第 4 章 イオンビーム加工技術
4.1.4 GaAs 系デバイスへの応用
GaAsは直接遷移の半導体で中心の厚みが1μm程度でようやく赤い光を透過する。
これを研磨の厚み測定の目安にとすると再現性が低く、気が付いたら大きな孔が空 いて「失敗」ということがしばしばみられる。そこでGaAsとシリコン単結晶を貼 りあわせ、同時に凹面研磨することでシリコンの透過光を用いて適切な厚みまでデ ィンプルグラインダーにより研磨する方法を以下のように検討した。
(a) 実験方法
図4.9にGaAsの場合の断面試料作製法を示す。最初に、試料の貼り合わせを行 う。この場合、中心にGaAsとシリコンを貼り合わせ、それらの外側にさらにシリ コンを貼り、厚さを確保する(①、②)。さらに超音波ディスクカッターにより円筒 形に打ち抜き、真鍮パイプに埋め込む(③、④)。次に、ガラス板にワックスで貼り 付け(⑤)、ディンプルグラインダーによるダイヤモンド(⑥)、アルミナによるバフ研 磨(⑦)により凹面状に研磨する。このとき、シリコン側の透過光をモニターしなが ら研磨を続け、透過光が黄色から白へ変わるまで研磨を続ける。その時に膜厚のモ ニターとして597、570、538.5、507nmの干渉フィルターで単色化した透過光を用 い、シリコン側が 538.5あるいは 507nm の光が透過するまでバフ研磨した。機械 研磨を終了した試料を、イオンミリング装置を用いて、アルゴンイオン照射を行う (⑧)。中央部分に小さな孔が開いたところでアルゴンイオン照射を終了し、TEM試 料の完成となる。
(b)
結果
図4.10にGaAsとシリコン単結晶を貼り合わせてディンプルグラインダーにより 研磨し、GaAs 部分に赤い光が透過するまで研磨した結果を示す。シリコンのみの 場合と同様に赤い透過光を確認した時点でダイヤモンドスラリーの粗研磨からアル ミナの仕上げ研磨に切り変えた。さらにシリコンの透過光が黄色から白い透過光へ 移る時点でGaAsが赤い光の透過を確認することができる。また、干渉フィルター を用い単色化された透過光源を用いるとシリコン部分が 538.5nm まで透過してい ることが確認でき、図4.6よりシリコンの厚みが 0.5~3μmの厚さであることが予測 できる。本手法により、GaAs においても、再現性良く適切な厚みでディンプルグ ラインダーによる粗研磨を停止できることが確認できた。
64 (c)
考察
・エッチングレート測定法について
図4.6に示す通り、膜厚と透過光の色の関係を示すことができた。これによって これまで経験に頼っていた膜厚測定をより再現性良く行うことができるようになっ た。このことによって、より定量的にディンプルグラインダーによる凹面研磨作業 を進めることができるようになった。さらにこれらの結果を基に干渉フィルター(波 長:620、603、570、638.5、507nm)を用い透過光源を単色化(図4.5)し、研磨の進 行に合わせて光源の波長を変えることにより研磨停止ポイントをより正確に測定で きることが分かった。これによってディンプルグラインダーによる凹面研磨の工程 を大幅に改善することができた。図4.11はシリコンとガリウムヒ素の光の波長に対 する吸収係数(左軸)と浸透深さ(右軸)4.3)の関係を示す。光の波長により浸透深さが 異なることが上図より理解できる。干渉フィルターにより単色化された光が透過し たときの波長λが上図の示す浸透深さすなわち試料の厚みと推測できる。このグラ フ上にシリコンの透過光と厚みの関係の実測値(図中●印)、およびGaAsの透過光と 厚みの関係の実測値(図中▲印)をプロットした結果を図4.12に示す。図中 ●は図4.6 より求めた最短の透過光の波長と厚みの関係をプロットしたものである。▲は図 4.10 に示す結果から求めたシリコンの厚さ(ガリウムヒ素の厚さと同じ)と最短の波 長の関係のプロット点である。当初、吸収係数のグラフと一致すると予測したがそ の値は一致しなかった。原因として、研磨用のガラス及びワックスなどの吸収が考 慮されていないこと、光の透過の確認を目視で行っていることなどが考えられるが、
実用上は問題ないと考えられる。今後は、光センサーなどの計測機器を使って測定 する必要がある。
また、4.1.1により、試料の中心膜厚を非接触かつ非破壊で測定する手段を確立で
きたことによりシリコン単結晶のエッチングレートを知ることができた。これによ り、エッチング時間を正確に推測することができ、過度なアルゴンによるイオンエ ッチングにより大きな孔を空けてしまう「失敗」を防止することができるようにな った。しかし、イオンミリング装置によりイオンガンの性能が異なるため装置ごと に測定が必要になる、という問題が残った。
・GaAs系デバイスへの応用について
本手法を用いることにより、シリコン以外の試料で膜厚測定が非接触かつ非破壊 でできることがわかった。図4.13及び図 4.14にこの手法を使った2種類のGaAs
基板上の GaAlAs/GaAs 超格子の断面 TEM像を示す。これによって、本手法は拡
張性があることが立証された。課題としてガラス基板などにも拡張できるか検証す る必要がある。
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図4.1 ディンプルグラインダーによる試料研磨の手順
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図4.2 透過光、反射光の変化による中心膜厚の判断
図4.3 Siの厚みと透過光色(波長)の関係
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図4.4 色度図上にプロットした膜厚に対応した透過光色
図4.5 干渉フィルターによる単色化された光源による膜厚測定法
図4.3で求めた 5つ のポイントa、b、c、
d、eのそれぞれの試 料の膜厚を示す
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図4.6 単色化された光源による透過光色と膜厚の関係
図4.7 Si単結晶上のシリコンカーバイド膜の断面TEM像
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(a) Arイオンの加速電圧依存性
(b) Arイオンの入射角依存性
(c) Arイオンのイオン電流依存性
図4.8 ArイオンのSi単結晶に対するエッチングレート
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図4.9 断面膜厚測定のための研磨方法(GaAs基板) (シリコンとの貼合わせ)
図4.10 GaAs基板の膜厚測定例
71 図4.11 SiとGaAsの光吸収係数(浸透深さ)
図4.12 膜厚測定結果とSiとGaAsの光吸収係数
400 600 800 1000
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図4.13 GaAs基板上のGaAs/GaAlAs超格子の断面TEM像1
図4.14 GaAs基板上のGaAs/GaAlAs超格子の断面TEM像2
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