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道路の開通

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Ⅶ ジュンべシ谷の  20年の変遷:1995年から2015年

7   道路の開通

 カトマンズからジュンベシまでは、2015年 2 月には車で15時間で到達できるようになった。

1977年に訪れたときには、ほぼ同じルートがバス 2 日、徒歩 7 日を要した。当時のトレッキン グの 1 日の行程は、現在の自動車道路では45分にすぎない。道路は政府がつくる他に、ジュン ベシからパンカルマの約 3 ㎞は、 3 つの寺院の寄付により造成され、2015年に開通した。 3 年 すれば路面が整い、道路は安定してくるという。このような近代化による道路環境の変化は人々 の生活を大きく変え、便利さを提供する代わりに、人が流出することになり、日本の里山と同 様に、利用不足による自然の荒廃、野生動物の増加による畑の被害が始まりつつある。

Ⅷ まとめにかえて

 以上のように、村の近代化による変化によって、村からの人口流出も生じて、従来からの伝 統的な人と自然との関わりが消えようとする危機が生じている。村を再度活発にする試みとし て道路を活かし、特色あるキウイフルーツなどの果物のカトマンズへの出荷、ネパール和紙の 特産品の工夫、フンモチェの僧院の寄宿学校への教育留学生の受け入れ、体験型観光エコツアー

(シェルパ族の伝統的な生業を体験)などが模索されている。消滅しつつある伝統的な人と自然 との関係に関して、改めてその人々の生活のなかでの営み、工夫など、その認識の世界を明ら かにしていくことは重要であろう。したがって、本稿では、ヒマラヤの生態環境と民族集団と

の関わりについて考察をおこない、1994年から2015年におこなった調査のなかから、ヒマラヤ 高地に居住するシェルパ族の植物利用と植物認識を中心に報告をおこなった。特に従来の先行 研究には見られない内容を記述する試みとして、シェルパ族が自然環境、生物自然を認識・命 名した呼称を集成して、民族自然誌名彙植物篇(表 3 )として取りまとめ考察をおこなったが、

ジュンベシ谷の農業、栽培植物、牧畜、動物、地形、気候、生活用具、民族儀礼、生活を律し ているチベット仏教などについても別稿で検討し明らかにしていきたい。

 本稿で示したヒマラヤの自然景観の多様性のなかで、シェルパ族は標高3000m以上の高地で ヤク、ゾムなどの家畜飼育、コムギ、オオムギの栽培などをおこなってきた。その下の上限2500 mの照葉樹林帯ではシェルパ族以外の従来から居住していたヒマラヤ山地諸民族が稲作をおこ ない、標高100mから1500m前後までの沙羅双樹林帯では、インド系民族が同様に稲作をおこ なってきた。このような自然と共存する民族文化の多様性、文化的景観の多様性がヒマラヤの 魅力である。ヒマラヤ関連の先行文献としては、先述したように川喜田二郎(1977)の文化人 類学的研究が中心となっており、民族自然誌的研究に関しては中尾(1966)が挙げられるが、

人と植物との関係に関しては、詳述されておらず指摘にとどまっているため、本稿では、その 一端ではあるが、人と植物利用と植物認識を中心に調査して示す試みをおこなった。

 最後に、既に繰り返し述べたように、ジュンベシ谷の森林と草地の研究に基づく適正な管理、

とりわけ過剰に利用されたセメカルピフォリア・カシ林の保全と再生、代替植物の確保が不可 欠である。

謝辞

 本調査では、ナムゲル フルバ氏(1971年生まれ、パンカルマ)が、聞き取り調査に同行して 通訳し、シェルパ語呼称を英語表記に改めてくれた。土着の伝統的な植物利用、呼称の蒐集に はダワ ツェリン氏(1950年生まれ、ナジン)、テンジン フェルゲイ シェルパ氏(1940年生ま れ、リングモ)から多くの教示を受けた。マニ シェルパ氏(インドのダージリン生まれ)は植 生調査に協力した。上記の人たちの他に多数の人々から快く提供された情報をもとに、民族自 然誌名彙植物篇を集成できたことを深く感謝する。

 また、国立民族学博物館の共同研究会を主催した山本紀夫氏をはじめ、フィールドの日々を 共にし、自然と人との関わりを深く探る刺激を与えていただいた稲村哲也、結城史隆、古川彰、

岩田修二、本江昭夫、宮本真二、本間航介、渡辺和之、藤倉雄司の諸氏に感謝する。最後に、

本報告は龍谷大学2014年度国内研究員の研究成果の一部である。

参考文献

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Hooker J. D.: HIMALAYAN JOURNALS; OR NOTES OF A NATURALIST IN BENGAL, THE SIKKIM AND NEPALHIMALAYAS, THE KHASIA MOUNTAINS, & c. JOHN MURRAY, LONDON 1854.

Furer‑Haimendorf, C. von The Sherpa of Nepal: Buddhist Highlanders, John Murray, London, 1964.

稲村哲也・古川彰「ネパール・ヒマラヤ・シェルパ族の環境利用 ― ジュンベシ=バサ谷におけるトランス ヒューマンス ― 」『環境社会学研究』 1 号、185〜193、1995。

稲村哲也・古川彰「ジュンベシ谷を上り下りする家畜と人びと」、山本紀夫、稲村哲也編著『ヒマラヤの環境誌』、

139〜157、八坂書房、2000。

川喜田二郎、「中部ネパールヒマラヤにおける諸文化の垂直構造」『季刊人類学』 8 巻 1 号、1977。

Kitamura S, Flowering plants and ferns. In Kihara H. (ed), Fauna and Flora of Nepal Himalaya, 73~290. Fauna and Flora Research Society, Kyoto 1955.

Lhakpa Norbu Sherpa, THROUGH A SHERPA WINDOW Illustrated Guide to Traditional Sherpa Culture, Vajra Publications, Kathmandu, 2008.

Manandhar, N.P. Plants and People of Nepal, Timber Press, Portland, 2002.

中尾佐助、『栽培植物と農耕の起源』、岩波書店、1966。

中尾佐助、西岡京治、『ブータンの花:Flowers of Bhutan』、朝日新聞社、1984。

Ohsawa, M., P. R. Syakya, M. Numata: On the occurrence of deciduous broad‑leaved forests in the cool‑ temperate zone of the humid Himalayas in eastern Nepal Jap. Journal of Ecology, 218~228, 1973. Stainton, J. D. A., Forest of Nepal, John Murray, London, 1972.

Troll, C “The three dimensional zonation of Himalayan system” In: Troll, C. ed, Geology of the High‑Mountain Region of Eurasia, 364~375、Franz Stainer, Wiesbanden, 1972.

土屋和三、ネパールヒマラヤの植生と家畜飼育 TROPICS, Vol. 5, p227‑242, 1996.

土屋和三、「ネパールヒマラヤの植生とその利用」酒井治孝編著『ヒマラヤの自然誌』、東海大学出版会、1997。

土屋和三、「ヒマラヤの森林・草地と土着の環境利用技術」『森林科学』25巻、29〜37、1999。

土屋和三・藤倉雄司・山本紀夫、「ジュンベシ谷の「食卓革命」」『季刊民族学』83号、60〜74、1998。

土屋和三・山本紀夫、「有毒イモを食べる〜半栽培植物の利用〜」山本紀夫、稲村哲也編著『ヒマラヤの環境誌』、

139〜157、八坂書房、2000。

山本紀夫・稲村哲也編、『ヒマラヤの環境誌』、八坂書房、2000。

写真 1  耕地の中に立つ、ヒマラヤゴヨウマツ・merangの巨大木、樹高70m。ジュンベシ、標高2700m[2015.2.6]

写真 2  ポンマ農法:草地を天地返してつみあげ乾いてから火をつける。草木灰の肥料でジャガイモなどを栽 培。ターレ(Thaare)、標高2930m[2015.2.1]

写真 3  冬に下降してきたヤクの群れ。フンモチェにて。標高3000m[2015.2.5]

写真 4  スゲ属・cheuの草地(チューバリ)。草地を柵で囲いこみ、ヒツジの糞の施肥をし、cheu以外の植物を 抜き取って作る。秋には草丈80㎝ほどになる。標高3030m[1998.9.22]

写真 5  パンカルマからバサにいたる谷と山腹斜面(前景)(図 1 参照、標高3100〜3600m)のモミ林と草地。 9 月から翌年の 6 月までの移牧の場である[1996.8.4]

写真 6  キオン属・lasyup モミ林内に群生。霜枯すると家畜がよく食べるようになる。標高3300m[1998.9.18]

写真 7  ゾム。モミ林のなかの草地で、草を食べる。標高3230m[1994.9.25]

写真 8  チャルンカの上部、標高4300〜5000mの高山帯(図 1 参照)。 7 月から 9 月の放牧地[1996.8.10]

写真 9  ヒゲハリスゲ属・pachabulu 高山草原でのヤク、ゾムの主要な食草。標高4300m[1994.9.26]

写真10 イブキトラノオ属・waa(Bistorta vaccnifolia)、花の咲くBadau月の高山帯の雨をwaagyakという。高 山帯の岩塊斜面(dokok loa)。標高4000m

写真11 sikimyan(Soroseris deasyie)、ヒマラヤ高山帯の固有属。種小名は探検地理学者H.H.P.Deasyに因む。

高山帯の砂礫斜面(tokpagaludasa)。標高4200m[1996.8.10]

写真12 ナムゲル フルバ(左)、マニ シェルパ(右)。足元の隆起はクッション植物のmangmakaru[1996.8.10]

写真13 chyacha、高山草原でヤクの糞が落ちてから 3 年後。糞によりよく成長し家畜の飼料になる植物群。

Anemone属など。標高4300m[1996.8.28]

写真14 ナギナタコウジュ属・lenjaの標本(No.40669)。種子を炙ってすりつぶし香辛料とする。半栽培植物。

ジュンベシ、標高2700m[1994.9.28]

写真15及び写真16 セメカルピフォリア・カシ、pising(Quercus semecarpifolia)の 2 型。写真16は写真15を 拡大したもの。右側のpising karu(No.41859)は、 8 月落葉・ 9 月展葉・低地型。左側のpising nakpu

(No.41860)は、 5 月落葉・ 5 月展葉・高地型。Deorali、標高2680m[1995.9.2]

*写真はすべて筆者撮影。[ ]内は撮影日。

写真 1 写真 2

写真 3

写真 5

写真 7 写真 8

写真 4

写真 6

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