80
81
抗が多い教師(田村・石隈,2001)や,「達成感の後退」として経験年数の少なさ(伊藤,
2000)などが挙げられている。
完全主義とストレスそしてバーンアウトの関係について,87人のオーストラリア人臨床 家に行った調査では,完全主義はストレスを通して臨床家の職場関連やクライアント関連 のバーンアウトと直接,間接に関連することが報告されている(D’Souza,Egan & Rees,
2011)。このように完全主義はバーンアウトと関係するという知見や,対人援助職におけ る心身の不調者の全体傾向として,他者からの評価に対する過敏さや「過適応傾向の特徴」
を指摘した事例研究(奥野,2009)はある。しかし,過剰適応とバーンアウトとの関連を 量的に検討したものは見当たらない。
7-1 目的
ここでは,過剰適応とバーンアウトの関係に着目した実証的な研究を行う。そして隣接 概念と考えられる両者の関係を明確にするために,強迫性格が双方に共通するか否かを中 心に,過剰適応とバーンアウトの類似点と相違点を明らかにすることを目的とする。
7-2 方法
7-2-1 調査の実施3
2012年11月,近畿1府,1県の公立小学校6校の教員160名に対し,留め置き法にて 無記名自記式質問紙を配布し,116名(男性45名,女性70名,不明1名;平均年齢39.4 歳,SD=12.8)から回答を得た。回収率は72.5%であった。
3 調査実施にあたり,関西学院大学の卒業生の佐野洸文氏にご協力頂いた。
82
7-2-2 質問紙の構成
1.過剰適応傾向について 第4章で開発した,OATSASを用いた。比較に用いる職場不適 応群については,第6章の尺度の構成概念妥当性の検討で用いた職場不適応群 21名の得 点を使用した。健常社会人群については,第4章の尺度開発で用いた正規雇用者270名の 得点を使用した。
2.バーンアウトについて Maslach’s Burnout Inventory(Maslach & Jackson,1981:以
下MBI)改定版(久保・田尾,1992)を使用した。これは看護師用に開発されたもので,
「情緒的消耗感」(5項目),「脱人格化」(6項目),「個人的達成感」(6項目)の計 17項目で構成されている。「脱人格化」のうち看護師用に作られている2項目「同僚や患 者の顔を見るのも嫌になることがある」「同僚や患者と,何も話したくなくなることがあ る」は教師用に,「同僚や生徒の顔を見るのも嫌になることがある」「同僚や生徒と,何 も話したくなくなることがある」と修正した。「ない」から「いつもある」の5件法で評 定し,得点が高いほどその特徴が強いことを示す。
3.基本的属性について フェイスシートで性別,年齢,経験年数,職階(教諭,管理職,
講師,養護),問題行動児に悩んでいるかについて回答を求めた。問題行動児については,
文部科学省(2003)が「障害の程度等に応じ特別の場で指導を行う『特殊教育』から障害 のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う『特別支援教育』
への転換を図る」としたため,全ての小・中学校の教師は,通常学級において発達障害の ある児童生徒を支援することが必要となった。その結果,発達障害のある児童およびその 他の配慮児がいる教師は,いない教師に比べてストレス反応が高くなることが報告されて おり(岡本・網谷, 2008),そのような状況がバーンアウトを促す可能性があるためであ る。「問題行動をとる児童に悩んでいますか」という質問項目に「はい」もしくは「いい え」で回答した上で(「はい」47名,「いいえ」67名,無回答2名),「はい」と回答し た者には「例えばそれはどのような行動ですか」と具体的な記述を求めた。「はい」に 1 を,「いいえ」に0をダミーコードとして与えた。
83 7-3 結果
7-3-1 基本情報
フェイスシートから得られた基本的属性の内訳を,Table 7-1に示す。
Table 7-1 調査対象者の属性 (N=116)
7-3-2 教師群,職場不適応群,健常社会人群の過剰適応傾向得点の比較について
第6章では職場不適応群,一般臨床群,健常社会人群を基準変数,OATSASの「強迫性 格」と「他者評価にかかわる側面」を説明変数とする判別分析を行った。その結果,3 群 は有意に異なることが示された。OATSASの「強迫性格」は職場不適応群のみ高く,「他 者評価にかかわる側面」は2つの臨床群で高かった。このことから臨床群と健常群を弁別 するのは「他者評価にかかわる側面」で,過剰適応と一般の臨床群を分けるのは「強迫性 格」という特徴が明らかとなった。そこでここでは,教師群,職場不適応群,健常社会人
群のOATSAS得点にどのような特徴があるかを検討する。
度数
性別 男性 4 5 3 9
女性 7 0 6 0
不明 1 1
年齢 20代 4 0 3 4
30代 2 2 1 9
40代 1 3 1 1
50代 3 5 3 0
60代 4 4
不明 2 2
経験年数 5年未満 3 3 2 8
5年から10年 2 9 2 5
11年から20年 1 4 1 2
21年から30年 1 5 1 3
31年以上 2 3 2 0
不明 2 2
職階 教諭 8 1 7 0
管理職 1 2 1 0
講師 6 5
養護 3 3
不明 1 4 1 2 いる 4 7 4 1 いない 6 7 5 8
不明 2 1
悩みの原因となる 問題行動児の有無
%
84
3 群それぞれの過剰適応傾向得点の平均値と標準偏差を,Table 7-2 に示す。教師群,
職場不適応群,健常社会人群間で OATSAS の得点に差があるかを検討するために,教師 群,職場不適応群,健常社会人群を独立変数,OATSAS得点を従属変数とした分散分析を 行った。その結果,有意な主効果が見られたため,Tukey 法で群間の多重比較を行った。
OATSASの「評価懸念」は職場不適応群,健常社会人群,教師群の順に得点が高かった
(F(2,375)=21.30,p<.001)。「多大な評価希求」得点も同様に職場不適応群,健常社 会人群,教師群の順であった(F(2,374)=25.58,p<.001)。「援助要請への躊躇」得点 は職場不適応群が健常社会人群よりも,職場不適応群が教師群よりも高かった(F(2,376)
=5.45,p<.01)。「強迫性格」得点では職場不適応群,健常社会人群が共に教師群より高
かった(F(2,375)=14.96,p<.001)。「他者評価にかかわる側面」得点は職場不適応群,
健常社会人群,教師群の順に得点が高かった(F(2,373)=23.82,p<.001)。教師群では,
過剰適応得点は全て他の群より低かった。結果をTable 7-2に記す。
Table 7-2 教師群,職場不適応群,健常社会人群の過剰適応傾向得点の比較
***p<.001 , **p<.01, *p<.05
7-3-3 OATSASとMBI改訂版の関連について
OATSASとMBI改訂版の各下位尺度との関連,特にOATSASの「強迫性格」とMBI
改訂版との関連を検討するために両者の相関係数を算出した。
OATSASとMBI改訂版の平均値と標準偏差をTable7-3に示す。
1.教師群 2.職場不
適応群
3.健常社 会人群
(N=116) (N=21) (N=270) F値 多重比較
OATSAS M(SD) M(SD) M(SD)
強迫性格 12.09(2.13) 14.52(2.71)13.33(2.55) 14.96 *** 2>3,2>1 評価懸念 10.74(2.84) 14.62(2.84)12.44(2.97) 21.30 *** 2>3>1 多大な評価希求 9.03(2.41) 12.52(2.75)10.88(2.76) 25.58 *** 2>3>1 援助要請への躊躇 10.78(2.62) 12.71(2.41)10.91(2.59) 5.45 ** 2>3,2>1 他者評価にかかわる側面 30.50(6.49) 39.86(4.83)34.23(6.47) 23.82 *** 2>3>1
(評価懸念+多大な評価希+援助要請躊躇)
85
Table7-3 MBI改訂版の平均値と標準偏差
OATSASの各4下位尺度および「評価懸念」「多大な評価希求」「援助要請への躊躇」
を合算した「他者評価にかかわる側面」とMBI改訂版の3下位尺度,経験年数,問題行 動児による苦悩の有無間で相関係数を算出した(Table 7-4)。
Table 7-4 OATSASとMBI改訂版他の相関係数 (N=116)
**p<.01, *p<.05
注:「問題行動児による苦悩の有無」は,ダミーコードを割り当てたカテゴリカル変数である
OATSASの4下位尺度全ておよび「他者評価にかかわる側面」とMBI改訂版の「個人
的達成感」,経験年数,問題行動児による苦悩の有無には相関関係は見られなかった。ま た,OATSASの「強迫性格」は,MBI改訂版の全ての下位尺度,経験年数,問題行動児 による苦悩の有無と関連は見られなかった。一方OATSASの「評価懸念」「援助要請への 躊躇」および「他者評価にかかわる側面」は,MBI改訂版の「情緒的消耗感」(r=.25か ら.37,p<.01)「脱人格化」(r=.19から.23,p<.05)と正の相関が得られた。OATSASの
「多大な評価希求」は,MBI改訂版の「情緒的消耗感」と正の相関関係が見られた(r=.22,
p<.05)。MBI改訂版の「情緒的消耗感」(r=.29,p<.01)「脱人格化」(r=.21,p<.05)
とのみ,問題行動児による苦悩の有無に正の相関関係が見られた。
MBI M SD
情緒的消耗感 12.66 3.91 脱人格化 9.97 3.42 個人的達成感 18.97 4.06
1 評価懸念 ―
2 多大な評価希求 .69** ― 3 援助要請への躊躇 .49** .33** ―
4 強迫性格 .26** .15 .50** ― 5他者評価にかかわる側面
(評価懸念+多大な評価希求
*+援助要請躊躇)
.90** .81** .75** .38** ― 6 情緒的消耗感 .37** .22* .25** .12 .35** ― 7 脱人格化 .19* .11 .23* .13 .23* .62** ― 8 個人的達成感 ‐.12 .08 ‐.02 .13 ‐.02 ‐.11 ‐.04 ― 9 経験年数 ‐.15 ‐.15 .10 .13 .08 ‐.02 .12 .14 ― 10 問題行動児による
* 苦悩の有無 .18 .05 .06 ‐.02 .14 .29** .21* .07 .09 ― 9
基本的属性 10 5
OATSAS MBI
1 2 3 4 6 7 8
86
7-3-4 バーンアウトの予測変数としての過剰適応傾向
OATSASとMBI改訂版の相関分析では,関連が見られるものとそうではないものが混
在していた。そこで両者の関係をより明確にするために,過剰適応傾向がストレス反応で あるバーンアウトの予測変数として有効か否かを検討した。
MBI改訂版の各下位尺度得点を目的変数,OATSASの下位尺度得点,経験年数,問題 行動児による苦悩の有無を説明変数とした重回帰分析を行った。バーンアウトは経験年数 の影響を受ける可能性があるため説明変数として投入し,その効果を統制した上で
OATSASおよび問題行動児による苦悩の有無の効果を分析した。その結果,「情緒的消耗
感」に関しては,「評価懸念」と問題行動児による苦悩の有無が有意な正の偏回帰係数を 示した。「個人的達成感」に関しては「多大な評価希求」と「強迫性格」が有意な正の,
「評価懸念」は有意な負の偏回帰係数を示した。多重共線性の問題は見られなかった。結 果をTable7-5に示す。
Table7-5 MBIの3下位尺度を目的変数,OATSASの各下位尺度得点他を説明変数
とした重回帰分析(標準化偏回帰係数) (N=116)
**p<.01, *p<.05
7-4 考察
OATSAS得点の平均値を比較したところ,過剰適応とバーンアウトに共通すると仮定し
ていた「強迫性格」を含む全ての得点が,教師群は職場不適応群より有意に低かった。過 剰適応の観点から検討する限り,教師には独自の特徴があり,過剰適応者とは異なる傾向
評価懸念 .39** .18 ‐.39**
多大な評価希求 ‐.08 ‐.04 .37**
援助要請への躊躇 .10 .14 ‐.09 強迫性格 ‐.05 ‐.03 .22*
経験年数 ‐.01 .12 .10
問題行動児による苦悩の有無 .19* .15 .11
説明率 R2 ** *
(修正済み)
MBI
.21
個人的達成感
(.17 ) (.06) (.07) .13 情緒的消耗感 脱人格化
.11