• 検索結果がありません。

2. 大気追跡風アルゴリズム詳細

2.2 追跡処理

2.2.4 追跡処理における内部品質管理

これまで見てきたように、大気追跡風の算出 は、直接その地点・高度の風を観測するわけで はなく、雲のパッシブトレーサー仮定(2.2.1 節)や、観測された赤外1輝度温度からの高度 推定(2.1.4 節)など、様々な仮定をして風ベ クトルを算出している。しかし、そういった仮 定が成り立たないケースも多く、風ベクトル推 定の過程で、ユーザーによる利用に影響を与え るほどの誤差が混入することがある。このため、

算出された風ベクトルの品質管理は非常に重 要になる。より高度な品質管理は、EUMETSAT のQI(2.4節)によって風ベクトル計算終了後 に行うが、追跡精度が悪い移動ベクトルを棄却 するための処理を内部品質管理として行って いる。

気象衛星センターでは、追跡処理終了後に(1)

風速チェックによる内部品質管理、(2)マッチ

- 34 - ングサーフェスの形状に基づく内部品質管理、

を行っている。これら内部品質管理で用いられ る閾値は、あらかじめ作成されたパラメータフ ァイルにより与えられる。(1)及び(2)の閾 値を、それぞれ表6及び表7に示す。以下でこ れらについて説明する。

(1)風速チェック

風速差チェックは、AB 画像から算出された 移動ベクトル𝐯୅୆と、BC画像から算出された移 動ベクトルの大きさ𝐯୆େを比べることで、ター ゲットが持つ加速度を調べ、算出された移動ベ クトルの品質をチェックするものである。時間 的に連続した風ベクトルを比べることは、ただ 単純に追跡が失敗したベクトルを除くためだ けのものではなく、次に示すように2つの重要 な意味がある。

1 つ目は、環境場の風が加速度を持っている 場合の除外である。図18の(a)にその典型例を 示す。この例は直線的な加速度を持つ場合であ る。AB 画像と BC 画像で風速が大きく違う

(|𝐯୅୆|≠|𝐯୆େ| ; 縦棒に囲まれたベクトルはそ のノルムを表す)場合、その位置・その時間帯 を代表する移動ベクトルが一意に決まらない ため、棄却することにしている。一方、加速度 をもって移動しているターゲットを棄却でき ない場合がある。図18の(b)のように、環境場 の風が赤矢印のように回転成分をもっている 場合を考える。このとき、AB画像、BC画像を 用いた追跡で得られる移動ベクトルは緑色の ベクトルのようになる。この緑色のベクトルは、

実際の風の場を表す赤色の矢印と円運動して いる分だけ異なる。この場合も移動ベクトルが 一意に決まらないが、風速自体は変化していな い(|𝐯୅୆| = |𝐯୆େ|)ので、風速差チェックだけ では棄却できない。こういった場合は、2.4 節

で述べるEUMETSAT QIにおいて風向QI、ベ

クトルQI、空間QIのQI成分の値が低くなる

ことで対処される。なお、EUMETSAT QI の

風速QI、ベクトルQIはこのチェックと独立で

ない。

表 6 風速チェックによる内部品質管理(風速チェック)のための閾値 

    大気追跡風種別  棄却条件 

風速差チェック 

赤外 1 上・中層風 

水蒸気風  10.0m/s 

  │風速(AB 画像)  ‑  風速(BC 画像)│ 

赤外 1 下層風  可視風  赤外 4 風 

  5.0m/s 

  │風速(AB 画像)  ‑  風速(BC 画像)│ 

風速下限値 

赤外 1 上・中層風  水蒸気風 

風速(AB 画像)  <  2.5m/s  もしくは  風速(BC 画像)  <  2.5m/s 

赤外 1 下層風  可視風  赤外 4 風 

風速(AB 画像)  <  1.0m/s  もしくは 

風速(BC 画像)  <  1.0m/s 

- 35 -  

2 つ目は、画像の位置ずれ(ナビゲーション ずれ)に起因する不良移動ベクトルの除去であ る。衛星の画像の画素の位置は、あらかじめ決 められた地点の観測に基づく画像位置ずれ量 の解析(ランドマーク解析)(伊達、2008)や、

衛星の軌道情報・姿勢情報等の予測に基づいて、

地球座標上の緯度・経度に変換される。しかし、

予測できない衛星の軌道変化や姿勢変化など が起こった場合には、軌道情報や姿勢情報が不 正確な値を示す場合があるため、衛星画像の画 素を緯経度に写像したときに正しい座標との 間でずれが生じることがある。2 枚の画像を撮 像している間に位置ずれが起きたとすると、画 像上では位置ずれの分だけターゲットが移動 したように見えるので、この位置ずれに起因す る移動量ベクトルが本来算出されるべき移動 ベクトルに加えられてしまうこととなる。この 結果、算出される移動ベクトルは

𝐯ୢୣ୰୧୴ୣୢ=𝐯୲୰୳ୣ+𝐯୬ୟ୴୧+∆𝐯

と表される。ここで、𝐯ୢୣ୰୧୴ୣୢは算出された移動 ベクトル(𝐯୅୆もしくは𝐯୆େ)、𝐯୲୰୳ୣは地球上で 実際にターゲットが動いた 真の 移動ベクト

ル、𝐯୬ୟ୴୧は画像の位置ずれによる移動ベクトル で、∆𝐯は算出誤差などその他の誤差要因による 移動ベクトルのずれである。A-B-C画像を撮像 する間のどこかで大きな位置ずれが一回起き た場合、𝐯୅୆もしくは𝐯୆େに大きな𝐯୬ୟ୴୧が加算さ れ、移動ベクトル間の大きさに違いが生じる

(|𝐯୅୆|≠|𝐯୆େ|)。そのため、画像位置ずれによ る大部分の不良移動ベクトルは風速差チェッ クにより棄却できる。

風速下限値チェックは、計算された風速が小 さく、明らかに精度が低いと考えられる風ベク トルを棄却するものである。計算された移動ベ クトルの風速が小さい場合は、単純に追跡処理 が失敗した場合や、実際にターゲットの移動速 度が遅い場合などが考えられる。撮像時間間隔 内で画像の解像度以下の距離しか動かないよ うなターゲットの移動量は、サブピクセル推定

(2.2.2 節)を行っているとはいえ正確に求め ることは難しいので、速度の小さいベクトルは 棄却するようにしている。

(a) (b)

図18 雲が加速度をもって移動している場合

雲が、A画像、B画像、C画像と、時間が経つにつれ順に図のように移動した場合を考える。赤矢 印は、実際の雲の移動経路、緑色矢印は計算される移動ベクトルを表す。

- 36 -

表7 マッチングサーフェスの形状に基づく品質管理のための閾値 第2ピークを探索するための閾値 

チェック項目  大気追跡風種別  粗マッチング  補正マッチング  第2ピーク 

判定基準(距離) 

赤外 1 上・中層風、水蒸気風  2.2 画素  2.2 画素  赤外 1 下層風、可視風、赤外 4 風  1.8 画素  1.8 画素  第2ピーク 

探索基準(大きさ) 

赤外 1 上・中層風、水蒸気風  0.2  0.2  赤外 1 下層風、可視風、赤外 4 風  0.2  0.2 

       

第 1 ピークの品質管理のための閾値 

チェック項目  大気追跡風種別  粗マッチング  補正マッチング  最大ピーク値 

(最大相関係数値) 

赤外 1 上・中層風、水蒸気風  0.6  0.5  赤外 1 下層風、可視風、赤外 4 風  0.21  0.21  最大ピーク値付近の 

尖鋭度 

赤外 1 上・中層風、水蒸気風  1×10

‑5

  1×10

‑6

  赤外 1 下層風、赤外 4 風  2×10

‑5

  1×10

‑5

  可視風  5×10

‑5

  5×10

‑6

  最大ピーク位置の 

移動限界 

赤外 1 上・中層風、水蒸気風  16 画素  6 画素  赤外 1 下層風、赤外 4 風  16 画素  3 画素 

可視風  16 画素  8 画素 

最大ピーク値と  第2ピークの差 

赤外 1 上・中層風、水蒸気風  0.003  0.003  赤外 1 下層風、可視風、赤外 4 風  0.01  0.01  最大ピーク位置と 

第2ピークの距離 

赤外 1 上・中層風、水蒸気風  3 画素  3 画素  赤外 1 下層風、可視風、赤外 4 風  3 画素  3 画素 

図19 マッチングサーフェスの形状を表すためのパラメータ 最大ピーク値(最大相関係 数値)

C1

第2ピーク値 C2

最大ピーク値付近の尖鋭度 S = R2/(4×M) 最大ピーク値と第2ピーク値

の差

R = C1−C2

最大ピークと第2ピーク 位置間の距離

d

最大ピーク位置の移動限界 − 第2ピーク探索のための最大

ピークからの距離

D 第2ピークに対する最大ピー

クの面積

M

- 37 -

(2)マッチングサーフェスの形状に基づく品 質管理

この品質管理では、相互相関法による追跡処 理で得られたマッチングサーフェスの情報に 基づいて、品質の悪いベクトルを棄却する。

マッチングサーフェスの形状を調査するこ とで、パターンマッチングの結果が良好である か否かを調べることができる。マッチングサー フェスの形状は、マッチングサーフェスにおけ る最大ピークの状態や最大ピークと第2ピーク の 関 係 を 知 る こ と で 、大 ま か に 判 定 で きる

(Smith and Phillips, 1973; 浜田, 1980)。図 19に、マッチングサーフェスの形状に基づく品 質管理に使用するパラメータを示す。

第2ピークの探索は次のようにする:

1)マッチングサーフェス上の各点(格子点)

を、相関係数値の大きい順にソートする。

2)ソートされた格子点を、相関係数値の大き い方から順に探索する。

3)新たな格子点値とすでに探索された格子点 との距離を計算する。

4)3)で計算した距離の中で一番小さいもの をDとする。Dを表7の「第2ピーク探索 基準(距離)」と比べ、この基準より近けれ ば隣り合う、遠ければ隣り合わないと判定。

5)隣り合うと判定された場合は、最大ピーク の 山 に属さない新たな 山 が見つかっ たとし、この格子点を第 2 ピークとする*6。 探索終了。

6)隣り合わないと判定された場合は次の格子 点へ。2)へ戻る。

1)〜6)の手順で探索を行うが、途中で新たな

格子点の相関係数値が表 7 の「第 2 ピーク探 索基準(大きさ)」を下回った場合、このマッ チングサーフェスに第 2 ピークは存在しない ものと判定する。

現在使用されているマッチングサーフェス 形状に関する 5 つの検査項目と、その閾値を、

表7の下段に示す。以下、これら検査項目を説 明する。

① 最大ピーク値(最大相関係数値)

  最大相関係数値Cが1に比べてとても小さい 場合には、テンプレートとサーチエリアからの 切り出し画像の類似度が低く精度の高い追跡 が行われていないと考えられる。このため、表 7に示す閾値より低い場合には棄却する。

② 最大ピーク値付近の尖鋭度

  マッチングサーフェスの最大ピーク値付近 の起伏がなだらかでピーク位置がはっきり決 まらず、高精度な移動量決定が困難な場合があ る。そのような移動ベクトルを除くため、尖鋭 度(Sharpness)を次のように定義し品質管理 に用いる。

𝑆≡ 𝑅 4𝑀

(式2.2.7)

Rは最大相関係数値と第2ピークの相関係数値 との差である。 Mは、Nを第2ピーク探索時 に求められる第2ピークの相関係数の大きさの 順位とすると、M≡N−1で定義される。最大 相関係数値をもった1番目の点から M 番目の 点まではすべて最大ピークの山の一部と考え

6 2)でマッチングサーフェス上の点は大きい順にソートされているので、この最大ピークの 山 に

属さない(山に属する格子点と隣り合わない)新たな 山 の最初の構成要素は、新たな 山 のピー クであることが保証されている。

関連したドキュメント