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臨床群を用いた尺度の構成概念妥当性の検討

6-1 目的

第5章では健常群を対象に,OATSASの各因子の妥当性を検証した。そこでここでは,

臨床群を対象に,開発したOATSASを用いて,OATSASが実際に職場不適応を起こした

「職場不適応群」と,臨床群ではあるものの「職場不適応群とは異なる臨床群」(以下「一 般臨床群」),「健常社会人群」とを弁別可能か否かを検討することで,更なる構成概念 妥当性の検討を行う。2

6-2 方法

6-2-1 調査の実施

2011年2月から2012年3月にかけて調査を行った。職場不適応群と一般臨床群はどち らも,精神科クリニックに通院中の患者 87 名を対象に心理検査受検時に行った。そのう ちカルテに記載された内容および診断名から,会社に適応ののちに職場不適応に陥った,

過剰適応とみなせる通院中の21名(男性11名;22歳から58歳,女性10名;23歳から 58歳,診断名;抑うつ不安神経症,抑うつ神経症,うつ状態,うつ病,不安神経症,不安障害, ストレス障害,パニック障害)を職場不適応群として選出した。一般臨床群は残りの66名 から統合失調症,認知症,精神発達遅滞の15名を除いた51名(男性15名;17歳―58歳, 女性35名;16歳―71歳,不明1名)とした。健常社会人群については,第4章の尺度

2当該研究は,「疫学研究に関する倫理指針」(厚生労働省,2002)における観察研究に相 当する。また,質問紙調査のため,試料の採取が侵襲性を有しない場合に該当する。その ため,研究対象者へのインフォームド・コンセントは口頭で行い,説明の内容および受け た同意に関する記録を作成した。研究対象者には,研究の意義,目的,方法の他に,危険 は伴わないこと,治療への影響はなく不利益とはならないこと,収集したデータは研究以 外の目的では使用しないこと,拒否および途中,後日に中止の申し出が可能なことと問い 合わせ連絡先を説明した。また,同意を受けた心理検査日,場所を記録した。知り得た情 報に関しては,単一のUSBメモリーに保管し,セキュリティーロックと共に,インター ネットに接続していないパソコンのみで管理,使用した。

76 開発で用いた正規雇用者270名の得点を用いた。

6-2-1-1 質問紙の構成

第4章で開発した,OATSASを使用した。

6-3 結果

職場不適応群,一般臨床群,健常社会人群における OATSAS の平均値と標準偏差を Table 6-1に示す。

Table 6-1 職場不適応群,一般臨床群,健常社会人群のOATSASの平均値と標準偏差

OATSASが職場不適応群と一般臨床群,健常社会人群とを弁別可能か否かを確認するた

めに,職場不適応群,一般臨床群,健常社会人群を基準変数,OATSASの「強迫性格」と

「他者評価にかかわる側面」を説明変数として判別分析を行った。その結果,OATSASの 2側面は職場不適応群,一般臨床群,健常社会人群の3群で有意に異なることが示された

(Wilksのλ=.83,χ2=59.62,p<.001)。判別的中率は59.2%であった。また,正準判別 関数係数とグループ重心の関数の結果から,「強迫性格」は職場不適応群に正の,「他者 評価にかかわる側面」は職場不適応群と一般臨床群に正の影響力を持つことが示された。

すなわち「強迫性格」は職場不適応群のみ高く,「他者評価にかかわる側面」は2つの臨 床群で高かった。

「強迫性格」「他者評価にかかわる側面」は臨床群では高く,健常社会人群はどちらも

職場不適応群 一般臨床群 健常社会人群

 (N=21)  (N=51) N=270)

  OATSAS M(SD) M(SD) M(SD)

 強迫性格 14.52(2.71) 13.55(2.92) 13.33(2.55)

 評価懸念 14.62(2.84) 15.26(3.26) 12.44(2.97)

 多大な評価希求 12.52(2.75) 11.84(3.67) 10.88(2.76)

 援助要請への躊躇 12.71(2.41) 14.55(3.53) 10.91(2.59)

 他者評価にかかわる側面 39.86(4.83) 41.78(8.77) 34.23(6.47)

(評価懸念+多大な評価希求+援助要請躊躇)

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低かったことから,さらに詳細に検討するために,OATSASの「強迫性格」得点および「他 者評価にかかわる側面」得点を職場不適応群と健常社会人群間,一般臨床群と健常社会人 群間および職場不適応群と一般臨床群間で比較した。その結果,職場不適応群と健常社会 人群間の「強迫性格」(t=2.06,p<.05),「他者評価にかかわる側面」(t=3.90,p<.001)

共に平均値の差が見られた。職場不適応群の「強迫性格」得点および「他者評価にかかわ る側面」得点は,どちらも健常社会人群より高かった (Table 6-2)。また,一般臨床群 と健常社会人群間では「強迫性格」の有意差は見られず(n.s. ),「他者評価にかかわる 側面」で平均値の差が見られた(t =5.74,p<.001)。一般臨床群では「他者評価にかかわ る側面」得点のみ健常社会人群より高かった (Table 6-3)。職場不適応群と一般臨床群 間では,「強迫性格」「他者評価にかかわる側面」のどちらも有意差は見られなかった(n.s. )。

結果をTable 6-4に示す。

また,判別分析の結果から,OATSASが職場不適応群と一般臨床群,健常社会人群を適 正に弁別することが明示された。臨床群ではどちらも「他者評価にかかわる側面」が高く なる。しかし,同じ臨床群でも,職場不適応群では「強迫性格」が高い一方,一般臨床群 では「強迫性格」は高くはならないことが明らかになった。つまり臨床群と健常群を分け るのは「他者評価にかかわる側面」で,過剰適応と一般の臨床群を分割するのは「強迫性 格」ということが明示された。

Table 6-2 職場不適応群・健常社会人群におけるOATSASの平均値の差の検定

***p<.001, *p<.05

職場不適応群

N=21)

健常社会人群

N=270) t

OATSAS M(SD) M(SD)

 強迫性格 14.52(2.71) 13.33(2.55) 2.06 *  他者評価にかかわる側面 39.86(4.83) 34.23(6.47) 3.90 ***

(評価懸念+多大な評価希+援助要請躊躇)

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Table 6-3 一般臨床群・健常社会人群におけるOATSASの平均値の差の検定

***p<.001

Table 6-4 職場不適応群・一般臨床群におけるOATSASの平均値の差の検定

6-4 考察

ここでは OATSAS が,過剰適応により職場不適応を起こしたと考えられる職場不適応

群と,職場不適応とは異なる一般臨床群,健常社会人群とを弁別可能かを検討することで,

尺度の構成概念妥当性の検討を行った。判別分析の結果,3 群はそれぞれ異なることが示 された。さらに2つの臨床群では,共に「他者評価にかかわる側面」が高く,職場不適応 群のみ「強迫性格」が高かった。また,t検定の結果,「強迫性格」「他者評価にかかわ る側面」共に,職場不適応群の方が健常社会人群より高い一方,臨床群と健常群間では「強 迫性格」では有意差は見られず,「他者評価にかかわる側面」のみ臨床群の方が健常群よ り高かった。

職場不適応群と健常社会人群を比較したことで,OATSASの「強迫性格」「他者評価に かかわる側面」共に,職場不適応群が健常社会人群よりも高くなることが明らかになった。

さらに,職場不適応群のみならず一般臨床群を用いたことで,不適応と関連するのは

OATSASの「他者評価にかかわる側面」であること,職場不適応群と一般臨床群の違いは

「強迫性格」にあることが示唆された。

一般臨床群

(N =51)

健常社会人群

(N =270) t

OATSAS M(SD) M(SD)

 強迫性格 13.552.92 13.332.55 0.55 n.s.

 他者評価にかかわる側面 41.78(8.77) 34.23(6.47) 5.74 ***

(評価懸念+多大な評価希+援助要請躊躇)

職場不適応群

N=21)

一般臨床群

N=51) t

OATSAS M(SD) M(SD)

 強迫性格 14.52(2.71) 13.55(2.92) 1.30 n.s.

 他者評価にかかわる側面 39.86(4.83) 41.78(8.77) 1.17 n.s.

(評価懸念+多大な評価希+援助要請躊躇)

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これらのことから成人の過剰適応は,強迫性格を持ちかつ他者評価を意識するパーソナ リティ傾向者がなりやすく,そのなりやすさを測定するために開発した OATSAS の構成 概念妥当性が担保されたといえる。

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