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第 4 章 ネットワークの視点を考慮した交通事故リスクモデルの提案

4.4 道路ネットワークを考慮した交通事故リスクモデルの提案

本研究では,岡山市全域を対象として,施設や道路環境などの都市構成要素および,先ほど 整理したネットワーク指標である近接性指標を用いて生活道路事故のリスクを推定するモデル の構築を行う.また,目的変数の設定については,交通事故が偶発的に発生する事象であり,

必ずしも同一箇所で発生しないということを考慮するため,密度関数を用いることとし,カー ネル密度推定法を用いる.具体的には,犯罪発生マップや交通事故発生マップに用いられてい るカーネル密度推定法を用いることとする21).また,本研究における分析の単位は250mメ ッシュとする.

4.4.1交通事故データの概要

本研究の分析対象地域は岡山市全域としている.岡山県岡山市は人口約70万人,面積約

789km2を有する中四国地方の中核拠点都市であり,隣接する市町村との合併を行い,現在の

岡山市となっていることから,都市部から郊外部まで広く含む多様な都市形態を有する都市で ある分析に用いた交通事故発生地点データは岡山県警から提供していただいたものである.こ れらのデータは発生地点をGIS上で確認でき,それぞれのデータに対して,発生日時や事故類 型などのデータが付与されている.本研究では岡山市内で発生した2010年から2014年までの 5年間に発生した生活道路上の交通事故13,661件を対象とする(図4.9).生活道路事故は車 道幅員5.5m未満の道路上で発生した交通事故とする.

図4.9 岡山市の生活道路事故発生分布

4.4.2カーネル密度推定法の概要

カーネル密度推定法とは,有限の標本点から,全体の分布を推定する手法の1つである.GIS においては点が密集している箇所の分布を連続的で滑らかな密度分布によって,視覚的に分か りやすく表現することができる手法である.例えば,犯罪リスクや交通事故のリスクを推定す るために,犯罪発生マップや交通事故発生マップに利用されている事例21)がある.また,カー ネル密度推定法を用いた研究は主に防犯の分野で行われている.局所的な環境特性に着目し,

ひったくりの犯罪発生要因を分析した研究22)や経年変化による不審者事案発生箇所の変動を

考慮し,都市空間特性と不審者発生の関係について分析・調査した研究などがある23).防犯分 野以外には,点分布の平滑化が地図利用者に与える影響について分析・調査を行った研究もあ る24)25)

カーネル密度推定法で用いられるポイントデータの影響の範囲を表すのがバンド幅である.

このバンド幅には絶対的な推定方法は確立されていない.そのため,バンド幅の値は分析者側 で設定する必要がある.

カーネル密度推定法では,バンド幅として設定した範囲まで一定の減衰を伴いつつ影響が計 算される.しかし,既往研究で用いられているカーネル密度推定法の影響の減衰については道 路環境や都市の構造といった空間的な特性を考慮せず,同様に影響が減衰することを仮定して いる.しかし,特に交通事故については,道路上で発生する事象であるため,道路ネットワー クについても考慮する必要がある(図4.10).

図4.10 カーネル密度推定法概念図22)

図4.11 ネットワークカーネル密度推定法概念図26)

そこで,本研究ではSANETにより提供されているソフトである「SANET Ver.4.1 β」に 内蔵されているネットワークカーネル密度推定を用いることとする26).ネットワークカーネル 密度推定はネットワークの空間特性を考慮しており,ネットワーク上の与えられた点に対して,

その点のネットワーク上における密度関数を推定を行う.ネットワークカーネル密度推定を用 いることで,ネットワークを考慮した密度推定を行うことができる(図4.11).次に250mメ ッシュ単位の生活道路事故分布を「実際の交通事故発生地点データによる事故件数」,「カーネ ル密度値(バンド幅300m)より算出した事故件数」,「ネットワークカーネル密度値(バンド

幅300m)より算出した事故件数」の3種類で示す(図4.12,4.13,4.14).全体のおおまかな 傾向として中心部が事故件数が多いということは,カーネル密度においてもネットワークカー ネル密度においても類似している.しかし,カーネル密度においては道路ネットワークを考慮 することができていないため,ネットワークカーネルと比べると実際の事故データよりも過剰 に平滑化されている傾向が見受けられる.また,これら3種のメッシュ内の事故件数の相関関 係を調べた(表4.3).相関係数についてはネットワークカーネル密度のほうがカーネル密度よ りも高い結果となった.次に実際の事故件数とネットワークカーネル密度による事故件数,カ ーネル密度による事故件数の残差について示す(図4.15,4.16)残差についてはカーネル密度 による事故件数のほうが,大きい傾向にあり,それぞれの残差平方和を算出したところ,ネッ トワークカーネル密度による事故件数のほうが小さい.

このように密度関数を用いた場合においてもネットワークカーネル密度のほうが実際の事故 の状況に近いものとなるため,モデル作成の際にはネットワークカーネル密度を用いることと する.

また,交通事故データのようなカウントデータを用いる際には,負の二項分布やポワソン分 布を想定する一般線形化モデルを用いることが多い.しかしながら,今回提案するモデルは目 的変数をネットワークカーネル密度により算出した密度値を用いる.カーネル密度推定はカウ ントデータを連続量に変換するものである.そのため,本研究ではモデル提案にあたって,重 回帰分析を用いるものとする.

( 件/年)

図4.13カーネル密度値(バンド幅 300m)による全事故件数の分布 図4.12実際の交通事故発生地点データ

による全事故件数の分布

( 件/年)

図4.14 ネットワークカーネル密度値(バンド幅300m)による全事故件数の分布

表4.3 全事故件数算出方法別の相関関係

図4.15 実事故件数とネットワークカーネル密度による事故件数の残差

( 件/年)

実際の事故件数 ネットワークカーネル 密度値による事故件 数

カーネル密度値 による事故件数

実際の事故件数

1.0000 0.9628 0.9174

ネットワークカーネル

密度値による事故件数

0.9628 1.0000 0.9780

カーネル密度値

による事故件数

0.9174 0.9780 1.0000

-30 -20 -10 0 10 20 30

残差

(実事故件数-ネットワークカーネル密度による事故件数)

残差平方和=11583.19

図4.16 実事故件数とカーネル密度による事故件数の残差

4.4.3分析使用データについて

本研究では交通事故のリスクを推定するために250メッシュ内の事故件数を目的変数として 重回帰分析を行う.分析に用いるデータは施設,道路環境,人口,道路ネットワークの指標と して近接性指標などを用いており,GISデータとして入手もしくは整備が比較的容易なものを 用いている(表4.4).

表4.4分析使用データ(説明変数)

道路については幅員別道路延長,道路種別の延長に加え歩道の延長を作成している.交差点 の種別が事故発生に関係していると考えられているため,信号の有無別,設置道路区分別に作

-30 -20 -10 0 10 20 30

残差

(実事故件数-カーネル密度による事故件数)

残差平方和=24977.23

データ 基準 出典

幅員5.5m未満道路延長 幅員5.5m以上13.0m未満道路延長 幅員13.0m以上道路延長 国道延長

県道延長

歩道延長 Zmap-AREAⅡデジタル住宅地図2011年度版

信号交差点数 メッシュ内の信号が設置されている交差点数 無信号交差点数 メッシュ内の信号が設置されていない交差点数

国道交差点数 メッシュ内の国道上に立地している交差点

県道交差点数 メッシュ内の県道上に立地している交差点

近接性指標 メッシュ内の各リンクの近接性指標の平均値

平均接続リンク数 メッシュ内の各リンクに接続されているリンク数の平均値 国道までの距離 メッシュ内の各リンクから国道までの距離の平均値 医療機関数

教育機関数 福祉施設数 金融機関数 燃料給油所数 都市公園数 バス停数 駅数

スーパー・コンビニ店舗数 iタウンページHPより作成(2013)

病院までの距離 駅までの距離 学校までの距離 住宅延床面積 医療機関延床面積 学校延床面積 宿泊施設延床面積 商業施設延床面積 オフィスビル延床面積 15歳未満人口 15以上64以下歳人口 65歳以上人口

メッシュ内の幅員別の総延長

ArcGISデータコレクション道路網2014

メッシュ内の道路区分別の総延長 道路環境

ArcGISデータコレクション道路網2014

メッシュ内の建物ポリゴンの面積に建物の階数を乗じた値の合計値 Zmap-AREAⅡデジタル住宅地図2011年度版 建物延床面積

メッシュ内の年齢階級別の総人口 ArcGISデータコレクションスタンダードパック2014 人口

メッシュ内の施設総数 ArcGISデータコレクションスタンダードパック2014

メッシュ内の各リンクから施設までの距離の平均値(逆数)

施設

ArcGISデータコレクションスタンダードパック2014

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