土地利用と道路ネットワークを考慮した面的速度抑制対策の
対象地域選定モデルの検討
― 平成 26 年度(本報告)
ISSN 2185-8950
タカタ財団助成研究論文 ―
研究代表者
橋本 成仁
研究実施メンバー
研究代表者
岡山大学大学院環境生命科学研究科
准教授
橋本成仁
研究協力者
大同大学工学部
教授
嶋田喜昭
(公財)豊田都市交通研究所研究部
部長
安藤良輔
(公財)豊田都市交通研究所研究部
主任研究員
三村泰広
福岡大学工学部
助教
吉城秀治
報告書概要
交通安全の向上を目指して,ゾーン30 などの面的な速度抑制対策が各地で進められている. しかし,その際の対象地域の選定方法に関しては「幹線道路等に囲まれた地区」というルール はあるものの,都市内の何処を対象とするのかという点について,明確なルールは存在しない. 結果として,「対策が効果的な地域」ではなく,「対策を導入しやすい地域」が選択されている ような事例も散見される. そこで,H25 年度のタカタ財団研究助成「周辺土地利用と生活道路の理想性能を考慮した面 的速度抑制対策箇所の選定方法に関する研究」において,岡山市,豊田市,名古屋市を対象と して,土地利用,都市施設配置,人口分布等を説明変数として,面的な交通安全対策の必要な 地域を明らかにする研究を進めてきた.これらの結果から,都市全体のスケールで見ると比較 的良好な成果が得られている. しかし,道路ネットワークや通過交通など,H25 年度の研究助成の枠組みのみでは分析困難 な要素について課題が残されており,また,そのような変数を導入することにより,更に精度 が向上することが期待できる. その結果,以下のようなことが明らかとなった. 抜け道交通発生に関しては,「混雑時平均旅行速度」「単位面積当たりの交通事故件数」 および「田圃利用率」がモデルに有意に寄与しており,抜け道交通発生の大きな要因に なっている.地区周囲における幹線道路での「混雑時平均旅行速度」が低く,「単位面積 当たりの交通事故件数」が高く,田圃としての土地利用率「田園利用率」が低い地区ほ ど抜け道交通が発生する. 周辺土地利用と道路ネットワークから見た生活道路での交通事故の発生レベル予測モ デルについては,負の二項回帰モデルの当てはまりが良いことが明らかとなった.また, 当該モデルの考察を通じて,人口が多く,街路形態がグリット形状で,交差点が多く, 近隣商業地域に指定される地域において生活道路での交通事故抑制の観点から面的な速 度抑制を積極的に推進すべきであることを提案した. ネットワークカーネル密度値を用いた分析において,生活道路の事故発生分布を再現 する際に,スペースシンタックス理論の近接性指標を用いることにより事故発生状況の 再現性が高くなる可能性が示された.目 次
土地利用と道路ネットワークを考慮した面的速度抑制対策の対象地域選定モデルの検討 第1 章 はじめに ... 4 第2 章 通過交通に関する検討・分析 ~生活道路における抜け道交通の発生推定モデルの構築~ ... 5 2.1 地区割りの設定と対象地域の概要 ... 5 2.2 抜け道交通に関連するデータ収集 ... 6 2.3 抜け道交通発生地区の類型化と発生推定モデル ... 10 第3 章 周辺土地利用と道路ネットワークから見た交通事故発生レベル予測モデルの提案 ... 14 3.1 周辺土地利用と交通事故の関係性 ... 14 3.2 分析方法 ... 14 3.3 分析結果 ... 17 3.4 まとめ ... 22 第4 章 ネットワークの視点を考慮した交通事故リスクモデルの提案 ... 24 4.1 はじめに ... 24 4.2 SS 理論整理・検討 ... 25 4.3 近接性指標算出結果と交通量との関係性 ... 27 4.4 道路ネットワークを考慮した交通事故リスクモデルの提案 ... 31 第5 章 まとめと今後の課題 ... 43 参考文献 ... 44第 1 章
はじめに
交通安全の向上を目指して,ゾーン30 などの面的な速度抑制対策が各地で進められている. しかし,その際の対象地域の選定方法に関しては「幹線道路等に囲まれた地区」というルール はあるものの,都市内の何処を対象とするのかという点について,明確なルールは存在しない. 結果として,「対策が効果的な地域」ではなく,「対策を導入しやすい地域」が選択されている ような事例も散見される. そこで,H25 年度のタカタ財団研究助成「周辺土地利用と生活道路の理想性能を考慮した面 的速度抑制対策箇所の選定方法に関する研究」において,岡山市,豊田市,名古屋市を対象と して,土地利用,都市施設配置,人口分布等を説明変数として,面的な交通安全対策の必要な 地域を明らかにする研究を進めてきた.これらの結果から,都市全体のスケールで見ると比較 的良好な成果が得られている. しかし,道路ネットワークや通過交通など,H25 年度の研究助成の枠組みのみでは分析困難 な要素について課題が残されており,また,そのような変数を導入することにより,更に精度 が向上することが期待できる. そこで,本研究では,H25 年度助成研究をさらに発展させるため,道路ネットワークや通過 交通などに関する条件を検討材料として加え,これにより,都市内で年的な速度抑制対策を行 うべき地域を選定するための知見を得ることを目的とする.第 2 章
通過交通に関する検討・分析
~生活道路における抜け道交通の発生推定モデルの構築~
ここでは,生活道路において発生する通過交通(以下,抜け道交通)について,特にどのよう な地区で発生しているのか,その住環境要因を検討する.愛知県稲沢市を事例対象として,地 理情報システム(GIS)を用いた住環境データに基づき,抜け道交通発生地区の類型化を行う とともに,抜け道交通の発生推定モデルを構築する. 2.1 地区割りの設定と対象地域の概要 抜け道交通が発生している地区を把握する際,幹線道路およびその他の物理的な空間によっ て分断された地区を一つの単位として捉え,その地区内での抜け道交通の有無を調査する.「そ の他の物理的な空間」としては,鉄道路線(高架路線・駅および新幹線を除く)と一級河川を 扱っている. 従来の抜け道交通に関する研究は,各道路リンクおよびその沿道条件について分析を行うケー スが多くみられる.しかし,ここではリンク条件のみならず地区全体の様々な都市要素を複合 的に捉えるとともに,地区周囲の道路交通との関係性等も見出すことを目的としている. 図2.1 は,上記の地区割りの方法に基づき,対象地域である稲沢市を分割およびナンバリン グしたものである. 稲沢市は,名古屋市近郊に位置し,名神高速道路や東名阪自動車道路へもアクセスが容易な交 通環境である.しかし,JR 東海道本線および旧国鉄の操車場跡地の遊休地で東西の交通が分 断されていたため,道路・公園等の都市基盤整備が遅れていた.そのため,一宮・名古屋両市 方向に向かう車両が従来の交通需要に押しとどまらず,市街地内部の生活道路に侵入し抜け道 交通問題が深刻な地域も多数存在した.平成 16 年度から昨年度にかけて稲沢駅の旧国鉄の操 車場跡地の遊休地を活用して周辺の再開発を行い,新しい道路網が増えたが,依然として交通 渋滞は解消されず,旧来の狭隘道路に目的外の車両が進入するケースも後を絶たない.稲沢駅 周辺の再開発が進んだことにより,人口も増えつつある一方で,危険な抜け道交通は依然とし て解消されていない状況にある.図2.1 地区割りの設定 2.2 抜け道交通に関連するデータ収集 2.2.1 抜け道交通の発生状況調査 現在のところ抜け道交通量を入手する手段としては,ナンバープレート調査もしくはプロー ブデータの活用が考えられるが,莫大な労力や費用がかかるなど入手は困難である.そこで, ここでは抜け道交通量ではなく,住民等の認識から抜け道交通の「有無」を把握することにし た.具体的には,稲沢市役所の職員から抜け道交通に関する情報を聞いた「ヒアリング」(ケー ス 1)と,稲沢市都市計画マスタープラン作成の際に参考とされた地域別ワークショップでの 意見を情報とする「マスタープラン情報」(ケース 2),さらに両資料ともに抜け道交通の発生 が指摘されている地区を‘抜け道交通が頻繁に発生している地区’,両資料のうちどちらか一方 で指摘されている地区を‘抜け道が発生する地区’,両資料ともに指摘がない地区を‘非地区’ に分類した「三段階評価」(ケース3)の計 3 つのケースを用いて分析することとした.なお, 図2.2~図 2.4 は,各ケースにおける抜け道交通の発生地区である.
図 2.2 「ヒアリング」結果から見る抜け道交通の発生地区
図 2.4 三段階評価の結果から見る抜け道交通の発生地区 2.2.2 住環境データの収集・整理 抜け道交通の発生要因について,都市構造や地区の施設立地,ドライバーからみた走行快適性 などを考慮して,各地区の住環境データを収集することにした.なお,データ収集は 500m× 500mメッシュを基本単位として行っているが,地区面積が一つのメッシュ内に収まるような 小規模地区は,近隣の地区データと重複することになるため,ここでは地区面積 25ha 以下の 地区は対象外とした上で,稲沢市域周辺地区を含有する計 53 地区を対象に分析をしている. また,調査対象となる地区は面積が一定ではないため,各数値に対して単位面積当たり,ある いは平均値とすることで標準化を行っている. 収集した指標は表 2.1 に示すとおりであり,幹線道路要因,生活道路要因,交通特性要因,地 域特性要因などに分類できる.
表 2.1 収集した住環境指標 変数 カテゴリー 指標名 算出方法 単位 X1 混雑時平均旅行速度 各混雑時平均旅行速度の調和平均 km/h X2 幹線道路における平均交差点距離 幹線道路リンク長/交差点数 m/箇所 X3 幹線道路における平均信号機距離 幹線道路リンク長/信号機数 m/箇所 X4 幹線道路密度 幹線道路リンク長/地区面積 m/m2 X5 生活道路の道路密度 生活道路リンク長/地区面積 m/m2 X6 生活道路の幅員レベル 生活道路における幅員レベルの平均 -X7 生活道路内の平均交差点距離 生活道路リンク長/交差点数 m/箇所 X8 生活道路内の平均信号機距離 生活道路リンク長/信号機数 m/箇所 X9 生活道路における5.5m以上を幅員を持つ道路の割合 5.5m以上の生活道路延長/生活道路リンク長 % X1 0 生活道路における規制道路延長割合 生活道路における規制道路延長/生活道路リンク長 % X1 1 幹線道路周辺(100m)の生活道路密度 幹線道路半径100m内の生活道路/ (幹線道リンク長×100) m/m 2 X1 2 単位面積当たりのの全目的自動車発生トリップ数 面積按分により求めた各地区の全目的自動車発生トリップ/地区面積 台/km2 X1 3 単位面積当たりの駅・バス停数 各地区の駅・バス停数/地区面積 箇所/km2 X1 4 地区面積 Shape Area×ジオメトリ演算 km2 X1 5 人口密度 面積按分により求めた各地区の総人口/地区面積 人/km2 X1 6 年少者人口密度 面積按分により求めた各地区の年少者人口/地区面積 人/km2 X1 7 生産者人口密度 面積按分により求めた各地区の生産者人口/地区面積 人/km 2 X1 8 就業者人口密度 面積按分により求めた各地区の就業者人口/地区面積 人/km 2 X1 9 高齢者人口密度 面積按分により求めた各地区の高齢者人口/地区面積 人/km2 X2 0 単位面積当たりの交通事故件数 面積按分により求めた各地区の交通事故件数/地区面積 件/km2 X2 1 世帯密度 面積按分により求めた各地区の総世帯数/地区面積 世帯/km 2 X2 2 単位面積における6歳未満のいる世帯数 面積按分により求めた各地区の6歳未満のいる総世帯数/地区面積 世帯/km2 X2 3 単位面積における65歳以上のいる世帯数 面積按分により求めた各地区の65歳以上のいる総世帯数/地区面積 世帯/km2 X2 4 田圃利用率 田圃利用面積/地区面積 % X2 5 その他農用地利用率 その他農用地利用面積/地区面積 % X2 6 小売店密度 面積按分により求めた各地区の総小売店舗数/地区面積 店舗/km2 X2 7 飲食店密度 面積按分により求めた各地区の総飲食店舗数/地区面積 店舗/km 2 X2 8 バスルートの有無 ダミー変数(1:あり 0:なし) -X2 9 10ha以上の工業用地の有無 ダミー変数(1:あり 1:なし) -幹線道路 要因 生活道路 要因 交通特性 要因 地域特性 要因 ダミー変数
2.3 抜け道交通発生地区の類型化と発生推定モデル 2.3.1 分析に用いる指標の選定 指標として収集した 29 の変数に関して,多変量解析での多重共線性による誤差を回避する ために,相関分析の検証を経て表2.2 に示す 19 の指標を選定した. 表 2.2 分析に用いた 19 の住環境指標 2.3.2 クラスター分析 抜け道交通が発生している地区では,まずどのようなパターンの抜け道交通が発生している のかを把握するため,上述のケース1 およびケース 2 のいずれかで抜け道交通の発生が指摘さ れた地区を対象として,上記 19 指標を用いたクラスター分析により地区を類型化し,それら の住環境の特徴を探った.クラスター分析におけるクラスターの定義はウォード法,クラスタ ー間距離は標準化したユークリッド距離を用いている. クラスター分析の結果,4グループの地区に類型化でき,それぞれ類型化された地区群の各 住環境指標の平均値により,抜け道交通の発生パターンを推察した.表 2.3 は,各地区群にお ける抜け道交通の発生特徴とそれに関連・寄与する指標を整理したものである.また,発生パ 変数 要因 指標名 単位
X
1 混雑時平均旅行速度 km/hX
2 幹線道路における平均交差点距離 m/箇所X
3 幹線道路における平均信号機距離 m/箇所X
4 幹線道路密度 m/m2X
5 生活道路の道路密度 m/m2X
7 生活道路内の平均交差点距離 m/箇所X
8 生活道路内の平均信号機距離 m/箇所X
9 生活道路における5.5m以上の幅員を持つ道路の割合 %X
1 0 生活道路における規制道路延長割合 %X
1 1 幹線道路周辺(100m)の生活道路密度 m/m2X
1 3 単位面積当たりの駅・バス停数 箇所/km2X
1 4 地区面積 km2X
2 0 単位面積当たりの交通事故件数 件/km2X
2 1 世帯密度 世帯/km2X
2 4 田圃利用率 %X
2 5 その他農用地利用率 %X
2 6 小売店密度 店舗/km2X
2 8 バスルートの有無 (1:あり 0:なし)-X
2 9 10ha以上の工業用地の有無 (1:あり 0:なし) -ダミー変数 幹線道路 生活道路 交通特性 地域特性ターンに関しては,岡本ら1)の研究を参考にしている. まず,「最短的抜け道交通」の地区とは,幹線道路密度が低く,幹線道路のみを用いた移動の 場合には遠回りになってしまうため,生活道路を用いて最短ルート的に抜け道を行っている所 と考えられる.幹線道路周辺(100m)の生活道路密度も低いことから,生活道路へのアクセ ス性は高くないが,一旦生活道路内に入れば平均交差点距離が長く,移動がしやすいことから, その土地に詳しい人が比較的よく抜け道している所と推察される.次に,「パス的抜け道交通」 の地区とは,幹線道路上の信号交差点間が短く,信号待ちが多くなる環境にあり,それを避け るために幹線道路周辺の生活道路をパスして,幹線道路へ戻るような抜け道交通が発生してい ると考えられる.また,そのように利用できる生活道路が幹線道路から1 本地区内に入った場 所に多くみられる.このような抜け道発生パターンの地区が最も多くなっている.そして,「代 替的抜け道交通」の地区とは,地区内に比較的幅員の広い生活道路が多くあり,混雑が予想さ れる時間帯などに渋滞を回避するため幹線道路の代替道路として生活道路が使用されている所 と考えられる.また,田圃・農用地の土地利用に関する指標が低いことから市街化が進んだ地 区が多いといえる.最後に,「回避的抜け道交通」の地区とは,幹線道路の渋滞により,速度が 十分に出ないために渋滞回避のために生活道路を使用している所と考えられる.「代替的抜け道 交通」の地区と類似しているが,広幅員の道路はさほどない.また,幹線道路密度が高いため, 複数の幹線道路で渋滞が発生すると,地区内において複数の抜け道交通が発生する可能性があ ると考えられ,世帯密度の高い住居地域における狭幅員の生活道路に流入するため交通事故も 多発していると推察される.なお,図 2.5 は類型化した抜け道交通の発生パターンを表す概念 図である. 表2.3 地区の類型化と抜け道交通の発生パターン 発 生 パ タ ー ン ( 地 区 数 ) カ テ ゴ リ 寄 与 変 数 ( 赤 : 最 大 値 青 : 最 小 値 ) 特 徴 幹線道路 幹線道路密度 生活道路 生活道路内の平均交差点距離 幹線道路周辺(100m)の生活道路密度 単位面積当たりの駅・バス停数 地区面積 単位面積当たりの交通事故件数 田圃利用率 幹線道路における平均交差点距離 幹線道路における平均信号機距離 生活道路における5.5m以上の幅員を持つ道路 生活道路における規制道路延長割合 交通特性 幹線道路周辺(100m)の生活道路密度 その他農用地利用率 小売店舗密度 幹線道路 混雑時平均旅行速度 生活道路における道路密度 生活道路における5.5m以上の幅員を持つ道路 地区面積 田圃利用率 その他農用地利用率 幹線道路における平均交差点距離 幹線道路密度 生活道路の道路密度 生活道路内の平均交差点距離 生活道路内の平均信号機距離 生活道路における規制道路延長割合 交通特性 単位面積当たりの駅・バス停数 単位面積当たりの交通事故件数 世帯密度 小売店舗密度 幹線道路でも移動が容易である が、幹線道路を用いるために遠回 りになってしまうため、生活道路 を用いて最短ルートを使用する。 主に、その土地に詳しい人が使用 すると思われる。 幹線道路上に交差点が多々あり、 速度が出にくい道路において、幹 線道路の交差点滞留を避けるため に生活道路をパスして、幹線道路 に戻るように使用する。 地区内に比較的幅員の広い生活道 路が多くあり、速度も出しやすい ため混雑時において幹線道路の代 替として使用される。 幹線道路の渋滞回避のために生活 道路を使用する。比較的高密度に 生活道路が張っているため、複数 個所で同時に抜け道が発生してい ると思われる。また、世帯密度の 高い狭幅員の道路を使用するため 交通事故件数が多発すると思われ る。 回避的抜け道 交通 (3) 交通特性 地域特性 幹線道路 生活道路 生活道路 地域特性 幹線道路 生活道路 地域特性 地域特性 代替的抜け道 交通 (2) パス的抜け道 交通 (12) 最短的抜け道 交通 (4)
図2.5 抜け道交通の発生パターン概念図 2.3.3 判別分析を用いた抜け道交通の発生推定モデルの構築 地区ごとの抜け道交通発生の有無(ケース1~ケース 3)を目的変数とし,19 の住環境指標 を説明変数とした判別モデルの作成を試みた.判別分析の結果,相関比ならびに判別的中率よ りケース1 のモデルが最も妥当な結果となった.とりわけケース 2 に関しては,相関比が低く, 住民の主観が影響して信頼性が低いものになっていると考えられる.したがって,ここではケ ース1 のモデルを採用することにする. ケース1 の判別分析の結果を表 2.4 に示す. 判別モデル(判別関数)の有意性の検定では十分に有意なモデルであると判定され,相関比 も高くなっている.判別的中率についても 95%と高い.変数に着目すると,「混雑時平均旅行 速度」「単位面積当たりの交通事故件数」および「田圃利用率」がモデルに有意に寄与しており, 抜け道交通発生の大きな要因になっていることがわかる.モデルの標準化判別係数をみると, 抜け道交通の発生(あり)の重心がマイナスにあることから,地区周囲における幹線道路での 「混雑時平均旅行速度」が低く,「単位面積当たりの交通事故件数」が高く,田圃としての土地 利用率「田園利用率」が低い地区ほど抜け道交通が発生するというモデルになっている.
最短的抜け道交通
パス的抜け道交通
代替的抜け道交通
回避的抜け道交通
凡例
幹線道路 生活道路 5.5m以上の幅員がある生活道路 生活道路を用いた交通 幹線道路のみを用いた交通 土地利用表2.4 ケース 1 による判別分析の結果 以上より,抜け道交通が発生している地区は,地区を取り囲む幹線道路が混雑しており,ま た交通事故の割合も高い地区となっている.また,田園利用率が低く,相対的に市街化された 地区で抜け道交通が発生しやすいといえる.これらを斟酌すると,結局は地区全体の交通量が 多い地区で同時に抜け道交通も多く発生していることが確認できたといえる. 判別関数 固有値 寄与率 累積寄与率 相関比 1 2.5395 100.00% 100.00% 0.8470 判別関数 Wilksのラムダ カイ二乗値 自由度 P 値 1のみ 0.2825 61.9354 4 0.0000 固有値表 判別関数の有意性の検定 変数の数 Wilksのラムタ F 値 自由度1 自由度2 P 値 相関比 4 0.2825 30.4741 4 48.00 0.0000 0.7175 変 数 Wilksのラムタ F 値 自由度1 自由度2 P 値 判 定 混雑時平均旅行 速度 0.7829 13.3101 1 48 0.0006 ** 単位面積当たり の交通事故件数 0.6710 23.5346 1 48 0.0000 ** 田圃利用率 0.8949 5.6353 1 48 0.0217 * 10ha以上の工業 用地の有無 0.9297 3.6295 1 48 0.0628 判別関数に含まれる 変数 モデル あり なし 変数 標準化判別係数 判 定 混雑時平均旅行速度 0.553 ** 単位面積当たりの交通事故件数 -0.708 ** 田圃利用率 0.402 * 10ha以上の工業用地の有無 -0.342 0.937 -2.609 重心 判別モデル 発生要因
第 3 章
周辺土地利用と道路ネットワークから見た交通事故発生レベ
ル予測モデルの提案
ここでは,豊田市をケーススタディエリアとして,道路ネットワークおよび周辺土地利用 の影響を考慮した交通事故発生レベル予測モデルを提案する.提案にあたっては周辺土地 利用と交通事故の関係性について既往研究を中心に整理したのち,指標の選定,分析方法 の整理を行いモデルの構築を行う.得られたモデルについてその特性を整理するとともに, 当該モデルを活用した具体的対策箇所の提案を行う. 3.1 周辺土地利用と交通事故の関係性 土地利用と交通事故の関係性を捉えた既往研究をレビューしたところ,次のように整理する ことができた.まず,Noland, R.B.& Quddus, M.A.2),Ladron de Guevara, F., Washington, S.P. & Oh, J.3),Wier, M., Weintraub, J., Humphreys, E., Seto, E. & Bhatia, R.4)らが指摘してい る人口密度と従業者数である.人口密度が高く,従業者が多い地区は交通事故も多いことが示 されている.また,Pulugurtha, S. S., Duddu, V. R. & Kotagiri, Y.5)の研究では住居が中心と なる複合的な土地利用,都市住居,高層住居,商業,業務地域では交通事故が多いことが示さ れている.その他,Kim, K., Brunner, I.M. & Yamashita, E.Y6),Quddus, M.A7)らによって, 貧困地域,自動車を持たない世帯の居住状況,経済産出量なども交通事故の発生と関連がある ことが明示されている. これらの整理を踏まえ,本研究にて使用する指標を選定する.まず,人口密度,従業者数に ついては,国勢調査等によって参照が可能である.本研究では当該データについて,ESRI 社 の提供する ArcGIS データコレクションスタンダードパック 2014 に包含される基本統計デー タ(4 次メッシュ)を活用することで対応する.次に複合土地利用,都市住居,高層住居,商 業,業務地域については,我が国の都市計画区域内で指定される用途地域である程度の対応が 可能であると考えられる.当該データについては,国土交通省が提供する国土数値情報にて参 照可能な用途地域データ(平成 23 年度作成)を活用する.なお,貧困地域,自動車を持たな い世帯,経済産出量などの指標については,我が国で一般的なデータセットとして提供されて いないため課題と認識しつつも本研究では考慮しない. 3.2 分析方法 本研究における分析(推計)の単位は図3.1 に示すように 4 次メッシュとした.これは,他 地域への応用が容易であることと,実際の設定においては,地域の実情に応じた微調整が必要 になることが予想され,おおよその検討がつくようなマクロ的整理の方が議論しやすいと考え られるためである.次に本研究における幹線道路と生活道路については,幹線道路・生活道路の分類を他地域で の応用を踏まえて便宜的にデータセットの揃う道路幅員5.5m 以上を幹線,5.5m 未満を生活道 路とした.結果の図3.2 に示す. 使用するデータの一覧を表3.1 に示す.目的変数である交通事故件数は,愛知県警察より貸 与を受けたものである.ここでは,幹線道路中心線から20m のバッファを作成し,そこに包含 される事故を幹線道路での事故,それ以外を生活道路での事故とした. 説明変数は先に整理した交通事故との関連性が認められる周辺土地利用および道路ネットワ ークに関連する指標である.接続ノード数(Link to node ratio)は,Ewing, R8)によって提案 される任意地区のネットワーク接続性を評価する概念である.具体的には,図3-3 に示すよう に任意地区内のノード総数に対するリンク総数で算出される.値が小さければ当該ネットワー クはクルドサック(袋小路)などが多用されていることが予想され,通過交通の少ない安全性 が高い地域であるといった評価ができる.本研究においては分析単位におけるリンク総数に対 するノード総数から算出した. 幹線道路車線数は,当該エリア内の車線数別幹線道路延長を考慮した平均幹線道路車線数を 使用する.具体的には当該エリア内の車線数別幹線道路延長を算定し,当該エリア内の全幹線 道路延長に占める当該車線数の延長で重み付けした平均幹線道路車線数という指標を導出した. なお,本研究では使用するデータセットの制約上,道路幅員5.5m~13.0m 未満の幹線道路を 2 車線,道路幅員13m 以上の幹線道路を 4 車線とした. 平均形状指数は以下の算出方法を用いる.すなわち,道路に囲まれた街区ブロックデータの 面積と外周長をGIS 上で計算し形状指数を算出し,それぞれの集計単位(町)に中心点が包含 される街区ブロックの形状指数の総和を街区ブロック数で除した値を平均形状指数とした. ところで,交通事故の実数を予測する場合,面積の要素を組み入れる必要があるので,人口 密度は人口に,近隣交差点密度は交差点数に変更し解析を行うこととした.また,人口指標に ついては,わが国で急速な進展が予想される高齢化の影響を組み入れることが将来的な予測を 勘案できる上で有用であると考えられるため,各メッシュの高齢化率を新規に組み入れること とした. 以上の分析単位であるメッシュデータ,説明変数のデータは他地域での汎用性を考慮し, ESRI 社より市販提供されるデータセット ArcGIS スタンダードパック 2014 の基本統計,公共 地図および広域地図に格納されるデータを使用した.以上のデータセットを用いて生活道路で の事故予測モデルを構築した.目的変数となる交通事故はその重要性,生活道路での特徴も考 慮しつつ,全事故,出合頭事故,歩行者・自転車事故,死亡・重傷事故の観点から整理するこ ととした.使用するモデルは,先の整理のとおり一般化線形モデルであるが,比較のため線形 モデルでも行うこととした.一般化線形モデルにおいては,ポワソン回帰と負の二項回帰モデ ルを,線形モデルにおいては重回帰モデルを構築する.解析に使用する GIS は,ESRI 社の ArcGIS 10.2 である.またモデル構築には統計ソフトウェアである R(version3.1.2)および統 計パッケージMASS を使用する.
図3.1 本研究における分析対象単位(4 次メッシュ)と生活道路での事故地点
表 3.1 使用する指標 目的変数:豊田市で平成19 年~23 年に発生した生活道路上での交通事 故件数(全事故,出合頭事故,歩行者・自転車事故,死亡・ 重傷事故別で解析) 説明変数:周辺土地利用:人口(夜間人口),従業者数(2 次・3 次), 高齢化率,準居住地域面積,第2 種住居面積, 商業地域面積,近隣商業面積 道路ネットワーク:接続リンク数,平均幹線車線数,交差点 数,平均形状指数,幹線道路延長,街区ブロ ック数 図 3.3 接続ノード数のイメージ9)より引用 3.3 分析結果 モデル構築を行うにあたって,指標間の相関を確認するため,相関分析を実施した.表 3.2 は使用する指標間の相関係数を示している.指標間において,2 次・3 次従業者数と総人口, 街区ブロック数と交差点数と相関が0.9 以上と高いことがわかる.線形モデルを構築するにあ たっては多重共線性の回避が求められることから,ここで2 次・3 次従業者数および街区ブロ ック数を削除し,分析を行うこととした. 説明変数の選択にあたっては,ステップワイズによりAIC が最小となるものを選択した. 表3.3~5 にポワソン回帰,負の二項回帰,重回帰それぞれのモデルの結果を示す.モデルの 当てはまりを示すAIC に着目すると,いずれの事故についてもポワソン回帰モデルよりも負の 二項回帰モデルの値が小さく,モデルとしての当てはまりがよいことがわかる.重回帰モデル は連続分布であるため,AIC による直接比較はできない.よって,図 3.3~3.6 に示した予測値 と観測値のヒストグラムの傾向から考察すると,いずれの事故についても負の二項回帰モデル より当てはまりが悪いことがわかる.このように負の二項回帰モデルは既往研究10)同様,他の モデルに比べて全体的なモデルの当てはまりがよいといえる.ただし,観測値からのズレの程 度を示す残差平方和をみると,負の二項回帰モデルはいずれの事故についても他のモデルと比
べて値が大きく,過大もしくは過小予測をする箇所が他のモデルより多くなっている.このよ うな過分散が確認される状況については,観測されていない個体差の影響が予想される11)こと から,他の説明変数の検討とともに,ランダム効果を考慮した一般化線形混合モデルへの拡張 などの検討が必要であるかもしれない. 以下では全体の当てはまりがよい負の二項回帰モデルにおける考察を進める.変数の傾向に ついてみると,道路ネットワーク関係の指標では,接続ノードと幹線道路延長が,周辺土地利 用関係の指標では準居住地域面積,第2 種住居地域面積,商業地域面積が,いずれの事故にお いても選択されていない,もしくは有意となっていないなど,モデルに対する影響がない,も しくは小さいことがわかる.他方,総人口はすべての事故において高度に有意(P<0.001)と なっているなど,その影響力が大きいことがわかる.道路ネットワーク関係の指標では,平均 形状指数,交差点が死亡・重傷事故を除いて高度に有意(P<0.001)となっているなど影響力 が大きい.また,各変数の符号に着眼すると,高齢化率はいずれの事故においても符号がマイ ナスとなっている.これは高齢化率の高い地域が中山間地などそもそも生活道路が少ないうえ に自動車の走行頻度の少なさなどから構造的に交通事故が発生しづらいことが原因の一つとし て考えられる. 以上のように構築した生活道路の交通事故発生レベル予測モデルから,例えば以下のように 面的な速度抑制をすべきエリアの提案ができる.まず人口の多い,もしくは今後人口の増加が 見込まれる地域は,死亡・重傷事故を含めた生活道路での交通事故の多さが予想されるため, 積極的に面的な速度抑制を検討するべきである.また,平均形状指数が高い値を示す区画整理 がなされている,もしくは今後なされるなど街区が極めて正順化され多くの交差点が包含され るような地域においても,生活道路での交通事故の多さが予測されることから積極的な面的速 度抑制を検討すべきであるといえる.その他,多様な施設が配置される近隣商業地域に用途指 定される地域なども対策地として検討に加えるべきであるといえよう.以上のような観点から 面的な速度抑制を検討することが生活道路における交通事故の削減を目指すうえで効果が期待 できるといえる. 表 3.2 使用する指標間の相関係数 街区ブロ ック数 平均形状 指数 接続ノー ド 幹線道路 延長 平均幹線 車線数 交差点数 総人口 2 次 3 次 従業者数 高齢化率 準居住地 域面積 第2 種住 居地域面 積 商業地域 面積 近隣商業 地域面積 全事故 出合頭事 故 歩行者自 転車事故 死亡重傷 事故 街区ブロック数 1.000 0.510 -0.069 0.523 0.424 0.963 0.755 0.739 -0.411 0.280 0.226 0.292 0.277 0.626 0.607 0.532 0.323 平均形状指数 0.510 1.000 0.032 0.306 0.281 0.487 0.358 0.366 -0.357 0.077 0.101 0.074 0.085 0.280 0.243 0.235 0.145 平均接続ノード数 -0.069 0.032 1.000 0.018 0.022 -0.071 -0.077 -0.067 0.022 -0.022 -0.031 -0.019 -0.015 -0.038 -0.036 -0.039 -0.005 幹線道路延長 0.523 0.306 0.018 1.000 0.753 0.534 0.425 0.426 -0.290 0.156 0.158 0.158 0.187 0.310 0.251 0.280 0.136 平均幹線車線数 0.424 0.281 0.022 0.753 1.000 0.425 0.353 0.357 -0.290 0.108 0.163 0.086 0.094 0.279 0.217 0.241 0.143 交差点数 0.963 0.487 -0.071 0.534 0.425 1.000 0.783 0.746 -0.412 0.276 0.233 0.284 0.257 0.610 0.573 0.534 0.308 総人口 0.755 0.358 -0.077 0.425 0.353 0.783 1.000 0.913 -0.396 0.245 0.298 0.251 0.253 0.616 0.562 0.597 0.341 2・3 次従業者数 0.739 0.366 -0.067 0.426 0.357 0.746 0.913 1.000 -0.429 0.272 0.335 0.289 0.290 0.645 0.569 0.625 0.328 高齢化率 -0.411 -0.357 0.022 -0.290 -0.290 -0.412 -0.396 -0.429 1.000 -0.093 -0.130 -0.067 -0.111 -0.290 -0.245 -0.245 -0.145 準居住地域面積 0.280 0.077 -0.022 0.156 0.108 0.276 0.245 0.272 -0.093 1.000 0.062 0.189 0.055 0.375 0.411 0.318 0.115 第2 種住居地域面 積 0.226 0.101 -0.031 0.158 0.163 0.233 0.298 0.335 -0.130 0.062 1.000 0.074 0.116 0.213 0.190 0.306 0.056 商業地域面積 0.292 0.074 -0.019 0.158 0.086 0.284 0.251 0.289 -0.067 0.189 0.074 1.000 0.349 0.406 0.259 0.488 0.078 近隣商業地域面積 0.277 0.085 -0.015 0.187 0.094 0.257 0.253 0.290 -0.111 0.055 0.116 0.349 1.000 0.375 0.342 0.310 0.119 全事故 0.626 0.280 -0.038 0.310 0.279 0.610 0.616 0.645 -0.290 0.375 0.213 0.406 0.375 1.000 0.882 0.831 0.485 出合頭事故 0.607 0.243 -0.036 0.251 0.217 0.573 0.562 0.569 -0.245 0.411 0.190 0.259 0.342 0.882 1.000 0.660 0.489 歩行者自転車事故 0.532 0.235 -0.039 0.280 0.241 0.534 0.597 0.625 -0.245 0.318 0.306 0.488 0.310 0.831 0.660 1.000 0.412 死亡重傷事故 0.323 0.145 -0.005 0.136 0.143 0.308 0.341 0.328 -0.145 0.115 0.056 0.078 0.119 0.485 0.489 0.412 1.000 ※赤字は相関係数0.8 以上を示す
表3.3 ポワソン回帰モデルによる結果 全事故(N=2,610) 出合頭事故(N=1,131) 歩行者・自転車事故(N=706) 死亡・重傷事故(N=109) 変 数 推定値 Z 値 判定 推定値 Z 値 判定 推定値 Z 値 判定 推定値 Z 値 判定 定数項 -1.7410 -9.1610 *** -5.1840 -10.4040 *** -4.1200 -9.1800 *** -5.1640 -6.6250 *** 平均形状指数 8.4640 13.3250 *** 20.2600 10.1560 *** 13.6600 7.2840 *** 5.6190 2.3930 * 接続ノード 0.0942 2.1840 * 0.1805 2.3720 * 0.3239 1.9350 幹線道路延長(m) -0.0002 -4.6030 *** -0.0003 -5.4050 *** -0.0003 -1.7430 平均幹線車線数 0.2883 10.4300 *** 0.1741 4.1110 *** 0.2311 4.1440 *** 0.3639 2.6910 ** 交差点数 0.0296 13.7520 *** 0.0440 14.3290 *** 0.0164 4.1470 *** 0.0289 3.0080 ** 総人口 0.0005 13.1680 *** 0.0005 8.5730 *** 0.0008 10.9340 *** 0.0008 4.4800 *** 高齢化率 -4.0560 -13.2420 *** -4.5000 -8.9070 *** -4.0010 -6.2240 *** -2.5810 -1.9650 * 準居住地域面積(m2) 0.0000 4.8840 *** 0.0000 5.5850 *** 0.0000 2.0630 * 第2 種住居地域面積(m2) 0.0000 4.2710 *** 0.0000 -1.3580 商業地域面積(m2) 0.0000 4.0350 *** 0.0000 -2.6770 ** 0.0000 5.9650 *** 近隣商業地域面積(m2) 0.0000 8.8110 *** 0.0000 8.1740 *** 0.0000 2.5500 * Null Deviance 8749.3 4829.9 3055.1 658.53 Residual Deviance 3611.8 1946.6 1289.0 477.27 AIC 5290.6 2862.3 2036.8 690.15 残差平方和 14661.5 4879.3 1650.2 128.5 ***P<0.001,**P<0.01,*P<0.05
表3.4 負の二項回帰モデルによる結果 全事故(N=2,610) 出合頭事故(N=1,131) 歩行者・自転車事故(N=706) 死亡・重傷事故(N=109) 変 数 推定値 Z 値 判定 推定値 Z 値 判定 推定値 Z 値 判定 推定値 Z 値 判定 定数項 -1.4120 -6.2970 *** -5.3880 -6.9970 *** -3.7690 -7.4400 *** -5.2300 -6.3820 *** 平均形状指数 5.2340 6.7860 *** 18.0700 6.0370 *** 11.2900 5.5060 *** 4.7960 2.0180 * 接続ノード 0.2061 1.6200 0.3271 1.8320 幹線道路延長(m) -0.0002 -1.6830 -0.0002 -1.4950 平均幹線車線数 0.3757 6.0810 *** 0.2140 2.4710 * 0.2717 3.4170 *** 0.3002 2.1170 * 交差点数 0.0561 9.1820 *** 0.0775 9.9290 *** 0.0277 4.0290 *** 0.0281 2.5760 * 総人口 0.0006 5.2610 *** 0.0006 4.2410 *** 0.0010 7.4440 *** 0.0009 4.1170 *** 高齢化率 -4.6210 -8.6190 *** -5.7320 -6.2510 *** -5.2030 -5.7790 *** -2.5110 -1.7740 準居住地域面積(m2) 第2 種住居地域面積(m2) 0.0000 1.3510 0.0000 -1.4250 商業地域面積(m2) 0.0000 -1.9510 近隣商業地域面積(m2) 0.0000 2.2130 * 0.0000 2.1590 * 0.0000 2.5460 * Null Deviance 2942.0 2083.26 1817.83 557.89 Residual Deviance 1221.8 710.71 720.37 391.44 AIC 3906.9 2219 1841.1 685.5 残差平方和 54728.2 40039.1 2962.7 135.2 ***P<0.001,**P<0.01,*P<0.05 表3.5 重回帰モデルによる推定結果 全事故(N=2,610) 出合頭事故(N=1,131) 歩行者・自転車事故(N=706) 死亡・重傷事故(N=109) 変 数 偏回帰 係数 t 値 判定 偏回帰 係数 t 値 判定 偏回帰 係数 t 値 判定 偏回帰 係数 t 値 判定 定数項 0.1428 0.7310 -0.0914 -1.4900 -0.0288 -0.7870 -0.0041 -0.3890 平均形状指数 接続ノード 幹線道路延長(m) -0.0007 -4.5090 *** -0.0005 -4.9940 *** -0.0001 -2.5990 ** 0.0000 -2.7050 ** 平均幹線車線数 0.3663 4.0970 *** 0.1158 2.2340 * 0.0720 2.3320 * 0.0201 2.2450 * 交差点数 0.0926 8.2380 *** 0.0659 10.1990 *** 0.0099 2.5790 ** 0.0035 3.1960 ** 総人口 0.0025 11.3640 *** 0.0011 8.7180 *** 0.0011 13.9060 *** 0.0002 7.3260 *** 高齢化率 -0.8488 -1.7300 準居住地域面積(m2) 0.0001 11.7770 *** 0.0001 15.1140 *** 0.0000 7.9880 *** 第2 種住居地域面積(m2) 0.0000 8.0370 *** 0.0000 -2.2780 * 商業地域面積(m2) 0.0000 9.7540 *** 0.0000 17.6210 *** 近隣商業地域面積(m2) 0.0000 10.0520 *** 0.0000 11.5720 *** 0.0000 3.8480 *** 0.0000 1.6120 修正済み決定係数 0.5366 0.4697 0.519 0.1243 AIC 8535.9 6605.4 4743.1 321.5 残差平方和 12230.2 4166.5 1468.0 124.3 ***P<0.001,**P<0.01,*P<0.05
図3.4 予測値と観測値のヒストグラム(全事故) 図3.5 予測値と観測値のヒストグラム(出合頭事故) 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 該 当 メ ッシュ 数 事故件数 観測値 予測値(ポワソン回帰) 予測値(負の二項回帰) 予測値(重回帰) 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 該 当 メ ッシュ 数 事故件数 観測値 予測値(ポワソン回帰) 予測値(負の二項回帰) 予測値(重回帰)
図3.6 予測値と観測値のヒストグラム(歩行者・自転車事故) 図3.7 予測値と観測値のヒストグラム(死亡・重傷事故) 3.4 まとめ 本研究により得られた知見を以下のように整理する. 周辺土地利用と道路ネットワークから見た生活道路での交通事故の発生レベル予測モデルに ついて,ポワソン回帰,負の二項回帰,重回帰の3 つのモデルから検討した.結果,負の二項 回帰モデルの当てはまりがよいことを示した.また,当該モデルの考察を通じて,人口が多く, 街路形態がグリット形状で,交差点が多く,近隣商業地域に指定される地域において生活道路 での交通事故抑制の観点から面的な速度抑制を積極的に推進すべきであることを提案した. 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 該 当 メ ッシュ 数 事故件数 観測値 予測値(ポワソン回帰) 予測値(負の二項回帰) 予測値(重回帰) 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 該 当 メ ッシュ 数 事故件数 観測値 予測値(ポワソン回帰) 予測値(負の二項回帰) 予測値(重回帰)
本研究は,一般に入手可能なデータから導出されているため,容易に応用が可能である.た だし,当該成果は豊田市の生活道路における交通事故発生状況を前提とするモデルであるため, 他地域での適用と検証を慎重に行うなどの一般化に向けた対応が重要である.また,本研究で 提案した負の二項回帰モデルは,予測値が過分散であるなどの課題を有している.この点につ いては,上述のようにランダム効果を考慮できる一般化線形混合モデルへの拡張も検討に値す る.また,本モデルにおいては,交通事故との強い関連性が予想される通過交通の影響も考慮 できていない.この点についても今後の課題であるといえる.
第 4 章
ネットワークの視点を考慮した交通事故リスクモデルの提案
4.1 はじめに 我が国の交通事故件数は年々減少傾向にある.しかしながら,生活道路として想定されてい る車道幅員 5.5m 未満の道路における交通事故の減少幅は低下しており,全体の交通事故を占 める生活道路事故の割合は増加している.今後,さらなる安全な道路交通を実現するためには, 幹線道路等の大きな道路だけでなく,生活道路も含めた都市全域を対象とした交通安全対策を 行うことが必要であると考えられる. 交通安全対策を行う上で,交通事故の発生地点データは重要なものとなる.しかし,幹線道 路などの大きな道路の交通事故発生地点データは比較的入手がしやすいが,生活道路を含めた 都市全域の交通事故発生地点データは容易に入手できない場合が多い.このような状況におい て,ゾーン 30 やあんしん歩行エリアなどの生活道路に関する交通安全対策地域の選定を行う 際,どの地域を優先的に対策を行うかの判断は明確な方針は示されておらず,自治体などの担 当者の経験などを基にした主観的な基準に頼っている部分が大きい.そのため,一般的に入手 が容易であるような客観的な指標を用いて,優先的に交通安全対策を行う地域を選定を行う基 準を設けることは重要であると考えられる.そのために,まず,生活道路事故のリスクを推定 するモデルを構築することが必要であると考えられる. 事故のリスクを推定する際に,施設や道路環境などの都市構成要素は重要な要素であると考 えられる.一方で,先に述べたような都市構成要素だけでは通過交通などの実際の交通状況等 の要因を考慮しきれないと考えられる.そのため,道路ネットワークの特徴を表す指標は重要 な要素となると考えられる.そこで,本研究では位相幾何学的指標であるスペースシンタック ス理論(以下SS 理論)を用いて,ネットワークの特徴を表現する. また,既往研究では,交通事故発生地点データを直接用いて議論が進められているものが多 い.つまり,顕在化した事故の発生状況のデータのみを用いて,交通事故の発生状況を捉えた ものとなっている.そのため,交通事故の発生していない箇所の交通事故発生のリスクについ てはゼロと考えることで議論を進めている.ところが,交通事故は稀有かつ偶発的に発生する 事象であるため,交通事故発生地点データにおいて,事故が発生していない箇所においての交 通事故のリスクを考慮したうえで,交通事故発生のリスクの高低を把握することが重要である と考えられる. そこで,本研究ではカーネル密度推定法を用いることで,交通事故発生地点デ ータの点データを密度として捉え用いることとする. 以上を踏まえたうえで本研究では,施設や道路環境などの都市構成要素に加え,ネットワー クの指標として SS 理論を用いて,生活道路事故リスクを推定するモデルを構築することを目 的とする.そのために,本研究では実際の交通事故地点データをそのまま使用するのではなく, 交通事故発生地点データにカーネル密度推定法を導入する.カーネル密度推定法の導入するこ とで,過去数年分の交通事故発生地点データでは顕在化していない交通事故発生のリスクを密 度として,考慮した分析を行う.4.2 SS 理論整理・検討 4.2.1 SS 理論の概要 道路ネットワークの特徴を表す指標の1 つとして,位相幾何学的指標がある.位相幾何学的 指標の代表例として,ロンドン大学のBill Hillier12)を中心とした研究グループによって確立さ れたSS 理論が挙げられる.SS 理論は空間の位相幾何学的関係に着目した空間解析手法であり, 空間の物理的な形状情報を用いて,空間の繋がりや人の認知・行動との関係を定量的に評価す る手法である.近年,我が国においても人々の行動,交通,景観などの様々な分野において研 究がなされている13).その分析対象は幅広く,建築物内部などのミクロな分析や都市全域の街 路を対象としたマクロの分析などがあり,適用方法も様々である.
SS 理論の分析手法には主に,「Convex Analysis」,「Vsibility Graph Analysis」,「Axial Analysis」,「Segment Angular Analysis」の 4 種類の手法がある14).本研究では都市全域の 街路ネットワークを対象とした規模で分析を行う.そのため,都市構造の分析手法である Segment Angular Analysis を用いて分析を行う.
SS 理論を用いた研究として,高松ら 15)は交差点ごとの事故リスクを空間的特徴から推計 する重回帰モデルを構築し,横浜市を対象にモデルの適用を試みている.坂本ら16)は道路状況 および交通状況に関する指標値により交通事故発生件数を説明する重回帰モデルおよびポワソ ン回帰モデルを構築し,局所的な特異性によりモデルによる推定結果よりも実事故件数が大幅 に上回っている箇所を除外したロバスト回帰を適用することでモデル精度の向上を試みている. また,西村ら17)は街路の実際の利用特性と接続特性との関係をプローブカーデータから得られ る通行実績データを用いて分析を行っている.これらの既往研究は SS 理論を用いることで, 一般的に交通量データのない生活道路を含めた街路ネットワークの使われやすい街路,使われ にくい街路といった特性を数学的に指標化することによって,交通量の代替指標として用いて いる.また,門多ら18)はSS 理論を用いて街路の接続関係を定量化し,土地利用状況などを用 いて,静穏な空間が形成され居住者の安全性が高い地域や,逆に通過交通の多い危険な地域を 分析,評価を行っている.このよう通過交通との関係についても考察が行われている. 4.2.2 Segment Angular Analysis について
Segment Angular Analysis は Axial Analysis の応用・発展型として 2000 年ごろから用いら れている分析手法である.街路を街路空間の幾何構造の最小単位であるセグメントに分割し, 分割したセグメント同士の接続角度を考慮して分析を行う手法である.セグメントとは道路を 1 本の直線であらわすことのできる単位に分割したものを指す.具体的には直線道路では交差 点間ごとにセグメントは分割され,曲線道路では1 つの交差点間においても何本かのセグメン トに分割する(図4.1).Segment Angular Analysis では,あるセグメントから隣接するセグ メントへ移動する際の移動負荷量depth を用いて街路の有する空間的接続性を把握する. depth は 2 本のセグメントが 90 度に交わっている場合に 1depth,45 度の場合に 0.5depth, 27 度の場合に 0.3depth という関係になる(図 4.2).depth という移動負荷量を用いて,近接 性指標(Int.V:Integration Value) と呼ばれる指標を算出する.近接性指標はあるセグメン
トを基準に対象範囲内の全てのセグメントがどの程度のdepth で接続しているかを示す指標で ある.近接性指標が高いほど他のセグメントに容易に到達しやすいセグメントであり,低いほ ど何度も方向転換をしなければ到達することができないため,他のセグメントに到達しにくい セグメントを示す.この指標は自動車や歩行者の交通量との相関関係がある17)といわれている. 同手法は道路網データのGIS データを用いることで比較的容易に算出できること,自動車や 歩行者の交通量との相関関係があり,交通量データ代替指標となりうることから,交通事故の リスクを算定するうえで有効な指標になると考えられる.また,通過交通等との関係性も指摘 されている.そこで,本研究ではSegment Angular Analysis における近接性指標を道路のネ ットワークの特徴を表す指標として取り扱うことを検討する.
図4.1 セグメントの作成方法17)
4.3 近接性指標算出結果と交通量との関係性
Segment Angular Analysis の解析には SS 理論の基づく分析ソフトウェアである
depthmapX19)を用いた.近接性指標の算定においては,例えば,あるセグメントとそこから 500m 範囲内の他のすべてのセグメントといったように一定の範囲を設定し,近接性指標を算 出することができる.つまり,対象道路の全域の近接性だけではなく,近接性指標値を都市規 模の広域的な関係性,地区規模のすぐ周辺の道路の関係性などの異なる視点から算出すること が可能である.また,この指標値算出対象範囲をRadius(以下 R とする)といい,対象の道 路ネットワーク全域を対象とする場合をGlobal レベルの R とされる. 解析対象地域については,岡山県の主要都市である岡山市,倉敷また,それらの周辺市町村 の道路ネットワークとしている(図4.3).解析を行った道路ネットワークの外縁部については 中心部と比べ近接性指標が低く算出される傾向にあり,精度が落ちてしまう.そのため,交通 事故リスクモデルの対象とする岡山市において算出される近接性指標の精度を高めるために周 辺地域も含めた解析を行っている. 解析対象地域のR=1,000m,5,000m,10,000m,Global の 4 種類の解析結果を示す(図 4.4). R に関わらず,岡山市,倉敷市の市街地を中心とし,近接性指標が高い傾向にある.R が大き いほど, 近接性指標は都市部が目立って高くなっており,周辺に行くにつれて小さくなってい る.また,R が小さいほど,近接性指標が局所的に高い箇所が見られる. 一定の地区内の移動 を表していることが考えられる. 次に,算出された近接性指標と交通量の関係性について,整理する.実際の交通量と近接性 指標との関係性を把握するためにGoogle がインターネットを通して提供している地図である Google マップ 20)の航空写真を用いて交通量(自動車台数)の計測を行った.具体的には,ま ず,岡山市の道路ネットワークの全域を対象とし,ランダムに1,000 リンクを抽出した(図 4.5). 次に,航空写真により,抽出したそれぞれのリンク上に位置する自動車の台数を計測行った. また,航空写真を用いて自動車台数を計測するため,ある一瞬の交通状況を用いている.その ため,多数のリンクにおいて,自動車台数が0 台となっており,実際の交通量とは差異がある ことが考えられるので,近接性指標と交通量のおおよその傾向を把握するものとする.また, 対象地域を岡山市に限定していることに関しても,計測に航空写真を用いていることが理由と して挙げられ,一定量の自動車台数の計測が可能であると考えられる都市部を多く含んだ岡山 市を対象とした. 岡山市の全リンクと抽出した1,000 リンクの近接性指標の基本情報を示す(表 4.1).用いる 近接性指標についてはGlobal レベルを用いるものとする.平均値,標準偏差等については大 きく差は見られず,偏ったリンクが抽出はされていないと考えられる. 近接性指標の階級別の自動車が計測されたリンクの割合を示す(図4.6).また,抽出した 1,000 リンクのうち自動車が計測されたリンク数は 108 リンクである.近接性指標値が高くな るにしたがって,自動車が計測される割合は高くなる傾向にある.次に,抽出した1,000 リン クの近接性指標の階級別の平均自動車台数を示す(図4.7).こちらも同様に,近接性指標値が 高くなるにしたがって,平均自動車台数は高くなる傾向にある.ここで,近接性指標の階級別 のリンクの平均自動車台数の一元配置分散分析を行ったところ,等分散性の検定が棄却された ため,ノンパラメトリック手法であるクラスカルフォリス検定を行った(表4.2).
図4.3 Segment Angular Analysis 解析対象地域 図4.4 Radius 別の近接性指標算出結果 高い 低い R=1000m 高い 低い R=5000m 高い 低い R=10000m 高い 低い R=Global
図4.5 岡山市全リンクと抽出 1,000 リンク 表4.1 岡山市全リンクと抽出 1,000 リンクの基本情報 図4.6 抽出 1000 リンク近接性指標階級別の自動車計測リンクの割合(%) 近接性指標 (岡山市全リンク) 近接性指標 (岡山市抽出1000リンク)
平均値
24205.0
24352.2
最大値
30878.3
30115.9
最小値
6765.5
11447.1
標準偏差
3204.1
3057.9
1.6% 6.1% 17.3% 71.1% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 22500未満(n=193) 22500以上26000未満(n=491) 26000以上28500未満(n=278) 28500以上(n=38) 自 動 車 計測リ ン ク 割合( % ) 近接性指標(R=Global)図4.7 抽出 1000 リンク近接性指標階級別のリンクの平均自動車台数(台/km) クラスカル・ウォリス検定の結果,全ての各階級の平均自動車台数において,統計的に有意 な差が見られた.これらのことより,近接性指標値が高くなれば,自動車が計測される割合, 平均自動車台数がともに高くなることから,近接性指標値が高いほど交通量が多いことが示唆 された. 次に抽出した1,000 リンクで統計的に差が見られた 4 分類で岡山市の全リンクを分類した (図4.8).近接性指標値が 22,500 未満リンクにおいては,抽出した 1,000 リンクにおいて自 動車台数が確認できたのは1.6%でありかつ,平均自動車台数も 0.3(台/㎞)と低く,主に山間 部の道路が該当していた.近接性指標値が22,500 以上 26,000 未満のリンクにおいては,抽出 した1,000 リンクにおいて自動車台数が確認できたのは 6.1%であり,平均自動車台数も 1.7(台 /㎞)と近接性指標値が 22,500 未満リンクよりは高いものの,全体としては高くはなく,主に, 郊外部の道路が該当していた.近接性指標値が26,000 以上 28,500 未満のリンクにおいては, 抽出した1,000 リンクにおいて自動車台数が確認できたのは 17.3%であり,平均自動車台数も 7.1(台/㎞)と一定量の交通量があり,主に,市街地における生活道路,補助幹線道路などが 該当していた.近接性指標値が 28,500 以上のリンクにおいては,抽出した 1,000 リンクにおい て自動車台数が確認できたのは71.1%であり,平均自動車台数も 45.8(台/㎞)と他のリンク の階級と比べると,非常に高くなっており,主に高規格の幹線道路が該当している. 表4.2 抽出 1,000 リンク各近接性指標値階級に対するクラスカルウォリス検定 0.3 1.7 7.1 45.8 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0 22500未満(n=193) 22500以上26000未満(n=491) 26000以上28500未満(n=278) 28500以上(n=38) 平 均 自 動車台数(台 /㎞) 近接性指標(R=Global) 水準1 水準2 22500未満(n=193) 22500以上26000未満(n=491) 2.5111 0.0454 * 22500未満(n=193) 26000以上28500未満(n=278) 5.4175 0.0000 ** 22500未満(n=193) 28500以上(n=38) 11.6979 0.0000 ** 22500以上26000未満(n=491) 26000以上28500未満(n=278) 4.9675 0.0000 ** 22500以上26000未満(n=491) 28500以上(n=38) 12.6950 0.0000 ** 26000以上28500未満(n=278) 28500以上(n=38) 7.5549 0.0000 ** 近接性指標(R=Global) 統計量 P 値 判 定 **1%有意,*5%有意
図4.8 岡山市全リンクにおける近接性指標(R=Global) 以上のことから,近接性指標値が高くなれば,自動車が計測される割合,平均自動車台数が ともに高くなり,高規格な道路になっていることからも交通量との関係性があることが示唆さ れた.よって,本研究では近接性指標を道路のネットワークの特徴を表す指標として取り扱う ことは有効であると考える. 4.4 道路ネットワークを考慮した交通事故リスクモデルの提案 本研究では,岡山市全域を対象として,施設や道路環境などの都市構成要素および,先ほど 整理したネットワーク指標である近接性指標を用いて生活道路事故のリスクを推定するモデル の構築を行う.また,目的変数の設定については,交通事故が偶発的に発生する事象であり, 必ずしも同一箇所で発生しないということを考慮するため,密度関数を用いることとし,カー ネル密度推定法を用いる.具体的には,犯罪発生マップや交通事故発生マップに用いられてい るカーネル密度推定法を用いることとする21).また,本研究における分析の単位は 250m メ ッシュとする.
4.4.1 交通事故データの概要 本研究の分析対象地域は岡山市全域としている.岡山県岡山市は人口約70 万人,面積約 789km2 を有する中四国地方の中核拠点都市であり,隣接する市町村との合併を行い,現在の 岡山市となっていることから,都市部から郊外部まで広く含む多様な都市形態を有する都市で ある分析に用いた交通事故発生地点データは岡山県警から提供していただいたものである.こ れらのデータは発生地点をGIS 上で確認でき,それぞれのデータに対して,発生日時や事故類 型などのデータが付与されている.本研究では岡山市内で発生した2010 年から 2014 年までの 5 年間に発生した生活道路上の交通事故 13,661 件を対象とする(図 4.9).生活道路事故は車 道幅員5.5m 未満の道路上で発生した交通事故とする. 図4.9 岡山市の生活道路事故発生分布 4.4.2 カーネル密度推定法の概要 カーネル密度推定法とは,有限の標本点から,全体の分布を推定する手法の1 つである.GIS においては点が密集している箇所の分布を連続的で滑らかな密度分布によって,視覚的に分か りやすく表現することができる手法である.例えば,犯罪リスクや交通事故のリスクを推定す るために,犯罪発生マップや交通事故発生マップに利用されている事例21)がある.また,カー ネル密度推定法を用いた研究は主に防犯の分野で行われている.局所的な環境特性に着目し, ひったくりの犯罪発生要因を分析した研究22)や経年変化による不審者事案発生箇所の変動を
考慮し,都市空間特性と不審者発生の関係について分析・調査した研究などがある23).防犯分 野以外には,点分布の平滑化が地図利用者に与える影響について分析・調査を行った研究もあ る24)25). カーネル密度推定法で用いられるポイントデータの影響の範囲を表すのがバンド幅である. このバンド幅には絶対的な推定方法は確立されていない.そのため,バンド幅の値は分析者側 で設定する必要がある. カーネル密度推定法では,バンド幅として設定した範囲まで一定の減衰を伴いつつ影響が計 算される.しかし,既往研究で用いられているカーネル密度推定法の影響の減衰については道 路環境や都市の構造といった空間的な特性を考慮せず,同様に影響が減衰することを仮定して いる.しかし,特に交通事故については,道路上で発生する事象であるため,道路ネットワー クについても考慮する必要がある(図4.10). 図4.10 カーネル密度推定法概念図22) 図4.11 ネットワークカーネル密度推定法概念図26)
そこで,本研究ではSANET により提供されているソフトである「SANET Ver.4.1 β」に 内蔵されているネットワークカーネル密度推定を用いることとする26).ネットワークカーネル 密度推定はネットワークの空間特性を考慮しており,ネットワーク上の与えられた点に対して, その点のネットワーク上における密度関数を推定を行う.ネットワークカーネル密度推定を用 いることで,ネットワークを考慮した密度推定を行うことができる(図4.11).次に 250m メ ッシュ単位の生活道路事故分布を「実際の交通事故発生地点データによる事故件数」,「カーネ ル密度値(バンド幅300m)より算出した事故件数」,「ネットワークカーネル密度値(バンド
幅300m)より算出した事故件数」の 3 種類で示す(図 4.12,4.13,4.14).全体のおおまかな 傾向として中心部が事故件数が多いということは,カーネル密度においてもネットワークカー ネル密度においても類似している.しかし,カーネル密度においては道路ネットワークを考慮 することができていないため,ネットワークカーネルと比べると実際の事故データよりも過剰 に平滑化されている傾向が見受けられる.また,これら3 種のメッシュ内の事故件数の相関関 係を調べた(表4.3).相関係数についてはネットワークカーネル密度のほうがカーネル密度よ りも高い結果となった.次に実際の事故件数とネットワークカーネル密度による事故件数,カ ーネル密度による事故件数の残差について示す(図4.15,4.16)残差についてはカーネル密度 による事故件数のほうが,大きい傾向にあり,それぞれの残差平方和を算出したところ,ネッ トワークカーネル密度による事故件数のほうが小さい. このように密度関数を用いた場合においてもネットワークカーネル密度のほうが実際の事故 の状況に近いものとなるため,モデル作成の際にはネットワークカーネル密度を用いることと する. また,交通事故データのようなカウントデータを用いる際には,負の二項分布やポワソン分 布を想定する一般線形化モデルを用いることが多い.しかしながら,今回提案するモデルは目 的変数をネットワークカーネル密度により算出した密度値を用いる.カーネル密度推定はカウ ントデータを連続量に変換するものである.そのため,本研究ではモデル提案にあたって,重 回帰分析を用いるものとする. ( 件/年) 図4.13 カーネル密度値(バンド幅 300m)による全事故件数の分布 図4.12 実際の交通事故発生地点データ による全事故件数の分布 ( 件/年)
図4.14 ネットワークカーネル密度値(バンド幅 300m)による全事故件数の分布 表4.3 全事故件数算出方法別の相関関係 図4.15 実事故件数とネットワークカーネル密度による事故件数の残差 ( 件/年) 実際の事故件数 ネットワークカーネル密度値による事故件 数 カーネル密度値 による事故件数 実際の事故件数