前章で、建築設備を構成する各種配管の、腐食を中心とした経年劣化の状況について述べましたが、
適切な設備機能の保全維持のためには、劣化の程度と範囲などの現状、今対策をとらなかった場合の 将来の問題点等を、出来るだけ正確に把握することが重要であり、ここに、劣化診断の必要性があり ます。
配管の劣化診断は、具体的には次の様なケースで必要となり、実施されています。
a. 赤水や漏水事故が頻発し、その対策として必要性に迫られ、事後保全の一つとして行われる もの
b. 設備の老朽化・陳腐化或いは経済的、社会的要求、法規の改正遡及などから改修が必要とな り、その範囲、程度を決定するために行われるもの
c. 最近の動向として、予防保全の一環として日常の保守点検業務に組込み、設備システムの機 能確保と耐用年数の延長をはかるために行われるもの
何れにしろ、劣化診断の目的として、設備配管の劣化現象とその劣化諸要因を把握し、異常の発見 及び将来への予測をし、必要な対策を提示することにあります。
設備配管の劣化診断の基本技術とフローは、建設省(現 国土交通省)総合開発プロジェクト(昭和 55 年~59 年)による「建築物の耐久性向上技術の開発」で調査研究され、指針が提案されています。こ こでは、その指針を参考に鋼管を中心とした診断手順を紹介します。
診断レべルと調査内容は、診断によって得られる情報、調査の難易度及び判断技術の熟練度により、
次の 3 段階に分けられます。
1) 1 次診断 主として設備管理者等の管理記録を基にしたヒアリング調査や視覚・聴覚などによる 状況把握
2) 2 次診断 非破壊検査機器や水質分析器による計測調査
3) 3 次診断 配管の抜管サンプリングを伴う詳細調査、サンプル管内外面の劣化状態の詳細検査 によるより的確な評価判定と劣化原因の追求
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図-17 配管の劣化診断手順
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4.1 1 次診断
1 次診断は、管理記録やヒアリングによる漏水歴や修理歴等の調査と赤水の程度、配管継手の外観 による劣化の現状レべルの把握が目的であり、異常現象の兆候の有無により、継続使用又は 2 次診断 への移行を判定します。
(1)ヒアリング
竣工図書類、運転記録、修繕台帳、水質検査表など設備管理関連図書記録を事前に閲覧のうえ、次 のような項目について、設備管理担当者からヒアリングを行い、現状と傾向を把握します。
① 建設経過年数、設備システム、配管方式、配管材料、継手、製造メーカ、接続法、保温材
② 運転方法、運転時間、温度、補給水法
③ 水質管理の履歴
④ 過去の漏水その他修繕履歴
⑤ 赤水が出始めた時期
⑥ 空調等の機能低下が感じられた時期
⑦ 過去の改修経歴
⑧ その他トラブル経歴と傾向
(2)目視点検
次の様な項目について、目視や操作感覚で劣化のレぺルを把握します。
① 配管、継手、弁廻り、機器接続部などの発錆状況、漏れ跡の有無、保温の劣化状況の観察
② 弁のグランドパツキング部の漏れ、弁の開閉操作の確認
③ 吐出水の着色度、クーリングタワー用水の汚れ貝合、ドレーンコックからの水の色調
④ 受水槽、屋上水槽底部の赤錆の沈着状況
⑤ 排水流れ具合、流水音、トラップの液面変動
⑥ その他
(3)1 次診断判定基準
1 次診断の判断基準例を以下に示します。次の何れかに該当する場合は、2 次診断に移行します。
1) 使用年数 竣工後 15 年以上経過しているもの。
2) 漏水履歴 過去 2 年以内に同一系統で、3 ケ所以上の漏水があった場合。
3) 着色度 連続吐水後に、目視で明らかに着色しているのが判る場合。水質検査表で、鉄イオ ン濃度及び色度が基準値をオーバーしている場合。
4) 弁座漏れ/開閉不良 弁を交換し、2~3 次診断を実施する。
5) 保温材の濡れ 保温材の濡れや、漏水跡が同一系統で複数箇所ある。
* 給水管の劣化判定の基準の一つとして、水道法の水質基準に基づく鉄イオン濃度の最大値 0.3mg/l 及び色度 5 度以下が用いられるが、目視で判別出来るような場合は、鉄イオン濃 度で 1.0mg/l 色度で 10 度を超えていることが普通であり注意を要する。
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図-18 1 次診断
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4.2 2 次診断
2 次診断では、1 次検査の結果を受けて、配管を出来るだけ現状のままで行う非破壊検査機器による 検査や水質分析により調査を行い、劣化進行の程度と範囲をより的確に把握し、継続使用か更新かの 判定を行います。
(1)非破壊検査機器と分析器
2 次診断用の非破壊検査機器として、最近様々な機器が開発提案されていますが、一般的には次の 機器が実用ベースで使用されています。
① 内視鏡(ファイバースコープ)
掃除口等より挿入し、管内面の錆やスケール詰まり状況を観察する。写真、VTR により記録が 可能であり、劣化状況の把握に効果が大きい
② 超音波厚さ計 管の外面に探触子を密着し、超音波の往復時間から管の残存肉厚の測定を行う。鋼管の直管 部のみ有効であり、継手部やライニング管には適用出来ない
③ X 線透過装置 X 線透過撮影により、管、継手部、弁等の錆詰まりの状況を把握する。撮影と解析に資格熟練 が必要。隔離距離 5m 半径を要する
④ 渦流探傷器 渦電流により鋼管、ステンレス管のピンホールを検出する。判定に熟練を要する
⑤ 鉄イオン濃度計 簡易水質分析器の一つでサンプルにパック試薬を加え、直読式水質分析器で鉄イオンの濃度 を読み取り、システム全体の腐食状況を把握する
(2)超音波厚さ計による診断
超音波厚さ計を使用し、配管外面から非破壊で残存肉厚を測定し、平均浸食率や残存寿命を推定す る方法であり測定箇所は、一般に系統毎の始点、終点、中間点を測定することを原則とし、測定点数 は、配管長さ 300mm に対して表-5の様なポイントを測定します。
測定結果より、最大浸食度、推定残存寿命、平均浸食率等を算出し、これに考察を加え判定します。
① 最大浸食度 Mcr=A-B/Y A:サンプルと同径の公称近似厚さ [mm]
B:サンプルの残存最小肉厚 [mm]
Y:使用年数 [mm]
② 推定残存寿命 N=t1-(A-B)/Mcr A、B:前式と同じ
tl:ねじ部基準径谷部の肉厚 [mm]
Mcr:最大浸食度 [mm/年]
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③ 平均浸食率 Mav=(A-Bav)/A×100%
A:サンプルと同径の公称近似厚さ [mm]
Bav:サンプルの平均残存肉厚 [mm]
図-19 超音波厚さ計による測定原理図(6)
写真-23 超音波厚さ計
写真-24 超音波厚さ計による肉厚測定
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表-5 測定点数例
管径 15~40A 50~80A 100~150A 200A以上
円周測定点 4 8 16 32
標準測定点数 28~44 56~88 112~176 224~352
(3)内視鏡(ファイバースコープ)による診断
内視鏡による診断は、一時取り外し可能な水栓やメーター、機器接続部等から先端部を挿入し内部 状態を観察するものであり、挿入部の長さにより制限が有るものの、ビジュアルな内面情報を得られ る点に特徴があります。内視鏡による検査は、管種を問わず適用できライニング鋼管の継手部の状況 や、銅管の腐食生成物、潰食等も観察可能です。
図-20 内視鏡原理図(6)
写真-25 内視鏡による調査
写真-26 内視鏡による管内写真
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(4)水質分析による診断
給水管等の常時吐出水の鉄イオン濃度を、簡易分析器を用い測定し、システム全体の腐食の進行度 を推測するもので、測定する場合は、その配管系の入口側・出口側の水質を測定する。
(5)2 次診断判定基準
2 次診断における判断基準例を以下に紹介します。これらを総合的に勘案し継続使用、補修又は更 新、或いは更に詳しい 3 次診断に進むかを判定します。
1) 推定残存寿命
* 10 年以上 :継続使用
* 5 年以上 :3 次診断へ
* 5 年未満 :更新等の対策を行う 2) 内視鏡による観察
* 錆瘤が見られない :継続使用
* 錆瘤が厚くはないが付着している :3 次診断へ
* 錆瘤が継手部を含めかなり付着している :更新等の対策を行う 3) 鉄イオン濃度
★給水系
* 0.3[mg/L]以下 :継続使用
* 0.3[mg/L]を超える :3 次診断へ
★空調系
* 1.0[mg/L]以下 :継続使用
* 1.0[mg/L]を超える :3 次診断へ
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4.3 3 次診断
3 次診断はサンプリング法であり、管の一部を切断し試料採取を行い、次の手順で測定調査を行い 判定します。
① 抜管位置の決定
② サンプリング
③ 管内外面の観察
④ 錆詰り率の測定
⑤ 試料の軸方向への切断
⑥ 管内の観察
⑦ 試料の酸洗い
⑧ 腐食状況の観察と残存肉厚の測定
⑨ 試料の防食処理と測定記録
(1)サンプリング
配管の劣化部位は、使用目的や配管システムによってかなりの差が生じるので、抜管する位置は以 下に示す条件等を考慮して決定します。
1) 漏水が確認されている場所、過去に漏水事故が発生した箇所 2) 2 次診断で劣化が進行していると推定される箇所
3) 縦管の最上部、中間部、最下部。最上階、中間階、最下階の横枝管末端部 4) 使用頻度が著しく高いか、低い場所の端末
5) 機器接続部、異種金属接続部
また、試料は出来るだけ継手部、弁類を含んで採取する事が望ましく、これは継手ねじ接合部で腐 食が著しく進行するためです。切断時に管内面のスケールや腐食生成物が剥離しないように、振動の 少ないロータリーバンドソーや手引き金鋸を使用します。
図-21 抜管による調査箇所例(給水・給湯)