ち,弥生時代後期〜古墳時代前期という時 期幅にフォーカスすると,以下の点を確認 することができる。
1)図1に示した範囲(南北800m,東西 500m)の中には,竪穴建物を主体と する居住域が2箇所存在する(羽束師 遺跡・暦田遺跡)。いずれも住居が重複 することから,一定期間存続したと推 測される。弥生時代後期〜古墳時代前 期という限られた時間幅を考慮する と,この二者は200m程度の距離を保 ちつつ共存したこととなる。
2)この両居住域の間には自然流路が存在 する。この流路は,弥生時代後期〜古 墳時代後期の間,静かな埋没堆積を示 す。このことは,当該地域では流路が 主軸を大幅に違えるような事態はお こっておらず,大規模な地形変化も免 れたことが窺える。
3)自然流路の周囲には,「湿地帯」が存 在したと報告されている。当該地点で は,古墳時代後期になると水田が営ま れるが,気候変動が小さい環境下では,
それを遡る弥生時代後期〜古墳時代前 期にも,すでに水田耕作に適した土壌 が形成されていた蓋然性が高い。
このことは,弥生時代後期においてす でに原始的な水田耕作が行われていた 可能性を示すものであり,これが古墳 時代後期にはより高度な水田の経営に 推移したことを想起させる。
4)⑭調査地点では,小規模ながら方形周 溝墓の一部と見られる遺構が確認され ている。これ以東は弥生時代・古墳時 代の遺構・遺物の検出が希薄であるこ とから,これが墓ならば,羽束師遺跡
集落に付随する墓域の一部となる可能 性がある。
以上のことから,弥生時代後期~古墳時 代前期の羽束師遺跡・暦田遺跡を含む当 該地域には,複数の居住域ユニットと生産 域(水田),墓域を有する定型的な集落が 存在したと想定される。
期末の河内平野南部にその萌芽があり,や がて近畿一円に伝播,西は瀬戸内・山陰,
東は東海・北陸地方にも及ぶ。河内地域で 盛行するのは弥生時代後期前半であるが,
近江地域では古墳時代前期まで使用されて いるため,羽束師遺跡の年代観と齟齬は生 じない(図3)。
泥除を装着した直柄鍬は湿潤な水田耕 土を整える際に使用する道具であり,その 出土は当該地域で水田耕作が行われていた ことを明確に示すものである。また羽束師 遺跡ではその道具を使いこなしていたと考 えられることから,その農耕技術力は他の 集落と同様,一定水準に達していたと考え られる。
4.おわりに
以上,弥生時代後期~古墳時代前期にお
ける羽束師遺跡とその周辺について,記述 した。
当該時期に営まれた一般的な農耕集落 は居住域のみでは成り立たず,その生業の 源となる生産域を必ず保持している。大小 の差はあるものの,生産域と墓域とあわせ て扱うことが,当該集落を理解する上で重 要な視点となる。現在,羽束師遺跡・暦田 遺跡では居住域のみが遺跡範囲として周 知されているが,生産域,墓域がその周辺 に存在することを視野に入れて,調査に臨 む必要があると言えよう。
註・参考文献
1)奈良国立文化財研究所「B農具」(『史料第三六冊 木器集成図録 近畿原始編』1993年)。
2)黒須亜希子「木製泥除の再検討」(『考古学研究』
日本考古学研究会 2017年)
黒く ろ す須亜あ き こ希子(文化財保護課 文化財保護技師(埋蔵文化財担当))
1.7.京都府羽束師遺跡(弥生時代後期)
2.大阪府若江北遺跡(弥生時代後期)
3.4.三重県六大 A 遺跡(古墳時代前期)
5.6.滋賀県入江内湖遺跡(古墳時代前期)
8.池上曽根遺跡(弥生時代後期)
1
2
3 4
5
6
7 8
0 (1:10) 50cm
図2 羽束師遺跡出土木製品と近畿の出土事例
〔新方〕
〔玉津田中〕
〔芝生〕
〔筒江片引〕
●……未成品
〔瓜生堂〕
〔茄子作〕
〔池島・福万寺〕
〔亀井〕
〔池島・福万寺〕 〔山賀〕
〔亀井〕
〔鍬〕 〔泥除〕
摂 津 河 内
〔鍬〕 〔泥除〕
〔東奈良〕●
〔東奈良〕●
〔東奈良〕●
〔下池田〕 〔加美〕
〔亀井〕
〔鬼虎川〕
〔亀井〕
〔鬼虎川〕●
〔宮ノ下〕
〔戎町〕 〔安満〕●
〔田井中〕
〔池島・福万寺〕
〔東奈良〕●
〔瓜生堂〕 〔山賀〕 〔安満〕
〔服部〕
〔赤野井湾〕 〔針江川北〕
〔太田〕●
〔服部〕
〔入江内湖〕
〔下八ノ坪〕
〔中久世〕●
〔深草〕
〔中久世〕●
〔古殿〕●
〔中久世〕●
〔川崎〕●
〔羽束師〕
〔鍬〕 〔泥除〕
〔川崎〕●
〔岡崎〕
山城・近江
20)
0 (1: 50cm
期前 代時 墳古 期中 代時 生弥 期前 代時 生弥
図3 広鍬と泥除の出土事例
(名称)
1. 紀要の名称は『京都市文化財保護課研究 紀要』とする(以下,本紀要とする)。
(目的等)
2. 本紀要は,京都市における文化財の調査 等を通して得た研究成果を広く社会に発 信し,専門領域の学術的な進展に寄与す ることを目的とする。
3. 前項にいう専門領域とは,建造物,美術工 芸品,民俗,史跡,名勝,天然記念物,埋 蔵文化財,文化遺産等,文化財保護課にお いて扱うものを指し,これらをもって本 紀要の主要項目とする。
4. 本紀要の編集及び発行は,本規定の定め るところとする。
(投稿資格)
5.執筆者は,原則として,京都市文化市民局 文化芸術都市推進室文化財保護課の職員 及び職員の経験が有る者とする。ただし,
編集委員が執筆を委嘱する場合はこの限 りではない。
(原稿の種類)
6. 本紀要に投稿できる原稿の種類は,論文,
研究ノート,資料紹介等とする。
7. 論文は,原則として未発表のものに限る。
8. 論文は本文・註を含めて一篇20,000文字 以内,挿図は20点以内,あわせて40ペー ジ以内とする。欧文は,1文字を2分の1 として計算する。
9. 研究ノート,資料紹介は原則として一編
限を設けない。但し,総頁数は20ページ 以内とする。
10. 一回の投稿は原則として完結した一篇に 限るが,原稿量が大部の場合は,編集委員 と協議の上,分号することを認める。
(原稿のエントリーと締切)
11. 執筆のエントリーは,別途様式にその題 名,説明文,氏名等を明記の上,編集委員 に提出する。なお,原稿の締切日は別に定 める。
(原稿の体裁)
12. 原稿の提出はデータで行い,必要に応じ て割付指定用紙を添える。横書きを原則 とし,完全原稿として提出する。
13. 挿図,表等の数量と大きさは,執筆者の意 向を尊重しつつ編集委員が決定する。
14. その他執筆細目は,別途定める。
(校正)
15. 執筆者校正は1回とし,あくまでも誤植 訂正等にとどめる。原文の大幅な増減は 認めない。
(著作権等)
16. 論文等に使用する挿図・写真には,「執筆 者撮影」を含め,出典を明記する。
17. 挿図等に用いる写真や挿図の掲載につい ては,執筆者が自らの責任において,日本 国における慣行を配慮しつつ,事前に書 面等により許可をとる。但し,必要に応じ て,文化財保護課として許可を求める依
- 投稿規定 -
例は,事前に保存会等に許可を得た上で掲 載する。また,新出の個人所有の文化財に ついては,許可を得た上で「個人所有」と して掲載する。
(その他)
19. 差別用語等,人権に係る事例については執 筆者が自らの責任において公務員倫理に 則り,適切な記述を行う。なお,編集委員 により不適切と認められた場合は,指示に
20. その他,この規定に記されていない事項に ついては編集委員が判断する。
(改廃)
21. この規定の改廃は,文化財保護課の議を 経て行い,周知する。
附則
平成29年11月 制定