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3. IPSAS の普及状況

4.2   政府会計基準審議会( GASB )でのインタビュー調査

【インタビューの相手方:デビッド・ビーン(David R. Bean)氏の経歴】

ビーン氏は、アーンスト・アンド・ヤング(Ernst & Young)に勤務した後、政府財務担当官 協会(Government Finance Officers Association)のテクニカルサービスセンターのディレクター を勤め、1990年からGASBのディレクター(Director of Research and Technical Activities)と して活躍している。IPSASBの米国代表のテクニカルアドバイザーでもある。

ビーン氏は、現在、GASBのリサーチディレクターであると同時にIPSASBの米国代表 でもある。そこで、今回のインタビューでは、GASB に関する事項だけでなく、GASBと

IPSASBの比較などについても伺うことができた。

(1)GASBの概要

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GASBは20年以上前に設立された機関で、米国にある約8万の州および地方政府(state and local government entities)の公会計基準の設定をしており、この公会計基準は一般に認 められている会計原則(Generally Accepted Accounting Principles; GAAP)として認められて いる。しかし、GASBにはそれを州および地方政府に対して適用させる強制力はなく、GASB の公会計基準を採用するかどうかは各々の州および地方政府の判断に委ねられている。

州および地方政府は、GASBの基準を採用する必要はないが、実際にはすべての州政府 はGASBの基準を採用しているものと思われる。GASBによるGAAPの代わりに包括的会 計基準(a comprehensive basis of accounting)を採用することもあり得るだろう。さもなけ れば、財務諸表を作成する必要がないということになる。小規模な町の場合には、GAAP に従って報告するよりも現金主義会計で報告する方が楽だと思ってGAAPを使用しないこ とはあり得るだろう。

州および地方政府が公債を発行する際には、一般的には財務諸表を作成し監査を受ける ことが債権の引受人によって義務づけられる。また、州および地方政府としても公債を引 き受けてもらいたいので財務諸表の作成と監査を受けることに積極的である。つまり、州 および地方政府が公債を発行しようとするときには、適切な会計基準に従った財務諸表を 作成しないと公債はマーケットから受け入れられない。また、州および地方政府によって は、説明責任を果たすために財務諸表の作成を州法や条例(law)で定めている。

(2)GASBのIPSASBへの協力

GASB は、25 年前に米国で設立されたが、それ以前に会計基準設定者が存在していて、

あえて言えばIPSASBと似たようなことを50年間やっていた。米国にはそのような公会計 基準の設定に関する歴史があったが、IPSASBにはそのような長い歴史はない。GASBは、

公会計基準の活動を何年もモニターしてきたし、IPSASB の会議に定期的にオブザーバー として出席していたこともある。そして、2000年からGASBはIPSASBとより一層交流す るようになり、10年くらいの間にいくつものプロジェクトを共同で手がけてきた。IPSASB に強く関わるようになった理由は、GASBの戦略計画(strategic plan)として、GASBの基

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準をIPSASにハーモナイゼーションさせることが適切な場合には、ハーモナイゼーション させることとしたからである。

GASB は、IPSASB にスタッフを派遣するなどの協力活動を実施してきている。例えば

IPSASBの減損会計の作業にGASBのかなりのスタッフを派遣したり、サービス委譲契約

(Services Concession Arrangements)のプロジェクトに主任スタッフを派遣したりしてきた。

現 在 で も GASB は 、 サ ー ビ ス 提 供 の 努 力 と 成 果 に 関 す る 報 告 (Service Efforts and Accomplishments Reporting; SEA 報告)のプロジェクトに主任スタッフを派遣している。ま た、準国家の長期持続可能性(Fiscal Sustainability Project for Sub-national Entities)のプロジ ェクトにもかなりのスタッフを派遣する予定である。さらに、ビーン氏は、2000年から2006 年までIPSASBのテクニカルアドバイザーとして非交換取引の作業部会(the Non-exchange Transaction Task Force)に従事していた。2007年にIPSASBの米国代表となってからは、概 念フレームワークの作業部会に従事している。

このように、GASB は、IPSASB のかなりの人材(resources)をIPSASに関与させてき たが、長期的な戦略として、GASB は、考えをお互いに交換したり、スタッフを派遣する ことが適切である場合にはスタッフを派遣したりするなどしてIPSASBと協力し続ける意 向であるという。そして、IPSASとハーモナイゼーションすることが適切である場合には ハーモナイゼーションをするという。いずれにしても、米国には発生主義会計に基づいた 会計基準があり、国際的なレベルで連携することができるのではないかとしている。また、

GASBは、世界の他の国から学ぶべきことはたくさんあるし、GASBから世界に対して提 供できるものもあるだろうとしている。

ビーン氏は、IPSASBを代表して米国で活動しているが、普通、年に2、3回程度プレゼ ンテーションができる程度であるという。しかも、担当地域は、米国だけでなくしばしば 南米も含まれる。他方、国際的な監査法人であるKPMGは、IPSASBの文書に対して定期 的に意見を出し始め、概念フレームワークに関するコンサルテーションペーパーに対して も意見を提出した。そして、無形資産に関する公開草案について意見を作成中である。こ

れは、KPMG が、IPSASB は、今後ますます存在感を示すようになるだろうと判断して、

IPSASBの文書に定期的に意見を出すこととしたことを示している。

以上のように、GASB としては今までかなり IPSASB を支援してきたが、まだ IPSASB の資源は非常に限られている。IPSASB が概念フレームワークを国際レベルで開発すると き、財務諸表の世界中の利用者と会議を開くだけの余裕はないし、米国で行っているよう に財務諸表の世界中の作成者や監査人と意見交換する余裕はない。GASBの基準の設定は、

財務諸表の利用者のニーズ、財務報告の目的(objectives)、会計基準のデュープロセス(due

process)で受けた意見に基づいて導き出されたものである。米国では会計基準を検討する

過程において、財務諸表の利用者だけでなく、財務諸表の作成者や監査人と会合をもつ機 会を確保することができる。国際基準に関しては、民間部門であるIASBでは非常に厳し いと言えるぐらいのレベルまで開発が進んでいるのに対して、IPSASは資源が限られてい るため、まだそのような成熟したレベル(level of maturity)まで達していない。

(3)ハーモナイゼーション 

米国での経験に基づけば、公会計では、ハーモナイゼーションやコンバージェンスのニ ーズは、企業会計に比べて小さいと思われる。しかし、注意深く研究することなく、その ような結論を米国以外の世界の国々にも当てはめるべきではない。例えば、米国には、免

税債(tax-exempt debt)があるので非常に発達した資本市場があるし、連邦政府向け、州お

よび地方政府向けの資本市場がある。このことから、米国では、公会計におけるハーモナ イゼーションやコンバージェンスのニーズは、企業会計に比べて小さい。つまり、会計基 準は、適切である限り多様であっても良いとも考えられる。また、GASBとしては、世界 の他の人々と研究したり作業したりすることによって得ることも非常に多い。

会計基準のコンバージェンスが必要な理由として財務諸表の比較可能性が上げられるこ とがある。比較可能性は、考慮すべき要素ではあるものの、財務報告における質的特性(one of the qualitative characteristics)のうちの1つにすぎない。これは、合目的性とともに財務 諸表の利用者にとっては重要なものであるが、合目的性以上に重要なものであるわけでは ない。つまり、GASBはハーモナイゼーションすることが適切であればそうするが、適切 でなければ異なった会計基準を設定することになる。

このようにGASBでは、国によって異なった会計基準が存在して多様となる可能性を示 している。多様性が適切であるような他の例としては、2、3 年前に中国からの訪問者が、

会計基準の調査に来たときに公害回復の基準についてどうしてそのような基準が設けられ たか質問したことがあった。しかし、中国では、汚染を浄化することが必要になったとき にはじめて法制化されるので、米国でのアプローチは非常に異なっていて中国では機能し ないと結論づけたことがある。

今までは、米国が国際基準に合わせるのではなく国際基準を米国の基準に合わせるとい うことが見られたし、将来もそのようなことがあるかもしれない。しかしながら、GASB は、米国の基準を世界に輸出しようという意図はないという。世界の状況にとって適切な 会計基準が米国にあったとしても、それを採用するかどうかはIPSASBが考えるべきこと である。また、GASBとしては、GASBの会計基準が卓越した基準と見なされるべきでは

ないし、IPSASB は最終的に決定する前に他の解決策がないか調査すべきであると考えて

いる。例えば、ビーン氏としては、IPSASBの委員として最善と思う解決策を主張するが、

それは米国での経験に基づいていることもあるし、米国の会計基準が世界にとっては適切 でないと思うときには、意義を唱えることもあるという。

米国の会計基準が世界にとっては適切ではない例としては、米国の地方政府の会計方法 や連邦政府の資金会計が挙げられるという。米国内の地方政府の場合、発生主義会計で記 帳して財務諸表を作成しているところもあるだろうが、多くの地方政府では、予算は現金 主義で記帳は現金主義会計または修正現金主義会計で記帳していて、年度末に発生主義会 計に調整するところはあるだろう。また、米国内の多くの企業でも大企業以外の一般企業 では、現金主義会計で記帳して四半期ごとまたは年度ごとに発生主義会計に組み替えてい る。地方政府でも同様である。地方政府では、発生主義会計の財務諸表を作成している一 方で、修正発生主義会計の報告書も作成していて、財務諸表には二つの視点(There are two