4. 降水パターンの地域特性と経年変化 4.1 年降水量と月降水量
4.4 連続強雨の発生回数
強雨が短期間に連続して発生すると洪水や土砂崩れといった災害発生の危険性が高まる ことが知られる。地面に到達した降水の挙動には降雨時の先行土壌水分量の影響も大きい。
高い土壌水分状態時にさらに降水が発生すると,水は短時間で地表面下を飽和させ,早い 地下浸透を起こす。また一部の降水は浸透できずに表面流出となる。20mm/日以上の降 水が 10 日以内および 3 日以内に連続して発現する回数について調査した。
20mm/日以上の降水が 10 日以内連続して発現する回数の経年変化を図 12 に示す。31 年間の平均で船橋が 10.7 回/年,銚子が 16.2 回/年,坂畑が 21.4 回/年,館山が 18.1 回/年 の頻度で,連続強雨が発現している。年毎の変動が大きいが,顕著な経年変化傾向はなく,
図 10 20~50mm/日強雨発現回数の経年変化 0
5 10 15 20 25 30 35 40
1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020
船橋 銚子 坂畑 館山 線形(館山)
図 11 50~80mm/日強雨発現回数の経年変化 0
2 4 6 8 10 12 14
1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020
船橋 銚子 坂畑 館山
千葉商大紀要 第 58 巻 第 3 号(2021 年 3 月)
船橋の回数にのみがわずかな増加傾向を呈した。船橋では全 20mm/日以上強雨の 50%,
銚子,坂畑,館山では 60%以上が 10 日以内に発生していることになる。連続強雨は地下 浸透量を増加させ,地中の土壌水,地下水ともに流速が非常に遅いためその影響は長く続 くため,地域の水環境への影響は大きい。10 日以内連続降水による降水量の平均は船橋 で 423.9mm/年,銚子で 659.3mm/年,坂畑で 641.0mm/年,銚子で 800.3mm/年となり,
年間降水の 30.2~43.6%に相当し,地域の水循環に大きく寄与していると考えられる。
一方,3 日以内の短期連続強雨の発生回数は,31 年間の平均で船橋で 4.6 回/年,銚子 だ 5.5 回/年,坂畑で 7.9 回/年,館山で 5.8 回/年と地点間の違いは小さい。降水は台風,. 温 帯性低気圧,. 前線,気圧の谷のほか雷雨 , 冬の季節風などさまざまなメカニズムで発生 する。短期連続強雨を発生させるメカニズムはスケールが大きく,千葉県全体に影響する ためかもしれない。
5. まとめ
複雑な地形を有する千葉県において地形・土地利用が異なる船橋,銚子,坂畑,館山の 4 地点において気象庁 AMeDAS のデータも用い,過去 31 年間の降水特性およびその変 化傾向を吟味した。4 地点ともに年平均気温に上昇傾向がみられることが確認されたため,
気候上昇によって生じると予測されている強雨の頻度,強度の増加について詳細に調査し,
以下の結果を得た。
① 年降水量は東京湾奥に位置する船橋で 1403mm/年,標高の高い坂畑で 2048mm/年,
太平洋に面した銚子,館山はそれぞれ 1717mm/年,1832mm/年と千葉県内の地域に よるばらつきが大きいが,いずれの地点でも明らかな経年変化は認められなかった。
② 月別においては 12 月の降水量が銚子,坂畑,館山で増加傾向が認められ,銚子,館 山の 3 月の降水量はで減少傾向が認められた。年降水量に経年変化が認められない理 由の一つとして 12 月と 3 月の経年変化傾向が相殺している影響があることが示唆さ れた。
図 12 20mm/日降水が 10 日以内に連続発現した回数 0
10 20 30 40
1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020
船橋 銚子 坂畑 館山 線形(船橋)
③ 強雨(20mm/日以上)の年間発生回数は平均では坂畑が 32.8 回/年と最も多く,船橋 が 21.6 回/年と最も少なく,千葉県内では約 11~17 日に 1 回の割合で強雨が発現し ていると推定された。
④ 船橋では年間降水回数の 19%,その他の地点では 24~28%が 20mm/日以上の強雨で ある。19~28%で発現する強雨が年降水量全体の 60%以上を供給していることがわ かった。
⑤ 強雨強度別においては館山の 20~50mm/日の発現回数にわずかな増加傾向が認めら れたが,他の地点では明らかな増加傾向は認められない。
⑥ 3 日以内に連続して強雨が発現する回数に大きな地域差は認められず,4.6~7.9 回/年 であった。短期間連続強雨の発現メカニズムのスケールが大きいことによると考えらえる。
⑦ 10 日以内に強雨が繰り返し発現する回数は船橋で 10.7 回/年,坂畑で 21.4 回/年と地 域差が認められ,年降水量の 30.2~43.6%を供給していると推定できる。
弱雨に比すると発現回数がはるかに少ない強雨は年降水量の 60%以上を供給し,地域 水循環の原動力である。その半分以上が 10 日以内に連続して発現する強雨によってもた らされており,千葉県内においてその頻度には地域差が認められた。一方,3 日以内の極 短期間に連続して発現する強雨には大きな地域差はかった。強雨は,水循環を通して人間 生活に密接にかかわり,その強度,頻度によっては災害に直接関連する。地球温暖化に伴 い強雨の発現特性にも変化が生じる可能性が高い。今後,本論で吟味した強度別発現特性 の経年変化傾向については注視していく必要がある。
〔参考文献〕
* 1 IPCC,2014 :ClimateChange2014 :SynthesisReport.IPCC,Geneva,Switzerland, 151pp.
* 2 気象庁(2019)気候変動監視レポート 2018(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/
monitor/)
* 3 山本奈美(2003)関東及び周辺地域における夏季降水強度の頻度分布の特徴とその 地域性,2003 年度日本地理学会秋季学術大会
* 4 澤田康徳(2014)毎時および日降水資料による関東地方の夏期における降水量の階 級別発現頻度の地域性 2014 年度日本地理学会秋季学術大会,セッション ID:406
* 5 岡暁子 ,高橋日出男 ,中島虹 ,鈴木博人(2019)降水域の広がりに着目した東京と その周辺域における夏季強雨発現の地域特性,E-journalGEO14巻(2019)1 号
* 6 平野淳平 ,大楽浩司(2014)降水量頻度分布を考慮した水害リスク評価手法の開発,
土木学会論文集 B1(水工学)70 巻 4 号
* 7 由井秀隆(2014)気候変動に関する利根川上流域の水文観測への影響に関する考察
(https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000105713.pdf)
* 8 Sugita,F.,T.Kishii,M.English(2014)Laboratoryexperimentsonsolutetransport inavariablysaturatedmacro-porousmedium. 千葉商大紀要 42,3,221-234.
(2020.11.11 受稿,2021.3.5 受理)
千葉商大紀要 第 58 巻 第 3 号(2021 年 3 月)
〔抄 録〕
千葉県において地形・土地利用が異なる船橋,銚子,坂畑,館山の 4 地点において気象 庁 AMeDAS のデータを用い,過去 31 年間の降水特性およびその変化傾向を吟味した。
年降水量はいずれの地点でも明らかな経年変化は認められず,12 月の増加傾向と 3 月減 少傾向が相殺している地点があることがわかった。強雨(20mm/日以上)の平均年間発 生回数は坂畑が 32.8 回/年と最も多く,船橋が 21.6 回/年と最も少なく,千葉県内では約 11~17 日に 1 回の割合で強雨が発現している。20~28%の頻度で発現する強雨が年降水 量全体の 60%以上を供給し,地域水循環の原動力となっている。また,その半分以上が 10 日以内に連続して発現する強雨によってもたらされており,千葉県内においてその頻 度には地域差が認められた。一方,3 日以内の極短期間に連続して発現する強雨には大き な地域差はなかった。強雨は,水循環を通して人間生活に密接にかかわり,その強度,頻 度によっては災害に直接関連する。地球温暖化に伴い強雨の発現特性にも変化が生じる可 能性が高く,今後,強度別発現特性の経年変化傾向については注視していく必要がある。