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遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等

⑴ 遺言執行者がある場合には、相続財産の処分その他相続人がした遺言 の執行を妨げるべき行為は無効とする。ただし、これをもって善意の第 三者に対抗することができない。

⑵ ⑴本文の規律は、相続債権者〔又は相続人の債権者〕が相続財産につ いてその権利を行使することを妨げない。

【意見】

1 ⑴に賛成する。ただし、善意の内容は、遺言執行者がいることを知ら ないことではなく、遺言執行者があり、かつ(処分を行う)当該相続人 の処分権限がないことを知らないことである。また、それを踏まえて、

第三者の善意につき無過失も要求すべきである。

2 ⑵の内容に異論はないが、あえて明文化する必要があるとは認められ ないという意味で、提案に反対する。

【理由】

1 善意の第三者に対抗することができないとする点について

(1)第三者保護規定の妥当性

現行民法1013条違反の処分行為は絶対的無効とするのが現在の 判例であり(大判昭和5年6月16日民集9巻550頁)、この結論は 取引の安全を害する(遺言執行者がいるかどうかは、遺贈がなされて いるかどうかと同様に第三者にはわからないことが多い。)ことを認め つつ、同上の解釈としてはやむを得ないとする考え方である。

第三者を保護する規定が置かれていないことは立法上の不備であり、

遺言執行者の選任前においては特定物の受遺者は目的物に対する取得 登記なしに第三者に対抗できないとする戦後の判例(最判昭和39年 3月6日民集18巻3号437頁)によっても克服することはできな い。何らかの立法的措置を望むのが学説の大勢であった。そこで、今 回の提案のように、善意(無過失)の第三者保護規定を創設するのが 妥当である。

(2)善意・無過失について

部会資料17では、「この善意者保護規定によって治癒されるのが前 主である相続人の無権限であるとすると、善意の内容も、遺言執行者 がいることを知らないことを意味することになるものと考えられる。」

と説明されている。

しかし、遺言執行者がいることが明白であっても、相続人の行為が

「遺言の執行を妨げるべき行為」として処分権限がない行為になるか は不明な場合も考えられる。遺言執行者が就職していたとしても、あ る特定の財産についてその受益相続人のした処分行為は、「遺言の執行 を妨げるべき行為」には当たらず、また、それに基づく差押え等も同 様のはずだからである。たとえば、遺言書が複数ある場合において、

相続人に割り付けられている財産は遺言書ごとに異なるが、それぞれ 同じ遺言執行者が指定され遺言執行者が就任を承諾したときは、相続 人にある特定の財産の処分権限があるか否かは、どの内容の遺言が有 効かによってはじめて定まるのであり、遺言執行者の有無だけで定ま るわけではない。よって、このように、第三者の善意の対象は、遺言 執行者があり、かつ処分を行う相続人に処分権限がないこと、と解す べきことになるはずである。

また、第三者が遺言執行者が存在することを知っている場合、当該 第三者が取引をした相手である相続人に処分権限がないことを知らな ければ、それは、通常、過失があることを意味すると思われる。第三 者のうち、相続人と取引をする第三者については、同人が取引をする か否かは自由であることからすれば、第三者の要保護性について、過 失を不問にする必要性はない。また、第三者のうち相続債権者は、法 定相続分に基づいて相続人に相続債務を主張するか、指定相続分に従 い相続人に相続債務を主張するかは自由であることを認めるのであれ ば、相続債権者の要保護性について特別扱いをする必要性も乏しい。

そこで、善意の内容は、処分を行う相続人の処分権限がないことと した上で、第三者に善意のほか無過失を要求するのが適当である。

2 ⑵の規律を設ける必要性について

第三者保護規定について、相続人の債権者はもちろんのこと、相続債 権者についても、差押債権者を特別扱いする必要性はない。

まず、相続人固有の債権者は、もともと被相続人の遺産について、債 務の引当として期待することを保護すべき必要性に乏しい。相続債権者 については、遺言執行者がある場合でも、受益相続人の遺言の内容に従 った行為や、それに対する相続債権者による差押えは、「遺言の執行を妨

げるべき行為」には当たらないはずなので、そもそも①の規律だけでも、

相続人の行為も、相続債権者による差押えも、その効力を阻害されるこ とはない。そして、相続債権者は、法定相続分に従った相続債務の承継 を主張するか、指定相続分に従った相続債務の承継を主張するかにつき、

自由な選択を認められるのであれば、相続債権者に不利益はないのでは あるまいか。すなわち、相続債権者において第三者保護要件が満たされ ている限り、相続債権者は、同人が(過失なく)認識している受益相続 人の持分に対して、差押えをすれば足りると考えられる。

したがって、⑵の規律を設ける必要性は認められない。

3 善意・悪意により結論が変わることの妥当性と執行法上の問題

部会資料22には、相続人の債権者の権利行使の可否がその者の善 意・悪意によって変わることとなり、執行手続等における法的安定性を 害するおそれがあるとの指摘もされたとの記載がある。

しかし、現行法下においても、不動産の処分については民法94条2 項の類推適用、民法32条1項ただし書の類推適用、動産の処分につい ては民法192条以下の即時取得、債務の弁済については民法478条 の債権の準占有者への弁済といった救済の方法が存在しており、これら の規律においては債権者の善意・悪意により結論が異なる。このような 実体法上の結論は妥当なものとして受け入れることができる。執行手続 上発生しうる問題については、例えば、相続債権者による強制執行は遺 言の執行が終了するまではできないものとするなどの方法により回避す ることができると思われるが、さらに検討を深める必要があろう。

なお、「新版注釈民法(28)」350頁(泉久雄)によれば、相続人 の固有の債権者による相続財産に対する強制執行について、「遺言執行者 の管理する相続財産について相続人の管理処分権が排除される以上、相 続人を相手とする相続財産に関する訴訟も否定されるべきであるから、

相続人に対する勝訴判決によって相続財産に強制執行することは、遺言 の執行が終了するまではできない、といわなければならない」とされて いる。

第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策

1 被相続人に対して療養看護その他の労務の提供をし、これにより被相続 人の財産の維持又は増加について〔特別の〕〔著しい〕寄与をした者(〔三 親等内の親族に限り、〕相続人、相続の放棄をした者、相続人の欠格事由に 該当する者及び廃除された者を除く。以下「特別寄与者」という。)は、相

続が開始した後、各相続人に対し、金銭の支払を請求することができる。

ただし、次に掲げる場合には、この限りでない。

(1)特別寄与者がその寄与について対価を得たとき。

(2)被相続人が遺言で別段の意思を表示したとき。

2 1の金銭の額について、特別寄与者と各相続人との間で協議が調わない とき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者の請求により、

家庭裁判所がこれを定める(注)。

3 2の場合には、家庭裁判所は、特別寄与者の寄与の時期、方法及び程度、

相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与者に支払うべき金銭 の総額を算定し、これに各相続人の相続分を乗ずることにより、各相続人 が支払うべき額(1の金銭の額)を算定する。

4 4の特別寄与者に支払うべき金銭の総額は、被相続人が相続開始の時に おいて有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることがで きない。

5 1の請求権は、相続開始を知った時から 6 か月間行使しないときは、時 効によって消滅する。相続開始の時から 1 年を経過したときも、同様とす る。

(注) 2の請求に関する手続きを整備するに当たっては、家事事件手続法 第191条第2項(同法第245条第3項において準用する場合を含む。)と同 様の規律を設ける。

【意見】

1 総論

相続人以外の者の貢献を考慮するための方策としての特別寄与者制度の 導入にあたっては、慎重な検討と議論を要するから、これを欠いたままの 拙速な制度導入には反対する。

2 各論

⑴ 特別寄与者の請求権の法的性質について、具体的権利ではなく未確定 の権利であるという部会資料22-2の考え方に賛成する。

⑵ 1について概ね賛成するが、特別寄与者の範囲を親族関係の有無によ り画することには反対する。また、「〔特別の〕〔著しい〕寄与」との文言 については、不相当なメッセージ性を帯びる懸念を排除するため、より 慎重な検討をする必要がある。

⑶ 2から5までについては賛成する。

【理由】

1 総論