第 2 章 重力レンズ 10
2.8 逆 n べき時空
この節では逆nべき時空について説明する[59]。 数ある修正重力理論に 基づき現代論的な観点から、この論文では、漸近的平坦、静的球対称の修正 時空が弱場近似中で距離の逆nベキに依存すると仮定する。Schwarzschild 時空とエリスワームホールはそれぞれn = 1, n = 2に対応する。ここで 注意すべき点として、時空が標準アインシュタイン方程式の枠組みの中 で解釈された場合、バーコフの定理よりn "= 1ではこの時空は非真空で ある。
全体の時空はより高次元かもしれないが、ここでは4次元時空中を伝 搬する光を考える。4次元時空の計量は
ds2 =−&
1− ε1
rn
(dt2+&
1 + ε2
rn
(dr2+r2(dΘ2+sin2Θdφ2)+O(ε21,ε22,ε1ε2), (2.74) と表される。ここでrは半径、ε1、ε2は微小なパラメータである。ε1、ε2
は正負の値をとりうる。両方とも負で、かつn=1のとき、この計量は質 量が負のSchwarzschild時空の計量をあらわす。
光の伝搬を研究するために、因子(1−ε1/rn)1/2を用いて共形変換を施 すことは有用である。ヌル構造は共形変換による影響を受けない。ε1,ε2
の線形オーダーでは、時空の計量は単に d¯s2 =−dt2+&
1 + ε Rn
(dR2 +R2(dΘ2+ sin2Θdφ2) +O(ε2) (2.75)
と書ける。ε≡nε1+ε2、
R2 ≡ r2
&
1− ε1
rn
( (2.76)
である。パラメータεのみが共形変換されたメトリックに影響する。
この計量では質量0の粒子でのラグランジアンが得られる。球対称であ るため、一般性を損なわず、赤道平面θ =π/2を選ぶことができる。時間 的回転キリングベクトルに関連する運動の定数を使うことによって、光 の曲がり角は線形オーダーで
α= 2
$ ∞
R0
dφ(R)
dR dR−π= ε bn
$ π 2
0
cosnψdψ+O(ε2) (2.77) となる。R0, bはそれぞれ光線の最近接距離、インパクトパラメータを意 味する。この曲がり角はn = 1でSchwarzschild、n = 2でエリスワーム
ホールとなる。特定のケースでは上記の積分は
$ π2
0
cosnψdψ = (n−1)!!
n!!
π
2 (even n)
= (n−1)!!
n!! (odd n)
=
√π 2
Γ(n+12
Γ(n+12 (real n > 0) (2.78) と計算される。また曲がり角は積分をパラメータεに吸収させ、単に
α(b) = ε¯
bn (2.79)
¯ ε=ε
$ π2
0
cosnψdψ (2.80)
と書くこともできる。ここでε¯の符号はεと同じである。この曲がり角 はSchwarzschil(n=1)や、エリスワームホール(n=2)等を表すことにもな る。ε >0では曲がり角は常に正となり、これは対応する時空が光に対し 凸レンズのように引力を働かせることに対応する。それに対しε < 0で は曲がり角は必ず負となり、必然的に対応する時空が光に対し凹レンズ のように斥力を働かせる。以降ではε > 0による重力レンズを重力凸レ ンズ、ε <0による重力レンズを重力凹レンズと呼ぶことにする。塚本と 原田 [49]は仮定として北村他 [59]による時空計量から得られる修正され た曲がり角を用いる。有効質量について述べる。標準レンズ理論[102]の 適用によって、α = ¯ε/bで表される光の曲がり角のコンバージェンス(規 格化された表面密度)は
κ= ε(1¯ −n) 2
1
bn+1 (2.81)
となる。弱場のSchwarzschildではコンバージェンスは消える。ε >0か
つn > 1では、レンズオブジェクトの有効表面質量密度は標準レンズ理
論 [59]の枠組みにおいて負と解釈される。これは質量(もしくはエネル
ギー)がε > 0かつn > 1では新奇である必要があることを示唆する。
ε<0かつn <1の場合も同様である。興味深いことに、ε<0かつn >1 の場合ではコンバージェンスは中央の特異点をのぞいて至る所で正であ る。従ってこの場合、斥力であるにも関わらず標準レンズ理論の枠組み において新奇な物質(もしくはエネルギー)は必ずしも要求されない。つ まり上記のモデル中の引力、及び斥力はコンバージェンスの正負と対応 していないということである。以上をまとめたものが表(2.1)である。
表 2.1: コンバージェンスκの符号。式(2.81)のε(n−1)の符号と一致 する。
κの符号 εおよびnの範囲 κ>0 ε>0 & n <1
ε<0 & n >1
κ= 0 n=1
κ<0 ε>0 & n >1 ε<0 & n <1
薄いレンズ近似の元では、レンズ方程式を式(2.82)として与えることは 有用である [102]。
β= b
DL −DLS DS
α(b) (2.82)
βは光源の角度位置を意味し、DL, DS, DLSはそれぞれ、観測者からレン ズまでの距離、観測者から光源までの距離、レンズから光源までの距離 を表す。
上記より、距離の逆nべき時空のレンズ方程式は βˆ= ˆθ− 1
θˆn (ˆθ >0) (2.83) βˆ= ˆθ+ 1
(−θ)ˆn (ˆθ <0) (2.84) となる。θˆ≡β/θE,θˆ≡θ/θE,θ≡b/DLである。
ε>0ではβ = 0の時、常にアインシュタインリングに対応する正の根が 存在する。アインシュタインリング半径は式(2.85)で定義される。
θE =
!εD¯ LS
DSDnL
"n+11
(2.85) ε<0の場合、β = 0では正の根は存在しない。これは時空が斥力を持っ ているためと考えられる。ε<0の場合のアインシュタインリング半径を
式(2.86)と定義する。しかしこれは、このような半径を持ったアインシュ
タインリングが観測されるという訳ではない。この半径はε < 0の時の 典型的な角度スケールを表すものである。
θE =
!|ε¯|DLS
DSDnL
"n+11
(2.86)
一般的な正のnでは、修正されたレンズ方程式の厳密解を得ることは不 可能である。そこで、パラメータ依存性を明確にするために数値計算で はなく解析的ではあるが近似的な方法を用いる。