理

ドキュメント内 線形代数学講義ノート(2020/05/03ver) (ページ 47-51)

第 6 章 行列の階数 43

6.4 重ね合わせの原理

同次形の方程式とそうでない方程式の解の間には次のような関係がある.

命題 6.4.1. (m, n)-行列Aおよびm次列ベクトルbが与えられているとし,次の二つの連立1次方程式 を考える

(I) Ax=b, (II) Ax=0.

さらに方程式(II)の解aを一つ取って固定しよう. このとき次が成り立つ. (1) 方程式(II)の任意の解zに対し,a+zは方程式(I)の解である.

(2) 方程式(I)の任意の解yに応じて, 方程式(II)の解の一つであるzを上手く取ると,y =a+zと 表せる.

Proof. (1) : zを(II)の解とすると,A(a+z) =Aa+Az=b+0=b. ゆえに,a+zは方程式(I)の解 である.

(2) : y(I)の解とする. ここでz := yaとおこう. このときz(II)の解である. 何故なら, Az = A(y−a) = Ay−Aa =bb =0. また, zの定め方からy =a+zであり, 我々は主張を得 た.

上の命題は,同次形の方程式の解全体の集合をHとすれば,Ax=bの解全体の集合WHa方向 に平行移動した集合に一致することを言っている. この事実の特別な場合については4.6節にて説明し ていた. また,方程式を解く労力の観点からは次のように捉えることもできる:

(※) 方程式(II)の解法は,方程式(I)の解法より幾分か易しい. そこで,あらかじめ易しい方程式(II)の 解を求めておき,更に,何らかの方法で(I)の解aを一つでよいから見つけてくる(適当な数を代入 して山勘で見つけたとしてもよい). すると, (I)の解は, (II)の解全体をa方向へ平行移動すること ですべて得られる.

しかし, 既に連立1次方程式の解法を知っている我々にとっては,このような考え方は不要にも思える. そこで,微分積分学の文脈で現れる上と類似する現象を紹介しよう:

命題 6.4.2 (重ね合わせの原理). α, β, γを既知の実数,b(x)を既知の関数とし, 2階微分可能な未知の関 数f(x)に関する次の二つの微分方程式2を考える.

(I) αf′′(x) +βf(x) +γf(x) =b(x), (II) αf′′(x) +βf(x) +γf(x) = 0.

さらに方程式(I)の解a(x)を一つ取って固定しよう. このとき次が成り立つ.

(1) 微分方程式(II)の任意の解z(x)に対し,a(x) +z(x)は微分方程式(I)の解である.

(2) 微分方程式(I)の任意の解y(x)に応じて,微分方程式(II)の解の一つであるz(x)を上手く取ると, y(x) =a(x) +z(x)と表せる.

Proof. (1) : z(x)(II)の解とすると,

α(a(x)+z(x))′′+β(a(x) +z(x))+γ(a(x) +z(x))

= (

αa′′(x) +βa(x) +γa(x) )

+ (

αz′′(x) +βz(x) +γz(x) )

=b(x) + 0 =b(x).

ゆえに,a(x) +z(x)は微分方程式(I)の解である.

(2) : y(x)(I)の解とする. ここでz(x) := y(x)−a(x)とおこう. このときz(x)(II)の解である. 何故なら,

αz′′(x)+βz(x) +γz(x)

=α(y(x)−a(x))′′+β(y(x)−a(x))+γ(y(x)−a(x))

= (

αy′′(x) +βy(x) +γy(x) )(

αa′′(x) +βa(x) +γa(x) )

=b(x)−b(x) = 0.

また,z(x)の定め方からy(x) =a(x) +z(x)であり,我々は主張を得た.

()で述べた戦略は,上の微分方程式(I)を解く際にも有効である. このように,線形代数と微分積分 において類似する数理現象が観察されることが分かった. 実は高校数学においても,これらに類似する現 象を学んでいることに読者はお気づきであろうか:

命題 6.4.3. r, bを既知の実数とし,次の二つの漸化式を考える.

(I) xn+1=rxn+b, (II) xn+1 =rxn.

さらに漸化式(I)を満たす数列anを一つ取って固定しよう. このとき次が成り立つ. (1) 漸化式(II)を満たす任意の数列znに対し,数列an+znは漸化式(I)を満たす.

(2) 漸化式(I)を満たす任意の数列ynに応じて,漸化式(II)を満たす数列znを上手く取ると,yn=an+zn と表せる.

Proof. (1) : znが漸化式(II)を満たす数列であるとき,

an+1+zn+1 = (ran+b) +rzn=r(an+zn) +b.

ゆえに,an+znは漸化式(I)を満たす.

(2) : ynが漸化式(I)を満たす数列であるとする. ここでzn:=yn−anとおこう. このとき数列znは 漸化式(II)を満たす. 何故なら,

zn+1 =yn+1−an+1= (ryn+b)−(ran+b) =r(yn−an) =rzn. また,znの定め方からyn=an+znであり,我々は主張を得た.

上の三つの命題は,これらの主張自体のみならず証明までもが並行している点に着目せよ. これは次に 挙げる操作たち:

(1) ベクトルxに対してAxを対応させる操作,

(2) 関数f(x)に対して関数αf′′(x) +βf(x) +γf(x)を対応させる操作,

(3) (i) 数列(x1, x2, x3,· · ·)に対して数列(x2, x3, x4,· · ·)を対応させる操作,および (ii) 数列(x1, x2, x3,· · ·)に対して数列(rx1, rx2, rx3,· · ·)を対応させる操作,

が共に線形性を満たしていることに起因する. 本節のように,類似する証明を連立1次方程式,微分方程 式,漸化式の各対象ごとに繰り返し行うことについて,聡明な読者は二度あるいは三度手間のように感じ たことであろう. そこでこのような手間を省き,上に挙げた三つの命題を同時に議論できるような枠組み として,我々は線形空間と呼ばれる代数構造を提案することになる. そして上に挙げた三つの命題は,

題23.1.4によって統一的に証明されることを予告しておこう.

48

漸化式の一般項

命題6.4.3にもとづいた一般項の導出について解説する.

例題 6.4.4. yn= 3yn+ 8, y1 = 1を満たす数列ynの一般項を求めよ. 解答例. 次の二つの漸化式を考える:

(I) xn+1= 3xn+ 8, (II) xn+1= 3xn.

まず漸化式(I)を満たす数列を一つ, どうにかして見つけたい. そこで(I)を満たす定数列がないか 探してみよう. ここで定数列(x, x, x,· · ·)(I)を満たすならば,x= 3x+ 8である. これを解くと x=4であり,実際に数列(4,4,4,· · ·)は(I)を満たす. この数列をan=4とおこう. さて, ynが漸化式(I)を満たすことから,命題6.4.3(2)より,漸化式(II)を満たす数列znを用いて

yn=zn+an

と書くことができる.

【補足】ここで,上式が成り立つように上手くznを取る具体的な方法が分からないとしても,それは問わなく

てよい(気になる読者は,どうして問わなくてもよいのか考えよ). ちなみに,今回の場合は命題6.4.3(2)の証

明を読めば, zn:=ynanとすればよいことが分かる.

ここでznは等比数列ゆえ,その初項をcとすれば,zn=c3n1である. したがって, yn=c3n1+ (4)

であり, この式においてn = 1の場合を考えれば, 1 = c−4ゆえc = 5. 以上より, 一般項は yn= 5·3n14である.

上の議論のポイントは, (I)を満たす数列の一つが方程式x= 3x+ 8を解くことにより簡単に見つ かること,そして(I)よりも簡単な(II)を満たす数列は,等比数列ゆえ一般項が容易に決定できるこ との二点である.

II

行列式

7 行列式とは何か

行列式とは, 正方行列Aに対して定められるある量のことであり, detAもしくは|A|と書く. その定 義は一言で述べるには難しく,厳密な(あるいは形式的な)定義は後で改めて論じるとして,本章では行 列式の持つ意味,および微分積分学における扱われ方について導入的な紹介をする.

行列式への数学的意味の与え方は大きく分けて二通りある. したがって,行列式の定義の仕方にも二通 りの立場があると考えてよい. 一つは歴史的な経緯である方程式論からの見方で,もう一つは幾何学的な 観点によるものである. 後者のほうがイメージが描きやすいゆえ,まずそちらから解説しよう.

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