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連邦遺産税

ドキュメント内 米国における富の移転課税(1) (ページ 45-164)

 1916年以来、連邦議会は、故人の課税遺産の移転に対しエクサイズタッ クス(excise tax)の形式で相続税(death duty)を課している(190)。そのために、

統一された多目的に用いられる累進的な税率表(graduated rate table)が

存在する(191)。その税率表は、生存中の贈与および特定の世代跳躍移転に対する

(190)I.R.C.§2001 (a)において、「……税は、課税遺産の移転に課される」とされている。

すなわち、エクサイズタックスとは、取引(transaction)あるいは事象(event)に対し 課される税である。佐古・前掲注(3)51-54頁、渋谷・前掲注(109)1340頁、川端康 之「アメリカ合衆国における相続税・贈与税の現状」日税研論集56号21頁(2004年)、高 野幸大「遺産税方式の問題点に係る若干の考察―アメリカの連邦遺産税制度を素材とし て ―」 日 税 研 論 集61号287頁(2011年 )。Henry J. Merry, Federal Estate and Gift Tax:

Concept of a Transfer, 38 MICH. L. REV. 1032 (1940); Richard Schemalbeck, Does the Death Tax Deserve the Death Penalty? An Over of the Major Arguments for Repeal of Federal Wealth-Transfer Taxes, 47 CLEV. ST. L.REV. 750, 750-51 (2000); Barbara Redman, Rethinking the Progressive Estate and Gift Tax, 15 AKRON TAX J. 35, 41-46 (2000); Erwin N. Griswold, Correlation of Gift and Estate Taxes, 55 HARV. L. REV. 1, 15 (1941); Darien B.

Jacobson, Brian G. Rabu and Barry W. Johnson, The Estate Tax: Ninety Years and Counting, Statics of Income, SOI BULLETIN JUNE 22, 118,(2007); Reuben Oppenheimer, Proceeds of Life Insurance Policies under the Federal Estate Tax, 43 HARV. L. REV. 724, 727-34 (1930); J. H. Riddle, The Supreme Court’s Theory of a Direct Tax, 15 MICH. L. REV. 566, 577-78 (1917)等がある。

(191)I.R.C.§2001.

税の計算においても同様に用いられる。第1章で述べたように、1976年以後、

議会は、遺産税率を決定する際、生涯贈与(lifetime gift)についてもそれ を考慮することを決定した。人の生涯における財産の移転、および死亡によ る財産の移転は、個別の取引(transaction)というよりは、むしろ連続し た取引であるとみなされる。しかしながら、税法は、贈与税および遺産税と いう2段階の課税構造をとる。生存中の生涯贈与と死亡時における遺産の累 積および統一税額控除(unified credit)という課税構造の仕組みの結果、

1976年以降現在に至るまで、一般に、贈与および課税遺産(taxable

estate)が、個人に与えられた統一税額控除額を超過すると、遺産税が課さ

れることとなる(192)。遺産税額は、統一税額控除額に相当する非課税枠を超える 遺産に対して、40%の一定税率で計算される。

 課税遺産は、総遺産(gross estate)(193)から制定法によって規定された一定 の控除(deduction)を差し引くことにより決定される。総遺産および控除 を要素として導き出される課税遺産の概念には、理論上存在する財産

(artificial property)が含まれる。本章では、課税要件としての課税対象を 中心に、米国における現行の連邦遺産税制度について検討する。

第1節 課税対象

 上述の如く、課税遺産は、総遺産から控除を差し引くことによって求めら れる。そこで、本節では、課税対象となる総遺産および控除について概観す る。また、遺産税の税額計算方法、統一税額控除および納税手続についても、

若干の検討を行う。

1 総遺産

 総遺産を構成する財産の種類は多種多様であり、それゆえ、一般に、総遺 産の概念は、非常に不安定なものであり、連邦所得税の課税対象となる総所

(192)I.R.C.§2010.

(193)I.R.C.§2031.

得の概念(194)とは性格を異にするといわれている(195)

 遺言または無遺言相続によって、他の者に移転されることとなる、故人が、

死亡時に実際に所有していた財産だけが、総遺産を構成する財産ではない(196)。 特定の生命保険、合有財産、あるいは、故人が生前に分配した財産で、それ が故人の死亡時または死亡後に移転されるまで、あたかも故人によって所有 されていたかのように取り扱われる財産も、総遺産を構成する財産となる(197)。 これは、「課税理論上存在する総遺産(artificial gross estate)」といわれ、

死亡時に実際に所有されていた財産とは区別される。このように、遺産税の 課税対象となる総遺産を構成する財産は、「死亡時に所有されていた財産」

と「理論上存在する財産」とに大別されることになる。

 総遺産の定義は、内国歳入法典2033条(198)で、以下のように示されている。「総 遺産とは、ある者の死亡の時における、死亡した者の利益の範囲について、

全ての財産の価値を含むものとする」(199)。この条文が意味する総遺産とは、現金、

(194)I.R.C.§61(a). 総所得とは、あらゆる源泉から生じた全ての所得であり、以下の項目を 含むものである、①報酬、手数料、諸手当等およびそれに準ずるもの、②事業から得られ る総所得、③財産の取引から生ずる利益、④利子、⑤受取賃料、⑥印紙税、特許使用料収 入、採掘権等のロイヤリティー、⑦受取配当金、⑧扶養手当および別居による扶養手当、

⑨年金、⑩生命保険および寄附による所得、⑪恩給、⑫債務免除による利益、⑬パートナー シップの総所得からの分配金、⑭故人に由来する所得、⑮遺産または信託における利益か ら得られる所得、等である。

(195)John A. Miller and Jeffrey A. Maine, The fundamentals of wealth transfer tax planning:

2011 and beyond, 47 IDHO L. REV. 385, 390 (2011).

(196)Id.

(197)Id.; Richard B. Stephens, Clifford Shadow over the Federal Estate Tax, 4 GA. L. REV. 233, 246 (1970); John Minan, The Allocation of Estate Taxes by Judicial Rule: A Case for Reform, 38 OHAIO ST. L. REV. 539, 547 (1977); Charles L. B. Lowndes, Constitutionality of Federal Estate Tax, 20 VA. L. REV. 141, 142-43 (1933); Edward N. Polisher, The 1951 Powers of Appointment Act-Its Federal Estate Tax and Gift Tax Implications, 56 DICK L.

REV. 3, 20 (1951); John A. Miller and Jeffrey A. Maine, Wealth Transfer Tax Planning for 2013 and Beyond, available at http:/ssrn.com./abstract=2214422; Griswold, supra note 190, at 4; Joseph M. Dodge, Redoing the Estate and Gift Taxes Along Easy-to-Value Lines, 43 TAX L. REV. 241 (1988).

(198)I.R.C.§2033.

(199)The value of the gross estate shall include the value of all property to the extent of the

有価証券、不動産、貸付金および他の債権等、非法人企業利益、芸術・美術 品などの、故人によって所有された全ての財産を含むと解されている(200)。また、

損害補償金(201)や著作権、肖像権、知的財産権などの権利から生じる利益(202)につい ても総遺産に含まれるとされ、内国歳入法典2033条は、連邦遺産税の課税 対象となる財産の大部分を捉えることができるとされている(203)

 とはいえ、内国歳入法典2033条で規定される総遺産の定義は、概念的あ るいは総括的なものとなっている。このため、特に、課税対象となる「財産」

あるいは「死亡時の利益」の範囲についての詳細は、具体性に乏しくまた抽 象的であることから、他の条項で補足されることになる。しかし、それにも かかわらず、内国歳入法典2033条で示されている総遺産の定義は、抽象的 で曖昧な表現が用いられているため、「財産」あるいは「死亡の時の利益」

の解釈をめぐっては、多くの議論があり、また司法における争点ともなって いる(204)

 故人の総遺産を決定するにあたり、3つの論点が存在する(205)。第1に、総遺 産に含めることを規定し、適用される条項の下での課税対象となる移転が存 在したのか否か。第2に、適用条項が存在した場合、総遺産に含まれること になる利益(interest)とは、いったい、どのようなものなのか。あるいは、

interest therein of the decedent at the time of his death.

(200)26 Code of Federal Regulation (CFR)§20.2033-1 (a).

(201)Robert E. Cullbertson and Milton Cerny, U.S. taxation of compensation for deprivations of rights: Justice taxed would be justice denied, 13 TAX NOTES INT’L. 2021 (1996).

(202)Ray D. Madoff, Taxing personhood: Estate taxes and the compelled commodification of identity, 17 VA. TAX REV. 759 (1998).

(203)26 CFR§20.2033-1 (b)において、個人が、墓所または霊園を所有している場合、故人 および故人の家族のための墓地区画以外の売却価値のある部分は、総遺産に含まれるもの とされる。また、§2053 (a)では、遺言執行人によって購入された墓所の費用を含む葬 儀費用は、総遺産の額から控除される。なお、米国内非居住者が所有する海外の財産は、

一般的に、総遺産から除外される。

(204)BITTKERAND LOKKEN, supra note 127, ¶125.1.

(205)Charles L. B. Lowndes and Richard B. Stephens, Identification of property subject to the federal estate tax, 65 MICH. L. REV. 105 (1966).

総遺産に含まれる財産をどのように特定することができるのかである。第3 に、総遺産に含まれる利益は、どのように評価されるのであろうか。

 例えば、Aは死亡を予期して、Bに

Blackacre

(206)を移転し、その移転から3 年以内に死亡したとする。また、Bは、Aの死亡に伴い

Blackacre

をCの

Whiteacre

に変更したものとする。この場合、3つの問題が存在することに

なる。第1に、課税対象となる移転は存在したのか否か、第2に、その移転 が、Aの死亡を予期してなされたものであり、課税対象となる移転が存在し たとする場合、Aの総遺産には、Blackacreあるいは

Whiteacre

のいずれが 含まれるのであろうか、第3に、Aの総遺産に含むことが可能となる財産を、

どのように評価するのか、が問われることになる。このような、総遺産の定 義をめぐる問題は、個別課税対象の条項の適用可能性や財産評価の問題より も、より深刻な問題であるとの指摘もある(207)

 以上のように、連邦遺産税の課税対象となる総遺産をめぐる問題は、単一 の問題ではなく、複合的な問題として存在すると考えられる。総遺産に含ま れる財産の特定には、財産を移転する被相続人について、その者の特定の利 益の移転が存在したのか否かを決定する必要がある。また、被相続人が、ど のような利益を移転したのかを決定することも重要となる。さらに、総遺産 に含まれる財産の特定に際しては、移転した財産から生まれ、または消滅す る利益についても考慮する必要がある。すなわち、総遺産の特定については、

①財産の移転は存在したのか、②どのような財産が移転されたのか、③移転 された財産は、どのような範囲まで、生まれあるいは消滅する財産へと追跡

(206)コモン・ローの司法の場において、土地所有権をめぐる議論の中で、しばしば用いられ る架空または仮定された土地資産の保有者名のことをいう。WhiteacreやGreenacreなど の用語も同義語で、Blackacre、WhiteacreおよびGreenacreは、それぞれ土地保有者が異 なることを意味する。本事例の場合、Aの生存中に、Aの土地の名義をBに変更した。そ の後、Aの死亡と同時にBは、Bの名義となっている土地をCに変更したことを想定し たものである。

(207)Lowndes and Stephens, supra note 205, at 105; BITTKERAND LOKKEN, supra note 127, ¶ 125.1.

ドキュメント内 米国における富の移転課税(1) (ページ 45-164)

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