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逆短チャネル効果のシミュレーション

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第 3 章 不純物の拡散・活性化のモデリング 35

3.4 逆短チャネル効果のシミュレーション

ディープサブミクロンCMOSの電気特性においてnMOSFETで顕著な逆短チャネル効果は、まさに点欠 陥と不純物拡散が大きく寄与していることを示している[36][66]。既存のプロセスシミュレータの不純物拡 散のモデルが正しく、高精度なものであれば逆短チャネル効果を事前に予測することが可能だったはずであ る。ところが、不純物拡散のモデル自体、点欠陥の物性解明とパラメータの実測の困難さから、モデル化が 不十分であったため、特に1次元プロファイルを基に構築されたモデルでは、実際のMOSFETで起こってい る逆短チャネル効果のように2次元構造での振る舞いを正確に予測することができていなかった。つまり、

既存の不純物拡散のモデルもしくはパラメータが唯一の解ではなく、いくつかの近似的なモデルもしくはパ ラメータセットの一つに過ぎなかった。

本研究においては、非平衡ペア拡散モデルに基づくイオン注入後のボロンの増速拡散、電気的活性化等の 1次元シミュレーション結果は実験結果と良い一致が得られた(第3.3節)。しかし、研究当初、この新たな モデルを組み込んだ2次元汎用プロセスシミュレータにて、長チャネルMOSFETのしきい値電圧の計算精 度は向上したが、逆短チャネル効果は計算上実際ほどには現れない場合が見られた。すなわち、新しいモデ ルは、1次元で精度を確認するだけでは不充分で、2次元効果としての逆短チャネル効果を再現できるもので なければならない。また、逆短チャネル効果は、ソースドレイン形成のための砒素ドーズ量に依存すること、

砒素の不活性化が付加的に逆短チャネル効果を引き起こすことも報告されている[69]。これらの効果は、ボ ロンのみならず砒素に関してもモデルを精緻化する必要があることを示している。ソース・ドレイン形成の ための砒素注入とアニール時の不活性化に起因する過剰点欠陥についてもその界面での挙動(再結合速度)

を適切にモデル化することも重要である。

以下の節では、計算対象に用いた実際のMOSFETの特性について述べた後、ボロンのシリコン・酸化膜界 面でのパイルアップ現象について述べる。ボロン・格子間シリコン原子ペアの結合エネルギー、熱処理温度、

表面再結合速度等の依存性から、これがデバイスの逆短チャネル効果の再現に繋がることを述べる[67]。さ らに、低濃度のイオン注入試料の低温アニール時の活性化の実験から、ボロン・格子間シリコン原子ペアの 結合エネルギーは従来の値よりも小さいことを指摘し、それが逆短チャネル効果の計算を実測に近づけるこ とを述べる。また、砒素のペア拡散モデルと不活性化により格子間Si原子が発生するモデルと格子間Si原 子のシリコン表面での境界条件の検討について述べ、その後、逆短チャネル効果の計算結果と実測の比較に ついて述べる[68]。

3.4.1 nMOSFET の逆短チャネル効果の実測データ

図3.17にTakeuchiらによるシングルドレイン構造および砒素LDD (Lightly-Doped-Drain)構造の nMOS-FETのチャネル長としきい値電圧の実測データを示す[70](図3.17ではチャネル長としきい値電圧の変化 分をプロットしてある。)LDD注入の後の、サイドウォール形成のHTOプロセスは、温度800℃、2時間 程度の熱処理に相当する。LDD注入条件は、10keV,2×1014cm2、でありSD注入の5×1015cm−2に比べ て少ないにもかかわらず逆短チャネル効果は大きい。

特徴的なのは、このnMOSFETのチャネル部の濃度は、7×1017cm−3でほぼフラットであるということで ある。従来、逆短チャネル効果はチャネル中の不純物の拡散が部分的に増速する結果表面濃度が上昇し、し きい値が増大するため生じるという見方があった。しかし、このデバイスではチャネル部の分布がフラット

(+HTO sidewall)

図3.17:試作したnMOSFETのゲート長としきい値電圧の実測結果[70](点線はSD形成後にチャネル

を形成したプロセスの場合でSD注入が逆短チャネル効果の要因であることを裏付けている)

Excess I

Boron

Depth

Concentration

∇ [BI]

D

BI

= D K

eq

[I] ∇ [B]

BI

{ + [B] [I] ∇ }

図3.18:点欠陥の濃度勾配によるボロンのパイルアップメカニズムを示す図

であるので増速拡散自体が起こらず、図3.17に見られるようなしきい値電圧の上昇は、単純な拡散以外の現 象でもたらされるものである。すなわち、過剰な点欠陥が存在する場合、酸化膜・シリコン界面はある種の sinkと考えられ、界面に向かって点欠陥の急峻な濃度勾配が生じる。図3.18に示すように、ペア拡散モデル では置換位置占有不純物のフラックスは不純物濃度の勾配と点欠陥濃度の勾配にも依存し、点欠陥の急峻な 濃度勾配は不純物を移動させパイルアップを生じさせるdriving forceとなりうる。この場合、逆短チャネル 効果はこのパイルアップが短チャネルトランジスタで顕著になりしきい値電圧が上昇することに起因すると 考えられる。点欠陥の濃度勾配は点欠陥(格子間Si原子)の表面の境界条件に依存し、それに対する検討も 後に述べる。

この節の計算は、これまでに述べてきた非平衡ペア拡散モデルを2次元に拡張し、MOSFETの断面2次元 領域を対象にした不純物拡散モデルの連立偏微分方程式の求解には、Vienna工科大の偏微分方程式ソルバー

PROMIS[71]を用いた。また、MOSFETの電気特性の計算は、NEC製のドリフト拡散型二次元デバイスシ ミュレータBIUNAP[72]を用い、主にしきい値電圧(一定電流条件)を計算した。

3.4.2 点欠陥濃度勾配に起因するボロンパイルアップの 1 次元計算

ここでは、フラットにボロンがドープされている基板に過剰に格子間シリコン原子を導入した場合を簡単 な1次元計算で調べた結果、表面が格子間シリコン原子のsinkである場合、まさにボロンのパイルアップが 起こり、またそのパイルアップ量がボロン・格子間シリコン原子ペア(以下BIペア)の結合エネルギー(以下 EBI)に依存することを示す。

テスト計算として、ボロンの初期濃度を1017cm−3でフラットな分布に設定し、シリコンをドーズ量 2.7×1013cm−2、加速エネルギー180keVで注入し、800C、1時間アニールという仮想条件を1次元で計算 した。このシリコン注入の条件は文献[74]を参考にしたものである。図3.19にその典型的な結果を示す。

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

Depth (micron) 0

1.0 2.0

3.0 x1017

( )

Linear Concentration (cm)-3 EBI= 1.4 eV = 0.8 eVEBI(a) (b)

x1017

( )

3.0

2.0

1.0

0

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 Depth (micron)

Linear Concentration (cm)-3

図3.19:過剰格子間シリコン原子により引き起こされたボロンの表面パイルアップの計算結果

過剰な格子間シリコン原子が存在し表面がsinkとして働く結果、表面に向かって格子間シリコン原子濃 度の勾配が発生し、初期に平坦であったとしてもボロンは表面に向かって流れ、パイルアップを生じる。

nMOSFETの構造では、ソースドレイン形成で発生した過剰点欠陥が図3.20に示すように、チャネル部にも

拡散し、チャネル長が短くなるほど、ソースドレイン部からの寄与が重なり合いしきい値電圧を上昇させる と考えられる。また、パイルアップ量が、BIペアの結合エネルギーEBIに依存し、EBIが小さい程パイル アップ量が大きいことから逆短チャネル効果もEBIに強く依存すると思われる。

ここで、BIペアの結合エネルギーパラメータのモデル上の意味合いについて述べる。BIペアの濃度は平 衡状態で以下のように表される[39]。

B+Ik*)f

krBI (3.31)

[BI]

[B][I] = kf

kr =KBIeq = [nSi

4 exp(−EBI/kT)]−1 (3.32)

GATE

S/D implantation

Damage affects threshold voltage

図3.20:ソースドレインのイオン注入ダメージ(格子間シリコン原子)がチャネル部へ拡散する概念図

ここで、[BI]、[B]、[I]はそれぞれBIペアの濃度、置換位置のボロン、格子間Si原子の濃度を表す。す なわち、EBIはペアを形成している割合KBIeq を決め、EBIが大きければ全ボロンに占めるBIペアの割合 が大きくなる。また、ボロンの平衡拡散係数は、BIペアの拡散係数を用いて次のように表される。

Def fB =DBIKBIeqCI (3.33)

ここで、DBef fはボロンのマクロな真性拡散係数でSUPREM3[37]などで用いられている実測に基づいた値 である。CIは格子間Si原子の熱平衡濃度である。式3.33で、パラメータとしては、DBef fは実測から求ま るので固定とすると、Keqが大きければDBIが小さくなり、Keqが小さくなればDBIが大きくなるという ようにKeqDBIは独立ではない。その結果、表面濃度一定の拡散のような熱平衡状態の拡散ではKeq(す なわちEBI)とDBIをどう選ぼうと全ボロンの計算結果は変わらない。

しかし、イオン注入後の拡散の場合、イオン注入直後は過剰な点欠陥と格子間ボロン(BIペア)が存在する ため状況は異なる。BIペアの結合エネルギーはBIペアの分解を支配するため、イオン注入後の過渡的な増 速拡散の時定数は、ある有限なEBIの値(1.4eV等)で比較的良く表すことができていたが、図3.19に示す ように非平衡点欠陥濃度勾配によるボロンのパイルアップ量は、この値が小さくなると大きくなる。次節で nMOS構造での2次元不純物拡散計算と2次元デバイスシミュレーションとその結果について述べる。

3.4.3 BI ペア拡散モデルによる 2 次元しきい値電圧計算とその結果

計算モデルと計算方法

ここでの非平衡ペア拡散モデルに関して、チャネル部の解析にあたっては、ボロンのクラスタリングの効 果は無視した。また、ソースドレイン用のヒ素についてはまずは従来のSUPREM3の平衡フェルミモデル

[37]を用いた。また、ソースドレインのヒ素注入時はヒ素の注入量をファクター倍した格子間シリコン原子 が発生するとして計算を行った。

BIペア結合エネルギー依存性

図3.21にEBIを変えてしきい値電圧とチャネル長の関係を計算した結果を示す。熱処理は800C、1時 間とした。チャネル中のボロンの分布は始めからフラットなので、SD注入で導入された過剰点欠陥の影響 は、ボロンの拡散というよりは、界面パイルアップとして計算される。2次元プロセス/デバイスシミュレー ション計算の結果、図3.21に示すように、ボロンの結合エネルギーを小さくすれば、結果的にBIペアの拡

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