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3. IPSAS の普及状況

4.1   連邦会計基準諮問委員会( FASAB )でのインタビュー調査

【インタビューの相手方:  ロバート・デイシー(Robert F. Dacey)氏の経歴】

デイシー氏は、デロイト・トウシュ(Deloitte & Touche)でシニアマネージャーとして勤務し た後、GAO でディレクターとして連結財務諸表の監査や情報セキュリティー監査に携わったり した。また、米国公認会計士協会(AICPA)監査基準委員会の委員や連邦政府の会計監査政策委 員会(Accounting and Auditing Policy Committee)の委員として活躍した。2004年からGAO 代表としてFASABの委員を勤めている。

(1)FASABの概要

米国には、FASB、GASB、FASABの3つの会計基準設定者がある。このうち、FASBは 民間部門向けの会計基準の設定者であり、GASB と FASAB は公共部門向けの会計基準設 定者である。そして、GASBは20年以上前に設立された民間機関で米国の州や地方政府の 公会計基準の設定をしていて、FASABが連邦政府の公会計基準を設定している。

米国では1990年に首席財務官法(Chief Financial Officers Act)が制定され、連邦政府の 主要な機関は財務諸表を作成し監査を受けることが義務づけられた。その後、監査を受け る義務の対象となる機関は、ほとんどの政府機関に拡大された。連邦政府では、会計基準 を設定する法的責任についてはGAO(the Government Accountability Office)が負っており、

また、財務諸表の書式と記載内容についてはOMB(The Office of Management and Budget) が法的責任を負っている。そこで、1990年10月にGAO、OMBおよび財務省は、自分た ちの代わりに連邦政府の会計基準の設定者として FASAB は連邦諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act)によって設立された。また、FASABの設立に関しては、GAOと OMBとの間の覚書(Memorandum of Understanding)があり、その最新の改訂版は2003年 付けとなっている

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。これは、連邦政府には、州・地方政府にはない独特の報告規制があ るので、連邦政府独自の会計基準を設定する必要があったためである。

1999年10月にFASAB は、米国公認会計士協会(American Institute of Certified Public Accountants: AICPA)によって連邦政府機関のための一般に認められる会計原則(Generally Accepted Accounting Principles: GAAP)の基準設定者として認められた。現在、FASABは、

6人の民間委員と4人の政府委員から構成されている。ただし、今回の調査時点において は、政府委員が辞職して今後の対応を決めなければならない状況であった。

FASAB の独立性は、連邦諮問委員会法によって確保されているが、その一方で FASAB

は、連邦政府が何をしなければならないかを独裁的に決定することはできない制度となっ

ている。FASAB が公会計基準を作成しても、FASAB 自体にはそれを強制する法的権限は

なく、GAOとOMBは、法的な権限をもっているのでFASABが作成した公会計基準が適 切ではないと思えば、それを拒否することはできる。しかし、これまでにGAOやOMBが 拒否した事例はなく、仮にそのような事態になれば、FASABの独立性に疑問が呈されるだ ろうとのことであった。

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FASABは、GAAPの基準設定者となるように設立され、現実にFASABが作成した公会

計基準はAICPAによって GAAPとして認められている。これは、財務諸表は監査を受け

ることとなるので財務諸表を作成する側もそれを監査する側も受け入れられる会計基準で なければならないことによる。AICPAは、会計に関する職業専門家の協会であり、公認会 計士(CPA)が基準に対して意見を述べる機会を与えられることによって、基準は初めて GAAPとして受け入れられる。

現在、米国における GAAPの設定者としては、FASB、GASB、FASAB に、国際会計基 準設定者のIASBを加えて4つが認められている。したがって、財務諸表がGAAPに従っ ていると認められるためには、これらのいずれかの基準を使用しなければならない。そう でなければ、その基準はその他の包括的会計基準(a comprehensive basis of accounting)

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と いうことになる。

すべての米国連邦政府機関および連結財務諸表は、FASABの公会計基準を採用すること が義務づけられており、GAOはそれに対して会計検査を実施している。また、主要な州お よび地方政府のほとんどは、GASBが設定したGAAPにしたがって毎年度の財務諸表を作 成している。

しかし、民間部門では、証券取引委員会(SEC)によって年度報告書に対する監査報告 書の作成が義務づけられている上場企業(public companies)以外では、各企業がどのよう な財務諸表をどのような基準に基づいて作成するかを判断することになっている。もっと も、現実には銀行からの借入金に関連して、銀行がどのような財務諸表を作成すべきか要 求することがある。このように、会計基準を巡る状況はいろいろであるが、公共部門と民 間部門の間で大きな違いがあるようには思われないとしている。

(2)FASABとIPSASB

FASABとGASBのスタッフは共通の問題点について話し合うために会合(joint meeting) を開くことがある。この会合は、コンバージェンスのためではないが、情報交換をしたり お互いの知見を共有しようとするものである。

また、同様にFASABのスタッフは、IPSASBの作業グループに参加して開発中のIPSAS の 個 別 基 準 に つ い て コ メ ン ト し た り 、 デ イ シ ー 氏 が INTOSAI の オ ブ ザ ー バ ー と し て

IPSASBに参加したりしており、コンバージェンスではないが協力している。さらに、GASB

のリサーチディレクターが米国の代表としてIPSASBへ参加している。GASBは、IPSASB と2、3の共同プロジェクトを持っている。そして、例えば、GASBが検討している問題と 共通する問題についてIPSASBが作業を進めているときには、GASBはスタッフをIPSASB に派遣したりしている。これらの協力関係についての覚え書きなどについては特にない。

FASAB は、米国連邦政府という一つの主体を対象とした公会計基準を設定していて、

FASABの公会計基準を IPSASとコンバージェンスする計画はないが、FASABがIPSASB

より遙か以前に設立されたのということもあり、IPSASB と協力関係を保っている。そし

て、FASABとしては、IPSASの状況の推移を見守ることとしている。

11 GAAP other comprehensive basis of accounting OCBOA

FASAB の会計基準とIPSASBの会計基準で大きく異なることは、FASAB が米国連邦政 府に適用するための基準であるのに対して、IPSASB の基準は多くの国家、地方や州など のサブ国家をも対象としていることである。また、会計基準で考え方が異なる点の一つは、

税収(tax revenue)の認識である。FASABでは修正現金主義を採用しているがIPSASBは 発生主義を採用しようとしている。しかし、FASABとIPSASBの個別の基準の多くは非常 に似ている。IPSASBとIASBとのコンバージェンスが終了したとき、両者の間に重要な相 違があるのかどうか非常に興味深い。しかし、まだ社会保障に関するIPSASBの個別基準 は開発中である。

ある国が、IPSASを導入するかどうかは非常に難しい選択である。IPSASBやIASBの会 計基準をそのまま採用することもできるし、または、自分の国の特徴を保持したいのであ れば、独自の会計基準を保持することもできる。また、IPSASBやIASBの会計基準を修正 して採用することもできるし、実際にそうしている国もある。独立した会計基準設定機関 を持つこともできる。これらを決定するのは、難しいが各国自身が決定すべきことである。

米国議会では、おそらく米国連邦政府の会計基準の責任を誰も米国外の機関に任せたいと は思わないだろう。

(3)デュープロセス 

IASBやFASBが企業会計の基準を設定する場合には、デュープロセス(due process)と いう手続を経なければならず、そのなかでコメントレターや批判などを利害関係者から受 け付けることとなる。FASAB、GASBおよびIPSASBの場合にも、その検討過程は公開さ れる。

基準を開発する際には、第一段階として予備的見解を公開することもあるし 、少なくと も公開草案(exposure drafts; ED)を公開して一般からのコメントを受け付ける機会を設け ている。このようにかなり広範囲なデュープロセスの手続を経て基準が設定される。仮に この手続に批判があるとすれば、それは、公開草案などを公開してコメントを受け付けて もそれに対して返信がないことがあり得るという点であろう。これは公開する側ではどう しようもないことである。そこで、特別な基準を設定する際には、財務諸表の作成者や利 用者など影響を受ける人たちに情報を提供してコメントする機会を与えるようにしている。

しかし、公開しても基準によってコメントの数は多かったり少なかったりするのが現状で ある。

(4)IPSAS概念フレームワーク

IPSASの概念フレームワークのプロジェクトに関しては、FASABではその過程において

スタッフがいろいろと協力したりコメントしたりしている。世界の多くの会計基準設定者

が、IPSASBの開発に関わっていて情報を共有している。また、FASABおよびGASBにと

っても、概念フレームワークの強化は関心事の一つである。

しかし、FASBやIASB が企業会計のための概念フレームワークの作業を終了するまでに は時間を要するので、公会計の設定者であるIPSASB、GASBおよびFASABは、その作業が